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女王様とお呼びっ!  作者: 庭野はな
王妃への道編
86/88

[86] お取り寄せされたみたいです

灯りで足下を照らしながら、一歩一歩、しずしずと降りていく。

と、少し進んだ所で私は立ち止まり、ドレスの裾を膝下までたくしあげるとずんずんと降りていった。

万が一裾を踏んで転んでも、助けてくれる人はいないしね。

そこは召喚の間のような、人の手で石を積んで造られた階段ではなく、自然の地面の亀裂をそのまま利用し、岩を削った階段だった。

断崖のような岩壁をランプを持った手で伝いながら降りていく。

ひっそりと静まり返り返った空間に、ひたひたという私の足音とドレスの衣擦れの音が響いた。

底まで降りると、そこは自然に出来た洞穴のような空間。

ひんやりと、だが冷たすぎない風をかすかに感じる。


「地底湖?」


階段を降りた時は見えなかったが、広間の中に入るとその一角に更に洞穴のようなものがあり、その入り口まで水があった。

暗くて奥までは見えないが、ランプを向けると先が開けて、水面が続いている。

その手前に、おじちゃんが言った石を重ねて造った祭壇があった。


石を積んだ階段をのぼり、1メートルほどの高さにある祭壇の上は一畳分の広さがあった。

他には何も無いし、祭壇の向く地底湖に向って膝をついた。


「神よ、いらっしゃいますか?」


とりあえず声をかけてみたが、何も反応はない。

私は次に、おじいちゃんに教えてもらった、託宣の儀式の時に最初の口上を口にした。


「神より遣われし使徒エイダム、冥府の使徒エヴァの御名を借りて神に乞う」


途端に洞窟の奥の湖面が強く輝いた。

私は腕で庇い顔をそらすが目が眩んだ。

輝きは少しすると光は落ち着いた。

腕を降ろしてよく見ると、湖面が波打ちその下に白く光る物体があるみたい。

でも、光が強くて何かまではわからない。

水の中に魔法使いが住んでるわけないわよね。

水の神様?それとも精霊?


「神二祈リシ者ヨ。汝ハ何ヲ求メルカ」


男か女かよくわからないような、高くも低くもない不思議な声が湖から響いた。

おじいちゃん曰く、ここで『託宣を』と答え、王子の生年月日や名前など規定の事項を述べていくんだとか。

でも私は、違う言葉を口にする。


「真実を」


「真実トハ」


やった!反応してくれた。


「使徒エイダムと使徒エヴァはどこから来たのですか?」


私は神ではなく使徒のことを尋ねた。

私は神の存在よりも、召喚の儀をもたらした使徒のことを訊くのがいいと思ったから。

すると、しばらく間が空き、気のせいか湖の中の光が瞬いたようにみえた。


「ソノ質問ハ、神二祈ル者二答エルコトハ認メラレテイナイ」


神に祈るもの?

じゃあ神に祈るものじゃなければ答えてもらえるってことかしら。


「私は神に祈る者じゃないわ、ナムイの召喚の儀によって召喚された『運命の花嫁』よ。この世界の人間じゃない。太陽系第三惑星地球の日本の東京から来た平岡由香」


今度は、あきらかに光が点滅した。

そして何故か、私の首の後がちくりと痛んだ。


「召喚物ト確認。太陽系、星系名確認。チキュウ、惑星名確認、ニホン、エリア確認。言語モード変更」


私の言葉を読み上げるように声が復唱しては確認と言う。

私は訳がわからず惚けていた。


「お待たせしました、召喚物番号188、平岡由香。私はエデン」


あれ、ぎこちなく聞こえていた言葉がスムーズになった。

言語モードとか言ってたけど、もしかして日本語?


「あなたが喋っているのは日本語なの?」


「はい。出力を日本エリアの公用語に変更しました」


「あなたは神?それとも使徒?」


「私はエデンです」


「……人工知能かなにか?」


「私は太陽系移民船団ノア第29045艦緊急脱出艇の管理人口知能エデン11564500です」


私は祭壇につっぷした。

兄さん、弟よ、私はどうやら、異世界に来たのは神の奇跡でも、魔法でもなかったよ。

SFだったみたい……。


「質問を、平岡由香」


「では、エイダムとエデンは何者かとここに来た経緯を教えて」



「2905艦技術部所属エイダム・テインと2905艦警備部所属エヴァ・テインは、移民船団ノアは地球歴395年に謎の新生爆発に巻き込まれ当艇で脱出。爆発の影響による衝撃と電子暴走で位相に異常が発生し……」


