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女王様とお呼びっ!  作者: 庭野はな
王妃への道編
84/88

[84] 召喚の間への再訪

「ああ、懐かしい!」


まだ1年も経っていないのに、暗くて冷たく、埃というかカビっぽい臭いが懐かしい。

初めてこの世界に私が降り立った場所にいた。

ついのんきに懐かしんでいる私の後、部屋の入り口でカイルと護衛達は、神域に踏み込む畏怖と緊張感、そして私を守るという使命で張りつめている。

大神殿の地下、最下層にある召喚フロアの一室。

それぞれの部屋は同じ広さで床に白い呪文のようなものが書き込まれている。

もちろん、今は儀式の時ではないので、間違って何かが発動することはないとおじいちゃんが確約してくれた。

だから、いきなり私が姿を消すってことはない。

だけどやはり未知なものの中にいると少し落ち着かない。

ここに並ぶ部屋は各儀式の名がつけられ、託宣で指定された月日にその部屋に入って儀式を行うと指定された物が召喚されるという仕組み。

ちなみに私はナムイの儀だったのでこのナムイの間だったけど、ユリウスの覇者の剣は、2つ隣のタウムの間で召喚されたのだそう。


私は部屋の中央で、私が出現していた場所に立ち周囲をみた。

前回は気付かなかったものが見つかりますようにと祈りながら。

周囲は何の変哲もない城でもよく見かける石壁に、石畳。

この世界に来た時はただ石が敷き詰められた床だ思っていたけど、ここで過ごしてから見れば普通じゃないことがわかった。

石の少しざらざらした質感はあるけど、表面に凹凸は少なく、つなぎ目の隙間がほとんどない。

地球でも、南米の古代文明の遺跡で見かける不釣り合いに高度な技術が使われているよう。

おじいちゃんが、建国の時にこの場所に大神殿が建てられ、時代によって地上部分は何度か建て替えられているけれど、地下の、特に召喚の間は全く手付かずなのだと教えてくれた。

人の出入りが極端に少ないのと環境の良さから600年以上保ててるんだろうな。

私はふと、王の秘密の部屋にあった神殿の地図を思い出した。


「先王が最後にここにいらしたのは?」


「そうですな、6年ほど前になりますか。ちょうどユカ様のように神具を見たいと仰られ、あわせてこちらに降りられました」


「神官長もご一緒に?」


「いえ、お一人になりたいとおっしゃるので階段の入り口でお見送りを」


私は石の床の上に座り込んだ。


「ゆ、ユカ様、お召し物が汚れてしまいます!」


「ちょっと、この部屋に一人にしてくださる?」


カイルは、おじいちゃんをそっと部屋の外に連れ出してくれた。

私は石の冷たさをドレスごしに感じながら、更に横たわった。

人間をこんな所に出現させるって、神というより魔法ってかんじよね。

使徒って別の異世界から来た魔法使いだったりして。

でも、それならどうして私の世界に拘るような物ばかりを召喚するの?

私は仰向けになり天井を見つめ固まった。


「神官長!」


「ふぁっ、はいっ!」


私の呼ぶ声に、おじいちゃんが部屋に転がりこんでくる。


「あれは?」


「あれは神の目と呼ばれる法石です。仕組みはよくわかりませんが、床に書いた神紋をもとに神の力を発動させると」


私が指す先、平で大きな石が乗る天井には、中央黒く艶やかなドーム型の石のようなものがはめ込まれていた。

ウィルーに頼んで抱きかかえてもらい、手を伸ばしてそれに触れる。

綺麗に磨き上げられているそれは、冷たくなめらかで、鏡のように近づけた私の手を映り込ませた。

これがファンタジーなら、魔法を使えないこの世界の人達が召喚を行えるように、魔法陣を発動出来るような魔法道具よね。

私はその高い場所から床の、私が歩き回ったせいで一部が消えかけている図形や文字のようなものに目をこらす。

これを、あの石が見る?

