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無碍なる塔の前世持ち    アンチ光属性 底辺からの異世界職業行脚 或いは人牛の件  作者: いちめ
アンチ光属性 格差社会で教育計画 或いはラミア―の件

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5 友達をつくろう

 何でこんな面倒な事になってるんだろうな。アステアスの固定観念を打ち砕く様な画期的な策とか思いつかねえかな…とか考えてはいるけれど、都合よくそんな事が起こる筈もない。教育って地味なのよ。時間かかるしね。でもさ、その程度の事で思い巡らすのならアタシにとっては上々。去年は稼ぎを取り上げられる苦痛とか、身売りさせられる心配とか、知り合いが暴行・殺害されそうな危機とかに曝されてたもんね。切迫感が違うわな。「前」世と違って人を動かすことも学んだし、アタシも成長したって事よ。え?不幸体質?イヤな事いうな!

 で、勝負に勝って学舎で何するのって話ですよ?まずは平民側、学舎の教育レベルを上げるところから始めるつもり。貴族でなくとも教育と研鑽が違いを生むのを見せようと思う。期間がどれほど設定できるかはアステアス次第な所がある。なれば短期で成長が見えねばならない。要するにアステアスに飽きさせないという縛りな。その上で平民と交流できれば尚良し。そんな妙策ある訳無いって思うでしょ?それがさ、あったんだわ。

ふふふ。アラビア数字導入しました。

 そう。この世界、アラビア数字があったんですよ!これって「今」世最大のラッキー!え?それが最大って悲しい?そう……ね。……うん…。

 アタシは市政官邸でのアステアスの講義にも同席させてもらっている。内容は平民と貴族でこうも違うのかと言うもので、地理や周辺諸国事情、歴史、交易経済、自然科学等々に及ぶ。それぞれが体系化されているのではなく、テーマに沿って様々な内容が一緒盛で出てくるのを自分で噛み砕いて整理するのだ。これ、よっぽど頭いい奴じゃないとキツいだろって代物な。ならばアステアスもかなりデキる子なんだろう。で、そこにアラビア数字が出てきたのよ!「塔」で使用されている数字として。もう間違いない。「塔」にはやはり転生か転移の前世持ちが居るのだ。

 一方、西都の側は元々数を表す文字は存在していなかったらしい。基本文字に傍線を引いた物が数字として使われている。例えば「()」が1で「()」が2を表すようなもの。桁が上がるとレ点を打ったり線で囲ったりする。つまり、大きな数を扱う事が想定されていないのだ。しかも西都の基本文字は図象に近い。こちゃこちゃしていて書きにくいことこの上ない。アタシは「前」世で楔形文字の数字を見た事がある。楔の向きや数が増えて行く奴ね。8桁とかになったらどうすんのコレ、少数とか分数は?って奴な。古代に地球の大きさを測定したエラトステネスとかマジ神よ。西都のデザイン数字はそれに近い。

 その点、アラビア数字はどれもほぼ一筆で書けて識別しやすい。桁が増えても問題ない。そして最大の利点は「0」がある事。「前」世でも0の発見・発明は他の数字よりも時代が下る。無いという事を表す数字は西都にも無かった。西都ではスマイル0円は表記できないのだ。でもさ、西都市民一〇万の租税を記録しようとか、予算編成しようとかになったらアラビア数字が断然便利な訳。既に宮城の一部や特に数学者の間で好んで使われていると聞いた。これを学舎でやる。

「塔数字は便利なので宮城の一部で使われて、広がってきています。今覚えておくと将来役に立つでしょう」

 ラオコー師も数字自体は知っている程度。市政官の孫を預かる位だから、一応文化人なのよ、彼。でも当然、そんなもん必要ねえとか俺たちはやらねえぞとかの文句が出てくるわけで、

「黙れ、負け組」

そいつを黙らせてからだ。頬を押さえて机に突っ伏した

「痛い痛い痛い痛い!」

暴力じゃねえぞ?その子の顔は満面の笑み。何をしたのかって?鞭には飴も必要よ。そう。完成したんです!麦芽糖!平民に甘い物なんて果物くらいだから、甘味は頬が痛むほどに沁みるのだ。もう、効果絶大よ。うはは。


