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女王様とお呼びっ!  作者: 庭野はな
後宮と獅子編
44/88

[44] 呼び出し状

後宮にきて3日目、私は三人の美少女に囲まれていた。

場所は現在使われていない遊戯室。

オレンジ色の夕日が差し込み、黄昏色の光線の中を埃が薄く舞っている。

そんな幻想的な場所で、潤んだ瞳の少女達は私に向けて叫んだ。


「異世界から来た女ってあなたね!神の姫君とかって持ち上げられているけど年増じゃない」


「あなたみたいな得体の知れない女がユリウス様のお側にいるなんておぞましいですわ」


「お願いだから、今からでも元の世界におかえりください!私たちの未来を、ユリウス様を奪わないでください」



昼過ぎに、私の部屋のドアに手紙が差し込まれた。

差し出し人不明の封筒の中には、ピンクの便せんに女性の字体で一人で指定の場所に来るようにと書いてあった。

要するに、呼び出し状ね。

ご丁寧に、品の良い香が薫きしめてある。

心配する護衛と侍女達に部屋で待っているよう命じてここに赴くと、待っていたのがこの3人だった。


これよ!やっぱり後宮ってこう女の戦いがないとね。

でもこれは、中学の時の体育館の上に女子数人に呼び出されて『私のほうが先に○○君のことを好きだったのに、後からきてとらないでよ』というシチュエーションに近いような。

もちろん、人生がかかってる彼女らのほうが必死さと迫力は段違いだけどね。

左のウェーブのかかった薄い金髪をおろしたままの、しとやかに立つ赤いドレスの少女はリリー。

右の濃い髪色の髪をシニヨンに編み上げ、肩をすくませ始終泣きそうな顔をしている黄色いドレスの少女はバネッサ。

そして真ん中で仁王立ちする、赤味がかった金髪を縦ロールにした白いドレスの少女はダイアナと名乗った。

少女といっても、ユリウスの1つ2つ下くらいの歳で、花がほころぶような若々しさと女らしさを兼ね備えた美人ばかり。

三人とも、時期王妃候補として、2年前から後宮に入って良き王妃になるために修行してたんだとか。

今は私を蹴落として王妃の座を手にするか、だめでも妾妃になるつもりなのだろう。

エリス夫人曰く、同じ境遇の少女が今は5人ほどいるんだとか。

残り2人もきっと美人なんだろうな。


「ちょっと、人の話を聞いていらっしゃいますの?私たちは毎日ユリウス様が後宮にいらっしゃるのをお待ちしているのに、それを後宮の外にいて王子を籠絡するなんてっ、このっこのっ、泥棒ネコ!!!!」


ダイアナ嬢は涙ぐみながらも、力一杯私を罵倒した。


「そうですわっ!ユリウス王子に嫁ぐことは産まれた時から父上も母上も楽しみにされていたのですわ。それなのにこんな年増が…どんな卑怯な手で王子を籠絡なさったのですの!きっと破廉恥なことをされたに違いないわっ!だってあなた乙女でないんですってね!」


バネッサが白い頬を桃色に紅潮させて叫ぶ。

一生懸命私を罵倒しているけど、ババアとかじゃなく年増と呼ぶとことかいちいち育ちの良さを感じさせる。

深窓の姫君なら、彼女らの迫力ある罵詈雑言に屈辱やショックを感じながらも言い返せず屈してしまったり泣いて走り去るんだろうな。

だけど私は深窓の姫君でもないし、同年代の少女でもない。

彼女達が言う通り異世界から来た得体の知れない人間だし、彼女からみれば、というかユリウスより6つも年上だもの、特に反論することもない。

彼女らの家族が権力を傘にきて脅そうとしても脅す家族もいない。

しかも既にユリウスと婚約までしている。

同じ土俵に乗りようがないことに私は困っていた。

彼女らだって、真剣にユリウスを想っていたり、事情があって王妃にならなくちゃいけなかったりするはず。

だから傷つけるようなことはしたくないのだけど。

そう考えていると、私の頬が鳴り、かっと熱をもった。

呆然とする私の目の前で、ダイアナが菫色の瞳から涙をほろほろこぼし、私の頬を打った手を胸の所で握りしめてふるえていた。


「あっ、あなたがいけないんですわっ。婚約したからって大きな顔をして。私は、私は、絶対許さないんですからっ」


ダイアナは走って部屋を飛び出し、リリーとバネッサが慌てて彼女の後ろを追っていった。

私はそれを見送りながら、じんじんと痛む頬に手をあてた。

彼女の長い爪か指輪が唇をかすったらしく、切れた周囲が熱をもち、舐めると鉄の味がした。


「何をにやけているんですか」


ドアの影から男が現れた。

いつからそこにいたのか、部屋で待っていたはずの護衛だった。


「イーライ、若いっていいわね」


「罵倒された上に頬を叩かれて喜んでるって変態ですか」


「そういう趣味はないつもりだったのだけど、あんな美少女に囲まれてついね。なんとかしてあげたいけど、今はサンドバッグになることくらいしか出来ないわよね」


「サンドバッグ?」


「革袋に布を詰めて打撃の練習に使うものの名前よ。そういうものは使わない?」


「オレは木に布を巻いたものを使ってますよ」


「そうそう、今はそんな存在にしかなってあげられないってこと。ただ受けとめてあげるしかね」


「おやさしいことで。だけど必ずしも可愛いお嬢さん達の罵倒だけじゃ終らないのは覚悟しておいてくださいね」


「うん、分かってる」


「今度こういう呼び出しがあった時は、相手に付合ってやる必要はないですよ。堂々とオレ達を連れていきなさい」


「そうなの?でもきちんと呼び出し状に一人で来いって書いてあるなら従うもんじゃないの?」


「馬鹿ですか。それは相手の道理。先方が何を言おうが従う道理もありませんし、従うのはただの無鉄砲な馬鹿です」


「そう馬鹿馬鹿連呼しないでよ。分かりました。一人では応じません」


「じゃあ、親しい人から二人で秘密の話がしたいって呼び出されたらどうしますか?」


「それは私一人で……」


「馬鹿ですね」


「ええ、でも……」


「ユカ様はおやさしい。オレ達騎士を大切にしてくださるし気を使ってくださる。それはありがたいことです。でも護衛としてお側にいる時は人だと思わないでください。あなたの鎧であり剣なのですよ。あと今回のような護衛の任務に反する、無鉄砲な命令は聞けません。分かりました?」


「そうね。私が浅慮だったわ、ごめんなさい」


「じゃあ、ユリウス様から二人きりになりたいと呼び出されたら?」


「その場までは誰かに一緒に来てもらう」


「よくできました。それであなたを一人で来なかったと攻める馬鹿は切り捨てなさい。あなたは王妃として身辺に常に危機感を持たなければならないし、周囲にもそれが当然だと思わせないといけません」


私はイーライに今後こういう軽卒なことはしないよう念入りに約束させられ、部屋へと戻った。

そういえば彼と二人きりで話すのって初めてかも。

廊下を歩きながら、後宮でさっそく妾妃様方の侍女や女官達の噂になっている端正な横顔をながめた。

その顔がひょいとこちらを向く。


「ユカ様、ひとつ言い忘れてました」


「なに?」


間近で、彼のファン達に色気が溢れていると絶賛の紫の瞳と視線がぶつかりどきりとする。


「そうやって、にやけながら舌なめずりをするのはやめてください。怖いです」


それは怖い。

私はあわてて口元を手で抑えた。

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