凝固点降下で呪いが解ける?
少し自死を仄めかす表現があります。苦手な方はお気をつけください。
そして夕食の時間が来た。
私はドキドキしながら、チキンをオーブンから出す。表面は綺麗に焼けている。
私はそれを大皿に移し、蓋を被せた。
付け合わせにはゆでた野菜にマヨネーズをかけて、とうもろこしを焼いてバターを塗った。
料理ができた頃、エリックさんが私を迎えに来てくれた。
「あ、エリックさん道具が必要なんです。木槌をお願いできますか?」
「え?何に使うんですか?」
「それは食べる時のお楽しみです」
困惑しながら、エリックさんは木槌を持って来てくれた。
エリックさんは私の代わりにカートを押してくれて、私たちは国王陛下とウィリアム殿下が待つダイニングルームへ到着した。
国王陛下は1番奥の席に、その隣に黒髪の男性がいた。
そこにいたのは私がこの世界に来た時に森でエリックさんと一緒にいた人だった。
私はついその男性を見つめてしまったが、エリックさんが咳払いをしたので、慌てて国王陛下に挨拶をする。
「国王陛下、本日はお食事を用意させていただく栄誉を与えてくださり、感謝いたします」
国王陛下はニコニコしながら、
「私も楽しみにしていたんだ。ニコラスが自慢していたから」
ニコラス殿下は何を言っていたのだろうか?
「リナ様、こちらがニコラス殿下。。。の。。兄君のウィリアム殿下です」
国王陛下はびっくりした顔でエリックさんとウィリアム殿下の方をチラッと見たが、何も言わなかった。
「初めまして、リナと申します」
ウィリアム殿下はやっぱりニコラス殿下に似ていた。ニコラス殿下が大人になったらこうなるのかな。
「国王陛下、最後の仕上げは国王陛下かウィリアム殿下に手伝って頂きたいのですが」
「うむ、それでは、にこ。。ウィリアムに頼もうか」
ウィリアム殿下は何も言わずに私をじっとみている。
私はチキンの乗ったお皿を殿下の前に置いて、木槌も横においた。
殿下は木槌を困惑気味に凝視しているが何も言わない。
私は料理の蓋をとった。
「何だこれは!雪の塊か?」
あ、やっと喋った。
「いえ、これは塩釜と言って、チキンを塩と卵白で混ぜたもので包んで焼いてます。そのままだと塩が濃すぎるので、チキンは野菜に包んでます。塩が水分の蒸発を防ぐので、中が蒸し焼きになってるので、お肉もしっとりしてますよ」
私は殿下に木槌を渡して割ってもらった。
塩がつかないようにそっと野菜に包まれたチキンを取り出し、お皿に取り分けた。
とうもろこしと温野菜も添えて、国王陛下とウィリアム殿下の前に置く。
殿下は無言で食べ始めた。
モグモグ食べ続けているので気に入っている様だ。
国王陛下は「私が今まで食べていたチキンはなんだったんだ」と言いながら食べている。
私はチキンを包んでいた塩の外側の部分で肉汁がついていないところを選んでカップに入れていく。
それに気がついた殿下は私をみている。
私は料理を持って来た時に、テーブルの上にワインボトルが入ったアイスペールがある事に気がついて、塩を無駄にするのも何かなとアレを作る事にした。
私はエリックさんにキッチンからオレンジジュースと細長いグラス、木のマドラーを持ってきてもらった。
氷は貴重品だけど、国王陛下と王太子殿下の食事には惜しげもなく使うのね。
オレンジジュースをグラスに入れ、氷を周りに敷き詰め、グラスの中にマドラーを入れる。そして先ほどの塩を氷の上にかけると、氷が溶け始めオレンジジュースが固まっていく。
これには殿下だけでなく、国王陛下、エリックさんも口を開けてみている。
15分ぐらいで固まったので、そっと容器からアイスキャンディーを取り出す。
「デザートのオレンジジュースのアイスキャンディーをどうぞ!」
それを見た殿下は大笑いし始めた。
「もうリナには勝てないな、完敗だ」
私は何故殿下が笑っているのかわからずに困惑して立っていた。
「おっとこれが溶けてしまう前に食べてみよう、父上もどうぞ」
「殿下、もう私は限界です。リナ様のご飯が食べたいです」とエリックさんが殿下に訴えてる。
「リナも食べたらどうだ?」
「そんな、国王陛下と王太子殿下とお食事とは恐れ多い」
「俺は王太子じゃないし、いつも一緒に食べているだろう」
「は??」
殿下は私の顔にグッと自分の顔を近づけて
「俺はニコラスだ、本物の王太子は呪いのせいで1年前から眠ったままだ。ウィリアムは俺のミドルネームだ」
私が呆然としている間に、ニコラス殿下はオレンジアイスキャンディを食べ終わり、私の前に座った。
「じゃあ初めから話をしようか」
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俺には2歳上の兄アンドリューがいる。兄上はとても優秀で、社交性も高く、人の為に出来る限りの事をする、王になる為に生まれて来たような男だ。
ただ兄は心に決めた人がいると頑なに妃を取る事をしなかった。このままでは王位を継ぐことも難しい。
そこで俺に王位を譲るという話も出たが、
