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え?生き返るってなんじゃそりゃ

「生き返る、ですか? ゲームとかで言うリポップのことですか?」




「んー、いや、再配置というよりも、本当に蘇るって話です。もちろん仮定ですけど」






だから、検証したいのだ。


もしも、モンスターが殺しただけじゃ殺し切れず、時間を置いて蘇る能力を持っているなら、この後このゴブリンシャーマンは息を吹き返すことになるだろう。




でも、そこは俺の論じたいところとは若干異なる。


リポップだけなら、また倒せばいい。


雑魚は雑魚で、馬鹿は馬鹿で、ゴブリンはゴブリンだ。


けど、もしもこの赤鼻ゴブリンが、最初みた赤鼻ゴブリンと同一個体であった場合なら話は違う。






「要はですね。俺は、こいつらが、死んで蘇ると上位種に進化する、と考えています」




「え……?」






俺が、最初に赤鼻と出くわして、突き落としたのが、午前5時。


そして、今は6時半だ。


この短い間に、赤鼻ゴブリンは、赤鼻ゴブリンシャーマンに変わっているのではないか。


なんてことを、俺はこの死骸を見て思ってしまったのだ。




何せこいつと来たら魔法なんて奇跡を扱えるのである。


想定しない切り札の1つや2つあっても驚きには足りない。




仮に、もしこれが事実であってしまえば、俺たち足○区民は、非常にまずい。


既に、事態の発生から2時間以上は経過しているはず。


となれば、多分今俺たちがこうしている間にも、ゴブリンは人に狩られているだろう。


単に害敵として、人によっては面白半分で、ゴブリンの馬鹿さ加減からして、まさかの自己過失死なんて意味不明なことさえあるかもしれない。


警察だって、治安のために殺しまくっているに違いない。




それくらいに、ゴブリンは弱かった。




けれど、その一度殺されたゴブリンの全てが、すぐに上位種へと変わってしまう、とすればどうだ。


俺は、すでにホブゴブリンとゴブリンシャーマンとエンカウントしている。


どちらも決して倒せなくはない印象だったが、今実際に殺したように、人間1人だと殺しきれない可能性が高い。


この時点で、人間は複数人でないと上位種には勝ちにくいことが分かっている。


そんな個体が、今後爆増していくのだ。


足○区民だけで撃退できる数ならいいが、そうでなければお手上げになってしまう。




いや、更に悪い想像をするなら、ホブやシャーマンを殺しても、更なる進化を遂げて、ゴブリンキングだのゴブリンロードだのにも変化してしまう奴だっているかもしれない。


そうなれば、一体何人の人間でないと戦えないのか想像するだけで恐ろしい。


もはや、対抗するために軍隊さえ欲しくなってしまうくらいだ。




留めに、その進化までの時間は1時間を切っている。


幾ら何でも進化スピードが早すぎる。


今この瞬間は余裕でも、次の1時間後には絶望することにもなり兼ねないとか笑い話にもならん。


だから、俺はゴブリンを解剖したいのだ。


進化させずに、殺し切る方法、その取っ掛かりでいいこら是が非も知りたい。






「いやいやいやいや……それは、その、考え過ぎですよ? 飛躍し過ぎです。悪い方に捉え過ぎじゃないですか?」






俺の仮定に対し、ミッチーは否定的な反応を示してくる。


いや、ミッチーの言うのは最もだと俺も思う。


俺は、どうにも悪い想定から考え過ぎだと言う自覚もあるし、わざわざ解剖だなんて無駄にも程がある。


我ながら、何でそこまで考えてしまうのかおかしいとすら思っている。




でも、駄目なんだ。




思いついてしまえば、不安が募って怖過ぎる。


安心できないなら確認するしかない。


確認して無駄だったと溜息を吐くまで怖いまま我慢するしかない。


でも、我慢にも限界がある。


だったら、我慢せずき確認する。


確認するために必要なことがあるなら、俺は躊躇なんてしない。






「篠原さん、こう言っては不安にさせると思うのですが、篠原さんが倒したコボルトって、どこで倒しましたか?」




