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無碍なる塔の前世持ち    アンチ光属性 底辺からの異世界職業行脚 或いは人牛の件  作者: いちめ


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13 西都美人を紹介します

 どうしようもない事はそのままに毎日は続いて行く。商会頭であるエーギルに親の借金は親のものである事を認めさせたが、先の事は考えなくてはならない。一、金策。二、金策、三、金策。世知辛いっス。現状、この娼館でアタシは預かり物でもう行く所が決まっていると言われている。買い手がついているので、他の客を取らせてはならないのだ。買取予約がアタシ自身なのは内緒な。

 買い手がついていると言っても羨ましがられる事は無い。年齢が年齢だけに相手はヘンタイが想定されるからだ。身体が出来ていないのに性的な道具にされれば命に関わる。つまり使い捨てなのが簡単に予想できるから。そいつが現実にならないようにヤルしかない。

「こんな齢でねえ…」

寧ろ姐さん達は不憫がるし、特別扱いに不満を持ちそうな小女達は「おねしょしたら叱られるからね」「まだここが何する所か知らないんでしょ」赤ちゃん扱いだ。中身はアラサーだけどな。問題はこの預かり物だという名目がいつまで通用するかという所。このまま娼館に勤める予定はないので、小女が務まる年齢までには何とかしなければならないんだよね。長くてあと二年。ぬうん。

 アタシだけがそう思っているのではない事は便壺掃除と床掃除の合間に隣の建物に呼び出される事でも分かる。エリトゥラ商会の事務所でやんす。毎回会頭の護衛である大人ゲリオスが呼びに来るので、大事な預かり物の噂を裏付けてしまっていたりする。「よっぽどの値がついてるんだね」いや勘弁。


 

「いつまでも待つ訳じゃねえからな?」

 何でも昨晩の客に魚人がいたらしい。娼女を買ってここに5才位の子供が居ないかと尋ねたのだと言う。娼女が娼館の内情を簡単に口にする筈もなく、知らない振りをしたところ、娼女とイタさずに帰った。アイギースだろ、それ。「魚人って子供が良いのかね?」ここにきて幼女趣味疑惑?しかも魚人全体への風評被害もでてきたぞ。それは兎も角、金も払わず好き勝手するなという訳で。

「お父さんとお母さんがお金を貯めて買い戻しに来てくれるなんて甘っちょろい事考えてんのか?」

「んな訳ねぇだろ」

反射で返した瞬間、頭をはたかれた。幼女パワーが通用しない相手に売る媚もないけどな。だがしかし、どうしようかね、金策。ここで売れる物を売るというのは最後にしたい。

「んー。困り事とかないですかね。アタシがそれを解決して儲けを出す、とか」

「リビュートんとこでそういう事をしたらしいな。ここでというなら……。私娼に縄張り荒らされて売り上げ落ちてるとかそういう事か?」

「………」

それ、5才のアタシにどうしろと?


 何とかしなくちゃな―と思いながらも、どうにもならんのよ。

「フリュ姉、ムサ爺まだ居るんですけど……」

「いつもの事だから」

 毎日現れる物乞いの人達とも顔馴染みになった。その一人、ムサ爺。まず、アタシが用意した下げ渡しを取りに来ないで離れた壁際から見ている。他の物乞いの後でおずおずと寄ってきて手を合わせる。アタシは最初ムサ爺に気付かなくて彼の分を取り分けておかなかった。彼が来た時には渡せる物が無くて慌てたのだ。結局、アタシの分から少し分けたのだが、以来少しばかり口を利くようになった。が、あまり嬉しくはない。

 このムサ爺、所謂ヘンタイの人である。気が付くといつもムサ爺は開いている戸口から店内を覗き込んでいるのだ。見てるだけ、本当に見てるだけなのだが「イカンだろ、それ」って奴。視姦という言葉があるが、眼で犯すってこういう事かと分る。いや、確かにフリュ姉はケシカランぐらいでは表現できないイイ女で、王侯貴族の愛妾と言っても誰も疑わないレベル。女でもクラっとくるフェロモン振り撒いているのだが、フリュ姉を見ながら身を隠した壁を撫でまわすのはやめて欲しい。また手付きがヤラしいんだ、これが。いや、ムサ爺が見てるだけでケガレる気がするよ。

「ムサ爺……ヘンタイは勝手だけどそれは嫌われるぞ」

ムサ爺は5才のガキなど相手にしないので、アタシは心配しなくていいけどね。

「って、神の標じゃん、それ」

「おうよ」

 ムサ爺が撫でまわしていた壁にはつがえた弓を象った半円に一線の掘り込みがあった。芸術の神フォロンの紋である。あれだけ撫でまわしていたら、貰えない加護でも貰えそうな気がする。

「フォロンか…。ムサ爺、フォロンの加護とか得た?」

「加護なんぞあるか。ただの元職人じゃ」

やっぱりね。「ああ。あのお姿をとどめたい…」息荒いのヘンタイだから。放置するのも拙いレベルなのでムサ爺が物乞いになった経緯など聞いてみる。

「ムサ爺、石積みの現場で怪我したんだって?」

「違うぞ?」

あれ?違うの?

「建築現場は建築現場じゃが、儂は壁画を入れる職人じゃ」

壁画……絵?