「出来てるじゃん!」

 あれはディオと顔をあわせなくなって暫く、エーギルの所に引っ越して長衣を貰った頃だ。色々試行錯誤していた麦芽糖。前日は作業の途中で放置せざるを得なかったそれが、勝手にほんのり甘くなっていたのだ。

「……これ、酵素反応かぁ」

 アタシがスゴイのではなく本当に偶然。「前」世では料理サイトでレシピを見たので、アタシは何故麦芽を使うのか考えて来なかった。米で粥を作ってから、麦芽を投入し火を入れる。あとは分量比だと思い込んでいたのだ。そうじゃなかった。これは酒造りと同じだわ。

 前日は作業の途中でアタシの所有者エーギルからの伝令が来たのだ。焦がしてはいけないから鍋を竈から床に降ろして話を聞いた。6才児に都合があるなんて誰も考えないから、今すぐ来いと言う。作業の途中なんですけどぉとも言えないので、身だしなみを整える間だけ待ってもらった。汚れるからと脱いでおいた長衣を着て髪を結びなおす。その時に作業台の上の水差しを倒してしまったのだ。倒れた水差しが麦芽を入れておいた皿に当たって、皿が跳ね返る。くわんくわん音を立てて皿が踊り、作業台の上は大惨事になった。

「あああああぁ…」

泣くしかない。水も麦芽もぶちまけちゃってるしさ。ここは場所を借りているだけだから、そのままにはして行けない。ささっと手で集めて全部鍋の中に落とした。

「そのままにしておいて。戻ってから片付けるから」

 で、出来ていたのだ。アミラーゼ反応。でんぷんが甘く感じられるようになるそれだ。勿論、濃度は薄いから、固形分は布で漉して煮詰めてゆく。焦げる直前、とろみが最大になるまで水分を飛ばして出来上がりだ。このままだと水飴な。そこからも色々やってみました。小壺で売るのもアリだけど、顧客によっては「前」世駄菓子屋の棒についた形状もいい。あの練って食べる奴よ。結局、大きなハアザミの葉っぱに数滴ずつ垂らして干し、指でつまめる硬さにして持ち運びもできるようになった。後は販売戦略な。イエイ!


 そんな訳で算術に限り、子供らはかなり進歩した。元々二〇以下の足算引算くらいはできたのだ。で、計算が早かった子、塔数字を早く覚えた子、褒めるタイミングで水飴を与えれば、皆さん大変頑張りが見られるようになったのだ。アステアスも使い慣れているほどではないから全員で書き取りから始めれば、

「すごい!塔数字に馴染んでらっしゃるんですね」

「流石~」

クソガキどもの称賛にアステアスもちょっといい気分で

「お前たちも励むと良いぞ」

話しかけやすい雰囲気になったようだ。え?教育じゃなくて餌付け?いやいや、目的は達しているのだからフリースタイルとでも言ってくれ。実のところ大工2と3の二人もほぼ懐柔できていて、大工3などは暗算も早い。大工1ことマルコスが未だ堕ちていないのは男の意地だろうね。もー、年上のくせにぃ。おっと、元アラサーには天ツバでした。でもなー、一〇〇匹飼っている羊の内、一匹が迷子になったからって探しに行ったりしないのよ。アタシ、神じゃねえから。「あ?最初っから99匹でした」位の事は言っちゃうぜ。そんなこんなで、こちらもいつまで学舎に通えるか分からないので次の段階に入るぞい。



 アステアスとレレクスに同行を希望した子供らを先導して向かったのは市内の建築現場である。建築現場は上街で、商家が宅地の一画に使用人用の棟を建てているものだ。レンガ積み三階建ての結構な代物で、ちゃんと縄張りから始めた設計もしっかりしたものだ。レンガ積みの作業中が8人ほど。コンクリートでレンガを積んでゆく。コンクリを練る者、それを積み手に補充する者、竜車で運び込まれてきたレンガを下ろす者等々。なかなか面白い。改めて建築現場なんか見た事なかった子達はほうほうと言った体。そう。社会科見学です。引率クロノでございます。石工の息子レオなんかは「これ父ちゃんのとこから来た石だ」等と喜んでいる。不満かつ不安そうなのは

