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無碍なる塔の前世持ち    アンチ光属性 底辺からの異世界職業行脚 或いは人牛の件  作者: いちめ


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17/21

17 メイクはプロにお任せください

 西都のメインストリート、人牛の騒動で被害を受けた中央大路と大街道の真ん中あたりの補修工事が始まっている。街道市は南と北の両側に分かれて出店が戻ってきていた。外からの荷が減っている所為か常設の店も含めて品薄。物価が上がっているのも気のせいだけではなさそうだ。面倒なのは竜車が通れぬ箇所が幾つかで来ている事で、西都は上から下まで不平を漏らしている。

 人牛の騒動が起こしたこの事態、何でも西都の王の一〇才にならぬ三男が

「人牛なる生き物を見てみたい」

と言ったのが発端だったのだそう。辺境領主は単に討伐隊を出して貰いたかったのだろうが、クソガキの瞬間的な思い付きに阿った奴がいた訳だ。ってか、魔物よ?その時点で誰か止めろよって感じ。結果として宮城や貴族街でも建物が壊れ、観覧式で貴族にも被害が出た。輸送用から移した新しい檻が弱かったのだ。兵士にも死んだ奴が居たらしいが、庶民では腕を喰われた者も家を失った者もいるので洒落にならん。当然、「今」世は社会的な保証は何もない。しかも責任はそのガキにも阿った奴にも取らせることが出来ないときた。因みにここ最近の流行のジョークは「親の顔が見てみたい」である。謁見しないと見れないやつな。いやー、どこでもドッカンドッカン、ウケますよ。

 で、ババ引いたのが「あんな魔物を西都に連れて来させやがって」の辺境領主と「あんな魔物を西都に運んできやがって」のエリトゥラ商会。エーギルが予測していた厄介事が現実になったのだ。

 それに拍車をかけているとある噂があった。

 人牛が呪う。

 人牛が病気を伝染す。

 或いは辺境から疫病が来た。

 根拠は一応ある。辺境から帰った討伐隊の兵士が多数体調を崩しているのだ。人牛の輸送船で傷病兵を先に帰し、大半は陸路で帰ってくる(本隊はまだ戻ってないぞ)というから、その割合が高いのは分かるけどね。怪我よりも熱や下痢で体調を崩している者が多いらしい。宮城での療養に限界があって実家の貴族家に戻った奴が居るとか居ないとか。一般人なら同一症状で複数の病人は門や港で止められる。が、魔物討伐に向った宮城の兵士だったから対応が遅れた。

(熱と下痢ね…)

 いや、アタシでも思うよ。辺境領で変な病気貰ってきてるんじゃないの?って。噂に聞くその症状はヘスティア父ら難民の病者と同じなのだから。その体調不良が施療院の治癒師でも治せないのも同じ。治癒師は治癒の加護を持つ。手足の欠損は無理だが、病気や怪我は大抵治せるのにだ。

(………)

もう一つ怖い話。ごく最近辺境領主邸の使用人が複数同じ症状で施療院に行ったとか。治らない以上、噂は消えない。西都には不穏な空気が漂っている。



 その件の辺境領主との面会予約をアイギースの奴が本当に取ってきやがった。やるじゃん、アイギース。ならばアタシも一肌脱いじゃいましょうかね。え?ヒヒ爺に捕まらないように、ヘスティアから魅力をこそげ堕とすって奴ですわ。いやー、お任せください、わはははは。

「本当に大丈夫なんだろうな…」

 アイギースがヘスティアをうちの娼館に連れて来たのは人牛騒動の九日後である。何で娼館かって?ヘスティアの化粧はフリュ姉に頼んだから。

「確かにこのままじゃ拙いわねえ」

 フリュ姉のほかに姐さん二人。事情を話したところ面白がっての参加だ。魅力に的見えないようにするなんていうのは通常とは逆な訳で、しかも土台は化粧なんかいらない光属性とくればヤル気にならない筈がない。この界隈、似非光属性で売上げるのはあるけれど、光属性って希少なんだわ。世の中、どんな境遇でも光になれる人間もいるが、凡人の方が多い。汚ねえもん見続けて濁らない方が稀なのだ。その光属性を光らなくさせるって言うんだよ?楽しくない筈ないじゃんね。

