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女王様とお呼びっ!  作者: 庭野はな
王妃の公務
20/88

[20] 女は化ける

「これはなんだ」


「ああ、おはよう。朝ご飯出来てるけど食べれそう?」


昨晩ミーシャさんの旦那さんと深酒をし、青い顔で起きてきたウィルーを私は台所で迎えた。

私は、後はスープとパンを温めるだけになったテーブルにつき、この街の地図に目を通していたところ。


「それよりそんな食材、うちにはなかったはずだが」


「つい、いつもの時間に起きてね。さすがに走るわけにはいけど、せっかくだから散歩したの。で、近所に朝市を発見したから色々買っちゃった」


「くそっ、あんなに飲むんじゃなかった。僕が気付かなかったのが悪いけど、これからは出歩く時は必ず声をかけてくれ。一人で行かせたとバレたらカイルに殺される」


「ごめんね、張り切り過ぎたわ。もう一人で行かないから。さあ、そこに座って」


「悪いけど僕はむり。食べれそうにない」


「だろうと思って、いいもの作ったのよ」


サラダを作るのに出た野菜くずを鍋に入れ、買ってきた二枚貝を投入。

貝の出汁が出たところでひきあげて、殻から身を外す。

仕上げに塩と、適当に買ったスパイスを香りをみながら投入。

それにパンを添えてウィルーの前に置いた。


「お、うまい。これなら腹に入る。驚いた、ユウは料理上手なんだな」


「ありがとう。貝のスープはお酒に疲れた内臓を癒してくれるのよ。二日酔が嫌なら飲んだら寝る前にしっかりお水飲まなきゃ」


しれっとした顔で給仕をしながら、心の中では空に舞い上がるくらいに浮かれていた。

この世界に来て初めての台所。

コンロは炭だったので少し四苦八苦したけど、自分で料理が出来るなんて素晴らしい!と感激しすぎて涙が出そうだった。

ああ、もうこのまま仕事も王妃も王子も国もほっぽり投げて、このアパートで暮らしたい。

そんな甘い妄想と闘っていた。


朝食の片付けを終え、準備を整えた私は玄関で彼を待っていた。

今日は、胸にリボンをつけた深い青のドレスに白いショールと手袋を合わせてちょっとやぼったいお嬢様っぽい姿だ。

出がけに顔を合わせたミーシャさんに、ウィルーのために頑張ってオシャレをしたのねと生暖かく微笑まれた。

彼女は私を彼と同じ年頃でお似合いだと思っているらしい。

私も名前から偽ってることもあり、あえて否定はしなかった。


私達がアパートを出て少し歩いた所で思いがけないことが起こった。


「よお、ユウちゃん、これから観光かい?」


「はい。今日は美術館に連れていってもらうんですよ」


「おいおい、ユウちゃんのお世話になってる人ってウィルーかよ。おい、よくも俺に黙ってたな、今度おごれよ」


「俺のユウちゃんがウィルーとデート!?」


通りに店を構える職人の皆さんが次々に私たちに声をかける。


「おい、なんでこいつらがユウを知ってる」


「今朝会ったから」


「はあ」


「歩いてたら声をかけられたのでお話ししてたのよ。あと市場の人達とも仲良くなって色々おまけしてもらって助かったわ」


「おい、お忍びじゃなかったのか?」


「だから、一週間だけウィルーの家に滞在するユウとしてお知り合いになったんじゃない。それに色々話が聞けて有意義だったわ」


寄り添って小声で応酬しあう私たちに職人さん達はいちゃついてるとでも思ったのか、ウィルーに走りよると笑顔のまま容赦ない力で背中や肩を叩く。


「ユウ、覚えてろよ」


「こら、ユウちゃんは女の子だよ。そんな口を利いてたら逃げられるじゃないか。やさしくしてしっかり捕まえてなさいよ」


小間物屋のおかみさんが、柄杓でウィルーを追い立てる。


「くそ、もう二度とユウを一人で歩かせないからな」


そう誰にともなく叫びながら、ウィルーは私の腕をつかむと、背中に職人達にひやかされながら、彼らの目に入らなくなる場所まで走った。



「あははは、まあ、いい予行演習になったからいいんじゃない?」


「あれがか?でも本当にうまくいくんだろうな。僕は芝居なんてできないぞ」


「腹芸は得意そうだと思ったけど」


「それはカイルだ。僕ほど率直だって言われる男もいないよ」



私たちは予め用意させていた馬車と合流し、積まれていた鞄を開くと、中に入れていた手袋とショールを白から黒へと付け替える。それだけでも急に大人びた雰囲気になるのは、お針子さんの腕の良さにほかならない。

胸のリボンを取り外し、開いた胸元に大ぶりな宝石がついたネックレスをつけ、指にも大きい石のついた指輪をつける。

仕上げにバッグに忍ばせていた元の世界から持ってきたコンパクトをとりだして、こちらの流行のシャドウとチークと口紅を濃いめにつける。

すると、見事にお嬢様から有閑マダムへと変身した。


そんな私を見て、ウィルーは口笛を吹く。

ウィルーも、手早く白シャツに使用人のお仕着せの上着にズボン、それにシャレたタイをつけ、見目麗しい侍従くずれといった姿になっていた。


「これはまた、女は化けるというけど、いい化けっぷりだね」


「ウィルーもね。よく似合ってるわ」


「そうか?ユウがそう言うなら自信を持つよ。じゃあいくか」


「今日の私は地方の金持ちマダム。ウィルーは侍従にして愛人。よろしくて?」


「おおせのままに、マダム」

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