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「お父さん、ごめんなさい…!」

私達は、父さんにこれまでの経緯を全て話した。話を聞き終えた父の顔から、みるみるうちに血の気が引いていき、やがてその表情は怒りに染まった。

「馬鹿者ッ!! 今すぐ村へ帰るぞ!」

「嫌だ!」私も負けじと叫んだ。「お父さんだって、三年前、そうだったじゃない! 危険だと分かっていても、真実を突き止めようとしたじゃない!」

私と父さんの睨み合いに、そっとエミールが割って入った。

「…失礼します。ケイン様。シャーナさん達の決意は、固いようです。…私が、必ずお守りしますから」

父さんは、この見知らぬ銀髪の少年のことを訝しげに見ていたが、その真摯な瞳に何かを感じ取ったようだった。深く、長い、諦めにも似たため息をつくと、しゃがみこんで私の目線に顔を合わせた。

「…分かった。だが、約束しろ。絶対に無茶はしないと。そして、俺もここに残る」

こうして、父さんも私達の調査に加わり、エミールの家での奇妙な共同生活が始まった。

昼間は、五人で図書館に通い、古文書の解読を進める。夜は、エミールの家でささやかな食卓を囲んだ。父さんは、最初はエミールに対して警戒心を隠さなかったが、彼の聡明さと誠実な人柄に触れるうちに、少しずつ心を許していった。メアリーはすっかりエミールに懐き、「エミールお兄ちゃん」と呼んで、本当の兄のように慕っていた。

問題は、エリュガードだった。私とエミールが顔を寄せ合って一つの古文書を覗き込んでいる時、彼は決まって、不機嫌そうに咳払いをしたり、わざと大きな音を立てて本を閉じたりした。

ある夜、エミールが突然、激しい頭痛に襲われた。

「う…っ!」彼はこめかみを強く押さえ、その場にうずくまる。その瞳に一瞬、憎悪とも苦痛ともつかない、暗い光が宿ったのを私は見た。

「大丈夫!?」私が駆け寄ると、彼はすぐにいつもの穏やかな表情に戻った。「ええ、大丈夫です。少し、考えすぎてしまったようで…」しかし、彼の額には脂汗が滲んでいた。

父の書斎で見た日記のことが、私の頭から離れない。『呪われた瞳、"ALICE"』『我が娘は"預言の子"』。父の秘密、そして私自身の謎。それらと、二百年周期で起こるこの事件は、どう繋がっているのだろう。

日々が過ぎていく中で、奇妙なことに、新たな犠牲者は一人も出なかった。しかし、それは嵐の前の静けさに過ぎないことを、私達は心のどこかで理解していた。

そして、モハラでの滞在が十五日目を迎えた夜、事態は大きく動いた。

________________________________________

第六章:告白と亀裂、そして深淵の記憶

その夜の庭は、月明かりに照らされて銀色に輝いていた。私とエミールは、小さなベンチに座って、静かに言葉を交わしていた。

「シャーナさんは、どうしてそこまでして、この事件を解決したいのですか?」エミールが、静かに尋ねた。

「…私には、守りたい人たちがいるから。メアリーや、お父さんや…エリュガードのこと、守れるくらい、強くなりたい」

「エリュガードさんのことを、とても大切に想っているのですね」

「…ええ。彼は、私にとって、かけがえのない…家族同然だから」

私がそう答えた時だった。家の壁に寄りかかって、その様子をじっと見ていたエリュガードが、何も言わずに踵を返し、家の中へと入っていくのが見えた。その背中は、ひどく傷ついて、拒絶するように固く、そしてどうしようもなく孤独に見えた。

「エリュガード…!」

家の中に入ると、エリュガードは自室に閉じこもってしまったようだった。

「…エリュガードとは、俺が話す」

心配する私達を制し、父さんは一人、エリュガードの部屋へと向かった。

(エリュガードの部屋)

部屋の中は、月明かりだけが床に長い影を落としていた。エリュガードは、窓枠に肘をつき、背中を丸めて外の闇をじっと見つめている。

「…何しに来たんだよ、ケインさん」

「お前と、話がしたかった」ケインの声は、穏やかだった。「お前は、何に怒り、何に怯えている?」

「…別に。何でもねえよ」

「嘘をつけ。お前のその目は、三年前、俺が師を失った時の目にそっくりだ」

その言葉に、エリュガードの肩がびくりと震えた。

「エミール君のことか? …シャーナが、彼に惹かれているとでも思っているのか」

「…うるせえな」

「エリュガード、お前に一つだけ聞きたい。お前は、シャーナを幸せにできるのか?」

その問いは、鋭い刃のようにエリュガードの心臓を貫いた。幸せに、できるのか。その資格が、自分にあるのか。彼の脳裏に、決して消えることのない、白と赤黒い血で彩られた忌まわしい過去の記憶が、奔流のように蘇る。


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