下に降ろしてもらうと、再びカイル達には出ていってもらい、部屋の中でおじいちゃんと二人きりにしてもらった。


「神官長、私はこの世界に神が私を必要とし召喚したのだと思っていました。でも、今その確信が揺らいでいるのです。王妃としての重責のせいだとお笑いください。ただ、このままでは私は心を決めることができないのです。決して神を冒涜する気はありません。ただ、異世界で育った私が神の奇跡を受け入れる為に教えて頂きたいことがあるのです」


「私は、ユカ様の気持ちや境遇を重々承知しておるつもりです。信仰は神を知る事で生まれ強まることですから、その一助になるならば私はあなたに何も隠し立てするつもりはありません。遠慮なくお尋ねください」


人の良い神官長を騙すつもりはないけど、私はこの世界の信仰を否定する気も揺るがすつもりもない。

だから、神はいないのではないかという思いは口にしないで、言葉を選びながら尋ねていった。


「第2の使徒がこの地に降臨したとありましたが、それがこの場所なんですか?」


「いいえ、それは北のボルモア山脈だと言われています。そのため、別名神の山とも呼ばれていました。今は旧大神殿の遺跡が残っています。ここは始祖王が国を興された時に使徒様が新たに造られた大神殿なのです。ナナがご説明しませなんだか?」


「あっ、失礼しましたそういえばそうでしたね。まだまだ勉強不足、精進しなければ」


ほほほと笑ってごまかしながら、私は確信に触れた。


「使徒が遺されたものはあるのでしょうか」


「もちろんです。我々の中にある神への信仰と、使徒様が授けてくださった知恵ですよ」


「いえ、もっと具体的な、持ち物とか……」


おじいちゃんは顎の髭を握りしめながら考え込んだ。


「いえ、ありませな。ああ、この大神殿は使徒様の手によって遺された物と言っていいかと。ただ、もう今はこの召喚の間と託宣の間だけですが」


「託宣の間?そういえば託宣はどう授けられるのですか」


「そ、それは……いくらユカ様といえども、代々神官長しか入れぬ場所でして」


「お願いです、どうぞ私をお救いください。私を神の姫と呼ぶなら、そこへ連れていってください。神の声が届く場に」


私は膝を折り、おじいちゃんの神官服にとりすがった。

涙を浮かべ、哀れな子羊といったふうに哀願する。

最初は泣き落としのつもりだったけど、心の底から湧き出る願いから本当に涙がこぼれた。


「う、うむ。わかりました。ただし、そこは神の御力で1人しか入室出来ないようになっており、ユカ様お一人で行って頂き、私も侍従長や護衛の方も入り口で待つことになります。皆さんにお待ち頂くよう説得していただけますか?」


「ありがとうございます。ご決断と御慈悲に感謝致します」


私は膝をついたまま、おじいちゃんの手に口づけ心からの感謝を示した。

そしておじいちゃんに外で待っていてもらい、入れ替わりにカイルと護衛達に入ってきてもらった。


「一人で?何を考えているんだ。一人で行かすくらいなら連れて帰る」


護衛が安全を確認できない託宣の間に一人で行くと言うと、カイルが頭から反対した。

護衛達は黙っているが皆賛同できないという顔をしている。


「私の話を聞いて。部屋が一人でしか入れないってこともあるけど、もし入ることが出来ても私はあなたたちを連れていくつもりはないわ」


「どうして」


「私は「神」と対話をしにいくの。神を信仰するあなた達が踏み込むべきことではないからよ」


「我々は神に祈る者。神もむげにはなさいますまい」


「カイル、私は神の姫であっても神に祈る者ではないわ。だからその対話にあなた達はかかわらないほうがいい」


私は、神ではなく使徒の正体を実証することに心が向っていた。

実在した使徒の正体を掴めば、自然と神に行き着く。

ばらばらのピースしかないけれど、それでもなんとなく分かることがある。

もし、王がたどりついた結論に行き着くなら、皆は知る必要はない。

私が決意に満ちた目でカイルを見つめると、諦めたように肩をすくめ、私の頭をぽんとなでた。


「わかった。気をつけていってこいよ」


私は目を合わせたまま、一つ頷いた。

その時、部屋に悲痛な叫びが響いた。


「駄目だ!」


「ウィルー?おい何を言ってるんだ」


隣に立つソルが止める腕を振り切り、ウィルーは私に駆け寄り抱きしめた。


「駄目だ駄目だ!僕は行かせない!このまま一人で行かせたらユカ様は戻ってこないかもしれない」

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