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女王様とお呼びっ!  作者: 庭野はな
淑女教育編
4/88

[4] 俺と寝たいのか?

「似てるね」


最初に口を開いたのは私だった。


「なにがだ?」


「名前。ユリウスっていうんでしょ。私はユカって言うの。ちょっと似てる」


頭の1文字だけどね。

私はなんとか会話を試みようとした。


「そうか。そなたの名前はユカっていうのか」


「そうよ。自己紹介しそこねてたものね」


「あの時はすまなかった。動揺していた」


「それは私もよ。動転しちゃって、といってもまだ混乱してるけどね」


「そなたは、変わってるな?」


「そう?」


「そのような言葉遣いをする者はほとんどいない」


「私だって礼儀はわきまえてるわ。王子様なのは聞いたけど、国民じゃないし、とりあえず私にとって今の所はただの男の子。私のほうが年上だし、尊敬に値するか判断できるほどユリウスのことは知らないから」


「やはり年上だったのか」


「そう。今は大きい違いだけど、もう少し歳をとれば気にならなくなる程度だけどね。大人になれば分かるわ」


ふふっと笑う私に、ユリウスはむっとした表情になった。


「子ども扱いはよせ。俺はもう4年前に成人したぞ」


「じゃあ、私に一人前の男ってところを見せたら子ども扱いはやめてあげる。そうだ、おじいちゃん、神官長さんに私がこの世界に召還された理由は聞いたわ。それにあなたが私を花嫁にすると啖呵をきった話しも。私でいいの?」


「ああ」


「…それだけ?」


「お前はどうなんだ?」


「私の一番の願いは元の世界に帰ることよ。家族もいるのに突然連れてこられたからね」


「そうか……そなたにも迷惑をかけてすまない」


私は王子が素直に頭を下げたことに驚いた。


「こればっかりは、あなたのせいじゃなくて神様のせいでしょう。その神様の気まぐれで元の世界に帰ることが出来ないなら私はこの世界で生きていくしかない。自分に不利益でなければあなたを手伝ってもいいかなと思ったの」


「まこと、か?」


「ただし、普通の結婚といわれても戸惑うのに、しかも王妃になるんでしょ?この国のこと何もしらないぽっと出の女が王妃になっても意味がないと思うの」


「そなたがいれば神は国が栄えると託宣された。そんなのは気にせずともよい」


「私は運命に任せて黙って座ってるなんて出来ないわよ。それなら私じゃなく神殿から神像を1つかっぱらって王妃の席に置いておきなさい」


「……変な女。この国のことが知りたいのだな、ちょうどいい、王妃になるなら色々教育も必要となる。早急に教師達の手配をしよう」


「あとは私と時々過ごす時間をとること。お互いのことを知らなきゃね」


「それはどうしても必要なのか?」


「どんな相手かも知らずに結婚するの?」


「お前は婚前に俺と寝たいのか?」


私は思わず吹き出した。

緊張が変なところで緩み、笑いが止まらなくなってしまった。


「ごめんね、ちょっと思いがけない反応だったから驚いて。ユリウスは私と寝たいの?」


「そ、そんなはしたないことを王妃になろうとするものが口にするな」


「そう?私はそれもお互いを知るいい方法だと思うわよ。でも、あなたとは色々話しをするところから始めたいわね」


私に笑われたのが気分を害したのか、王子は私をにらみつけた。


「お前の世界では知らぬが、我々の世界ではそうとるのだ。他の男に誤解を与えぬよう、王妃になるなら覚えておくがいい」


「あのさ、事情は分かったし協力するとは言ったけど、ユリウスの中で私が王妃になるのは確定なの?」


「お前はここにきた。それが答えだろ?」


私はため息をつき、立ち上がると王子の座る椅子に歩み寄った。

そして彼の膝に強引に座ると耳をひっぱってささやく。


「本人に結婚の申し込みもされていないのに、何を答えるっていうのよ。おばかさん」


「ぶっ、ぶっ、ぶれいなっ!」


顔を真っ赤にして怒り狂う王子の膝から脱出すると、私は窓辺から外を見た。

城からは、高い壁で覆われた中に城下町が広がっているのが見える。

その先には、農地、川と、ずっと先に小さく山が連なっている。

景色だけ見れば、元の世界にもありそうな景色なのに。

後ろでぷんすか怒る王子の存在が、違う世界だと主張している。


「やっぱり私たちは結婚以前に会話が必要みたいね。ということでよろしくね、王子様」


「なんて勝手な女なんだ!お前なんて嫌いだ」


「私だってユリウスの事をまだ好きなわけじゃないわ」


「俺はお前みたいな、気の強い、いじわるで年増な女は嫌いだ。その黒い髪が特に目障りだっ」


王子は捨て台詞を叫ぶと、ばたばたと走り去ってしまった。


「これは、なかなか手強そうだな」


「ユカ様、あの方は純情なんです。どうぞお手柔らかにお願いしますよ」


王子が飛び出した音に驚いてか、様子を伺っていたのか、カイルとその後ろに続いて侍女達が現れた。


「カイルさんこそ、もっとちゃんと教育なさいよ。あんな純情少年じゃ、変な女に掴まっちゃうわよ」


「私はカイルと呼び捨てで結構。王子は女嫌いで通ってますから、そんな心配もしていませんよ」


「じゃあ女に免疫もないのね。これは大変」


「ユカ様は楽しんでいるご様子ですね。それは花嫁に乗り気でらっしゃると見てよろしいのですか?」


「うーん、正直結婚、王妃になることについては、かなり抵抗感があるのよね。私一般人だし、異世界の人間だしね。帰れるなら帰りたいけど、王妃になったらそれを放りだすことは出来ないでしょ?ユリウスは、最初は残念王子って印象だったけど、今は反抗期の弟かな」


「弟、ですか。ははは、それはまた面白い。ユカ様が王子を嫌ってらっしゃるわけではなくて安堵しました」


「それはどうも。でね、カイルにお願いしたいことが色々あるのだけど…」


私のお願いを聞いたカイルはひどく興味深い顔つきになり、不敵に笑った。


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