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女王様とお呼びっ!  作者: 庭野はな
王妃の公務
24/88

[24] オヤジとハゲとマッチョズ

ウィルーがマントを着たハゲ頭の男と、大きな長い包みを抱えた筋肉むきむきな巨漢二人を、私が控える寝台の前に通した。

私はだるそうに扇をあおぎながら、一同をちろりと見渡す。


「私、マッチョは好みじゃないわ。チェンジして」


「い、いえマダム、お望みの者はこちらに」


ハゲ頭はマッチョズに合図を送り、彼らは手にした荷物を投げ出した。

するとカエルがつぶれたような声が聴こえた。

すまきにしていた布がとられ、中から現れたのはロープで縛られ猿ぐつわを噛まされた…オヤジだった。

危険なのでと、ロープはそのままに猿ぐつわだけ外す。



ロマンスグレーとかナイスガイじゃなく、オヤジ。

白髪まじりで造作は悪くないけど皺が目立つせいで歳よりも老けて見えるんじゃないかな。

割と筋肉質で日焼けしていて、芸術家というより職人と言われたほうが納得する。


「お前ら、何しやがる。もっと大事に扱えよ!大事な手に怪我したらどうすんだ」


あ、やっぱり口が悪い。

心の声が聴こえたのか、オヤジがぎろっと私を見た。


「あんたか?俺のパトロンになりてえって酔狂な奴は。女は好きだが金で飼われる趣味はねえ。絵を指図されるのはごめんだ。何より誘拐まがいに無理矢理連れてこられるのは気に食わない」


私は扇で口元を多い微笑んだ。

彼への好ましさからくる笑いだったのだけど、男には嘲笑に見えたらしい。


「さあ、パトロンは断る。だから俺を帰せ」


私はハゲ頭を流し見た。


「どうして丁重に連れてきていただけないの?これじゃあ誘拐じゃない」


「我々にこれ以上の説得は出来ませんで、後は直々にしていただくしか…お代は半額で結構ですから」


「お代?なんのことかしら」


「なにってこの男を連れてくる引き換えに頂く寄付金でございますよ」


「あれは芸術院への寄付だから、やはり後日正式にあの金額を寄付しますわ。私はお話がしたいと言っただけなのにどうして買わないといけないの?ああ、案内してくれた手数料を払えというのね」


私が扇子でウィルーに合図をすると、腰に短剣を下げて側で控えている彼が、金貨数枚が入った小袋をハゲ頭に投げて寄越す。


「マダム、冗談はいけませんぜ」


ハゲ頭の目が据わり、マッチョズも胸や腕の筋肉をぴくつかせながら威嚇する。


「はっはっは、残念だったな。どうやらお前ら、この女にしてやられたらしいな。このまま俺を解放してなかったことにすりゃあいい」


「私達は子どもの使いできたのではないですよ。この男の代金が払えないなら、あなたで払ってもらってもいいですがね」


「無礼だわ、私にそんな口をきくなんて。そもそもこの男は私のパトロネージを断るというのですから仮に商談だとしても成立しないわ。欲を出さずにこのままお帰りなさい」


「金がないならその胸の宝石や金目のものを全部もらおうか」


ハゲ頭はナイフをとりだし、マッチョズもファイティングポーズをとった。


「ねえ、これって強盗?」


「はい、マダム」


「じゃあ、誘拐と脅迫と強盗の現行犯よね?」


「はい、マダム」


「じゃあよろしくね」


ウィルーの動きは驚くほど早かった。

修練場で騎士達の訓練する姿を見たことはあったが、剣を抜いた実戦を目にしたのは初めてだった。

マッチョズの後ろにまわると後頭部に蹴りをたたきこみ気絶させてしまう。

そして動揺するハゲ頭にすかさず詰め寄って手のナイフをたたき落とし、鼻先に剣先をつきつけた。


「お見事」


ウィルーの手際を賛辞し拍手を送る私に、彼は落ちた剣を滑ってよこした。


「そこの彼をほどいて、そのロープをください」


私はベッドを降りて包丁サイズのナイフをとると、おっかなびっくりオヤジに近づく。

彼の脇にぺたんと座ると、先に断りを入れた。


「私、こういう刃物持つのは初めてだし、ロープを切ったことがないの。だからじっとしていてくださいね」


私のひどく真剣な顔と、どうやって切ろうか迷いためらう手元を見て、オヤジは青い顔で身を固くする。

両手首をきつくしばっているロープの外側を1本だけ、ゆっくりのこぎりのように押し引きしながら慎重に切って行く。

繊維のいっぽんいっぽんがふつっふつっと音をたてて切れ最後の一本が切れると、全体がはらりと落ちた。

続いて足を縛るロープにかかろうとすると、オヤジが自分がやるからというのでナイフを渡し、私は切ったロープをウィルーに私した。


はげ頭とマッチョズを縛り終えると、ウィルーは窓を開けて外に向かって合図を送った。

数分後にはマントのフードで顔を隠した男達が数人部屋にやってきて、縛り上げられた彼らを連れていった。


「ユウ、ご苦労様。これでひとつ終わりだね」


「ウィルーもお疲れ。ちょっとあっさり終りすぎて拍子抜けだったけど、あの調子だと色々喋ってくれそうだね。小物っぽいから上まで届かないかもだけど」


「いや、こんなの小遣いかせぎだから上といってもたかが知れてるさ」


「ところでさっきの人達は?」


「ああ、カイルの手駒ってとこかな」


「そっか。じゃあ報告もいくのね。伝言頼んでおけばよかった」


「明日があるさ」


「そうね、明日にしましょ」


「おい、お前ら何和んでんだよ。何者なんだ?どういうことか説明しろよ」


そういえば、ロープを外した後にオヤジは部屋の隅で呆然と事の成り行きを見てたんだっけ。

うっかり忘れてた。


「ああ、お疲れさまでした。もう帰っていいですよ」


「ちょっとまって、あなたにお話があるんです!」


笑顔で追い返そうとするウィルーを押しのけた私は、オヤジを引き止めた。

後ろから舌打ちが聞こえたけど聞かなかったことにしよう

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