act.10 絶対に女が落ちない台詞
「深葉ぉ、あれなによ?」
「……佐雨、クラスメートの顔くらい覚えなよ」
「あれは普通に宮嶋でしょーが。深葉じゃあるまいし、クラスメートくらいわかるよ。アタシが聞いてんのはなんでずーっとこっち睨んでるのかってこと」
指で示されたのは後ろにどす黒いオーラをしょってこちらを睨んでいる宮嶋。ただでさえ悪い目つきが三割増しで剣呑だ。
ゔー、と机に突っ伏す。刺さる視線ですでにハリネズミ状態だ。勘弁して欲しい。
「どうやら目を付けられたらしい」
「なんだ、告白されたわけ」
「な!」
「まぁ、予想はしてたけど」
顔を上げた私はサラリと零された一言に言葉が出ない。そんな私に目もくれないで、佐雨は爪を眺めている。
「なんで、わかるんだよ!」
「深葉が周りを見なさすぎなだけ。旦那がわかりやすさ1位なら、宮嶋のわかりやすさは2位でしょーが」
当たり前と、いうようなその台詞の意味がわからない。それに佐雨のこの観察眼の素晴らしさはなんなのか。え、なに千里眼? 透視?
「おい」
不機嫌そうな声が頭上から降ってきて、私は反射的に顔を上げた。
佐雨に気を取られている間に目の前に宮嶋が立っていた。思わず、苦い顔になる。
「な、なに用かな、宮嶋」
顔が引きつらないように、声が裏返らないようにぎこちなく首を傾げる。彼の目付きが一層悪くなったがこの際無視だ。
「付き合え」
休み時間のざわめいた教室が一瞬で静かになった。再び元に戻るものの、明らかに皆この会話に耳を澄ませているのがバレバレだ。
「ど、どこにかな?」
「しらばっくれんな。俺にはお前が必要だ」
教室が静かに色めき立つ。
やめてくれよ! ただでさえ、由慧のせいで最近は好奇の視線を溺れるくらい浴びてるのに!
「もう断った!」
「諦めねぇっつたろ」
勢いよく机に手をつかれた。だから、いちいち顔が近い。ときめかないし、答えも変わらないから!
私の態度にイライラと宮嶋が叫ぶ。
「だから、由慧の野郎を負かすにはお前が必要なんだよ!」
だから、そんな文句で彼女になる馬鹿いないから!
ちょっと面倒臭い子が参戦です。