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精神の安定は大事だ。

「うわぁ……」






外に出た瞬間の俺の言葉である。


スーパーからだと外を伺い知れなかったし、そこまで気にしていなかったのだが、いざ外に出てみると、なかなかの地獄的光景が広がっていた。




まず、目に付いたのは道路の陥没。


それが散見できてしまい、穴の箇所の幾つかに血痕というか、血溜まりくらいの量があった。


なのに、死体らしい死体は確認出来ず、よくよく見回してようやく、腕一本が転がっているのが見えただけだ。




つまり、そういうことだろう。




俺は手に持つメイスを無意識に握りしめて、更なる状況確認に挑む。


人食いに出会さないように、ゆっくりこそこそと歩き、近くの公園だとかを伺い見たり、駅のホームやら、スーパー以外の店の中を覗いたりする。




今のところ、異常なし。




正確には大変な異常というか、あちこちに真っ赤な世界が広がっていたり、何よりも駅向こうの区境には、例の巨大な壁が鎮座していたりするのだが、そこは敢えて異常とは認識しないことにした。




精神の安定は大事だ。




デンジャー血塗れ空間もあるのに、あんなインクレディブルーな壁に関わって良いことなんて絶対ない。


俺の危機感知センサーも、あの辺は確実にヤバいと告げている。


こういう勘は大事にするべきだ。






「むしろ、何時間もスーパーが無事だったことの方がおかしい」






惨劇といって差し支えない駅前の有様に、俺は今まで自分が五体満足にいられたことに違和感を覚える。


スーパーの中にいても、それらしい騒ぎも聞こえなかったし、特に振動みたいなものも感じてはいない。




……まぁ、多少赤鼻の検証に集中し過ぎた自覚はないでもないが。




どうあれ、モンスター共がスーパーに攻め込んで来なかったのは不自然だ。


あんな食料の宝庫に、敢えてモンスターが入り込まない理由がない。


人間は言わずもがな、モンスターだって率先して襲うべき場所だろう。


可能性だけで言うならば、或いはモンスターには、それなりに縄張り意識でもあり、一応は一番乗りしただろう赤鼻ゴブリンのいたスーパーには近づけなかった、みたいな事があるかどうかだ。






「次から次へと、確認しないといけないことが……」






本当にウンザリしてくる。


いくら答えを出しても、新しい問題が倍々ゲームで増えていくなんて過剰労働甚だしい。


俺はそんな余裕ない世界なんて御免だ。






ササッ




「ん?」






そこで、背後から何やら音がしたので、振り返ってみる。


が……そこには、何もいない。


ただ、鶏肉のケンタさんがあるだけだ。


俺は、とりあえずそのまま開けた通りを進むことにする。






サササッ




「………っ」






また音がしたので、少しタイミングを外して振り返る。


……だが、何もいない。


なので、俺はすぐに開けた通りから細い路地に入る。


そして、角になったら曲がり角になってら曲がりを繰り返してギザギザ路地を歩いていった。


そうしている内に、途中から音がしなくなり、俺はどうやら逃げ切れたと理解した。






「……何か、いたな」






こんな時に、気のせいで済ませられるほど、俺の神経は太くない。


むしろ何かいると思って然るべきだし、もしそれが弓兵タイプだったら、俺は自分でも気づかぬ間に絶命していたかもしれない。






「隠れるタイプもいるのか……厄介だな」






赤鼻タイプみたく、自己主張の激しいやつだけなら逃げる分には容易い。


デカイだけなら、相手の通れない場所歩きにくい場所を通り、ゴブリンだから撹乱陽動も容易だ。


しかし、逆にこちらを捕捉して動きを読んでくるタイプがいるならば、次の瞬間には、俺は知らずに詰んでいるかもしれない。


追っているつもりが追われている。


逃げているつもりが囲まれている。


そんな気付かれない罠に嵌める事こそ、狩りの常套手段と言えるだろう。


簡単に巻ける程度だから、そこまで高い潜伏力ではないだろうが……






「どうする、スーパーに戻るか」






思った以上に、外の危険指数が高まっている。


だったら、籠城も悪くはない。


スーパーなら食品には当分事欠かないし、眠る場所もある。


ここまで人がいないのなら、スーパーはパラダイスに成り得るだろう。






「……いや、ダメだよな」






俺は、頭をよぎる甘えを早い段階で打ち消した。


気の置けない人員があと何人かいれば、それも有りだっただろう。


見張りも出来て、窓や玄関の封鎖にも人数を充てられる。


モンスターに対しての攻撃力も増加する。


逃げるにしても、生存確率は大幅に増加する。




だが、俺は言わずと知れたボッチマイスター。




広い範囲を見張れもいないし、入り口になりそうな窓全部にDIYするなんて時間がかかり過ぎだ。




外が、朝時点のただのゴブリンだけが闊歩する状態だったら考えた。


でも、現実はかなり命の危険を感じる。


陥没跡があったということは、2段階目3段階目のモンスターも、既にロールアウトしている可能性が高い。




なのに単独引きこもって、もしも、モンスターがもう少し纏まった数で攻めてこられたら、俺は死ぬ。


一体を相手にしている間に、横や後ろから殺される。


そうでなくても、ゴブリンシャーマンのように魔法で、物体を動かす奴もいるのだ。


中途半端なバリケードなんて、基本的に意味を成さない。


結果、気を抜いて大丈夫だと安心した区画で殺されてしまうだろう。






「俺は、この時間まで運が良かった」






嘘偽りなく、その通りでしかない。


でも、幸運なんてそう長く続くはずもない。


俺は意識を改めるよう心に言い聞かせることにした。






「まずは、自転車だな。見つかっても逃げ切れるだけのスピードは必須だ」






何とは無しに、さっきから独り言が多くなっている。


いかんね。


心細さ不安が表面に現れているみたいだ。


あんまりお喋りだと、モンスター達から大人気になってしまうじゃないか。






「……笑えないな」






俺はとにかく、スーパー側に放置しといたクロスバイクを回収してから、すぐにその場を離れることにした。






(しかし、どこに行く)






