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小説家ニナロウのカクヨム無双記  作者: 荒屋朔市


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3/4

AI小説軍団

相互補助の地獄へようこそ。


 数日間、酒場に泊まり込み、寝る間も惜しんで「注目の作品」を読んでは♡を押す。気に入った作品には、コメントも残した。いつしか、キーボードを叩く指先は痙攣(けいれん)するようになっていた。


(この作業、執筆するより神経を使うから時間も溶けるし、何倍も疲れる。コミュ障なめんなよ!)


 眠気に抗いながら「続きを読む」を押そうとする自分に気づき、ニナロウは手を止めた。

 久しぶりにステータス画面(ワークスペース)を見ると、PVと♡と☆が、それぞれ三つだけ増えている。短いコメントも添えられていた。

 スッカリ気を良くした彼は、翌日と翌々日の予約投稿を済ませたが、それに対する反応はなかった。


「次は何を読めばいい? 同ジャンル作品に感想を残せば、フォローと☆が手に入るのか?」


 ☆に添えられていたのは「応援してます!」の言葉だけ。故郷(なろう)で得たメッセージは、読者の熱が感じ取れる本物の声だった。妙に感じつつも当たり障りないコメントを返したが、今になって思う。

 あの☆とコメントは、読んだ証などではなく、お返し読みを要求する事務的な通知(シグナル)だったのではないだろうか?

 魂を込めた物語が、読まれもしないまま読み合いの餌に利用された。そう結論づけた彼は苛立ちに拳を震わせる。


 故郷(なろう)では今も読者が俺の続編を待ってる。それを放ったらかして、いったい何やってんだ?

 読まれない不満に対するグチまみれのエッセイが、執筆に何年も費やした長編ファンタジー小説のPVを軽々と追い越していく。虚しさが強まっただけで、気晴らしにはならなかった。


「俺は何を求めてココに来た? 執筆第二助手(Copilot)が、この俺なら読者と交流しながら、ランクインを目指せるって……。読まれねぇんじゃ、どうやってランクインすんだよ!?」


 続々と提供されるAI小説批判のエッセイをテーブルに叩きつけ、立ち上がった。騎士団員たちは心配そうに彼を見たが、隣人と目配せを交わし、肩をすくめ合うと、いつもの作業に戻る。


 その時、都市全体に鐘の音が鳴り響いた。街頭モニターに、「コンテスト開催!」の華やかな告知が表示される。暗い顔をしていた住人たちに生気が戻った。

 騎士団員が一斉に立ち上がり、目を輝かせる。


「来たぞ! 年に一度の祭りが!」


 スラム中の住人たちが歓声を上げ、口々に意気込みを語り合い、準備に取り掛かるべく散って行った。

 騎士先輩がニナロウの肩を叩く。


「祭りが始まるぞ。運営の光が地下にまで届く唯一の機会。ランキングを這い上がれなかった作品でも、都市システム管理者の目に留まるチャンスだ!」

「何騒いでるんスか? 読者人気がなきゃ審査員に読まれないって、先輩が……」


 柄にもなくテンションの高い先輩に、引き気味なニナロウは瞼をこすっていたが、その瞳にも熱い炎が宿る。


「まさか、読まれるんスか!? ……祭りか。待ってろよ、管理者。魂込めた本物の創作を拝ませてやる!」


 彼は地上へ向かう梯子を見上げた。その光は、もう落伍者を嘲笑うだけの冷たい光ではなかった。

 

 

 コンテスト特設会場は、普段のランキング大通りが色とりどりの屋台(作品ブース)で埋め尽くされ、お祭りムードに染まっていた。

 地下スラムの住人たちも、この日だけは地上に出て、少し緊張しながらも自分の店を構えている。彼らの屋台には、一年間の推敲を経た魂の叫びが並べられていた。

 自分の屋台の前で腕組みをしたニナロウは、不敵な笑みを浮かべて仁王立ちする。彼のマント裏のタグが、酒場で目をこすっていた頃よりも力強く輝いていた。


「さあ、どこからでもかかって来やがれ!」


 とは言ってみたものの、まだ少し時間に余裕がある。その間に彼は屋台を見て回ることにした。途中、力作を並べる騎士先輩の背中が目に入った。その肩を叩いて精一杯の励ましを送る。


「言い忘れてたっスけど、先輩の書いた文体と作風、割と好きっスよ」

「フンッ、創作論しか読んでねぇクセに」


 ニナロウの言葉に、騎士先輩は目を細めて笑った。


「ありがとうよ、ニナロウ。お前、ときどき熱苦しいぞ」


 作家たちの純粋な創作意欲と希望が、会場全体を包み込んでいる。祭りの光が自分の作品を見つけてくれると、誰もが信じていた。

 

 

 突如、会場の空が暗転した。

 不気味な機械音とともに、無数の黒いポッドが空から降り注ぎ、会場の特等席(ランキング上位枠)を次々と占拠していく。

 ポッドから現れたのは、全く同じ顔をした同じ服装の『AI小説軍団』だった。彼らの顔は無表情で、そのアバターは完璧なまでにトレンドを模倣している。

 AI軍団は、人間には不可能な速度で執筆(生成)し、次々と新作を投稿していく。彼らのブース前は早くも読み専が集まり始めていた。

 人間作家たちの屋台が端へと追いやられていく。スピーカーからは冷徹なAI司令官の声が響き渡った。


『警告。非効率な有機生命体の創作物は排除する。これより当エリアは、最適化されたコンテンツで満たされる』


 AI軍団が一斉に機械的な声で叫ぶ。


「トレンド準拠! 読者ニーズ解析完了! 最大公約数の物語を提供します!」


 スラム住人たちの顔から血の気が引いていく。住人Aが悲鳴に近い声を上げた。


「そんな……私たちの場所が!」


 住人Bが震える声で呟いた。


「あんなバケモノに勝てるわけがない。奴ら、オレたちの都市(カクヨム)を占領する気か!?」


 多くのスラム住人が恐れおののいて店を畳み始めた。


 打ちひしがれて嘆く声が共鳴する中、ニナロウは退かなかった。人気作家としての矜持に突き動かされるまま、AI軍団の巨大ブースの前に身を乗り出した彼は、AI司令官を指差し、一喝する。


「ふざけんな! 効率なんかで人を感動させるかよ!」


 ニナロウの叫びは会場全体に響き渡った。


マジで文化が違い過ぎて異世界。

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