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検証しますか

はい、では続いてですが、階段に挟まったゴブリンという大変珍しいものが見られる、ということで、階段なんて広い場所に挟まるという状態なのか、よく分かりませんが、一体どういうことなのか。現場に鏡さんがいます。鏡さ〜ん?




は〜い、鏡です。


私いま、駅前のスーパーにお邪魔しているんですが、こちらに何とも珍しいものがあるんです。


では早速、こちらをご覧下さい。




非常に悔しそうな顔を浮かべております。




というのも、ご覧の通り、物の見事に階段に嵌って動けなくなっているからなんですねぇ。




何でこんなことになってしまったかというと、5階フロアから、何とか私を追いかけようとして、助走を付けてまで無理矢理に狭い場所に入ってしまったためだったのですが、残念ながら勢いが足らず、また、思った以上に体格と階段の幅のサイズがピッタリだったために、こうして身動きが取れなくなってしまった、ということなんです。


その後も、しばらくジタバタ動いてはいたのですが、どうやっても出られないと自覚したのか、今はこうして顔を歪めるのが精々といった状況です。






鏡さ〜ん? その、全く動けないということですけども、今後はどのようにする予定なんですかぁ?






はい、今後については、今のところ未定なんですが、既に調査の方は行われておりまして、火、水、裂傷、打撃などの刺激を与えてみたものの、その反応は人間とさほど変わらないということが分かっています。


それ以外にも、検証できそうなことを随時行っていく方針です。


以上、現場の鏡でした〜。




はい、ありがとうございます〜。


いや〜、見事に嵌ってましたね〜。


たまに、海外とかでは、建物の隙間とかに入ってしまい出られない、みたいな話もありますけども、まさかのゴブリンが嵌るなんてのは、これ世界初なんじゃないですかね。


いや、何にしても注意したいところです、ね。


はいでは、続いての話題に参りましょう。






「なんてこと言われちまうぞ? どうする?」






暇なので、ゴブリンを前にして実況ごっこをしてみるが、あんまり面白くはなかったので、早々に切り上げる。


赤鼻は、フスーフスーと息を荒くしており、さっきからやってる検証に対して激しく憤りを覚えているようだった。




そりゃまぁ、動けないとこにチクチク痛めつけられてるんだから反論も不満も幾らかあるだろう。


我ながら拷問めいているのは理解しているが、別に俺だってやりたくてやってるわけじゃない。


勿論楽しいわけでもない。


とはいえ、分かりやすく弱点とかがあれば、今後の対応も変わってくると思い、不承不承ちまちま実験を重ねていた。




ちなみに、今はガムテープで鼻と口を塞いで反応を見ているところだ。


解剖時に肺と血液は確認しているので、酸素か何かを取り込んでいると考えたわけだが、まぁ、緑顔を更に深緑に変えて、苦しげに顔を歪めて首振ってイヤイヤしているので、空気中の何かを摂取しないと死亡するだろう推論を立てることができていた。


とまぁ、こんな感じのことを、ざっと3時間かけて検証しているわけだ。






「んー、次は食の好みかなぁ」






何を食べ、どのような味を好むのか。


アルコールには酔うのか。


それ以外にも体の毒になるものがあるのか。


こんなのも何かの参考になるかもしれない。




などと思案していると、赤鼻が更に顔色深い緑にさせて、ぐいんぐいん首を激しく動かし始めた。


おっと、本当に呼吸困難に陥ってるな。


あぶねーあぶねー、つい考え事して検証前に殺しちゃうとこだった。






「悪い悪い。苦しかったな」






俺は無造作に口と鼻からガムテープを剥がして、呼吸できるようにしてやる。


すると、ゼハゼハと息を荒くして、やはり俺のことを憎々しげに睨んでいた。




知らんがな。




ちなみに、ジタバタ動く腕は、最初にメイスで左肩を集中して損傷させて腱を断裂? 粉砕? させているので、当面は動かないだろう。


傷をつけた際の回復力も、人間とそこまで変わらないみたいなので、事実上無力化出来ている。




で、何故わざわざ腕を上がらなくしているかと言うと、身動き取れなくなった当初、コイツはいきなり思いついたように、勝利を確信したような笑みを浮かべて、「ゲーギャ」とか、シャーマン時と同じ言葉だかを口にしたものだから、俺は思い切り激しく焦らされてしまったのだ。




あの時は、油断して目と鼻の先くらいの距離に陣取っていたので、場合によっては命に関わる事態になってかもしれない。




だが、結果的には、どうやらシャーマンの杖や、多分俺の持っているメイスだかの外部デバイスがないと魔法を発動できないらしいことが分かり事なきを得たのだが、もしも、を考えると洒落にならなかったと反省している。




え?


腕を上げられなくした答えになってない?


