義理読み騎士団
この物語はフィクションです。
夕暮れ時、ランキング大通りの派手さに嫌気が差したニナロウは、狭い路地裏へ足を向ける。そこを抜けると、大通りで見た店舗にも引けを取らない小綺麗な店舗が並んでいた。表通りとは目と鼻の先ほどの距離なのに、この裏通りを歩く読み専は極端に少ない。
さらに進むと、『自主企画街』と書かれた手書きの看板が立っていた。看板の矢印が指し示す先には、暗い地下へ降りるための細い梯子。その奥から、どこか熱っぽいのに、ひどく澱んだ空気が漂ってくる。
看板の前で拳を握りしめ、立ち止まった。
(ここへ行くのか? 『自主企画街』は互助行為が蔓延る裏市場。スラムも同然だと聞いている)
故郷では己の才覚だけで読者の心を掴んできた自分が、評価を乞うような真似をするのか?
プライドが邪魔するも、背後から笑い声が聞こえる。電光を浴びて昼間のように輝く大通りは、今のニナロウにとって眩しく、あまりにも騒がしすぎた。
意を決して梯子に足を掛け、誰に聞かせるでもなく独り言ちる。
「ゼロからスタート? 望むところだ。這い上がってやるさ。この最底辺から塔の頂点までな!」
不敵な笑みを浮かべようとする頬は引きつっていた。
階段の奥から、何やら怪しげな声が響く。
「新入りか?」
「こっちで☆を交換しましょ」
絶望の淵にいたニナロウにとって、その声は『希望』のように聞こえた。
梯子を降りた先は、混沌とした地下スラムだった。
狭い路地に小さな露店がひしめき合い、所々に焚き火が燃えている。全体的に薄暗いが、熱気だけは地上よりも高い。
「読み専歓迎!」
「☆200以下集まれ!」
下心が透けて見えるほど切実な看板が乱立している。
地上とは別種の騒々しさに圧倒され、ニナロウは後ずさりした。その隙を突いて客引きが囲い込む。
血走った彼らの目は、疲労と諦めの奥で異様な熱意を燃やしていた。まるで飢えた獣か、生者を引きずり落とすゾンビのようだと思いつつ、ニナロウは言葉を飲み込んだ。
客引きAが豪華なマントを見て、疲れた顔に微かな笑みを浮かべる。
「ようこそ、新入りさん。移住者かい? それなら、『読み合い企画』に参加していきな。読まれたいだろ?」
客引きBがニナロウの腕を掴んだ。
「『相互感想同盟』に入ってよ。♡や☆を送り合って、みんなで盛り上げよう。お返しは人類の文化だよね? さあ、ここにサイン(フォロー)を!」
「いや、俺はそう言うのマジで、いらないっつうか。……うわっ、引っ張んな!」
何本もの腕が伸びてきて、揉みくちゃにされたニナロウの顔は一瞬で泥まみれになった。参加できる「自主企画」の数に制限があるため、客引きたちも本気だ。そんな中、くたびれたコートを着た一人の男が割って入る。
「そこまでだ、お前ら! 新入りを解放してやれ!」
男は客引きたちを一喝し、ニナロウを助け出した。それが『義理読み騎士団』に所属する古参作家、騎士先輩との出会いだった。
騎士先輩に案内されるまま、ひっそりとした酒場へ入る。店内では作家たちが互いの作品を見せ合い、疲れた笑顔で事務的な作業を繰り返していた。
「共感しました。☆付けておきます」
「☆3つ、応援してます」
そんな応酬に目を見張り、耳をそばだてるニナロウに、騎士先輩は隣のカウンター席を勧め、語り出した。
「驚いたろう。ここがランキング圏外の溜まり場、俺たちの日常さ。カクヨムを知りたきゃ『創作論・評論』で情報を集めるといい。俺のは、ちと古いがな」
ニナロウはPVを支払い、出された酒を一口飲む。五年ものの味わい深さを楽しみながら、彼はカクヨムの近代史を知った。
何より、この騎士先輩が数年前まで故郷で活動していたと知ったニナロウは、親近感を抱かずにはいられなかった。感謝の印に♡を残しながら、二口、三口と進めていく。
飲み干すと同時に、彼は現実へ引き戻された。
「あらかたの事情は理解できた。……しかし、共通の趣味を持つ者の集まりにしては、全然そんな目じゃねぇぜ」
テーブル席を見渡しながら、ニナロウは怪訝な顔をする。騎士先輩は遠い目をして、自嘲気味に笑った。
「ここで生きてくためさ。読み専は大通りにしか興味がない。読まれない作品が多すぎるから、その痛みを知る者同士がPVやコメントを交換し合うのさ」
二人の会話を聞きつけた耳ざとい騎士団員が数人ほど集まり、頼まれもしないのに声を揃えてスラムの掟を説いた。
「「読んでもらいたければ、まず読め」」
「「PVとコメントは通貨と思え」」
「「☆が欲しければ☆を配れ。しかし、追放されたくなければ☆爆には注意しろ」」
一通り聞き終えた後で、ニナロウは眉をひそめて反発する。
「そんなのは間違ってる! 魂込めて書いた物語が、そのために磨いた筆力が、こんな結末でいいはずがねぇ!」
騎士先輩はグラスを満たしていた酒を一気に飲み干した後で、静かに答えた。
「もちろん、『魂の物語』は裏通りやスラムにもある。だが、それを読み専に見つけてもらうには、ランキング大通りに店を出す以外、手がない」
先輩から鶏と卵の問答を聞かされたニナロウは、不満をため息に込めつつも、スラムの流儀を試すことにした。
ノンフィクションを参考にしつつ、感じたまま好き勝手に書き散らしています。
登場人物にモデルがいたとして、実在する人物・団体とは無関係です。探さないでください。




