act.1 ときめきのカケラもない
壁と幼なじみの間に挟まれて私はさっきから考えている。
「この状況、どう説明してくれようか」
ちなみに私の顔の横に相手の手がつかれているからとてつもなく至近距離だ。男の癖に無駄に可愛すぎる顔はやっぱり近くで見ても反則級に美少女すぎる。
「壁ドン、てものじゃない?」
「律儀に答えてくれて感謝するけれども私が言ってるのはそのことではないから検討違いな回答は必要ない」
というか壁ドンとは近ごろ巷で噂のあれか。こんなリアル少女漫画体験とか初なんだが。現実使用では確実にないと思うのにこの現状。
くすりと由慧が甘く笑う。
「深葉ちゃんは混乱すると発言が早口で長文気味になるよね」
「そんなことはないので即刻この体制といてください」
「ほら敬語だ」
くすくすと声を零す由慧は普段の私が愛でている彼ではなくて私の思考は空回る。
絹みたいなふわふわの茶髪に大きな瞳、小顔に収まるパーツはまるで黄金比率。そこらの女子よりよっぽど愛らしい幼なじみの由慧。性格もおっとりとしていて、私のからかいに頬を膨らませるのが常なのに。
この状況はなんだ。
余裕そうに楽しそうに私を見るな!
「下剋上とかすぐさま戦国にタイムスリップしろ」
「混乱してるね、女の子っぽい」
「可愛くなくてすいませんね」
「可愛くなくはないよ」
あ、こいつ濁しやがった。どうせ私は思考回路オヤジの残念女子高生ですよ!
むっとした私にを見て由慧が柔らかく目を細める。でもそれはやっぱり普段の仔犬みたいな笑みじゃなくて、どこか捕食者めいた艶のある笑み。
「でも、やっぱり男としては自分の手で可愛くさせたいかな」
えーと、この男前は誰デスカ。
可愛いだけだと思ってましたがイケメンにもなりますウチの子。誰か買ってくれませんか。バザーに出してやろうかいっそ。
「なんか目が淀んでるよ、深葉ちゃん?」
「今まで猫被ってたのか」
「だって可愛い僕のほうがが深葉ちゃんは好きでしょ」
「なら最後まで被り通してください猫を脱がないでください」
「だってなんかそろそろ飽きたし、可愛い深葉がそろそろ見たい」
だからあんた誰だ。てか、急に呼び捨てにするな。私の可愛いの由慧を帰してくれ。遠い目をしかければぐいっと顔を近づけられて、無理矢理に視界に入られた。笑みを深くする由慧に生まれて初めてぎょっとする。
だってさ、と甘い声で由慧は笑う。
「女の子って恋すると可愛くなるんでしょ。だから深葉、僕に恋しなよ」
とんでもない上から目線。
というかあんたみたいな(文字通りの)女子顔負け可愛い男子言われたくないわ!
ラブコメになる、はず。