「え? いや、家から車で出発して、結構すぐに見つけて、怖くなって飛び出して来たのを轢いたから……」






そう言葉にして、ミッチーはみるみる顔色が悪くなっていく。


うん、当然の反応だ。


何しろ家のすぐ側で、モンスターを殺したのだ。


なら、もしかしたら、そのコボルトはハイコボルトとかに進化しているかもしれない。


進化して、凶暴さや脅威度が増しているかもしれない。


そんな得体の知れないものが、自分の家族の側にいる、かもしれないのだ。


落ち着いてなんていられない。






「いいいいいいいいい急がないと! 真里が!往人が!」






豹変したと思えたくらいに、ミッチーは慌てふためく。


そして、何も持たずにエスカレーターの方を向いて走り出そうとしていた。






「ミッチー!」




「うえ!? って、おっと!?」






そんなミッチーに、俺は側にあった自分用のリュックを押し付ける。


俺的には、さっき勝手に投擲に使ってしまった分のお返しという意味合いだ。




アダ名呼び表明は、まぁ気まぐれということで。




当のミッチーは、目を白黒させて、缶詰やら水やらが入ったリュックを眺めていた。


多分、自分の分じゃないのに、とでも罪悪感でも感じているのだろう。






「いやさ、これも何かの縁ってことで、今後何かあれば、その時はお返しをよろしく」




「え、えっと、はい! ありがとうございます!」






俺のタダじゃないぞ? という言葉に、まごまごしてしたミッチーは気を取り直したように渡されたリュックを背負い、急いでエスカレーターへと走っていく。


やれやれ、世話の焼ける。






「ワッキー!」






そんな微妙に照れ臭く思いながら見送っていると、不意にミッチーは、俺に向かって手を振りつつ、そんなアダ名で俺のことを呼んできた。


まるで高校の先輩後輩みたいなやり取りだ。


しかも、それだけじゃ飽き足らず、大声でミッチーは言葉を続ける






「中央○町! ○丁目○番○号!」




「はい?」




「そこ! 俺の家だから! 絶対来て! 絶対だよ!?」






と、ミッチーは一方的に俺に告げて、1階へのエスカレーターを走り登って行った。






「……諦めてなかったのね」






そんやミッチーの捨て台詞に、やや呆れる。


なんだか、心に楔を打たれた気分だ。


場所まで教えられると、目的意識が芽生えてしまうじゃないか。






「中央○町○ー○ー○、ね」






俺は指定された住所を復唱しつつ、スマホに打ち込んでおく。


仕方ない。


後で紙も見つけて別にメモしておくしか無いか。






「てか、ワッキーかよ」






呼ばれたアダ名を思い返すが、どう考えても、あのキモ筋肉系ムダ毛芸人のイメージしか出てこない。


ちょっぱやの名付けだから仕方ないのかもしれんが、呼ばれた方からしたら半分イジメでしかない。






「まだ、かがみんとかじゃ、ダメだったかね?」






などと、自分で言ってみたが、瞬間紫ツインテールが頭をよぎり、これはダメだなと自己完結する。


そう呼ばれるくらいならワッキーの方が気楽だ。


というか、俺は絶対にツンデレではない。


絶対にだ。






「はぁ……いいや、とにかくやることやっちまおう」






思わず泥棒友達を得てしまった俺だが、別にそれで俺のすべきことが変わるわけでもない。


ふっと緩んでしまった気持ちを立て直しつつ、俺はゴブリンシャーマンの死骸のところに向かった。






「よぉ、赤鼻」






言葉をかけて反応がないか試す。


傍目にはどう見ても死んでいるし、蘇る気配は見られない。


まだ、時間が残されているのか分からないが、とにかく急いで解剖してしまうことにする。






「よっと」






俺は死骸の首に刺さったままだった包丁を抜いて、素手のまま血まみれ肉塊を抑えて、ズブリと首のキズ口から真下に肉を割いていく。


