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◆第一話『勇者ちゃんとの旅立ち』

「近年、魔物の動きが活発になってきているでぼじゅ~る。そこで、我々ボジュール王国は、魔王を討伐してもらうべくそなたらをここに呼んだでぼじゅ~る!」


 ぼじゅ~る口調が鬱陶しくなってきた頃、王がそう言った。

 先ほどの眼鏡女性は長方形の箱を抱えたまま、王の傍らにてぼけーっと佇んでいる。


「まずは仲間を集めるのだぼじゅ~る。古の勇者も、三人の仲間とともに世界を救ったのでぼじゅ~る」

「古の勇者……ですか」


 人々に語り継がれているその古の勇者は、それはもうべらぼうに強かったらしい。


「うむ。誰を誘えばわからなかったら、適当に治癒魔法を使える者と魔道師でも仲間にすればいいでぼじゅ~る。古来からの定番パーティーでぼじゅ~る」


 投げやりだなおい!?


「……ん」


 隣にて棒立ちする勇者がわずかに頷く。


 ……か、可愛い。


 この少女が勇者だと言われたとき、なんの冗談かと思った。

 しかし今思えばこれほどおいしい機会はない。

 襲い来る魔物から格好良く勇者を守れば『キャー! リングスさんステキ! あなただけが私の勇者だわ!』となること間違いない。

 そうして魔王を倒し、凱旋したあとはコンチニワ村でのんびりと二人で余生を過ごす。


 ああ、なんて完璧すぎる人生設計!


 だらしなく顔を歪ませたリングスを余所に、王が尊大に言う。


「勇者よ。魔王を倒した暁には、そなたとそなたが仲間と認めた者にはなにか褒美をやるでぼじゅ~る」


 微動だにしない勇者の代わりに、気になったことを訊いてみる。


「なにか、と言いますと?」

「なんでも、でぼじゅ~る。このボジュール王が叶えられるものならなんでも叶えてやるでぼじゅ~る」

「本当ですか!?」

「嘘はつかないでぼじゅ~る」

「おぉおおっ!!」


 思わず歓喜の声をあげてしまう。

 今、これと言って叶えたいものはないが、手っ取り早い褒美ならばお金だ。

 たくさんのお金があれば、最近田舎臭くなってきたコンチニワ村の近代化をはかれるかもしれない。

 そうすれば爺ちゃん婆ちゃんしかいない村にも若い女の子がいっぱい……いっぱい……。


 って、だめだ! 勇者ちゃんというものがありながら俺はなんてことを考えていたんだ! ごめん勇者ちゃん!


 勇者の様子を窺うと、あまり嬉しくなさそうな表情をしていた。

 と言うか、先ほどから表情が変わっていない。

 ずっと無表情だ。


「では、ボジュール王国に伝わる伝説の剣を授けるでぼじゅ~る。その昔、神が人間に与えた剣だそうだぼじゅ~る。よくは知らぬし、調べるのも面倒だが、なにか不思議な力が宿っているそうだぼじゅ~る」


 眼鏡女性が勇者の前に歩み出て、箱を開ける。

 そこには鞘に収められた剣があった。

 それがボジュール王の言う伝説の剣なのだろう。

 眼鏡女性が勇者に剣を差し出す。


「鎧は壊れてしまったでぼじゅ~るから、剣だけでも持っていくでぼじゅ~る」

「……わかった」


 眼鏡女性から勇者が剣を受け取った。

 そのままぶんぶん、と上下に振り出す。

 どこからどう見てもド素人の扱い方だった。


 まあ、俺が守ってあげるから問題なし!


「では、行ってくるでぼじゅ~る!」


 魔王討伐の旅が、今、始まった。


 と、思ったが。


「リングスさん、待って下さい!」


 玉座の間から出てすぐに、リングスを呼び止めたのは眼鏡女性だった。


「ん、まだなにか用か? 早くしないとあの子においていかれちゃうんだけど」


 足を止めたリングスを余所に、勇者は気にせず廊下を歩いていた。


「これを、持っていって下さい」


 眼鏡女性が大事そうに両手で差し出してきたのは、手の平に乗るぐらいの小包だった。


「なんだこれ?」

「これは……そう、お守りみたいなものです。もし、あの子――勇者さまになにか大変なことが起こったら、これを地面に強く叩きつけて下さい」

「大変なことってまた物騒だな。なんかよくわからないけど、わかった。まぁ、コンチニワ村一番の格闘家の俺がいるんだ。そんなことにはならないと思うから安心してくれ」

「はい。勇者さまをよろしくお願いします」


 小包を受け取ると眼鏡女性が深く頭を下げた。

 その様子からは勇者の身を心から案じているのがうかがえる。


 この人、あの子の家族かなにかかな……。


 とそんなことを思いながら、受け取った小包を荷袋に入れ、リングスは足早に勇者のあとを追いかけた。


 改めて。

 魔王討伐の旅が、今、始まった。

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