表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

謎の銃声

「1発だけ?」






銃声を聞いた感想はそれだった。


もっと連続で、複数の銃からの発射があれば、納得しようものだが、それは単体での限定1射。


ということは、牽制か場当たり的な射撃ということだろうか。




銃声の聞こえた方角もやはり北側だし、かなりの数のモンスターが動いたわけだから、普通には目的はモンスターの撃破を想定するが、発射音は1つ


つまり、複数体を倒すためではなく単体撃破のための使用だ。


では、何であれば意味があるか。




1つはやはり牽制。


接近してくる敵に対して、これ以上近づくなという警告。


モンスター相手だと、脅威を感じるか感じないかで、効果が二極化しそうだが試す価値はあるか。




2つ目は、籠城戦。


1つ目の例と被るが、接近してきた単独の敵を撃ち殺す場合だ。


警察署から聞こえてきたにしては、もう少し遠い気もするが、無くはないと言ったところ。




3つ目には、人命救助。


そこに襲われる人がいて、助けないなんて警官として許容できない時もあるだろう。


まさか、銃持ち人が893とかでないだろうし。






ま、こんなとこかな。


それ以外にも、挑発して誘導するとかもあるだろうが、大まかに想定されるケースとしてはこのくらいで十分だ。


牽制か人命救助辺りだろうか、こんなにもモンスターが密集しているところで不用心なことだ。


周辺のモンスターが凶行状態に陥ったらどうしてくれるのか。


止むを得ない状況だったのだろうが、俺からしたら巻き添えは勘弁してほしい。


まさか警察官が、単に恐怖して無闇に貴重な銃弾を使ったなんてことはないだろうしな。


だって、あのモンスター達なら、普通に逃げた方が確実なんだから。






「あったよ……」






半分呆れる俺の眼下には、オークの死体とその下で怯える警察官がいた。


公園にうつ伏せで倒れ伏しているオークがいたので様子を見ていたら、どうやらオークの死体の下に警官が潰されているのに気付いた。


なので、念のため他のモンスターがいないことを確認にしつつ、気をつけながら近づいてみた次第である。






「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」






で、この有様。


こいつはさっきからずっと半狂乱で謝り続けている。


多分さっき聞こえた銃声の主であろうが、もうこの謝りっぷりだけで頼りたくないと思わせるに十分だった。


ついでに、オークにいくら謝っても襲われるだけだと思うぞ?


害意のある動物に弱みを見せてどうするというのか。




あ、それとも何か?


まさかモンスターを殺したことへの贖罪なわけ?


もしそうなら、さっさと死んでおけよ。


人以外の命を大事にするなんて、生きる上で余裕のある内だけだ。


今は事実上の戦時下。


死にたいならともかく、死にたくないのに他者の命を優先するなんて馬鹿げてる。


俺からすれば、青い血のオークは果たして食べられるのか、くらいの検討しかない。


俺は、あの類の狂信的偏食者とは気が合わないのだ。




具体的には、田神!




アイツとは、初対面から馬が合わないと確信したものがあった。


喧嘩らしい喧嘩は無かったが、決して仲良くなるなどあり得なかった。


それに似た不快な印象を、俺はこの警官に抱いている。






「おい、アンタ」




「ひいいいい!」






……普通に声掛けて悲鳴をあげられる、なんてことが実際にあるとは。


こいつ本当に警官か?


コスプレとかじゃないか?






