[7] 王子も黒髪がお好き
私はそっと彼の頭を、綺麗な柔らかい黄金色のそれをやさしく撫でた。
「別に構わないのよ。さっきも言ったでしょ?価値観は人それぞれだって。それを私は否定しないし押し付ける気もない。それに、結婚の形だって色々あるわ」
「結婚のかたち?」
「私たちの世界ではね。お互い愛し合って結婚し一生添い遂げることが出来ればそれほど幸せなことはないでしょうね。でも、そういうのってほんの一握りだと思うわ。親が決めて、寂しさを埋めたくて、将来のため、あとは子どもができたからとか、既婚という立場が欲しくてってのもあるわね」
「俺も王族として生まれたからには花嫁を自ら選べぬことは覚悟をしているが、ユカの世界も色々複雑なのだな」
「私たちの世界はそういう情報を誰でも知ることが出来るから知られているだけ。きっとこの世界だって、見えない所で色々複雑なのよ。だから、ユリウスが望む結婚の形を考えてみて。私も考えるわ」
「そうか」
なんだか、いつの間にか立場が逆になって、私が王子に結婚をくどいてるみたい。
奇妙なことになったな、と私はくすくすと笑った。
気を利かせたのか、いつのまにかまたカイルとナナの姿がない。
私は、ユリウスに隣に座るよう勧めた。
素直に隣に座った彼に私は優しく言う。
「私のことはまだ嫌い?」
「いや、嫌いじゃあないな。ユカは、変わってるけど側にいて居心地がいい」
「あら、よかった。少しは評価が持ち直したみたいね」
「あの時のことはすまない、あれは俺の本意ではなかったんだ。つい勢いで……」
「気にしてないわ。あれは私も言い過ぎたもの。ねえ、ユリウス。私は25歳。18の時から何人かの男の人と恋愛をしてきたわ。それは決して誰にも恥じることはないし、今のこの自分があるのもそれがあったから。だからそれが知りたければいつでも話してあげるわ」
「さっきの質問、その、俺は気にしないつもりだけど、心の底は自分でもまだよくわからないんだ。そうだ、王のことも謝らねば。あのような席であのような、自分の後宮へなどと。あの方は若い女性がお好きで、その、俺の王妃候補とも……」
私は得心した。
ユリウスの女嫌いに、父と息子の微妙な関係、そして王の息子を軽視したあの言動。
彼は父親にトラウマを持ってる。
きっと何かひどいことを、恐らく好きな人を奪われたんだろうな。
「あの誘いはやっぱり半分は冗談じゃなかったのね」
「今まで誰も、父の誘いを断われた者はいなかったんだ。後宮で王妃候補でいながら、ずるずると父との関係を続けている者もいるとか。俺はそんな後宮も、父になびく女達も嫌いなんだ」
「それって、黒髪の子もいた?」
ユリウスはうつむいた。
ビンゴだったか。
あの時、『黒髪が嫌い』発言はこのことだったのね。
そういえば王も『黒髪がいい』っていってたな。
親子で好みが被って……
私はパズルのピースが綺麗にはまって見えた残酷な結果にため息をついた。
あれの相手は、乙女にはきついと思うよ。
潔癖な反応をすると余計に燃えて爪で押さえつけたがる、屈服好きなはず。
必死で同類ですよアピールしてた私でさえ、まだ彼の爪の届かない所に出た気がしないもの。
「じゃあ、一つ約束するわ。私はあの男、じゃなかった、王様にはなびかないし、手出しはさせない。いい?」
ユリウスは、深い空のような青い目で私を見つめ、ゆっくり頷いた。
「ユリウスも一つ約束してちょうだい」
「なにをだ」
「強くなって。父親に侮辱されても一笑できるくらいにね」
私は、瞳をうるませる彼の顔をのぞきこむと、そっとバラ色の頬に口づけた。
番外編に閑話『次期王妃のための謀略 [7.5]』あります。