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ア❍ラだ

突然、青い立方体を中心にしてゴブリンシャーマンの死骸が膨張を始める。


表現するならあれだ。


ア○ラだ。


規模は小さいけど、あの無限再生的な増え方して、中に入りこんじゃった女の子が圧死するやつだ!






「って、おいおいおいおい!」






これヤバい!


ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい!


なんか立方体が、振動して周りの肉に栄養与えてるみたいに見える!


もう絶対あの石ころがモンスターのコアだろ!


これが進化なのか!?


光とか闇の中で変形するでなく、無闇に肉が膨張するのか!?


これじゃ流石にグロいから!






「って、やっべ! テンパって傍観してる場合じゃねぇ!」






危うく、相手が強くなるのをじっと眺めてる、とか必殺技の前に待ってやられる、みたいな阿保なやつになるとこだった。


で、その後で絶望するところだった。




俺は、野菜の国の王子様だとか戦隊ヒーローの敵役にはなるまいと、硬直した体を無理やり動かし、手に持った杖で、今度こそとコア目掛けて振り下ろす。




しかし、膨張した肉がブヨブヨとして、コアへの打撃が分散されてしまう。


おかげで、何度打撃を加えても、ヒビがちょっとだけ大きくなる程度にしかならない。






「こなくそっ! !」






ならば、とポケットから100均で買った果物ナイフを取り出しヒビに突き刺す。


僅かな隙間に刃先をグリグリガリガリ捻じ込ませ、何とか刺さる程度まで押し込めた。


要は、果物ナイフを楔に使いたいのだ。


後は、上から綺麗に打ち込むだけ。






「集中」






肉塊が膨張する中ながら、俺は深呼吸して肩の力を抜き意識を高める。


そして、剣道の打込棒を使った練習の要領で、果物ナイフの柄の真上に向けて杖を打ち込ん……だがミス!




ええい! 訛っとる!




それに、狙いが微妙に動いてやりにくい!


つい、打込練習の時に、棒を抑えてる野郎がわざとゆらゆら動かしやがった時と同じ殺意が湧いてしまった。




高田許すまじ。




あの時、ふざけるなと師範代に叱られてゲンコツを喰らった恨みは忘れていない。






「集中!」






多少やけっぱちになってるのは実感するが、その不快感を心に押し込めて、今度こそ正しく打ち込むことに専念する。






「高田ぁあぁああ!」






はい、めっちゃ不満を乗せました。


だって、半分トラウマになってるし、このくらいの恨みは許容しろ高田。


でも、これが上手いことハマったのか、打撃は果物ナイフを外に弾き飛ばすことなく、石の中にめり込んでいく。


そのまま当時やってた練習通り連続で打ち続けると、ようやく立方体に分かりやすく亀裂が入った。






「これで最後だーーー!」






はい、すみません。


言ってみたかっただけなんです。


別に、野菜の星と心中する気も、なんか実は過去に戻ってて伝説のスーパー戦士と言われるつもりも全くありません。


だから、本当これで砕けてくださいお願いします。


と、祈りを込めて渾身の一撃を打ちかます。






スカッ






なのに、外す。


見事に外す。


ここで外す。


翼くんが、ここ一番でシュートを外すなんてあり得ないタイミングでも俺は外してしまう。






「高田あぁぁぁあああああっ!!」






魂の絶叫。


これもどれもあれも全て高田のせいに決まっている。


いつか一発殴りたい。






「ゲガアアアア!!」






しかも、悪いことは重なるもので、ブヨブヨ肉塊の膨張が止まって、当初まん丸だった形状が、今では傍目にも人型らしくなって、既にゴブリンは大きな声で吠えることが出来るようになっていた。




そして、まだ腐った巨神兵くらいの人体模型みたいな見かけなのに、早くもしっかりと二本足で立ち上がったかと思えば、その後も成長は急速に進み、真皮丸見えの見た目から、表面に皮膚が貼られていく。


