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女王様とお呼びっ!  作者: 庭野はな
淑女教育編
14/88

[14] 休日の過ごし方

あの色々あった初めての夜会からもう3日が経つ。

メラニー伯爵夫人とコンラット男爵夫人から無事合格点をもらい、晴れて王妃育成特訓メニューから開放された。

といっても、ようやくなんとか普通の貴族の令嬢並みになっただけで、王妃となるともっと上のものが求められるんだとか。

それでもご褒美に1週間の休みをもらった。


毎日話をしようと約束したユリウスは、結局仕事が終わらなくてカイルからなかなか許可が降りない。

なので夕方になると、それだけをわざわざ自ら息をきらせて伝え、すぐにバタバタと戻っていく。

広い城内、途中には階段もあるのに往復5分で済ませてこいと言われているらしい。

そういえば例のキスから、私と顔を合わせると頬を赤らめ目を潤ませるようになって少々とうっとうしい、いや初々しいと言ってあげないと。

そういうのは嫌いじゃないんだけど、さすがに毎日となるとお腹いっぱいになってくる。

それにしても、あの侍従は鬼だわ。

早くのんびり話しが出来るようになるといいけれど……


ということで休みの初日は、王子が子どもの頃に読んでたという、この国でもポピュラーな童話を中心に一日どっぷり読書を楽しんだ。

そうそう、どうも私は神様の恩恵で聞き喋るだけでなく読み書きもできた。

最初は日本語を喋ってそれが神様の力で変換?とか思っていたけど、ナチュラルにきっちりこちらの国の言語を使っていたらしい。

言語に関する記憶が頭の中にぽっこり追加されて、母国語の設定が日本語でなくこちらの言葉になっていたと言えばいいかな?

というわけで、例の「真珠姫と闇王子」は『海の歌』という物語で主人公が出会ったいつも泣いている海族の姫と彼女が恋した敵対する魔族の王子のことだった。

「森の女王」とは『シンの森』という森を治める異種族を討伐にきた王子が森の女王と出会い恋する物語だった。

小さい時だからといって男の子がこの手の本を読むって珍しいよね。

他にも何冊か借りたけど、どれも王子様が絡むロマンチックな恋の物語ばかり…

例の贈られたフリフリドレスを見たときにユリウスのセンスだと納得したのも仕方がないって思うでしょ?

ちなみに、この世界には亜人と呼ばれる異種族の人はいるそうだけど、他所の大陸に住んでいて、この国には旅人がごくたまに現れる程度だそう。

魔法は御伽噺の中にしかないらしい。

上位神官が使う業はあるけど、あれは魔法ではなく「神技」といって、宣託と召喚、浄化、治癒といった奇跡の力と呼ばれる数少ない技しかないとか。

異世界だものと、もっとファンタジーなものを心の中で期待していたんだけどな。


そして昨日は、お針子さんに更なる異界の下着の知識を披露しラインナップの強化をお願いした。

夜会で私のドレスを見た夫人や令嬢達が仕立て屋に同じものをと注文がたて続き、彼女達の説明では心もとないとお針子さんに教えを請いたいというオファーが殺到しているらしい。

