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女王様とお呼びっ!  作者: 庭野はな
王妃の公務
21/88

[21] 愛人を持つ方法

「これはようこそいらっしゃいました。私、美術館長のササナタと申します。はるばるようこそいらっしゃいました」


「お世話をかけます。こちらは私の主人。匿名がご希望ですのでマダムとお呼びください」


「はいはい構いませんとも。支援してくださる篤志家の方にはそういう方もいらっしゃいますから」


「では、展示を拝見できますか?さ、マダム」


私はウィルーに手をとられ、しずしずと歩く。

メラニー伯爵夫人の淑女教育が生きてる!ちゃんと生かせてるよ!先生!

やっぱり実践って大事よね。

館長の視線は、頑張って色気を振りまく私より、ウィルーに引かれる手の指輪に釘付けになっている。


まだ芸術は創作する側も楽しむ側も金持ちの道楽といった風潮があって、芸術家の数は元の世界に比べてすごく少ない。

それでも画家、彫刻家、音楽家は貴族の生活で需要が高い為、芸術院に登録申請し認められることである程度の腕前と才能が保証され、仕事にありつくことができるらしい。

その登録作家の絵画や彫刻作品をこの美術館では展示し、お気に入りの作家を見つけて依頼したりパトロネージ(援助する)ことが出来る。

ただし、芸術家もそれを受けるかどうかを自分で選ぶ権利がある。

ところが、芸術院に寄付をした金持ちや貴族の女性達の中で、お気に入りの芸術家のパトロネージが流行すると、一部の者達がそこに目をつけ寄付という名目で金を積めば芸術院の影響力を笠に着て、芸術家に無理矢理愛人契約を結ばせるらしい。

その寄付金は、自らの地位を上げるための功績にしたり、関係者の間で着服される。

『それって芸術院の中に女衒がいるってこと』と私が言うと、あの二人に女性がそんなことを口にしてはいけないと叱られてしまった。

今回はそれがどの役職の者達で行われるか確かめる作戦なのだけど、事前に見せた計画書にユリウスは「そんな拙い計画でしっぽを出すわけない」と鼻で笑ったのよね。

絶対成功させてギャフンを言わせてやる!


午後は市民に解放されるけど、午前は私たちのような特別見学専用になっているせいで、展示室は館長と私たちだけ。

やっぱり神殿の影響力が大きいのか、宗教画が多いな。

私を召還しやがった神様の絵ではなく、祈る人の絵ばかり。

使徒って人達の姿の絵もちらほらあるけど。

神様についてはまだ心の整理がついておらず、宗教学を学ぶのは興味出た時でいいよと神官長のおじいちゃんが言ってくれ保留にしてもらっている。

話を戻して、絵でいうと4割が宗教関係、次いで肖像が3割とそして残りが風景や静物画。

と思ったら、1枚だけ雰囲気の違う絵があった。

私がその絵の前で足を止めていたら、館長が説明してくれる。


「これがお目にとまりましたか。この画家はまだ駆け出しの新進の画家でして、作風が独創的すぎると登録時の審査ではほぼ棄却が決まっておりました。ですが巨匠スカッチ殿が一人頑固に支持し、末席に加えることにしたのです」


「じゃあ、まだだれも?」


私は考え込むように扇で口元を隠しながら低い声で話しかける。


「左様。独創的であるがゆえに将来性も未知数で、面白い買物にはなるやもしれませんが」


おやおや、画家は商品ですか。

それにしても今イチ端切が悪いのは、よっぽど私が気に入るような男ではないか、パトロネージを拒否するタイプなんだろうね。

本来はいかにも絵を描くより愛人希望ですという画家に目にとめる予定なのに、私は俄然この絵の画家に興味がわいていた。

私も美術には詳しくないけど、ラファエロやミケランジェロのいた時代のルネサンス様式の技巧に近い緻密な絵の中で、この絵だけは異質だった。

線も構図も色使いも大胆で情熱的かつ繊細。

マティスの絵を思い起こさせる。

まてまて、彼は20世紀を代表するがかの一人よね。

いきなりこんな絵が出現するのは、乗り心地の悪い馬車か船しか交通手段のないこの世界に、いきなり飛行機が登場するようなものじゃない。

しかも、ダヴィンチが構想したような原始的なものではなくエンジンで飛ぶ鉄の塊の飛行機が。


「わたくし、この方がいいわ」


「この作者は遅咲きでそれなりに歳もとっています。マダムのお好みかどうか……」


館長はちらりと美青年侍従姿のウィルーを見た。


「マダム?」


ウィルーも、計画はどうしたと咎めるように眉をあげてみせた。

本当は、ここで『私は若くて麗しい青年が好みなんですの』なんて、煽る予定なんだけど。


「私、この方にしますわ」


「え、ええ。ですがこの者はまずは一度お会いしてからにしたほうがよろしいかと」


「分かりました。ではこの方が会った時に私を受け入れてくださるよう説得していただいた暁には、寄付を倍にしましょう」


「マダムっ」


私はウィルーを押しとどめて、館長に意味ありげな視線を送った。

既に事前に寄付金額をちらつかせていることもあって、館長は増額分のいくらを懐に入れようか計算してるのだろう、野卑た笑顔で応じた。


「わかりました。近日中には良いお返事を」


「今夜に。私は忙しい身、無駄にする時間はありません。出来るのか出来ないのかだけ返答を」


「よ、よろしいでしょう。では今夜滞在されている宿にお連れします。その先は……」


「それで結構。ではこれは期待込みの手間賃ですわ。それではごきげんよう」


私の一瞥でウィルーは、胸から金貨を数枚取り出すと館長に渡した。

それを素早くしまいこみ媚びた笑いを浮かべる館長に見送られ、美術館を後にした。



「おい、いきなりプラン無視してアドリブに走るなよ、何を考えてるんだ」


「つい好奇心が勝っちゃって。でもきっとなんとかなるわよ。さあ、次の種を撒きに行きましょう」


「騒動の種をだろ。アドリブもいいけどやりすぎるなよ。面白いからいいけどな」


この後昼食と買物を済ませた私たちは、次の目的地となる養護院の前に降り立った。

タイトルを「パトロネージ」から「愛人を持つ方法」に変更しました。

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