「ほら、男は外へ出た出た」

アイギースは早々に追い出されて、姐さんの一人がまたヘスティアをまじまじと眺めて納得している。

「この前魚人がアタシと寝なかったのはあんたがいたからなのね」

「え?何の話ですか?」

あーあ。アイギースはどうやってアタシの行方を聞いて回ったか説明していないね。仕方なくアタシが補足しておく。

「あー、アイギースはアタシが無事かどうか確認するために姐さんを買ったんだよ」

「なーんにもシてないわよ。何にも」

「……」

まあ、姐さんにもプロのプライドがありますからね。その辺はお二人で良―く話し合ってくださいませ。

準備は万端。サイズがあっていない長衣に使い古しの髪布。髪色は目立つので草で染める。汚らしい感じで髪布から垂らす凝りようで、まあ正直ヒドイ。アタシは草の擦り潰し係ね。目には影を入れて窪ませ、鼻の脇に目立つ黒子を入れる。「はいこれ含んで」頬に盛り乳用の綿を含ませ骨格を変え、「喋れる?」「…はい」唇は白茶けた風に。胸は潰し、腹と肩から二の腕まで布を巻いて厚みを出す。「結構重いですね」そりゃこれだけ布を使えばね。出来上がりの姿にはアイギースも絶句。

「こ、ここまでする必要があるのか?」

「興味持たれたら困るんでしょ」

「私、どんな姿になっているのでしょう?」

見ない方が良いと思うよ。いやー、頑張らせていただきましたんで。

 そこまでしたと言うのに、アイギースとヘスティアは辺境領主に会うことが出来なかったのだ。


 夕方戻って来た二人によると

「邸内の雰囲気がおかしくてな…」

「人牛の所為?」

変な噂、病人が出ていると言う噂がある。人牛の呪いって奴な。辺境領主本人もそうなのだろうか。宮城でも責任を追及する声が上がっているらしいから人目を避けているのかもしれない。それでも約束はあったので応接室までは通されたのだと言う。

「館の中も何だか変だったけれど、庭もね…」

 この場合庭というのは正面玄関側の貴族用ではない。魚人でも何かしらの地位があるアイギースはともかく、領民のヘスティアが通るのは出入り商人などが利用する裏門になる。表の観賞用の庭と違って、邸内で利用するための菜園があったりする庭だ。

「陸貝があちこちに居るのよ。西都ではそうなの?」

いや、そんなことないだろ?食用だろうが、養殖するほどの人気食材ではない。貴族の邸宅ではそうなのか?「前」世で見たよりもここの陸貝はかなりデカいので目立つからかな。いずれにせよ陸貝を避ける地域から来たヘスティアには気味が悪かったろう。

 二人に応対したのは執事だと言う男で、領主体調不良の代理だった。執事本人もこの騒動で苦労もあったのか相当な窶れぶりだったらしい。「本当に体調が悪そうで」このような状況で西都の門外に病気の領民が難民として居留しているのも外聞が悪かろうと話をしたところ、速やかに西都を立ち去ることを条件に執事の権限で早々に契約は解除できたらしい。流石に辺境領に残る農奴や開拓の如何まではどうにもできなかったが、結果は上々。ここで手を打つべきだ。チクワはんぺん事業が始まったばかりだとか、ヘスティア父らの病気が治ってねえとか、身売りしたヘスティア姉どうするの?とかはもうね、そこまで他人の人生に首突っ込むのは、残りの人生一緒に送る人の役割よ。アイギースさんの心意気はアタシには関係ない、と思いたい。

まあ、そんなことよりも今はヘスティアが元の姿に戻るかどうかの方がアイギースには重要だったようですわ。特殊メイクを落とした上で、ちょいちょいっと姐さん達が手を加えたらアイギースの奴判りやすい事になっていた。ってか、見た目か?見た目なんだな?またアタシの信頼は失われたね。



 辺境難民の件、一件落着。開拓地の請負契約を解除できた四世帯は隣村に建設中の工場兼住居への移動を控えている所だ。終了、完、お・わ・り、なの!第一、現状アタシ自身が質草なんだからね。それとな、あいつ等には黙ってましたが、たかがメイクと言いましても、プロにお願いする以上はお支払いがあるのだよ。

