創作交流都市カクヨム
隣の芝は青く見えるらしいですが……。
光の粒子が収束し、激しいノイズ音とともに一人の男が「転移広場」に姿を現した。
男――ニナロウは、故郷で欲しいままにPVを稼ぎ、名を馳せている実力派のWeb小説家だ。
「フッ、ここが〈創作交流都市〉か。故郷では、自前の読者アンケートを投下しても、満足できるフィードバックは得られなかったからな」
煌びやかな黒のアバター装備をバサリと翻し、自信満々にポーズを決める。彼のマントの裏地には、栄光の証である『書籍化』『コミカライズ』『アニメ化打診』といったタグが、神々しい光を放っていた。
その豪華な装いには不釣り合いな羽根型のブローチが、胸元に飾られている。
「真の傑作とは、読者コメント欄の充実をもって完成するもんだ。交流が盛んなココでなら、それが叶う。自己満足じゃ終わらせられねぇ」
傲然と笑うニナロウを取り囲むのは、乾いた砂埃が舞う閑散とした広場。遠くでは、天を突くように巨大な光の塔がそびえ立っている。その輝きは、故郷のそれより冷たいもののように見えた。
ニナロウは空中に指をすべらせ、ステータス画面を呼び出した。
名刺代わりの代表作を投稿すると、目を閉じる。爆発的に伸びていくPVと驚嘆コメントを想像するだけで、口元が緩む。故郷では投稿後から数分でPVが四桁に達するのが常識だ。
――表示された数字を見て、ニナロウの表情が凍りつく。
タイトルの下には、たった一つの項目が、お情け程度に鎮座していた。
『フォロワー:1』
☆も♡もコメントもない。PVさえ零のままだ。あり得ない。タイトル・あらすじは完璧だった。キャッチコピーは初めて見る機能だが、読者の興味を引くよう工夫した。
「ば、バカな!」
ニナロウは何度も何度も指先で更新する。
「バグか!? ここが故郷なら今頃は四桁PVにブクマ、コメントやメッセージの一つや二つはあって当然。その俺が……ゼロだと!?」
それから十分後も一時間後も、彼は画面を睨み、指をすべらせ続けた。周囲の通行人たちは、ニナロウの狼狽を気に留めることなく、早足で広場を通り過ぎていく。
「くそっ、ヘルプセンターはどこだ!」
経験と実績に裏打ちされた自信を打ち砕かれた彼は、『案内所』へ駆け込んだ。
案内所内は真っ白な空間だった。無機質で清潔なオフィスのような作りで、制服姿のAI職員がカウンターに座っていた。
バンとカウンターを叩き、身を乗り出したニナロウがAI職員に詰め寄る。
「PVが動かねぇぞ! いつまで待てば俺の作品は投稿完了されるんだ!? 新着欄どこだよ!」
AI職員は眉一つ動かさず、マニュアル通りの事務的な声で答えた。
「読者はランキング経由で作品にアクセスします。『新着小説』は、ホーム画面の『新着おすすめレビュー』の下に表示されます。あるいは、『その他』をタップしていただきますと……」
「ちっさ!? しかも『ネクスト』『累計』『特集』『書籍化』の下の下かよ。誰がこんだけスクロールすんだ?」
「自助努力を推奨します。なお、アナタの現在のステータスは最底辺作家です」
ニナロウはショックで膝から崩れ落ちた。
熱狂的なコメントの嵐。書籍化のオファー、コミカライズの打診、すべてが走馬灯のように駆け巡る。
「そんなことが……あり得るのか? 俺が?」
故郷では誰もが認める人気作家だった自分が、この新天地では存在すら認識されない最底辺。
失意の中、案内所を出たニナロウはメインストリートを歩いていた。「読み専」のアバターが足早に闊歩する道の両脇には、都市システムに後押しされた「ネクスト」の他、|☆五桁を超える店舗《累計ランキング上位作品》が立ち並んでいる。
その先では、光り輝く摩天楼が大通りを飾っていた。現在のランキング上位店舗前には、長蛇の列ができている。
大通りの人混みに向け、ニナロウは声を張り上げた。
「そこのキミ! 俺の自信作を読んでみないか!?」
しかし、通行人たちはニナロウの存在に気づかないかのように、すり抜けていく。あるいは、気づいても露骨に目を逸らした。
まるで透明な壁に隔たれているかのような感覚。声が、感情が、熱量が、この華やかな世界に全く届かない。
読み専Aのアバターが、友人と話しながらニナロウの横を通り過ぎて行く。
「ランキング1位、読んだ? 超エモい!」
「読んだ読んだ! やっぱハズレがないよね。タイパ考えたら表通りの作品以外マジでムリ」
読み専Bが応えた。
無視されたニナロウは呆然と立ち尽くす。
「……声が届かない。皆には俺が見えていないのか?」
大通りの中心で強烈な孤独感に襲われた。目が眩むほどの光が周囲を照らしているのに、自分だけ取り残されているかのようだ。
「甘くみていた。ここは、実力だけじゃスタートラインにも立てないのか。まるで異世界だな」
カクヨムでいろいろ目にして、なろうの良さを知りました。AIに協力を仰ぎつつレポート的なものを短編にまとめた次第です。
全文が約8500文字あるので、4回に分けて投稿したいと思います。




