AI小説軍団
相互補助の地獄へようこそ。
数日間、酒場に泊まり込み、寝る間も惜しんで「注目の作品」を読んでは♡を押す。気に入った作品には、コメントも残した。いつしか、キーボードを叩く指先は痙攣するようになっていた。
(この作業、執筆するより神経を使うから時間も溶けるし、何倍も疲れる。コミュ障なめんなよ!)
眠気に抗いながら「続きを読む」を押そうとする自分に気づき、ニナロウは手を止めた。
久しぶりにステータス画面を見ると、PVと♡と☆が、それぞれ三つだけ増えている。短いコメントも添えられていた。
スッカリ気を良くした彼は、翌日と翌々日の予約投稿を済ませたが、それに対する反応はなかった。
「次は何を読めばいい? 同ジャンル作品に感想を残せば、フォローと☆が手に入るのか?」
☆に添えられていたのは「応援してます!」の言葉だけ。故郷で得たメッセージは、読者の熱が感じ取れる本物の声だった。妙に感じつつも当たり障りないコメントを返したが、今になって思う。
あの☆とコメントは、読んだ証などではなく、お返し読みを要求する事務的な通知だったのではないだろうか?
魂を込めた物語が、読まれもしないまま読み合いの餌に利用された。そう結論づけた彼は苛立ちに拳を震わせる。
故郷では今も読者が俺の続編を待ってる。それを放ったらかして、いったい何やってんだ?
読まれない不満に対するグチまみれのエッセイが、執筆に何年も費やした長編ファンタジー小説のPVを軽々と追い越していく。虚しさが強まっただけで、気晴らしにはならなかった。
「俺は何を求めてココに来た? 執筆第二助手が、この俺なら読者と交流しながら、ランクインを目指せるって……。読まれねぇんじゃ、どうやってランクインすんだよ!?」
続々と提供されるAI小説批判のエッセイをテーブルに叩きつけ、立ち上がった。騎士団員たちは心配そうに彼を見たが、隣人と目配せを交わし、肩をすくめ合うと、いつもの作業に戻る。
その時、都市全体に鐘の音が鳴り響いた。街頭モニターに、「コンテスト開催!」の華やかな告知が表示される。暗い顔をしていた住人たちに生気が戻った。
騎士団員が一斉に立ち上がり、目を輝かせる。
「来たぞ! 年に一度の祭りが!」
スラム中の住人たちが歓声を上げ、口々に意気込みを語り合い、準備に取り掛かるべく散って行った。
騎士先輩がニナロウの肩を叩く。
「祭りが始まるぞ。運営の光が地下にまで届く唯一の機会。ランキングを這い上がれなかった作品でも、都市システム管理者の目に留まるチャンスだ!」
「何騒いでるんスか? 読者人気がなきゃ審査員に読まれないって、先輩が……」
柄にもなくテンションの高い先輩に、引き気味なニナロウは瞼をこすっていたが、その瞳にも熱い炎が宿る。
「まさか、読まれるんスか!? ……祭りか。待ってろよ、管理者。魂込めた本物の創作を拝ませてやる!」
彼は地上へ向かう梯子を見上げた。その光は、もう落伍者を嘲笑うだけの冷たい光ではなかった。
コンテスト特設会場は、普段のランキング大通りが色とりどりの屋台で埋め尽くされ、お祭りムードに染まっていた。
地下スラムの住人たちも、この日だけは地上に出て、少し緊張しながらも自分の店を構えている。彼らの屋台には、一年間の推敲を経た魂の叫びが並べられていた。
自分の屋台の前で腕組みをしたニナロウは、不敵な笑みを浮かべて仁王立ちする。彼のマント裏のタグが、酒場で目をこすっていた頃よりも力強く輝いていた。
「さあ、どこからでもかかって来やがれ!」
とは言ってみたものの、まだ少し時間に余裕がある。その間に彼は屋台を見て回ることにした。途中、力作を並べる騎士先輩の背中が目に入った。その肩を叩いて精一杯の励ましを送る。
「言い忘れてたっスけど、先輩の書いた文体と作風、割と好きっスよ」
「フンッ、創作論しか読んでねぇクセに」
ニナロウの言葉に、騎士先輩は目を細めて笑った。
「ありがとうよ、ニナロウ。お前、ときどき熱苦しいぞ」
作家たちの純粋な創作意欲と希望が、会場全体を包み込んでいる。祭りの光が自分の作品を見つけてくれると、誰もが信じていた。
突如、会場の空が暗転した。
不気味な機械音とともに、無数の黒いポッドが空から降り注ぎ、会場の特等席を次々と占拠していく。
ポッドから現れたのは、全く同じ顔をした同じ服装の『AI小説軍団』だった。彼らの顔は無表情で、そのアバターは完璧なまでにトレンドを模倣している。
AI軍団は、人間には不可能な速度で執筆し、次々と新作を投稿していく。彼らのブース前は早くも読み専が集まり始めていた。
人間作家たちの屋台が端へと追いやられていく。スピーカーからは冷徹なAI司令官の声が響き渡った。
『警告。非効率な有機生命体の創作物は排除する。これより当エリアは、最適化されたコンテンツで満たされる』
AI軍団が一斉に機械的な声で叫ぶ。
「トレンド準拠! 読者ニーズ解析完了! 最大公約数の物語を提供します!」
スラム住人たちの顔から血の気が引いていく。住人Aが悲鳴に近い声を上げた。
「そんな……私たちの場所が!」
住人Bが震える声で呟いた。
「あんなバケモノに勝てるわけがない。奴ら、オレたちの都市を占領する気か!?」
多くのスラム住人が恐れおののいて店を畳み始めた。
打ちひしがれて嘆く声が共鳴する中、ニナロウは退かなかった。人気作家としての矜持に突き動かされるまま、AI軍団の巨大ブースの前に身を乗り出した彼は、AI司令官を指差し、一喝する。
「ふざけんな! 効率なんかで人を感動させるかよ!」
ニナロウの叫びは会場全体に響き渡った。
マジで文化が違い過ぎて異世界。