そのあんまりな光景に、俺の足は産まれたての子鹿のように竦んでしまっていた。




やはり、大きいものは怖い。




何しろその全長は、自分の身長と比較して、恐らくは5メートル越え。


フロアの天井に頭がぶつかるどころか、もろ猫背になってしまい……足も伸ばせず中腰状態になっている。


筋肉隆々で、もはやゴブリンというよりはオーガのような迫力を醸し出し、見た目の力強さは破格……なのだが、シャーマン時とは比べられない程度には重そうな図体で……えっと、二本足で何とか立てていたのが、今はもう両手を床について四つん這いになってしまっていた。


中腰が辛かったのだろう。


さぞ、スーパーの地下は狭いに違いない。




うん、赤鼻の馬鹿面が、とてもよくお似合いだ。




それに加えて、どういう理屈か、シャーマン時に身につけていた腰布や骨の仮面も形を変えて、身を包むほどのマントと髑髏の兜へと装備がランクアップしているのだけど……






「な、なんじゃこりゃあ!」






何故か、俺の持っていたシャーマンの杖も、ゴブリンの進化と連動したのか、グングン伸びるようにランクアップして、もはや杖というかデカいメイスみたいなゴツいものへと変貌していた。




……もう考えない方がいいかもしれない。




現実にファンタジーが入り込むと、物理とか化学とかどうでもよくなる。


もう元素とか素粒子とクォークとかが、もはや無用の長物と化していた。


はぁぁ…


まぁ、とりあえず、これもお約束として……




俺は、ゴブリンメイスを手に入れた!