流石に包丁では肉を切り裂きにくいが、途中転がっているペットボトルの水などで血を流しながら、肉塊と骨とに分解していった。そして……






「これ、コア?」






死肉の匂いにも慣れた頃、俺はそこに到達する。


場所としては、腹の中央。


人間なら小腸があるだろう位置に、それはあった。






「青い、立方体か……」






ゴブリンの体内は、まぁ人間の構造に似た感じだった。


肋骨があり、肺があり、胃や腸もあった。


けれど、何故か心臓は見つからず、その代わりに腹の一点だけが妙に固い感触があって、そこを重点的に細切れにしていくと、中には青い石ころがあったのだ。


しかも、形状が物凄く意思を感じる立方体ときたもんだ。






「……うさんくさい物体だな。それに、出血はあったけど血管らしいのがないな。どういう構造で血液循環させてんだこいつら」






まぁ、心臓の代わりに石ころがあるのだから、この青石が血液なりを巡らしてはいるのだろう。


理解はできんが。


こんな綺麗な立方体が出た以上絶対いるだろう作り主やら摩訶不思議なモンスターの構造やらが気になり過ぎるが、今これ以上は、答えを求められそうにない。


とりあえずは、一つの発見、とまでにしておこう。






「……後は、壊すか取り出すか、だけど」






さて、どうする。


どちらかと言えば、取り出して大学だかに持っていけば、新しい何かが分かるかもしれない。


北○住であれば、電気大学があるし、電子顕微鏡辺りがまだ使えるのなら試してみたい。




一方で、壊さないと殺しきれないのでは? という疑問も残る。


取り出しても動き出してしまうのでは、また進化した赤鼻に襲われたり、今度こそ被害が出てしまう可能性もある。






「……うん、まずは破壊だな」






自分で仮定を出している以上、敢えて進化の可能性に挑むのは危険だ。


例え取り出すにしても、ただのゴブリン相手にした方がいい。


ホブはともかく、シャーマンなら何とか出来そうだし。


それに、もしも何の反応もなければ、頭も開いてみたい。






「えっと……ハンマーか金槌があれば……ん?」






壊すために思案していると、視界にシャーマンの持っていた木の杖が入った。


使えるならこれでもいいか? くらいの軽い気持ちで杖を手にしてみると……うん、少し驚いた。






「え? これ木じゃないの? なんか、物凄く硬い気がするんだけど……重さもなかなかだし……」






軽く縦に振ってみれば、木を振った感覚ではなく、どちらかというとゴルフクラブでも振った印象に近い。


十分に凶器だ。






「……あぶねぇ。魔法ばっか気にしてたけど、もしコレで殴りかかられてたら、ダメージ覚悟で受けて、普通に骨折れてたかも……」






凄く嫌な想像をしてしまうが、今無事にいることに安堵する。


てか、魔法が使えても鍵開けられても、やっぱゴブリンは馬鹿なんだろう。


もし俺なら、魔法を見せかけにして、相手が接近してきたところをフルスイングしているに違いない。


いや、いっそ魔法も使わず、杖攻撃に専念した方が強いかもしれない。


マジ凶器だこれ。






「今後、モンスターの武器には気をつけよう。そうしよう、うん」






また一つ教訓を得つつも、俺は立ち上がって杖を構える。


そして、スイカ割りの要領で、青い立方体目掛けて力任せに振り下ろした。


すると、ビキッ! と音がして表面にヒビが入る。


なかなかの打撃力。


これなら壊せそうだ。


てか、本当にこの杖危ない。


でも助かる。




俺は、シャーマンの杖を手に入れた!




ってことで、作業を再開する。


次も同じように振りかぶり、今度はより鋭さを意識して打、とうとしたその瞬間に異変が起きた。


急に立方体が勝手に振動し始めたのだ。






「なななな何が起きてる!?」






それこそ、俺が仮定立てていた、進化の予兆だった。

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