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第二話「決着と遺恨」

「俺はレアン。お前らは?」

「名乗る分には良いけれど、その前に一つ良い?」

「なんだい?聞いてあげるよ」

「彼女と、僕が背負ってるこの人を逃してからでも良い?」

 レアンはクヒッとした笑いを見せ、それを許可する。メルティに金髪の青年を託し、奴らの前に立つ。

「決着と遺恨」

「俺はレアン。お前らは?」

「名乗る分には良いけれど、その前に一つ良い?」

「なんだい?聞いてあげるよ」

「彼女と、僕が背負ってるこの人を逃してからでも良い?」

 レアンはクヒッとした笑いを見せ、それを許可する。メルティに金髪の青年を託し、奴らの前に立つ。

「ヘクター・レンジアです。早めに済ませよう。森の天気は変わり易いからね」

 その場にあった細くも丁度良く太く、とても硬い木の棒を手に取る。メルティは大声で僕に伝える。

「ヘクターー!!!!!負けないでね!!!!!!」

「うん。すぐ合流するから」

 すると、女の方が前に出てきて、懐から出した一つの弾丸を親指の上に軽く乗せる。

「アタシはベル・ディジー。これを上に投げる。落ちた瞬間を合図にしようか」

「姉貴は後ろで見ててくれ。俺一人でやる」

「すぅ……はぁ……」

 大きく深呼吸する。精神を、乱さないように。

「行くよ」

 カンと歯切れの良い金属音が森中に小さくも鳴り響く。頬を伝う冷たい微風が揺らぐ。森狭間から小さく見える鹿たちも此方を覗く。足腰を固めると、積雪の塊が少し崩れ、昨春の名残が露見する。トスと鈍く静かな音がした。火蓋は切られた。

「先手必勝!!!」

 レアンは正面から右手に付けた鉄の爪で切り掛かってきた。だが、体を傾け、右手を押してやる事で軌道を逸らしてやる。すると足元に僅かだが痛みを感じる。追撃は上手く躱し、咄嗟に距離を取る。

「足にも爪を付けているなんて…」

「用意周到だろ?気付いても俺のスピードに着いて来れなきゃなんのその、だぜ!!!」

 レアンは華麗に回転し、加速した左脚を乱暴に振り払う。僕は右腕とそれを支えるもう片方で攻撃を耐える。これでもかなり衝撃が来る。生じた隙。持ち前のスピードで僕の左肩を掴み、鳩尾を思いっきし殴る。耐え難い苦痛に思わず悶絶する。

「まだまだぁ!!!!!!」

 更に二発、三発と打たれた。だが、こんなので敗ける僕じゃ無い。

「な…に…?!」

 殴るはずの腕を掴み強く握る。ミシミシと音を立てて、彼の腕は警鐘を鳴らす。

「痛ぇぇぇ!!!!この野郎ッ!!」

 蹴りを受け、また距離が開く。だが、好都合。この中途半端に遠くも近くも無い間合いは…

「僕の間合だ」

 木の棒の柄でお返しの鳩尾。更に足払い、からの顳顬への攻撃。レアンは軽く回転しながら吹き飛び、指で雪を裂きながら徐々に速度を落とした。

「棒、使ってねぇじゃねぇか」

「君だって、爪で殺せたのに止めたよね。"おあいこ"だよ」

「うるせぇ、マジで殺るぞ」

 勢い良く爪を振るう。振るう。何度も振るう。今度は怪我を負わせる気満々のようだ。だが、これは逆に悪手と取れる。乱雑な攻撃の連続は返って隙を作り易い。決着を付けよう。

「喰らえ!!」

「そこまでッ!!!!!!!」

 ベルがそう叫ぶと、レアンの頭を思いっきし叩いた。俗に言う拳骨と言うやつだ。

「もう十分彼が強くて、難民でも貧民でも無いことは証明されたじゃない。怪我でもしたらどうするの?」

「痛ぇよ姉貴、、だって、だって、姉貴にカッコ良いとこ見せたいじゃん…!」

「はいはい、気持ちは嬉しいけどね。ヘクター君、ごめんなさいね。レアンには後でキツく叱っておくから」

「なんで?!!」

 そんな割と仄々とした会話をしていると、遠くで悲鳴が聞こえる。甲高く、跳ねのある特徴的な声。間違いない。あの声は…

「メルティ!!!!!」

 僕は強く地を蹴り、急いで森中を駆ける。時には木々を跳ね、飛び移ったりしながら声の方へと向かう。

 

「助けてぇぇぇ!!!!!!!」

「うるせぇ、小娘が。大人しくしねぇと顔に傷が付いちまうぜ?」

「この青年、まだ起きないっすね」

「そいつ多分死んでんぜ。土に埋めときゃ良いよ」

「早く馬車に積むぞ。そっちは何してる!?」

「人を埋葬してるっす」

「うっす」

「馬鹿!とっとと手伝え!!!コイツ強情で延々と喚きやがるんだ。喧しいったらありゃし…」

 ドンと大地を潰すような音が轟く。白い土煙の中に、ゆらゆらと揺れる影がほんのりとだが映る。

「誰だ?!」

 その声を発した刹那。賊の頭の、端から端まで手で包み、地面へ叩き落とす。後頭部を強打したから、少なくとも気絶レベルだろう。

「お頭!?お頭!!!」

 次から次へと始末する。この霧が絶えぬ内に。今だけは僕の方が上の立場だ。

「な……?!」

 一瞬、何故か体から力が抜け、体勢が揺らいでしまう。僕の肩には小さい空洞の痕跡があるのが分かる。だが、何だ、何が起こった。何が何だか分からない。

「あ゙あ゙あ゙お゙ぁぁくっ…があ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 見知った少女が叫喚する。最早雄叫びに近しいだろう。それはとても痛々しく、生々しく、惨ましく、呶しい声。時たま聴こえる苦痛を噛み締める声も相まって、聴くに絶えない。