「ちょっとまって。難しい専門用語はわからないから、結果だけ教えて」


「強制的な次元移動が繰り返され、位置不明、名称不明、位置軸不明、時間軸不明の中、有人惑星を確認、不時着の際に当艇は破損」


落ち着け、私、落ち着け。

有人惑星にいることは理解した、うん。


「じゃあここは、未知の有人惑星なのね?」


「いいえ、その後位置軸のみ判明」


「ここに来たエイダムとエデンはどうなったの?地球に戻ったの?」


「いいえ、当艇は次元跳躍不能な為、帰還不能。エイダム・テインとエヴァ・テインは休眠装置故障修理不能で老衰により死亡」


それから私は私の頭で思いつく限りの質問をエデンにぶつけた。

彼か彼女かわからないけど、彼、としておこう。

彼が言うには、神の使徒だと思い込んだ人心を利用してこの地に根を生やし、道徳と倫理を教え導くことに砕身した。

そして、文明の発達に貢献するつもりでサリスタンに協力。

だけど帝王となった彼は良い王にはならず、二人の持つ力に恐怖を抱き殺そうとしたのだそう。

それで二人は国を倒した。

残り少ない脱出艇のエネルギーを全て利用して攻撃した。

それから二人は動力の少なくなった脱出艇をこの地底湖に隠し、いつか来る迎えを待って休眠した。

ところが休眠ポッドの故障により目覚めた彼らは、再び使徒として人の前に出、カインと出会う。

今度はサリスタンの時の轍は踏まないよう、王の庇護者として表舞台に出ることはなかった。

肝心の召喚についてエデンに尋ねると、実にあっさりとした返事が返ってきた。

エイダム・テインは帰還方法を模索し、専門分野の物質転送の研究を勧めた過程で本当に偶然出来た装置らしい。

仕組みを尋ねると専門用語の羅列で5分ほど説明されたけど、1パーセントも理解できなかった。

ともかく、成人の儀がくると、エデンは地球のものを一度艇内に転送させる、それをもとに用意されている定型文を組み合わせて託宣を下し、後日召喚の間に再転送するんだとか。

ただし、次元の壁のせいで地球上の詳しい場所も時間も指定できず、ただその都度指定した構成物質に近いものを取り寄せるくらいしか出来ない。

だけどそれを見た王は神の技だと感激し、エイダムはこのくらいなら害にならないだろうと、未来の技術だと知られないように「託宣」と「召喚」という儀式をつくった。

召喚の儀の部屋の上のドームは、儀式の際のエデンの目なのだそう。

そしてなぜ私を召喚したかと聞いたら、不慮の事故だと言われた。

本来は、特定の質量以内の物だけを取り寄せるだけの装置。

ところが転送をかけた所、何らかの現象にエネルギーが分化され、一方から剣が、もう一方から私が取り寄せられた。

困ったエデンは、私を眠らせ睡眠学習で言語学習をさせておき、運命の花嫁だとしたらしい。


「あはははははは、人工知能が困るって、おっかしーの」


私は脱力して、祭壇の上に仰向けになり笑い転げる。

笑い過ぎて涙が出るのか、泣きながら笑ってるのか自分でも良くわからない。

私の言葉が問いかけではないので、エデンは応えない。

お取り寄せ、されちゃいましたか。

ここまで思いつめ必死になっていた自分が愛おしくなって泣けてきた。


一応念のために逆の転送はと聞いたら不可能ですとあっさり言われた。

私が研究を続けたら可能性はあると言われたけど、出来るわけもなくすっぱりとあきらめもついた。

ちなみに、召喚物には管理タグが埋め込んであり、私の首の後にも入っているんだそう。

無害だと言うけれどさっき確認された時チクってしたと文句を言うと、生物用ではないのでと言われた。

それを埋め込んだの?

人工知能恐い……。


「エデンはこれからどうするの?」


「命令に従い、託宣と召喚を続けます。ただし平岡由香の召喚によるエネルギー過剰消費の為、残り2回で全エネルギーが尽き、本艇の機能は全て停止します」


「わかったわ。ありがとう」


「ご質問は以上ですか」


「ええ、以上よ」



私の言葉に、地底湖の中の光が静かに消えた。

一気に視界が暗くなり、ぼんやりとランプのあかりだけがあたりを照らす。

私は、闇に包まれた地底湖に向ってつぶやいた


「さよなら、エデン」

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