「おい、大丈夫だ。今ここにモンスターはいない」




「もももももももももももももんすたー!?」






それよく噛まなかったな。


すもももももももものうちも余裕で言えそうだ。


それか、往年のヒット曲か、ポップでティーンなカラフルシンガーの歌をDJ風味で言いたいのかもしれん。






「はぁ……とりあえずオークどけるか」






話にならないので、まず、コイツにとっての恐怖の対象であるオークの死体を起こしてから横に倒してどけてやる。


重さは、1人でも動かせられる程度。


全身を持ち上げるのは無理だが、まぁ、太った人並みといったところだろうか。






「うごうごうごうごいたあああ! 豚か動いたあああああ!」






ウゴウゴうるさい奴だな。


そんなにウゴウゴルーガでも見たいのか。


というか、こいつ若いが知ってるだろうか。


知るわけないか。


後、お前制服血塗れだな。


俺は、スーパーで手頃なロンTを頂戴して着替え済みだし、体もペットボトルの水で流したからサッパリしているが。






「それはともかく」






俺はオークに向き合う。


さっさと始末しないと、このオークも進化してしまうはずだ。


なので、リュックから包丁を取り出し、迅速に腹をさばく。


ブスッと刃を入れた手応えは、ゴブリンより肉厚だが、開くのは何とかなりそうな程度。


しかも、幸い立方体は腹の浅いところに位置しており、そこまで難儀はしなかった。


これで、2種類のモンスターについては、腹に青い立方体があると確認できたのは有難い。






「ひいいいいいいいいい! 食うのか!? 食っちまうのか!? うぷ……おええええええ……」






その場で蹲り吐き出す警官。


血肉の赤や腸だらんに吐き気を催したらしい。


だらしない。


後、今のところ食う気はない。


そういうのは、もう少し余裕がなくなってからか、逆にとても余裕あって検証したくなった時でいい。






「さて……実際どうなるのか」






青い立方体を前にし、姿勢を正す俺。


赤鼻では結局破壊しなかったからな。


立方体を破壊して、目論見通りにモンスターを殺し切れるのか確認するのは初めてになる。


ノーリスクノーコストで検証できるのは有難いが、何が起こるのか分からないのは些か怖い。




チラッと警官を見る。


怯えて動けない弱々しい男。


……ふむ、いざとなればいい囮になるな。




俺は、安全を担保できたと判断し、包丁をリュックに仕舞い、代わりにメイスを取り出して振りかぶった。






「どりゃ!」






そして、躊躇なく立方体に向けて叩きつけると、結構軽く粉砕出来てしまう。


俺としては、何度か叩きつけるつもりだったが、どうもこのメイス、振った勢いと実質ダメージに差がある気がする。


これも後で確かめる必要ありか。


もし、攻撃力補正があるなら、とても役立つ武器かもしれない。


一方の立方体はと言うと、完全にバラバラ。


直すことは、普通に不可能だろう。


これ以上砕くにはハンマーで念入りに、ってことになるが……






「うおっと!」






そこで、突然目の前で起きたファンタジーさに驚く。


立方体が壊れて、僅かなタイムラグの後、オークの体が濃い灰色の煙に変わってきていたのだ。


そして、オークからぶわああっと舞い上がった煙は瞬く間に散っていく。


見れば、オークの持っていた槍や胸当ても煙に変化しており、数秒後には、周辺からはオークの痕跡が何もなくなっていた。






「おー、こんな感じになるのか」






今起きた現象に、俺は感心してしまう。


モンスターは、殺し切ると綺麗サッパリ何も無くなるらしい。


見れば、警官に飛び散っていた血痕もなくなっているし、見事な跡を濁さずっぷりだった。


これなら、今後血が自分に跳ねても何とか出来るだろう。


省エネで何よりだ。






「あー、となると俺のメイスも赤鼻が消えたら無くなるってことか」






このゴブリンメイスも中々にファンタジーな代物みたいだしな。


出来れば手元に残しておきたい。


特に立方体を壊すときにはとても便利だ。


赤鼻は動けなくしてきたけど、あいつはどんな消滅の運命を辿るのかね。


まぁ、今のところは実体があるわけだし、使えるところまで使っていこう。






「きききききききききききえた! 豚消えた!豚消えたああああ!」






で、どうしようかなこいつ。


まともに話が出来るのかね。


出来たとしても、何となく凄く疲れてしまいそうな気配があるし、あんまり関わりたくない。






「よし」






俺はすぐさま決断し、速攻でその場を後にする。


警官と言っても、こんな体たらくを晒す奴と一緒に居るなんて嫌だ。


こんなんが何かの役立つわけもないし、俺は最初から誰もいなかった事として、自転車に跨っていた。






「ちょちよちょちょ! ちょっと待ってくれ!」






後ろから、俺を引き止める声がする。


でも待たない。


お前はここにいないのだ。


だから、空気を見る芸当のできない俺は、さっさと立ち去るのみ。






「頼む! 頼むから話を! 話を聞いてくれよぉお!」






知らん。


何か後ろから全速力で追いかけられている気がするするが知らん。


俺に、頼りない警官の知り合いはいない。






「何でもするから!欲しいものも何でもあげるから! 頼むから! 」






キキッーと、自転車を止める。


そして、振り向いて警官を目視してから聞いてみた。






「拳銃は?」




「え? え?」




「拳銃は貰えるのか?」




「あ、いや、流石にそれは……」






俺はまた走り出す。


今度こそ何の声も聞こえない。


何やら気のせいか、「それ以外なら何とかするから! 制服ならいいから!」とかよく分からない音が聞こえた気がしたが、まぁ気のせいだろう。


今ここに警官はいなかった。


ただ、それだけのことだ。


俺は、そのまま綾○警察署へと急いだ。








後ろからの妙な音も聞こえなくなって少し、俺は警察署のすぐ近くまで到着した。




だが、一切声は出せない。




俺は静かに静かにこっそりこっそり、近くにあるラーメン店と松○を見比べ、松○を選択して店内に侵入する。


入り口は、無理やり開けたら開いたので問題ない。


やれやれ不用心だな。


そして、すぐにカウンター内に引っ込み、一度キッチンにてライスとカレーを注いでから、またカウンターから警察署の方を伺うことにした。


うん、温いけど安心の味。






「しっかし、参ったね」






我ながら軽い行動と口調ではあるが、ちゃんと理由はある。


というのも、俺は半ば諦めてしまっていたのだ。


何しろ視界に入るモンスターの数には、乾いた笑いさえ漏れ出てしまう。


はっきり言って異常。


ぶっちゃけ有り得ない。


何しろ、眼に映るモンスターの数が尋常ではないのだ。




その数、1000は下らない。




しかも、大小種族も様々なモンスター達が、綾○警察署をガッツリ取り囲んでいるのだ。


あんなもんどうしろって言うのか。


人間を幾らかき集めても、どうにかなる軍勢な気はしない。


それでも仮にどうにかするとして、最低倍以上の人数かつ、そこそこの訓練と装備が必要になるはずだ。


でなければ、デカい奴らを主体に軽く薙ぎ払われるだけだ。


俺は、これが最後の晩餐か、と嘆きながら、大いにカレーを口に掻き込むのだった。




……いや、最後はハンバーグを頂こう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