 大層な格好の偉ぶった使者から手紙を受け取ったフリュ姉が肘をついて難しい顔をしている。平民女の着る長衣だけど、装飾も布もたっぷりで独特の改造がお洒落なのはいつも。カウンターの上では美乳がまどろんじゃってる訳で、掃除と施し終えたアタシの目は釘付けです。どうしてこの人何をしててもエロ格好いいんだろうね。

「どうしたんですか?」

「断れない出張依頼」

手紙を一読して使者に了と伝えていたけれど、あれは断らなかったのではなく断れなかったらしい。

「貴族?スゲー!」

 歓待したい賓客が居るような場合、娼女が呼ばれることはままある。歓待の度合いもただのお酌とお喋りから歌舞、寝技まで各種。

「アタシに最初から声かけたわけじゃないのよ、コレ」

元より貴族のお歴々が歓待しているのだが、それでは望む反応を引き出せなかったのだろう。だからフリュ姉なのだ。

「その賓客を堕とせと?」

 フリュ姉はぺろぺろっと手紙を振る。あー、ソレ貴重な羊皮紙っスよ。が、その内容はふざけたものだった。その賓客と関係を持ってもいい、子を成してもいい、金は出す。その賓客を西都に引き止めろと。

フリュ姉は西都随一のイイ女。「アタシは自分が寝たい男としか寝ないわよ」娼婦にありながら客を選ぶ権利を持っているのがフリュ姉なのだ。大金どころか他国の王族が蔵で貢いだという伝説も、気に入った自由人と無料同然で同衾したという伝説もある。なんでこんな所で酒場を任されているのか不思議な人なのだ。

「フリュ姉にこんなふざけた事言う奴って何処のどいつっスかww」

「宮城よ」

は?ほわ?娼女に宮城?意味わかりません。

「これね、アタシがその賓客とやらに気に入られても問題なのよ」

 宮城ともなればフリュ姉の前に賓客とやらを歓待していたのは西都一流のご婦人方になる。その御方たちが駄目でフリュ姉はオッケーだったら……気分が悪いわな。タイプが違うと言われても、女で劣ると言われるようなものである。フリュ姉がこの先西都で暮らしてゆくには一流のご婦人方の気に障るのは……。

「だから面倒なんじゃない」

 そう言ってフリュ姉はアタシに目を止めた。上から下まで視線を流す。「んー」な、何スか?もう一度上から下まで。ニッコリ。腰が砕けそうな微笑みなのに不安になった。

「クロノ、アンタ今晩アタシの小女としてついてらっしゃい」

はい?え?はぁぁぁあああ?宮城って言ってたよね?

「アンタ、5才じゃないでしょ」

ドキリ。

「身分に変に委縮しないし本当に無礼がないかどうかの駆け引きが出来る能がある。他の小女じゃまだちょっと難しいわね」

そりゃあ元アラサーで平等社会の出身すからね。でも有得んわ。いや有得ん。お供とは言え袖なしのアタシが宮城って、は?ですよ。

「で、アンタよ」

 フリュ姉の読みではこうだ。バレバレのハニートラップなんて一流だろうがプロだろうが賓客側にしても面倒でしかないだろう。ならばそこに年齢的に明らかに不適当なアタシが居ればどうだ。その気がないならアタシをダシに他の女を避けるのではないかと。そうなれば貴族のご婦人方もフリュ姉も面子を潰すこともなく、宮城の命令にも背いていない。なるほどねー。ただ問題が一点。

