声を聞かせて
今 もし 雨が降ったら
貴方は いなくなるでしょう
だって 雨は 全てを流す
魔女の 贈り物だから
「誰が―夢から醒めたいと言った?」
暗く、寒く、深い闇。
ここだけが私の棲みかで。
ここだけで生きていきたいと。
思ったのに…どうして目覚めさせた?
誰が頼んだ。
誰が望んだ。
誰が。
誰が…。
独りきりで良い。
孤独など感じない。
光は見たくないんだ。
自分の闇に気付きなどしたくなかった。
声が……歌が聞こえる。
澄みきった、切ない音。
誰だ。
この主が私を呼んだのか?
「貴方は 魔女を恐れる。逃げなければならない。逃げたくなくとも、それは宿命だから」
…魔女…。
深い闇の、仲間。
遥か昔に一度だけ、話したことがある。
仲間が出来たのだと、ただ喜び…そして落胆した。
だって魔女が私を闇に陥れたのだから…。
そうか、私は闇の住人ではなかったのだ。
光を忘れていただけだったのだ。
「宿命。これは宿命。追われ、逃げ、また追われ…。立ち向かえばきっと、闇の渦」
呑み込まれたくない。
闇などにもう二度と。
声の主…どこだ。
そなたに遭うことが出来れば道は拓けるだろう?
今、呼ぶから。
どうか逃げないでおくれ。
「我、君を求む。何処に…何処に」
あぁ……。
声がうまく出ない。
舌は絡まる。
独りで考えて生きてきたのに、出したい言葉が見付からない。
「何処…何処……」
声の主よ、今の我にはそなただけなのだ。
喋りたい。
喋りたい。
喋りたい。
孤独を恐れているのは誰よりも私だ。
どうか…どうか……。
「此処よ。此処にいる。けれど魔女は追い掛ける。貴方を見付けにやってくる」
「声の主!」
やっと現れてくれたのだな。
私を救ってくれ。
てだてはそなたしかないのだ。
「小鳥。小鳥」
小鳥…?
一体それは…。
「小鳥は道標。消えない道標」
澄んだ声が…呼び掛ける。
「ありがとう」
鳥を捜せばきっと見つかる。
私の真の居場所。
魔女のない世界。
「小鳥。小鳥。私は小鳥」
あぁ…。
私の目の前に大切な小鳥がいる。
羽ばたかないでおくれ。
今行くから。
さぁ、準備が出来た。
導いておくれ、私の居場所へ。
幸せの……在り家へ。
行かせやしないよ。
道標はお前の元に行く消えない道標さ。
闇にお戻り。
永遠に。