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女王様とお呼びっ!  作者: 庭野はな
王妃への道編
85/88

[85] どこにいても

「何を言ってるの?ウィルー」


「ユカ様がこのまま消えてしまいそうで恐いんだ。神に会ってちゃんと戻ってくると僕たちに約束できる?」


「それは……」


私は返事が出来なかった。


「もし、神が元の世界に返すことが出来ると仰れば、ユカ様はそれを選ぶのか?」


考えることも避けるようにしていた問いを投げかけられ、私は動揺し顔は青ざめた。

この世界に来てから、半ばあきらめるように一番片隅に置いていたこと。

今回も、自分の召喚された意味を知る探索のつもりだった。

元の世界に戻れるかどうかよりも、私が運命の花嫁として召喚されたのか否かを知るために。

命をかける博打を打つくらいなら、私はこの世界に生きることを選ぶ。

だけど、だけどもし確実に帰る方法があるなら……。


「ユカ様が戻ってこないなら、僕はもう生きる意味はない。ユカ様、戻ってくると約束できないのなら、今ここで僕を殺して」


ウィルーは隠し持っていたナイフをとりだすと、目を妖しく輝かせ口元には笑みを浮かべて私の手に握らせた。

そしてその切っ先を自分の胸に押し当てる。


「何を言ってるの、やめてちょうだい、やめてよ、ウィルー」


「冗談じゃない、僕は本気だ。大丈夫、死ねば神が僕の魂を元の世界に戻ったユカ様の側に置いてくださるはず」


「私はそんなことを望まない、あなたはあなたの人生を生きて」


「もちろん、僕は僕の人生を生きているよ。僕の望みは永遠にユカの側にいることだからね」


「さあ」


私はウィルーの言葉に追いつめられた。

託宣の間に行っても本当に神と話が出来るわけでもなく、帰れる可能性は少ないと思う。

落胆したくないから希望は持たないでいようと、その時までは考えないでいようとしていたのに。

だけど可能性が限りなく低くても、ゼロではない。

もしかしたら死ななくても戻れる方法があるかもしれない。

それが分かった時に私はどうするのか。

今ここで返事を求められるなんて。


「さあじゃない、いい加減にしろっ」


突然ウィルーは横から蹴り飛ばされた。

その足の主はカイルだった。


「僕の邪魔をするなっ」


「黙って聞いていれば自分勝手なことばかり、この馬鹿兄が。そんなに死にたいのなら今すぐ死ねばいい。イーライ、剣を貸せ」


私がカイルの言葉に驚いていると、イーライまで彼に剣を手渡したのを見て仰天した。


「ちょっと、何やってるのよ、止めてよ」


「ユカ様は手を出さないでください」


イーライが私の肩をつかんで止める。


「ウィルー、私はユカ様を行かせる。運命の花嫁になることを受け入れ、いままで良き王妃になるためにせいいっぱいこの努力してきてくださった。私は感謝もしてくれているし、このままユリウスの側で王妃となって欲しい。だけど、それは私達の願いであって、ユカ様が選ぶことだ。ユカ様が元の世界で幸せになるのであれば受け入れたい」


「俺だって、戻るのは止めない。だけどそれなら僕は……」


「なら、ユカが去った後で黙って自刃するなり勝手にするがいい」


ウィルーを睨みつけながらも淡々と語るカイルは、その視線を私に向けた。


「ユリウスも同じ思いだ」


「えっ」


「ユリウスは、私に同行を命じる時に言った。ユカ様は神と対話し、元の世界に戻る機会を得るかもしれない。なら、それを邪魔してはいけないと。この国が、私達が、そしてユリウスがユカ様を必要としたように、向うの世界にも同じようにユカ様を必要としている方達がいる。それを選ぶのはユカ様だから、決してこちらを選ぶよう迫ってはならないと」


私は思わず口元を手で覆った。

ユリウスは、そこまで考えてくれていたの?


「どうして、どうしてそれを自分で言わないのよ」


気持ちが昂り、瞳の奥から熱いものが湧き出し、頬を濡らす。


「顔を合わせれば絶対手放させなくなる、縛り付け閉じ込めておきたくなるからと。それから……」


カイルは剣を持っていないほうの手で私を抱き寄せ、耳元で囁いた。


「『このままこの世界にいても、元の世界に戻っても、ユカは俺の選んだ花嫁だ。だからその指に指輪を贈った』だそうだ。確かに伝えたぞ。それからこれも覚えていて欲しい。あなたがどこにいようとも、私の女王だということも変わらない」


私は無言でカイルを抱きしめた。

そして、倒れたままこちらを絶望に満ちた顔で見上げているウィルーに歩み寄り膝をつき、彼の顔をのぞきこんだ。


「ウィルー、私は今も、これからもいつも側にあなたを感じているわ。あなたに守られていると思うと私は勇気を持てるの」


私は黒いドレスの喉元のボタンを2つ外し、下に隠れているチェーンを指で引っ張った。

たぐり出したそれを見て、ウィルーは琥珀色の隻眼を見開きうるませた。


「ね、わかった?」


私の指先で黒い月石が薄暗い地下室でぬめるように光った。

このネックレスは、ウィルーとの思い出でもあるけど、王妃になることから逃げたいと思った私が心を決めた時のことを思い出すためのものでもあった。

様々な迷いに乱れる心の助けになればと、私は長くしまい込んでいたこれを密かに身につけていた。

ウィルーは震える指で私の胸元に下がるそれをとると口づけ、私の襟の中に戻してボタンを留めた。


「僕は待っているから、死ぬまで、いや死んでも待っているから。例え元の世界に戻っても、いつかまたここに戻ってくるって信じてる」


私は彼をそっと抱きしめキスをした。


「イーライ、ソル、行かせてくれるわね」


ソルはじっと私の目をみていたが、やがていつもは見せない微笑みを見せながら慇懃に礼をした。

「ユカ様がお望みであれば」

私は小さな微笑みで応える。

イーライは、おおいに不満そうな顔を見せた後、私のあたまをぽんぽんと叩いた。


「俺は怨霊になりそうなウィルーほどじゃないが、それでも生きてる間はユカ様のことを待っていますから、どうぞ行ってください」


私は、イーライの信頼と忠誠に抱擁で感謝を示した。


そして私達はおじいちゃんに導かれて召喚の間のドアが並ぶ廊下を進み、一番奥の扉の前に来た。

他と同じ扉だが、そこに部屋の名前は記されていない。


「この先、更に地下への階段が続いております。そう深くはありませんが足下にはくれぐれもお気をつけて。降りた先に広間があり祭壇があります。いつもはその前で神に問いかけると託宣が下されます」


「わかりました。では皆さん、行ってきます」


私はそれだけ告げると、ウィルーからランプを受け取り、一人ドアの奥へ進んだ。

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