「相手がホンモノの幼女趣味だったらアタシ、ヤバくないですか?」

「んー?」

おーい。そこは考えてなかったのかよ。



 まだメインストリートの補修工事が続いているのに貴族分らんわ。昼前からフリュ姉と二人磨き上げられて二頭立ての竜車に乗せられた。フリュ姉は東方の舞を披露するのだそうで宴会の余興的な立ち位置だ。フリュ姉、舞踊もできるのかスゲエと思っていたけど衣装見て納得。西都では肌も髪もなるべく見せないのが淑女の嗜みなのに、まず隠してない。金のようなスパイダシルクの髪布をエメラルドのついたティアラで真紅の髪に止め付ける。ティアラに合わせた金と碧緑のビーズが揺れるビスチェ。腰骨に引っ掛かっただけのハーレムパンツ。ベリーダンスですよ、コレ。お供のアタシもちびっこベリーダンサーです。紺のブラトップ。透ける水色のハーレムパンツ。元々胴着一枚だから隠すも隠さないもないのだが、あ、これ普段ノーパンのアタシにとって「今」世初パンツじゃんね。アンダーじゃないけど。で、アタシはフリュ姉が入場するときに舞踏用の長い髪布を引きずらないように持つ係な。「前」で見た結婚式のベールガールみたいなものだ。その後は宴席でフリュ姉の横に控える。「思ったより早い出世だな」笑うのはエーギル。質草の袖なしが宮城ってさ、笑ってないで止めろよ。

 齢五才にして新しい世界を見てしまいました。クロノです。竜車の窓から見た貴族街もでかいお屋敷ばかりで開いた口が塞がらなかったが、宮城は規模が違いました。いやー、宮城広いわデカいわ。幾つ建物があるのか分からない。ってか敷地内で使用するための竜車があるんだよ?おかしいだろ。幾つもの身体検査場を抜けて通された宮城の美麗な庭に面した半屋外。東方の趣向を凝らした宴室だった。豪奢な文様の敷物に座椅子タイプのソファー。いやソファーなのに寝台と見まがうばかり。座卓には美酒佳肴が並ぶ。楽はリュートに葦笛。これで離れ的な建物だから本宮は況やをやだわ。

 ベールガールとしてフリュ姉に従ったその宴室で

(うえぇぇえ⁉)

叫ばなかったのを褒めて欲しい。主賓席に居たのが一〇日ほど前に会ったラケイシスだったのだ。

 賓客って野営地で言葉を交わしたこのオッチャン?え?加護持ちってそういう扱いなの?或いは塔でもそれなりの地位にあるのか。驚愕の事実である。あ!泊まる予定の宿が被害を受けたと言う話、あれって迎賓館の壁が崩れた奴か!しかもラケイシスの奴、宮城の宴に臆する事もなく、外套を脱いだだけの旅装のまま。それで宮城内で過ごしているのだから、強心臓と言うか、誰もいちゃもん付けられないのか。それはそれでスゲエとは思う。顔はフツーだけどな。

 これは後で聞いたが、加護持ちの数が国力を左右する以上、何処でもより多くの加護持ちを得ようとする。貴族であれば当然だし、取り込むことが出来ないのなら、加護のある子供だけでも欲しい。ハニトラは良くある話なのだ。そんなことで出番の後で酌に上がるフリュ姉に続いて挨拶すれば

「君は……」

そりゃあ驚かれましたよ。こっちもびっくりだっての。オッチャン呼びしてましたからね。難民野営地での出会いはリセットでお願いしますわ。

「クロノと申します」

 ついでに言うとフリュ姉の思惑は当たった。ラケイシスにとってもアタシの存在は渡りに船だったのだ。如何にもな女性達を差し置いてアタシを膝に乗せちゃったりする。

「ほら、これが美味しいよ」

もうこれは似非光属性幼女として振舞うしかない。

「ん、おいしっ!ラケイシス様、クロノ、加護のお話聞きたいですぅ」

自分で言うけど、誰だよお前。瞬き五倍位になってるぞ。フリュ姉はホクホク顔でお酌に専念。淑女の皆様の歯軋り聞こえそうですわ。だいたい本物の5才児はこういうの付き合わねえからな?すぐに飽きるぞ。

 勘弁してくれよと思ったのは会場内にリビュートが居た事。どんな理由でこの場に居るのか知らねえが、リビュートが何を考えているのかは

「は?」

その音声付きの表情が物語っている。奴はアタシの素を知ってるからね。クッソ、こっち見てんじゃねえ!あー、視線がイタイぜ。特殊メイク代、高くつきすぎ。もうこれで本当に終わりだからな!支払い完了(恥)!


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