このまま彼女に有名になってもらって、ドレスの流行や下着の改革ができたらいいな。

女だから着飾るのは嫌いじゃないけど、着替えに手間取るし、着ているだけで消耗が激しいのはちょっとね。


そんなこんなで、しっかり充実した休日を楽しんでいる私は、今日も大きな課題を見つけましたよ。


「どうしてこうなるんだろ」


「ユカ様、いかがなされました?」


私がパンちぎりかけたまま物思いにふけってるのを見かねて、ナナが声をかけた。

この世界でなんとか順応しているつもりでも、なかなかしきれないものがある。

あまり我侭を言ってはいけないと我慢しているけれど、我慢しすぎで精神衛生に悪いのは出来れば解消したい。


私は自他共に認める仕事人間だけど、それでも趣味がある。

それは何を隠そう料理なのだ。

もともと両親が他界してからは兄が働き、私が学校を通いながら家事と弟の面倒を見るのをこなしてきた。

だから料理は日常のことだったけど、さらに昇華した食を楽しむようになったのはみっちゃんのおかげだった。


みっちゃんこと光子さんは、私の上司である社長の奥様で、料理研究家だ。

何度か社長のおつかいや仕事でお会いする機会があり、そこで意気投合してから娘のようにかわいがってもらった。

休みの日は彼女の料理教室に助手として入ったり、色々美味しいものを食べさせてもらったな。

みっちゃんの口癖は『新しい食べ物との出会いを恐れるな』だった。


私はこの世界に来てから食べ物に興味津々だし、抵抗なく受け入れることが出来た。

さすがに温かいものは食べられないのは閉口してるけど。

城の料理番は喜ぶ私のために国中の色々な料理を作ってくれ、しかも毎回素材の解説付きのおしながきまでつけてくれる。

ただ、いくら宮廷料理だからといっても文化レベルからいって見栄えのいい素朴な欧風料理。

主食はパンか芋。

醤油や味噌や米が恋しくないといえば嘘になる。

製法や栽培法も知識では知ってるので、すぐには無理だけどそのうちなんとかしたい。

それよりも当面の問題はパン。

製粉技術の関係で真っ白じゃなくても当然と思う。身体にいいしね。

それより、どのパンもふくらみがいまいちだったり、せっかくの粉の香りが出ていなかったり、ぼそぼそしているのが気になって仕方がない。

これはこれでありなのだけど、もっと美味しい状態を知ってるだけに悲しい。

毎日食べるものだからなんとかしたいよね。


いつもならカイルにお願いするところだけど、料理番とアイーダさんは顔なじみというので彼女に厨房見学を頼んでもらった。


「ああっ!」


思わず声をあげてしまい、ただでさえ緊張してる料理番のおじさんをとびあがらせてしまう。

彼は今まさに夕食用のパンをこねていた。

いつも美味しい食事のお礼が言いたくて、あとこの世界の料理をする皆さんの仕事ぶりが見たいというふれこみで訪れたせいで、厨房の皆さんの表情は強張り、空気が張り詰めてしまっている。


「姫様、私に何か不手際がございましたでしょうか」


「いいえ、ごめんなさい。私の世界とはまた違う手際に心惹かれてつい」


私、分かってしまった。

この世界と元の世界のパンの違い。

他の国や地域はどうか分からないけど、少なくともこの国では醗酵の技術がほとんど進んでないと思う。

おじさんの作るパンは粉と水、場合によっては卵や油脂を混ぜて寝かせて微醗酵させ、その種を一部残して次回に足すという作り方だった。

干し果物を入れるともう少し良く膨れるのだと説明してくれた。

そこ、そこにもっと注目しようよ!


そして私は愕然とした。

だからか!だからお酒もいまいちなのか!

食事の時に出される酸味の強いワインや微妙な味のエールを思い出す。

エールの出来はどうあれ蒸留酒にすれば元の世界のウィスキーに近いはず…と思ったら蒸留しただけのニューポットの状態なのでワイルドすぎ味気ない。

この国に住むならこのへんをどうにかしていかなくちゃ。


目の前でせっせと仕事に励むおじさん達を見ながら、つい元の世界の食事や料理をしていた時のこと、家族との食卓を思い出し懐かしんでいるうちについ涙ぐんでしまった。

心配するおじさんに、元の世界で料理をしていたことを話すととても興味を持ってくれ、料理談義に花を咲かせるうちに郷愁もいつのまにかなりをひそめてくれた。


その晩の王家一家の食卓には次期王妃直伝の「ロールキャベツ」が乗り、野菜嫌いなユリウスがなんと5個も食べたんだとか。

翌日おじさんからその話を聞いて、私はいつかマイキッチンを持った暁には、王子の偏食を改善してやるとふつふつと闘志を燃やすのだった。

「パンの秘密」というタイトルで閑話として挿入していましたが、タイトルを変更し本編に組み込みました。

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