「どーして来るんだよ!父ちゃんに言い付けてもやらねーからな!」

大工三人組な。不平は主にマルコス。

「こんにちはー、棟梁。よろしくお願しまーす」

 事前に許可はとってある。棟梁は大工1ことマルコスの父だ。大工2と3の父もここで働いている。今日の参加は希望制。何言われるか分からない大工3人組は当然だが、石工の息子と、年長ではイケ顔ことゼフィロスも来ている。ゼフィロスはプラタイアの出身で西都に避難してきたのだそう。苦労しているから真面目にやる訳だ。彼の選択のために参考になればいいと思う。壺屋や、年長でも織女は来なかった。

 社会科見学?家庭訪問ってそういう事?だよね。これな、別の目的のためのお題目だから。学舎の算術レベルは許可など取らずとも上げるつもり。算術に関しては掛け算、割り算、割合、面積、体積、三平方の定理くらいまでは持ってゆきたい。小学校卒業レベル程度な。出来るでしょ、当然。小学二年生が掛け算やってるんだぜ?何もインドみたいに99×99まで暗記しろって言ってない。出来ない筈がないだろう。が、学習のモチベーションを水飴に頼るのは良くないよね。それには算術が実生活を支えていることを体験するのがいいとアタシは思う。簡単に言うと、算術スキルがあるといろんな仕事が楽になるってことよ。さらには

大工1マルコスに言う事きかせる!だ。

「貴族の方にお目にかけて頂けるなど」

 棟梁は施工主が貴族という事もあるのだろう。受け答えも堂々としたもの。結構な広さの建築現場を棟梁の案内でぐるっと回ることになった。セメントを継ぎ足して回るのは大工見習の少年だ。アステアスと然程齢は変わらない。これがせわしなく走り回っている。ほらほら何か思う事ないの?ってアステアスを振り返るが反応は無い。牛や馬が働いている感覚なのかね。アステアスに関しては家庭教師とも相談して来た。市政官邸での講義に徴税と国庫をテーマに扱い、庶民から徴収する税について考えさせる予定。アタシ的には労働に対してこんなに税金持って行かれちゃうのよって、家計と税に目を向けてもらいたい。ぶつぶつ言っているマルコスはガン無視な。ま、一石二鳥と言うよりは数打ちゃ当たる方式よ。

「レンガ、沢山ですね」

「そうだろう?」

 建物が大きいせいか職人たちはあちこちに散っている。

「横一辺は120個くらいかな?高さはどれくらいになるの?」

「下段は112だな。高さは一階分で35段だ」

「ちょうど学舎でそう言うのをやっているんですよー。マルコスが役に立つと棟梁も助かるでしょう?」

「ほお」

 早速、棟梁に振っとくわ。小声で「ほら、マルコス、幾つだよ?」煽る。「ほら、足せよ。お前足算だけで行けるって言っただろ」「は?112を35回も足せねえよ!」そこへマルコスの母ちゃんらしい女性が押し車を押しながら現れた。車には水差しに食料。作業員の昼食か。積上げられたレンガの脇に場所を設え始める。

「レンガって余っちゃったりするんですか?」

「余らせちゃって次の現場に運ぶのも大変なんだから!」

アタシの問いに答えたのはは先の女性。やはり女将らしい。

「足りねえよりは良いだろぉ」

棟梁の言い訳じみた発言に挙手。はい、はーい。

「余らせない丁度位をマルコスが計算できるって」

「は?」

ぎょっとするマルコス。

「112個の35段ね。はい、マルコス、幾つ?」

息子の成長した姿まだしてねえに胸アツの父母にマルコスが狼狽える。慌てて地面に棒で計算し始めたマルコスをよそに、ついてきた子供らは様々だ。そりゃ時間かかるのがすぐに分かるもん。一緒に計算を始める子、コンクリを混ぜているのを見に行く子