「メルティ!!何処!!?今行くから!!!!」

「おっと、そこまでだぜ?」

 霧が散る。賊の男が少女の首に、ナイフを当てる。彼の背後にも数人。見た事のない現代兵器を此方へ構え、向けている。問題はその少女だ。先程の声は何だったのか。その答え合わせが、こんな無慈悲な物であったとは。

「メルティ……目が………」

 彼女の左目には一矢が刺さっていた。滴る血、なんてものじゃない。湧水の如く溢れ出し、涙と血が混ざり合っている。人の所業とは思えない。

「一矢報いたってか?ウェルダン」

「そうみたいだな」

 馬車の方からスタスタと出て来る耳の長く、薄緑髪の青年。此奴の手には、弓があった。大層強力な魔道具と言って差し支え無い華美な装飾を遇らえている。

「取引だ。この少女を殺されたくなきゃ、今すぐ投降…いや、死ね。"ココ"で死ぬんだ」

 僕に、死ねと?彼女を護れず、此処で無様に自決しろと?出来るものか。余りにも、非倫理極まりない。奴らは無情で、下劣で、下賤で、不埒で、不条理で、

「〝俺〟が…殺さなきゃ……!!」

「そこまでだよ、不届者諸君」

 訳の分からぬ呪文と共に、一閃の雷光が輝く。

「ブガガガガガガガガ……」

「頭?!しっかりしろ!!!」

 男は突如ナイフを落とし、その場に倒れ、痙攣し出す。

「聞け、盗賊面々。いや、イゾルデ盗賊団・過激派の皆様って所かな?」

 一同は、顔を見合わし、冷や汗を滝のように垂らす。

「私はラーニン・クェーサリー。不届者達も一度は聞いた事があるだろう?私の、"天才"の異名を」

 顔が一斉に蒼ざめる。ラーニンと名乗る男はほくそ笑み、僕の方と、もう一方の木の影の方に居る者達の方も一瞥する。

「君達に用のある方々がいるそうですよ」

 一発。耳に付く発砲音が鳴り、硝煙が立つ。

「アタシらの名前を騙る外道共は君達だね?遠慮無く殺してあげるよ」

「てっ……撤退ーー!!!!!!」

「レアン!!!皆殺しにしろ!!!!」

「りょーかい、姉貴」

 影だけを残し、一匹残らず賊達の首を刈るレアン。逃げようとする残党をベルが撃殺する。その片隅で、僕はラーニンとやらを見やる。

「ラーニンさんでしたっけ?生きてたんですね」

「起きた時は土の中でどうなるかと思ったけど、何とかなって良かったー!君達だよね。僕を助けてくれたのは」

「はい、倒れてたので…」

 僕と話す片手間に、出血多量とショックで気を失ったメルティの額に手を当てる。緑の光が彼女を包み、優しい香りと共に傷を塞いでいく。

「本当にありがとう。彼等がやっつけている隙に、皆で逃げようか」

 癒し終えたのか、彼女を寝かせたまま軽々と抱え、背中に掴まっているよう言われた。流れるようにガシッと掴む。彼は少し溜め、ジャンプする。一っ飛びでかなりの上空に居た。高く聳えていた森の木々の高さなど屁でも無い。

「君達の家はどちらだい?そこまで送っていこう」

「あっちです」

 彼に移動や周囲警戒を任せ、僕は帰路の案内に徹した。


 ――――――――――――暫くして、

「全く、ノックが五月蝿いぞ。御宅の新聞ならもうとっくに契約破棄をして…いる…と…」

 見慣れない青年。前にメルティ、背後にヘクター。お姫様抱っこのメルティ、おんぶのヘクター。姫君メルティ、奴隷のヘクター、色白金髪長身イケメン王子。

「……これは…ゆめか」

 ワグナーは静かに戸を閉じた。

「いや待って待って待って!!!!この子引き取って下さいよ!!貴方の娘さんでしょう?!!!!」

「そう!!そうだが、アンタみたいな完璧王子など呼んでいないぞ!!!!」

「お褒めの言葉は嬉しいですけど待って!!待って!!!閉じないで!!!!」

「うるさい!!アンタなんぞに娘はやるもんかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 と、数十分近く格闘すると、漸く観念したのか家へ入れてくれた。

「ほう、ラーニン君、とな?」

「はい。ラーニン・クェーサリーです。ビーフシチュー、有難う御座います」

「…………娘はやらんぞ」

「ビーフシチュー、有難う御座います!!!!」

 ラーニンは気にせず手元のスプーンのペースを早める。

「娘の件、それにヘクターの件は、助かった。本当に感謝する」

「やめて下さいよワグナーさん。こちらも助けられたんですから、当然の事です」

 深々と下げる頭を意地でも静止するラーニン。


「メルティ、ごめん。ごめんよ…………」

 すやすやと安らかに寝息を立てる彼女の頬を指で少し撫でる。少し表情が和らいだような気がした。意を決して、立ち上がった。

「もう、此処には入られないな」

 僕はゆっくり丁寧に戸を閉じ、家を出た。

「夜はやっぱり冷えるな……」

 この前、彼女が編んでくれたお気に入りのマフラーを着て、俯きながら目的地へと向かう。

「来たか。アタシらに何のようだい?」

「喧嘩の決着でも着けに来たか?坊主」

 固かった口を怯えながら開く。

「僕を盗賊団に入れてくれないか?」

 今日はやけに、身体が冷える気がする。

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