差し当たって、どこが生存率が高いだろうか。


とりあえず整理のためにも、頭の中に羅列してみる。




・東京武道館


・区役所


・公民館


・警察署


・東京電機大学


・自宅


・ミッチー宅




ざっとはこんなところ。


ミッチー宅を入れたのは、まぁやっぱり気になるから。


占拠された自宅を案に入れたのは、ゴブリンを単独で制圧することが出来るなら、精神的安定を担保できるからだ。






(現実的には、区役所か警察署か)






ちなみに、一番近いのは武道館なのだが、駅前で惨劇なのだから、この辺で人の集まりやすそうな場所は返って怖い。


地震などの災害があっての避難所としては、人を多く収容できる場所は便利だが、明確な害敵がいる中で、大した武力もない人の集まりは、格好の獲物だ。


死体がない以上、人食いは必然。


ならば、モンスターからすれば、そこは食料倉庫でしかない。


中に入ってみたら血塗れ食人祭とかマジ勘弁だ。






(順当に警察署にしよう)






なら、案としては、綾○、北○住、竹○塚、西○井……


まぁ、一番近いから綾○警察署でいいだろう。


俺は、北へと向かう方向を定める。


そして、メイスをリュックに縦に捻じ込んでから、自慢の愛車を走らせた。


……メイス長くて邪魔で走りにくいな。


捨てる気は無いけど。






「んー、これは


ひどい」






道路を堂々真ん中を走りながら、街を様子を眺める。


そこには、見慣れた光景はなく、半壊したマンションや、今も燃えている家などが目に入る。


道路もやはり荒れ果てていて、自転車だと真っ直ぐには走れなくなっていた。






「なのに、誰もいない……」






そこそこ大きな通りを進んでいるのだが、人っ子一人、モンスター一体見かけない。


車だって通っていない。


人は、どこかに引きこもっているのかもしれないが、燃える家まで放置するだろうか?


前情報もなく迂闊に外を出歩くのは怖いだろうけど、誰も見かけないのは異常だろう。


……もしかしたら俺の知らない情報があるのかもしれない。




これも、引きこもっていた弊害か。




しかし、モンスターまでいないのはどういうことか。


まさか、知らない内に殲滅されたとか、みんな仲良く居なくなった、なんて愉快なことはないだろうし……






「げ」






綾○警察署が近づいてくると、ようやくというか、モンスター一体を発見する。


居なくなった想像をしてから、即出てくるなよ。


居ないって思ったのがフラグみたいだろうが。


俺はすぐに物陰に隠れ、モンスターの様子を伺う。






「……オークか」






ついに、ゴブリン以外の第一モンスター発見。


見てくれは正にオーク。


豚っ鼻で胸あてをしてる槍使いさんだ。


背丈は、2mというところ。


うん、竜探しRPGっぽい。


近い内に青色のオークキングが、蘇生呪文でも唱えてきそうな勢いだ。






「ブヒ?」






すると、突然オークが正に豚らしく鼻を鳴らす。


その動作は、普通に考えれば何かの匂いを嗅ぎつけたからで……






(やべ。豚って鼻利くんだわ)






俺は早々に自転車を走らせ、その場を離脱する。


戦うにしても、槍となると分が悪い。


もっと射程の長い武器が欲しいところだ。


銃とかね。


それに、仲間でも呼ばれたら一大事。


複数体のオークとか、くっころさんになっちまう。


俺は、迂回しながら警察署へと急ぐ……としたいのだが、何だろう。


急にモンスターエンカウント率が上がってきた。


大きい道路にも細い路地にもオークやらホブゴブリンが目につく。


それぞれが3体人組の行動をしており、安易に攻撃を仕掛けることも出来ない。






(最初の1体も、すぐそばに2体いたなこりゃ)






1体だけとたかを括らなくて良かった。


多分殺し切る前に、横からブッスリ行かれてたに違いない。


まだ、運は良いみたいだ。






(しかし、どうするか……)






これでは、警察署まで辿り着けない。


というか、数めっちゃいるし。


モンスター軍は、全部でどれほどの勢力なのやら。






(あんまり無茶して進んでも、オークの鼻に捕捉されたら逃げ切れなくなるしな……)






「ブヒ!?」


「ブヒヒ!」


「ブヒッヒー!!」






そこで、突然オーク共が三体揃って鳴き出す。


そして、一斉に北上し始めた。


物陰から辺りを眺めていると、それ以外のオークやホブゴブリンも北へと走っていくのを確認する。


俺は、自身が襲われそうになっていないか周囲を気にしながら、モンスター共の行動を注視していた。すると






パァーン!!






どこからか微妙に間の抜けた銃声が辺りに響いたのだった。



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