と、手に入れたブツを掲げてみれば、これがエラい軽くて振りやすい。


杖もそうだったけど、本当これらは何で出来てるのやら。


こういうのをミスリルとかオリハルコンとか言うのだろうか。


ちょい俺にはデカすぎて扱いには困るが……


それに撲殺武器が軽いって、どうなんだろう。






「……さてと」






つい今まで、足が竦んでいた俺だが、途中から幾分かの余裕が出てきていた。


もう、怖くも何ともない。


四つ足で突進されりゃあ脅威だが、普通に走った俺の方が早そうだ。


あ、無理に立とうとして天井に頭ぶつけて痛がってる。


如何に3段階目だとしても、ゴブリンはゴブリンだな。






「ゲ、ゲギァアアアアア!!」






はいはいご苦労様〜。


いくら吠えても構いませんよ〜。


馬鹿を取り繕おうとして怖がらせたいんだよね〜。


はいはい、いい子でちゅね〜。




散々悪い方悪い方に考えていたが、こんなのを目の当たりにすると、脱力感が半端ない。


別に、俺は薩摩でも三河でも戦闘民族でもないから、ツワモノと戦いたいなんて願望はない。


むしろ、余裕もってタコ殴りにしたくて、奇襲闇討ちがしたいタイプだ。むしろ毒殺って素晴らしい。




でも、そんな俺ですらこの赤鼻ゴブリンの馬鹿さ加減には辟易しまっていた。


正直、こいつが最初の赤鼻ゴブリンと同一個体なのかさえ、どうでもよくなってきている。


こんなことなら、ミッチーと一緒にお宅訪問しとけば良かったくらいだ。






「ゲギァアアアアアゲギァアアアアア!!」






後ろでは、変わらず赤鼻ゴブリンが吠えている。


どうせ、戦え! とか、やれるものならやってみろ! とか今度は負けん! とか言っているのだろう。


四つん這いのままで。


なんという不恰好。


てか、なんでゴブリンのくせに、正々堂々戦おうとしているのか。


俺との音楽性の違いが甚だしいな。




そんな相性の良くない赤鼻ゴブリンを無視し、普通にエスカレーターの方へと歩いていく。


そして、エスカレーターの下まで着いたら、改めて赤鼻ゴブリンの方を見て






「あーははははは! ばっかでぇ!」






と、指差して笑ってやった。


すると、言葉が通じているかは知らんが、意味合いとしては十分通じたらしく、どうやらトサカにきて、怒りの表情を浮かべつつドスンドスンとハイハイして向かってくる。




でも俺は、気にすることなくエスカレーターを駆け上がり、1階についたらチラッと振り向いて、赤鼻ゴブリンが俺を追いかけてきていることを確認する。


エスカレーターは、赤鼻ゴブリンのデカさでも通れるだけの広さがあり、幅が狭くて歩きにくそうにしながらも、登ってきていた。




うむ、丁度いいスピード。




これなら二段飛ばしくらいの速さでも追いついて来れるだろう。


俺は、そのまま赤鼻ゴブリンを引き連れて、5階まで到着する。


途中、赤鼻はエスカレーターをデカい足でぶち抜きそうになるアクシデントがあったが、その程度で問題はない。


俺は、赤鼻は予定通りのポイントまで誘い込むことに成功。


6階への階段前にて待ち構えた。






「ゲギャアアアアアア!」






咆哮と共に、俺の目の前にやってくる赤鼻。


やはりフロアだと四つん這いにならざるを得ず、その速度は緩慢だ。


外ならともかく、屋内ではどう見ても、無駄な図体と言えよう。




故に、そこが攻めどころ。




俺は、赤鼻が来るのを待って階段を駆け上がり、ついでに、あっかんべー、と分かりやすく挑発しとく。






「ゲ…ゲギャグガアア!!」






効果はてきめん。


知能の低さが露呈するね。


成熟が足らんよ成熟が。




俺は、ゴブリンを怒らせてから階段を駆け上がる。


そこは、とても幅の狭い場所で、俺の体二つ分程度しか入らない。


普通に考えれば、赤鼻のデカさでは入ってこれないが、さてどうなるか。




俺は踊り場で待機する。


ある意味で、試金石だろう。


ここで、3段階目のゴブリンはどこまでの馬鹿を晒すのか。


それとも意外や意外、ちゃんと入れないことを理解して、投擲など別の案を検討するのか。


俺の中では、確率は8・2で馬鹿優勢。


上手いこと運べば、勢い任せの突進をしてして、階段の途中で身動き取れなくなることだろう。






「ゲグギャアアアアッ!」






まず赤鼻は突進で来る。


見える位置に俺がいて、攻めないという判断はないらしい。


でも通れない。


壁はミシミシ音を立てているが、壊すほどの力ではない。


パッと見なかなかの迫力があり、恐竜映画なんかにありそうなピンチ演出を思い出すが、俺にはかなりの余裕がある。


続いて、片腕を伸ばしてくるが、もちろん届かない。


自分から敢えて届く場所にいるわけもないしな。




で、ここからどうしてくるか。


押すか引くか、はたまた搦め手で来るのか。


俺は内心楽しみになってしまう。


予想を超える手腕を俺に見せてくれ。




赤鼻は、しばらく目に見える場所にいる俺に、右手を振り続けていた。


そして、ようやくこれでは届かないと理解して、左腕を伸ばしてきた。


また、しばらくブンブン左手を振り回すも届くわけもなく、そこでハッと何か気付いたようにして……また、右手を振り始める。


そんなことを繰り返して、赤鼻はなかなか次の動きを見せてくれない。




……まぁ、これも想定内。


ゴブリンの馬鹿さならこれくらい有り得るだろう。


俺は、踊り場で欠伸しながら、やや疲れたので座って待つことにする。


気を長くして待とうじゃないか。




俺のそんな余裕な態度に苛立ちを隠さない赤鼻だが、腕を振るだけじゃ届かないことをなかなか理解してくれない。


この子の親も、将来をさぞ心配なさっているのとだろう。


その後も、左右の腕を伸ばし、時折頭だけを突っ込み、右足を差し込み、左足を差し込みしていたが、当然届くわけもなく、段々俺も飽き飽きしてきてしまっていた。




そのまま、約15分。




ようやく赤鼻は、手足を振り回すのではダメと考えたらしく、少しの間考える風に俯き加減になり、腕を組んで体を左右に揺らし始めた。




いちいち大仰というか、わざとらしい奴だ。


まぁ、考える頭があるだけマシか。




で、頭の上にぴかーんと電球が付いたみたく目を見開いたかと思えば……また、右腕を伸ばしてきていた。




いい加減にしろ……




そこから、一旦階段から距離を取って、俺が思い描いた通りの勢いに任せた突進をしてくるまでに、更に15分を要したのだった。




……俺の30分を返せ。



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