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◆第二話『神秘的禿頭』

「……治癒できる人と魔道師を捜してる」

「いや~、すまないがこの村に魔道師はいないなぁ。そもそも、魔道師なんて珍しいから捜しても滅多にいないと思うがね」


 ここはラバナディア村。

 舗装された道などはなく、雑然と木造民家が立ち並んでいる。

 唯一、異色なのは村のどこからでも見える大きな礼拝堂だけだ。

 物静かなところだった。

 村人は小さな子供や年輩しか見当たらない。


「治癒魔法を使える人はいるにはいるんだが、あいにくとこの村には神父さましか使い手がいないんだよ。若いやつはみんな村から出ていっちまうからね。まあ、神父さまなら礼拝堂にいると思うからいってごらん」

「……ん、ありがと」

「あいよ」


 答えてくれた村人にぺこりとお辞儀をすると、勇者は礼拝堂に向かって歩み出した。

 リングスも勇者に倣う。


「情報どもです。ではっ! ……勇者さん、待ってくださ~い!」


 牛魔と戦闘したあのあと、勇者と共に何事もなくラバナディア村に到着した。

 正確には、何事――魔物との戦闘は幾度かあったのだが、勇者の圧倒的な武力の前にそんなものは取るに足らなかった。

 隣を歩く勇者は、リングスよりも頭ひとつ分小さい。

 一体、この小さな身体のどこにあんな力があるのか。


「勇者さん……恐ろしい子」

「……?」

「あはは、なんでもないですよ」


 礼拝堂に到着した。

 近くで見るとやはり大きい。

 小さな村には勿体無いくらいだ。

 古めかしい木の扉を開け、礼拝堂の中に入る。


「ごめんくださ~い……」


 間の抜けたリングスの声が礼拝堂内に響く。

 中は、恐らく一度に百人以上が礼拝にきても大丈夫なほど広かった。

 ラバナディア村の人たちが全員集まっても、たぶん席は埋まらないだろう。

 用意された長椅子は沢山あるが、ひとりも座っていなかった。

 それが静謐な空気を余計に感じさせる。

 二階のガラスから差し込む陽光が輝かせるように礼拝堂を彩っていた。

 まさに神秘的だった。


「おや、どなたかな?」


 声がしたのは祭壇からだ。

 質素な法服を着た四十歳以上と思われる男が目に入る。

 頭には髪の毛がなかった。

 禿頭が陽光を反射し、リングスの瞳を射抜く。


「ま、まぶしいっ!」


 まさに神秘的だった。




「ふむふむ、治癒魔法が使える人を捜しているのですか。で、この村で唯一治癒魔法を使える、神父を捜していると」

「……ん」


 丸い机を囲んでリングスたちは椅子に座っている。

 ここは礼拝堂の奥にある一室だった。

 広間では色々と問題が――主に目に優しくなかったので別の場所がないか訊いたところ、この部屋に案内されたというわけだ。

 火のついていない暖炉ぐらいしか目ぼしいものはなく、質素な印象を受ける。

 どうやらここが客間のようだ。

 自分が神父だ、と男が言う。


「仲間になって」


 いきなり勇者が切り出した。

 一瞬目を丸くするも、神父はすぐに平静を取り戻す。


「ほう、仲間、と言いますと?」

「わたし勇者だから、魔王を倒さないといけない」

「勇者、ですか」

「そう」

「ふむ……」


 勇者の説明は色々と不足しすぎていた。

 リングスも会話に参加する。


「俺たちはボジュール王から魔王討伐の命を受けてるんだ。それで、魔王を倒すためにまずは仲間を集めろって言われてて」

「なるほど、ボジュール王が……。ふむ、こちらのお嬢ちゃんが勇者なのは気になるところが幾つもありますが、半歩譲って理解しました」

「ほぼ下がってないな!?」

「はは、可愛いからいいじゃありませんか。真理ですよ」

「あんたほんとに神父か」

「正直者は救われるのです」

「正直過ぎるわっ!」


 ぜぇぜぇと息をするリングスに、神父が思い立ったように質問してくる。


「それで、えーと……あなたは?」

「ああ、そういえばまだ名乗ってなかってなかったか。俺はリングス。コンチニワ村出身の格闘家だ。これでも村では一番強いんだぜ」

「格闘家……ですか」


 そう呟き、椅子に座ったまま神父が体を横に倒した。

 何事かリングスも体を倒し、神父の視線を追う。

 どうやらリングスの腰辺りを見ているようだった。

 そこには剣が携えてある。


「はぁ……」

「な、なんだよ?」


 神父の訝しげな表情に物申していると、不意に視界の端で動くものがあった。

 勇者も体を横に倒していた。


「なにしてるの」

「いえ、私のような突っ込み下手な者は、ときとして受け状態の人にとってかくも残酷な存在なのだと反省していたのですよ」

「なんか俺が可哀相な子に聞こえるんだけど……」

「違うのですか?」

「違うわっ!」

「素晴らしい。今のを参考にさせていただきますよ」

「あんた絶対ボケ専でしょ!? あんたじゃ突っ込みは無理だ!」

「なんでやねん」


 神父がやる気のない突っ込みを放った。

 そして襲ってくる沈黙と言う名の空気。


「……さて、本題に入りましょうか」


 何事もなかったかのように三人は体勢を戻した。


「魔王討伐の旅に私も加われ、ということで合っていますね?」

「……ん」

「申し訳ないのですが、丁重にお断りさせていただきます」

「そ……。じゃ」


 あっさりと勇者は席を立とうとする。


「えっ? あの、勇者さん!? もう少しこう、頼んでみるとかしてみてはっ!?」

「…………このハゲが仲間にならなくても、わたしのすることは別に変わらない」


 勇者のすることとは魔王の討伐だ。

 そのためには仲間が必要だと王から言われているのだが、如何せん勇者の実力を知っているリングスはなにも言えなかった。


「ハゲですか。お褒めの言葉ありがとうございます」

「いや、褒めてないから!」


 リングスと神父のしょうもないやり取りを無視して、勇者が部屋から出て行った。


「頼もしい勇者さんですね」

「頼もしすぎる」

「まあ、いくら頼まれていたとしても私はこの村から動けないのですが」

「どうしてなんだ? 言い忘れてたけど、魔王を倒した暁には、勇者さんが仲間と認めた者に褒美がもらえるんだぞ。なんでも好きな物を」

「それでも、です。この村には私以外に治癒魔法を使える人がいないんですよ」

「そういえば神父さまのことを話してくれた村の人もそんなこと言ってたな。若いやつらはみんな村から出ていってしまうって」

「ええ、私の娘もそのうちのひとりでして。あの娘がいれば、君たちについていかせたのですが……」

「仕方ないか。それじゃ、のんびりしてると勇者さんに置いていかれるから、俺もそろそろ行くよ」

「魔王討伐、頑張ってください」

「ああ。任してくれ! それじゃ、またな。神父さま」

「はい。君たちに神のご加護があらんことを」

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