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女王様とお呼びっ!  作者: 庭野はな
後宮と獅子編
43/88

[43] 家庭の事情

庶子が30人以上。

あの王なら素直に納得出来る数字ではあるんだけどね。

しかも、まだまだ現役そうだからまだまだ人数は増えるわよね。

日本には50人以上子どもを持ったという徳川家斉がいるけど、その記録に迫りそうな勢いだわ。


王が王妃と妾妃だけ相手にしていれば何も問題ない。

女官や侍女、貴族の妻子や市井の者に王が手をつけた時、彼女らがどうなるのか。

彼女らが特に優遇されることはない。

妾妃となる条件には、関係を持つ前に申請しないといけないとある。

王に迫られた女は逆らうことは許されないので拒むことが出来ず、手のついた女は一年分の給金と同額を恩賞として渡されるだけだ。

妊娠が発覚すれば堕胎か出産かを選択させられる。

医療が発達していないので堕胎のリスクが高いこともあり、出産を選ぶ女も少なくない。

そのため臨月近くになると専用の館で軟禁され、子が生まれれば引き離されて養育され、女は子を成した慰労金を渡され元の生活に戻される。


王は、私の読み通りのタイプだった。

華を競う妾妃よりも、彼女達に仕える可憐な花を散らすことを好み、また貞淑で控えめな貴族の妻や娘を陵辱する。

普通なら随分恨みつらみを買うだろうと思うけど、金を渡して強引に事を終らすシステムと執着の薄い王の飽き性のお陰で、皆一過性の悪い病か事故に遭ったくらいに思うようにしているらしい。


ただ、女性も可哀想だが、一番の被害者は産み落とされた子ども達だ。

もし王妃と妾妃に嫡子が望めなければ、王弟、そして降嫁した王姉妹の息子が王位継承権を持つ。

つまり、城のどこかに孤児院のような施設が併設され、そこで育った子は成人すると戸籍を与えられ市井に生きることになる。

王家の血を持っていても、それを認められることは決してないのだ。

しかも、産まれてすぐに親から引き離されるのからか城下の孤児院に迫るほど死亡率も高く、ユリウス達も正確な人数を把握していないらしい。

この王の後始末は後宮の経費に含まれているため、今、後宮の出費が年々国庫を切迫させているのだとカイルが嘆いていた。

そんな父を持っているからこそ、ユリウスが後宮に近づこうとしないのも納得がいった。

私にも今は後宮に顔を出さないのを許して欲しいとわざわざ断りを入れたほどだ。


「ユカさん。よろしかったら今度はユリウスと一緒に来てくださる?次は皆で揃ってご飯を食べましょう」


「ええ。今、ユリウス様は色々と仕事がお忙しいようなので時間が出来た時にご一緒するよう、お伝えしますわ。私もコリーヌ様にお会いするのが楽しみです」


お母さん子のユリウスだから、離宮なら一緒なら来てくれるかな。

金色の親子が並ぶ姿を早く見てみたいなと思いながらも、あまりターニャ様に期待を持たせすぎないように気をつけて返事をした。




「ユカ様、せめてドレスをお脱ぎくださいな」


「さすがに立て続けにお茶6杯はきついわ。お腹がタポタポ」


「6部屋まわっただけですわ。王は歴代で二番目の22人も妾妃を持たれた方ですのよ。多い時には18部屋もあってそれはもう華やかで。でもずいぶんこの宮も寂しくなりました」


現在王の妾妃は6人。

たった6人で音を上げるなんてまだまだですねというようにアイーダさんは微笑みながら、私のドレスの紐を緩めていった。

私は胴回りのゆるんだドレスを脱皮するように脱ぎ捨てると、髪をほどき髪飾りを外してもらう


「でも、どうしてこんなに減ったの?」


「王もあのような方ですからね。一度離れてしまうと二度目目の寵愛はほとんど見込みがないと悟られた方々は、ここを去ってしまわれるのですよ。それに、まもなくユリウス様の代になりますでしょう?そうなると、皆様城を離れ北の離宮に移られることになりますから。今のうちに恩賞を持って実家に戻る方が多いかと」


部屋着に着替えた私は、夕食までしばらく部屋で休むからと寝室で一人にしてもらった。

ベッドの上に大の字になって、妾妃様達の話しを思い出す。


私が王子の婚約者ということで、妾妃の皆さんはずいぶんきさくにお相手してくださった。

既に長い間手がついている方はおらず、城での生活を少しでも長く享受したいか、行き場がなくて留まっている方ばかりらしい。

特に杜若の間の紅茶色の髪をサイドで三つ編みにしたヒルデ様は、お茶を一杯飲み終ってもおしゃべりが尽きず、背後からエリス夫人の上手に切り上げなさいオーラを感じながら話の腰を折るのに苦労した。

それでも短い時間で、色々興味深い話を教えて頂いた。

王妃様から今までの妾妃、王のプライベートすぎることまで、特に王の漁色ぶりに今日一日でずいぶん詳しくなってしまった。

ただ、話の途中で「黒髪のイリーニャ様」という言葉が出てきた時、私は内心ぎくりとし、彼女の話を聞く間、表情を平静に装うのが大変だった。


黒髪の少女は14歳の頃に王が召し上げて後宮に入れた。

しかも当時はまだ妾妃も多く張り合うことも多かった時代で、最も若い妾妃にあの王が珍しくしばらくの間執着を見せていた為、色々辛い立場だったのだそう。

そして2年もたたずに気の病で亡くなったのだと教えてくれた。

ユリウスがしてくれた思い出話といちいち符号する。

ただ一つ、ユリウスの口から聞かなかった話もあった。

気の病になったきっかけは、出産だったのだそう。

そしてその時産まれた子が、今日会った王子、ジニーなのだそう。


ドロドロだ。

見事にドロドロだ。

てっきり女同士のバトルを乗りこえる試練がくると気合いをいれていたのに、王と女達、そして親子の間の問題が横たわっていた。


好きだった女の子を実父に奪われ、出来た子が弟?

充分昼メロが1本作れそうなネタよね。

ユリウスもジニーのことはもちろん知らないわけないわよね。

もしかして、彼がいるから離宮に顔を出さなくなったのかな。

あのユリウスなら考えられる。

私は金髪の青年と黒髪の少年のことを思い浮かべた。

家庭の事情を知ってしまったからには、ターニャ様のご飯のお誘いを気軽にユリウスに伝えられない。

どうしよう、私には何が出来るのかな。

私はベッドの中で頭を抱え、いつまでもうなり続けた。

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