いや、だって検証に邪魔だし、それに俺すごく怖かったんだよ。


だったら、ちょっとくらい虐めてしまっても仕方ないじゃないか。






「さて、なら食べ物を取ってくるかね」






俺は、赤鼻を気にせず普通に移動を開始する。


一旦5階から6階へと階段を上がり、フロアの中央にあるエスカレーターから下に降りる。


店内は、照明のつかずに薄暗くなっているので、足元には注意が必要だ。


多少窓からの光は入ってくるが、ほんの少ししか採光はなく、動くものも自分以外はいない、何とも妙な静けさに包まれていた。






「しかし、人が来ないな」






俺は未だに静かな店内に居座っているのだが、そろそろおかしいと思い始めていた。


時間は、そろそろ11時になる。


色々検証に夢中になってしまい時間の経つのを忘れていたのだが、その間、店内では特に騒ぎが起きてはいなかった。


相変わらず、人もモンスターも来ずに静寂に満ちているままだ。




おかげで、難なく物品を集めたり、改めて飲食物をリュックに詰める余裕もあったのだが、それにしたって他の皆様の行動が緩慢過ぎやしないだろうか。


これは、きっと外で何かが起きている証明のような気がした。






「そろそろ、俺も動いた方がいいな」






多分店の外は、あまり良いことにはなっていないだろう。


人がそう簡単には外を出歩けない状態、と考えれば相当よろしくない気がする。


つい引き篭もっていたが、情勢に乗り遅れてしまうのは不味い。


単独で生き残るのもいいが、やはり可能なら元の生活水準に戻りたいのが本音。


人が集まれば、また別の方針が出てくるだろうし、警察や役所あたりは率先して、過去回帰のための統治に動いているはずだ。


緊急時だからこその、人のまとまりに是非期待したい。


後、その拠点に行って現況を確認、必要があればモンスターの種類や撃破方法についても共有しておきたいというのもある。






「じゃ、仕上げといこうかね」






俺は、地下から食べ物やらアルコールを、カゴ2つに目一杯入れて、また赤鼻のところに戻ってくる。


そして、思わずニヤリとしながら、赤鼻ゴブリンにキャベツを差し出していた。






「さ、お食べー」






その時の、赤鼻ゴブリンの顔はなかなか忘れられないものだろう。


散々痛めつけられていたのに、急に明らかな食べ物と分かるものを、にこやかに出されているのだ。


どう考えても罠としか思えまい。


その顔は恐怖に歪み、カチカチと歯を鳴らすほどに怯えていた。




いや、むしろお前が人間に恐怖を与えるモンスターだよな?


……俺は別に恐怖の象徴になったつもりはないのだけど。






「不満そうにせずに、ほら食え!」






俺は無理やりゴブリンの口にキャベツ丸ごと一個を押し付ける。


必死口をイヤイヤさせて閉じたままにするが、そこを強引にねじ込んで食わせてやった。


そして、もはや口に入ったことで諦めもついたのか、それとも食べられるものと認識できたのか、赤鼻は次のキャベツからは従順に口を開けるようになっていた。






「ほれ、次はこれもいっとけ」






次にアルコールだ。


持ってきたのはウィスキーの、それなりに度数の高いやつ。


他にもウォッカもあったので数本持ってきている。


赤鼻は、アルコールの匂いに最初こそ嫌そうな顔を見せたが、また無理やりに瓶ごと突っ込んでやると、案外悪くない、むしろ良い。みたいな流れで、次々とウィスキーの瓶を空けていった。






「ほれ、キャベツをツマミにしとけ」






甲斐甲斐しく、キャベツを差し出しては酒を呑ませる俺。


赤鼻も大分興が乗ってきたのか、ふらふらになりながらも自ら口を開いて、酒とキャベツを求めるようになっていた。




そして……






「ウゴッ!? アガ……ガアッ!?」






赤鼻は、酩酊しながら、苦しそうに泡を吹いていた。


ようやく体に不調が出てきたらしい。


キャベツと酒に混ぜて有害物質を摂取させてみたが、やはり市販品のせいか結構な量が必要になったな。


持ってきた分、殆ど飲み食いさせちゃったし、なかなかの大食漢だ。


なぜキャベツだったのかと言えば、朝キャベツをぶつけられた意趣返しに、キャベツに殺鼠剤を混ぜ込ませていたためである。


でも、それだけで命を落とすわけでも無さそうなのは残念なところか。






「とはいえ、殺鼠剤は僅かに効果あり、と」






俺は淡々と事実を口にする。


所詮、市販品だしな。


元々過度な期待はしていない。


ああ、それとも、いっそ殺虫剤の方が良かっただろうか?


