1「レ・フラット」
『アスター、見ている人は見ている――』
庭先で横笛を練習する俺の隣で、じいちゃんは目をつぶったまま――よくそう言っていた。
「いや、見てねえじゃん……、それを言うなら『聴いてる人は聴いている』でしょ?」
木の麓に積んだだけの石の隣で、一曲吹き終わり。
じいちゃんのボケにそうツッコめる歳になったときには、そのボケも聞けなくなっていた。
それから時は少し流れ――。
「やっぱ、戦闘中に音楽流れてるとテンション上がるなぁぁぁ。あ、でも明日からバックミュージック要員はいらねぇから」
「はい??」
即席パーティーのメンバーたちが笑い声をあげる――。
いや、全然おもんないから……言わんけど。
「まあ、飲め飲め。俺たちDランクの寄せ集めを、Sランクパーティー様にアテンドしてくれたお礼だ」
「そうよ、吟遊詩人さん」
じいちゃん……せっかく吟遊詩人になったのに、見てもらえてなかったし、これから聴いてもくれないらしいよ。
クエストクリアの祝杯をあげる酒場で、笑いのネタにされると同時に、俺は即席パーティーをその日でクビになった。
そして、『能力強化が効いてる』ことにも、気づいてもらえなかったよ……。
なんで? 明らかに、Dランクの動きからSランク動きに変わってたし、能力値もわざわざ調律してあげたのに……。
それにだよ! わざわざSランクのパーティーをアテンドしたのも、
「俺たちは君みたいな原石を探していたんだ!」
って、ヘッドハンティングされると思って根回ししたのに!
Dランクの寄せ集めとの祝杯も終わり、
「じゃあなぁ~ぎんゆ~しッィ、じん」
「誰だよそれ、お前飲みすぎ~~」
「朝までのむぞぉぉぉぉぉ」
「俺たち最強ぉぉぉぉぉぉ」
酒場で話が盛り上がった他の三人は、明日からもクエストを共にするらしい。
Dランクの冒険者なんてこんなものなのかもしれない。
身の程も知らない馬鹿が。
そんなことよりも――――、
「誰が、バックミュージック要員だって? クソがッ!」
バックミュージック要員呼ばわりされたことに腹が立ち、転がっている空き瓶を蹴り飛ばす――――。
薄っぺらい革の靴はクッションにならず、足の甲と当たってキーンと《レ・フラット》を響かせる。
「ゔっ……」
悶絶するほどの痛み。ベンチに座り、しばし痛みが引くのを待つ。
「誰も聴いてねぇし、ここで練習するか」
酔っ払いたちの意味もない笑い声が、遠方から微かに聞こえる深夜の街中は平和そのもの。
近くを流れる水路のせせらぎに乗せて…………横笛に息をそっと、吹きかけた。