俺は何をやっても、優秀な兄上には全く敵わなかった。俺はそんな兄上を尊敬していたが、同時に嫉妬もしていた。
そんな汚い心を持つ俺にも兄上はいつも辛抱強く勉強を教えてくれたり、鍛錬に付き合ってくれて、俺はそんな兄上に嫉妬する自分自身が嫌いだった。
だからいつも笑顔を貼り付け、汚い心を見られないようにしていたが、俺はそんな生活に疲れていた。兄上の出来損ないのスペアである第二王子というタイトルを捨てて何処かにいなくなりたかった。
1年前の兄上の誕生日パーティーの日。俺は皆に囲まれている兄上を見ていられず、中庭に出て来た。すると黒いドレスを着た女が突然現れた。
その女は俺の心を見透かしているようで、俺が自由に生きれる場所に連れて行けると言って来た。俺はこの生活に疲れていたのか、あまりよく考えずについて女にふらふらついて行こうとした。
そんな時兄上と護衛騎士のエリックが俺に向かって走って来た。その女は魔女だ、お前の自我を奪って操り人形にして、俺を殺して王座を奪わせこの国を手に入れようとしていると叫んだ。
魔女は兄上を見て笑った。お前がこの馬鹿な弟を救おうとして来てくれて丁度いい、私がこの場で永遠に眠らせてやろうと笑った。
だが、魔女が俺たちに気を取られている間、エリックが魔女の背後に回り込み、魔女に斬りかかった。倒れる魔女は俺たちに向かって呪いの言葉を唱えると。あたり一面に黒い霧のような物が広がり俺たちを包んだ。そして俺は意識を失った。
しかしその意識を失う前に、魔女の最後の言葉を聞いた。最後にお前が英雄になる方法を教えてやろう。お前が死ねばその男は目を覚ます。出来損ないのスペアに相応しい死に方だと。
目が覚めた時は、俺は自分の部屋にいたが、様子を見に来たエリックは俺の姿を見て驚愕した。俺は5歳の時の子供になっていた。そして、どうやら俺にかけられた呪いは日が暮れると元の姿に戻り、日が明けるとまた子供の姿になるようだ。
兄上は魔女の言ったように深い眠りに落ちた。
俺はみんなに俺を殺して、兄上を助けてくれと言ったが、魔女の言ったことが嘘だった場合に、王位を継げるものがいなくなると反対され、エリックを俺の監視役としておいた。
どんな医者も兄上を起こすことはできず、希望がなくなりそうな時に、ある学者が北の山にある氷のりんごを食べさせれば、どんな状態異常でも治すことができると古文書に書いてあるのを発見した。前回、国王陛下に同じような眠りの呪いがかけられた時は“旅人”の助けを借り、無事に氷のりんごを使い呪いを解くことに成功したそうだ。ただ、どのような方法を取ったのかは書いてなかったそうだ。
そのりんごは王家の血を持つものだけが収穫する事ができる、そして凍ったまま運ばないと跡形もなく消えてしまうそうだ。
その話を聞いた日、俺は大人に戻った時にすぐに北の山に向けて出発した。。険しい山を登り、山の頂上に確かにそのりんごの木はあった。
木箱の中に、山の山頂にあった万年雪や氷を詰め、氷のりんごを入れ、全速力で帰ったが王宮についた時りんごは溶けて無くなっていた。
兄上を山に連れていくことも考えたが、衰弱が激しいので移動させる事は難しいと医者に言われた。
毎晩の様に挑戦したが1度も成功はせず、俺はもう疲れ切って、ストレスから食事が取れなくなって来た。そして馬に乗る体力もなくなって来た時、もうこのまま死んでしまえば、兄上が助かるしそれでいいじゃないかと思い、もう生きる事を諦めていたんだ。
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そこまで話すとニコラス殿下は私を見つめた。
「そんな時にリナに森であったんだ。初めはまた違う魔女が現れたと思ったが」
だからあんなに警戒してたのか。
「父上とエリックは“旅人”が現れたなら、氷のりんごを持って帰る方法を知っているに違いないと俺に言ったが、何度も重なる失敗とリナが少女の様に見えて、何も期待してなかった」
一体殿下には私は何歳に見えていたんだろう。
「だが、リナが作る不思議な食事は俺の持つ懐疑心を溶かしていった。そして体力も戻ってきた。だから、今夜本当の俺を見てもらって、助言を求めようと思ったんだ」
そう言いながら、アイスキャンディーを作った入れ物を見つめた。
「まさか、尋ねる前に液体を凍らせる方法を教えて貰えるとは思わなかったがな」
殿下は立ち上がって、私の方に来て片膝をついて私の手を取った。
「リナ、兄上の時間はもうそう長くない。俺は誰が止めても自分の命を兄上に捧げるつもりだった。だが、もう一度だけ試してみたいんだ。力を貸してくれないだろうか」
「リナ、私からも頼む。息子達を助けてくれ」と国王陛下は声を震わせていた。
私はイケメンに手を取られて、赤くなりそうだったが。その前に私の研究魂に火がついた。これは挑戦だ。
「やるからには徹底的にやりましょう。冷却と保冷で氷のりんごを持ち帰りましょう!」
塩釜焼きをいつかは作って見たいと思いまだ実現できずにいます。魚でもできるかな。