人を含め動物には基本効力はないが、もしかしたらゴブリンには効力があったもしれない。


……いや、結局は殺ゴブリン剤にはならんか。


検証というより、仕返しの意味合いが強いのは自分でも理解しているから、娯楽はこの辺にしておこう。


まぁ、分かりやすくトリカブトだのシアン化合物だのがあれば良いんだけど、手元にないものは仕方ないしな。






「んー、じゃあ、いい加減外に出たいし、検証はこれで仕舞いにしとくか」






スーパーにあるものでの科学検証なんて限界があるし、俺に専門の知識があるわけでもない。


分かりやすく弱点が見つかるに越したことはなかったが、そんな都合のいいものは生憎見つからなかった。




でも、分かったこともある。




ゴブリンは、刃物で刺せば刺さるし、火に強いわけでもない。


骨格があれば内臓もある。


人間との違いは、心臓か青い立方体かの違いがあり、他、進化と蘇生の能力、それと個体によっては魔法を扱える、けれど低知能な生き物というのが、今のところのゴブリンの総評だ。




他種族は、また別の検証が必要かもしれないが、同じ時間同じ環境での出来事なわけだし、知能の高低や種族としての基本能力はともかく、立方体を体内に持っているという点は、多分変わるまい。






「で、最後にコイツの始末だが……」






実際どうするか。


散々協力してもらって、更に殺し切るというのも恩知らずな気もする。


かと言って、生かしていて何か良いことがあるか、と考えても特に何もない。




ぶっちゃけどうでもいい。




このまま動けずに死んでもいいし、結果的に減量になって抜け出しても構わない。


なら、いっそ仲間に引き込むか?


馬鹿だし何とでもなる気がする。


……いや、仲良くなっても所詮はゴブリン。


すぐに裏切るかもしれなければ、そもそも仲良くなったこと自体を忘れる鳥頭オチを迎える可能性がある。


これは、却下だな。




逆に、今回のことを根に持って復讐とかにやって来るだろうか。


これは無くは無さそう。


嫌なとこだけ記憶力良さそうな気がしないでもない。


ゴブリンとはそういう憎たらしいイメージだ。






「よし、殺そう」






憂いは断つべき。


かのゴブリン殺しさんも、ゴブリンは容赦なくキルしておった。


ここは、前例に習うのが後陣の義務。


丁度、酔いと毒が回って意識なくなってるしな。






「……でも、どうやって?」






そこで、ふと気付く。


殺すのはまぁ出来る。


頭をメイスでカチ割ればいい。


これは簡単だ。


寝込みを襲うわけだし、そもそも動けないし楽勝である。




が、その後どうする。


こいつらは、おそらく青い立方体を破壊しなければ殺し切れない。


近く蘇生するのは間違いないだろう。


しかし、コイツは今この馬鹿でかい図体を階段に挟まれて動けず、かつ立方体のある腹部は壁を向いてて簡単には届かない。


メイスではとても無理だ。




なら、横っ腹から突き刺す?


そんな都合のいい槍もなければ、仮に包丁で細かく削っているうちに、蘇生して更なる進化を遂げられてしまう公算が高い。


だったら、殺さずに腹を包丁で抉っていく?


いや、その場合も出欠多量なり別要因で死んで、進化してしまうだろう。




いっそ焼くか?


油はあるし、焼きゴブリンなら何とか出来そうな気がする。


でも確実性にはやや欠ける。


火の勢いで、個体を焼き尽くすには、どの程度の温度が求められるだろうか。




そして、もし仮に、殺し切ることに失敗した場合はどうなるか。


不確定要素しかないが、流石に次こそは強くなり過ぎてしまい、 知性も次こそはマシになるかもしれない。


となれば、搦め手が全く通用せずに真っ向勝負になってしまうだろう


しかし、どう考えても腕力で勝つには、こちらも重機なり機械的なアイテムが必要になる。


今、そんな手持ちはない。




そう考えれば、ホームセンターにいつか行く必要があるだろうか。


チェーンソーとか持って、ジェイソンせねばならない日が来るやもしれん。


やや話が逸れた。


何であれ、とてもじゃないが単独でそんなリスクは負えないだろう。






「いいや、もう面倒だ」






ゴブリン、俺はもう疲れたよ。


何だかとっても眠いんだ。


俺はもう、これ以上ゴブリンと付き合いたくなんてないんだから。




というか、俺の人生における生き物との連続関わり時間で、もしかしたら、この赤鼻ゴブリンが既にトップかもしれん勢いだ。


何が悲しくて、一番同じ時を過ごした存在がゴブリンだなんて結果を認めねばならんのか。






「よし、放置!」






色々面倒になったので、俺は赤鼻ゴブリンを放置することに大決定。


痩せるまでの、せめてもの時間稼ぎに、肉だの野菜だの酒だのを、手の届く範囲に置いといてやろう。


腕が壊れてるとはいえ、かなり近くに寄せときゃ何とかなんだろう。


これでもモンスターなんだし。




俺は、もう一度1階と5階とを往復して荷物を運び、自分の準備品を確認してから、スーパーの外へと出たのであった。

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