「税務に関して棟梁に尋ねてみてはどうでしょう?」

アステアスにも振る。で、アタシは

「あ、アタシ、大工さんたちに差し入れ持ってきたんだー」

レモンの輪切りを水飴に浸けたものを配って回る。「へえ、美味いなコレ」「どこで売ってるんだ?」なんて声があがる中、「オッチャン、力持ちなんだねぇ」「大工さんっておっきいねぇ」愛想を振りまいて回る。ついでに子供らにもおやつを配って、最後にマルコス。ニヤリ。

「で、出来た?」

「クソッ!今考えてんだ、邪魔すんな!」

掛け算のが楽に決まってるじゃん。うははは。思わぬ休憩タイムに職人さんたちも調子がいい。

「坊ちゃん、こういう嫁貰うといいんじゃないかい?」

「はぁ?」

はい。計算やり直し。で、勿論ノッかる。

「えー、お嫁さんとか恥ずかしいじゃーん」

裾を引っ張って、もじもじしてあげると男共大ウケだ。「若女将だな」「若女将」「いやーん」

「こんな奴、嫁にする訳ないだろ!」

若干一名キレかける中、蒼天に笑い声が上がり大層和やかな雰囲気だ。アステアスが胡乱気な眼差しを向けるのは、同じ手に嵌ったから。でも平民相手にあれがアタシの手だと解説してはやらないよね。

「ね、棟梁。学舎で掛け算、頑張った方が良いよね?せっかく束脩払ってるんだもん」

「払った分くらい身に付いたら文句ないわ~」

これは女将。マルコスの母ちゃんな。

「これで学舎では算術のレベルを上げることになりましたー!けってーい!」くるくる回って見せて、皆に背を向けたタイミングでマルコスに向けて舌を出したまま大口を開けて見せる。わはははは。

「こっ!こいつ!」

はい、また計算やり直し。

「今、俺の事笑った!笑っただろっ!」

「アタシ、いっつもニコニコだもーん」

ねー、と愛想のいい笑顔で皆を振り返る。「笑顔で何が悪いのよ」「いい若女将じゃねえか」「嬢ちゃん、本当に嫁にくるか?」あー、これこれ。アタシのはあざとさ全開の似非光属性だけど、どうして皆こういうの好きなんだろうな。スゲー不思議。

「違っ…」

誰にも理解してもらえず、半べそのマルコスの脇にアステアス。

「……クロノ、言い方というものがある。人の気持ちを思いやるというのは大事な事だと思うぞ」

「アステアス様……」

あれ?意外な所で同盟が組まれてね?平民と交流すると言う目的は達しているのだが……何か納得いかねえ。


 でもさ、計画通りなのはそこまでで。街道市は中の大路を目指す帰り道、またも中央橋の人だかりに目が行った。以前より人数が増えているのは気のせいか。紫の女の前に跪まづく焦げ茶の髪に見覚えがあった。

(……レーナ?)

エリトゥラの娼女の一人だ。まだ店に入ってからさほど経ってはいない娼女で、家族のために身売りしたのだとか。風貌通りに真面目そうな女だった。それが、あの人だかりの中にいる。逃亡しないのなら明るい時間に何をしていようと娼女の勝手ではある。が、紫の女の話を聞きにわざわざ足を運んだのか。

(神様の話ね……)

人を救わぬ怠惰な神の。そしてレーナに目を惹かれて、もう一つ。酷く馴染みのある髪布に気付いた。そこから漏れるのはアタシと全く同じ水色の髪。

(……)

母さんは縁と機会の神イルムスを奉じて神の標を廻って過ごす人だった。それがあそこに居る。残念ながら神頼みに見切りをつけたわけじゃない。宗旨替えか。

「知り合いでもいた?」

足を止めてしまったアタシに聞いたのはゼフィロスだ。神が未来を告げるなら、予感を与えるのも神だろう。予め心積もりさせるとは神様って奴は質が悪い。



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