「ムサ爺、絵描けるの?」

ヘンタイでも人材は人材だ。



 それは富める者の通りは中央のほんの少しだけ脇に入った場所だ。本来なら質の悪い輩がたむろしているような、或いは個別交渉を狙う私娼が客を見定めながら立っているような薄暗い脇道。そこに通りにはみ出すほどの人だかりができていた。妙な熱気を帯びた男達を惹きつけているのは天幕を張った一つの屋台だ。蝋燭だろうか、ランタンか。陽が落ちて間もない薄闇に天幕からは柔らかい光が漏れている。天幕の中には相当な数の板絵がかかっていた。大人の掌を二つ並べた程度の大きさの姿絵で、描かれているのは女・女・女。どれも女の姿絵だった。白一色の下地に墨色で生きているかのような女の姿が留められている。髪布もない流れる髪の美しさ、腕に押し潰された艶しい曲線、吸い付きたくなるような唇。天幕の中で肩をぶつけ合う男達がその板絵を嘗め回すように眺めている。「あれが良い」「いやあの尻の持ち主が」酒も入った男共の騒ぎは天幕の内に収まる訳もない。そしてこの天幕の内で売られているのはこの姿絵ではないのだ。

「テルーさんは港を向いて通りの左、ラゴラの酒場ね。テルーさんは高いよ~。売れっ奴だからね。え?止めとく?その予算ならナディアさんはどう?右から5つ目」

 これも板絵が並んだ売り台の向こう側には、透き通るような黄色のベールで顔どころか全身を隠した小柄が一人。余程小さな老婆かと思いきや、その声は幼女にしか思えぬから不思議。が、まさか幼女が遣手の真似をする筈もなく、それすらもこの場の妖しさを醸し出している。

「はい?右から三番目?お目が高い。ディアーナさんは海鴎亭ね。うん、銀貨…足りますよ。ええ」

「はい、これ。サービス券ね。これ一枚でエール一杯と交換よ。娼女買わなかった時はお代は払ってね」

複雑な文様の焼き印が入った木札を一枚渡す。ここで紹介しても実際にそこへ行くかどうかは客次第な所があるので、サービス券で誘導。案内所で優先予約&逃がさないよう若衆の送りもありだ。字が読める者は天幕の内に垂らされた飾り文字が読めただろう。

「西都美人案内所」

 いやー、出資者がいるというのは有り難いね。この屋台も、姿絵の材料である板に絵具もだしてもらった。5才のアタシ的にこの商売ってどうなの?と思わなくもないが、出資者の意向だから仕方がない。クロノです。何やってるのかって?案内所ですよ。知ってますよね?「観光」案内所。勿論そっちのよ。ご存じない?歓楽街で何処が良いかな~っていうのは誰でもある話。「前」と違ってネットで事前情報を仕入れる訳にもいかない。ポン引きについて行くのも信用できないし、お店に入っちゃったら断りづらい。そこで確認したいのはお値段と女の子。勿論、案内所としましてもキックバックは頂いている訳で。はい。これがあたしの金策でございます。いや、大盛況よ。

 天幕の内には各店オシの姐さん方の姿絵をずらりと掲げてある。写真ではなく写実画になるが、この姿絵、凡その売り上げ番付でならんでいるのである。因みにフリュ姉は番付外で女神の位置ね。西都美人・ザ・ベスト。名勝一〇〇選とか名著五〇とかあるでしょ?いつの時代も異世界も同じ。昔から歌麿だって江戸名所百人美女だし、美人芸妓さん一〇〇人集めた初のミスコン、東京百美人なんてのもある。皆そういうの好きなのよ。わはははは。

 姐さん方の間でもここの上方に姿絵が飾られるのは今やステータス。客付きが段違いなのだ。いや、補正とかしてませんて、沢山は。エフェクトは……アリかな。最初は眉を顰めた店主達もすぐに掌を返した。今じゃ新人が入ると姿絵を描かせに連れてくる。そうそう、それでヘスティア姉も来たんですよ。黒目黒髪だけど顔立ちや体形が同じだからすぐに分かった。アタシの近未来に他ならないので、あればっかりは何とも言えなかったけど。当然ここは各店舗に所属する姐さま方しか飾られないので、勢い私娼は売り上げが落ちる。エーギルの依頼も達成だ。

 

 これが実現したのは、ムサ爺の存在がデカい。画代も出したので、物乞いをする必要はないのだが、今もムサ爺は裏口に現れる。

「ムサ爺、フリュ姉の側でお酒飲めるじゃん」

「バカ言うな!酒なんぞ飲んだら女神様のお姿を記憶に留めることが難しくなるだろうが!」

いや、うちの店は酒の注文無しは追い出されるので。ヘンタイは健在です。

 そしてこちらは予想外だったのが、娼女達の姿絵それ自体を欲しがる人がいた事。いや、買いに行けばいいじゃんって思うでしょ。「幾らだ!大銀貨までなら出す!」彼女買った方が安いんだけど姿絵の方が欲しいのだそう。異世界にも二次元好きを生み出してしまったのはアタシも頑張った甲斐があったというものですわ。いやー、ムサ爺には注文だしまくりだったもんな。

 提携した各店舗を回り一人ずつウリを押さえて姿絵を仕上げる。

「違っうぅぅぅう!。そこはこう!こうだ!中心は隠せ!見えそうで見えないのがいいんだって!」

「前」世で見かけた各種ポーズとアングルを厳密に指導。

「テルーさんは爆乳がウリだ!押し潰したり歪んだりしてるから触りたくなるんだろーが!何年男やってるんだ!それでヌけるか!」

「そこはヤらしさを出しちゃダメだ!チラだ、チラ!ディアーナさんは可愛いい女の子とお話ししたい奴に勧める。ギャップでヌマに引きずり込むんだから」

要望通りの姿絵は手に入ったが、「……お主、ヘンタイじゃな」ムサ爺に仲間認定された。失うものなんか何もないと思っていたが、何かが失われた気がするぞ。

「……もうお前、ここで遣手をやっていった方が良いんじゃないか?」

あまりの盛況ぶりに様子を見に来たエーギルが呟いたほど。いや、5才で娼女斡旋が本業ってどうなのよ。アタシ自身が商品になる前に逃げねえと。


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