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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
おまけたち2

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おまけ2-4 思ってもみない輝きもあるから 





その日尚香が定時に帰ってくると、章がお母さんと台所に立っていた。


「あ、尚香さん。お帰り。」

「……ただいま。………何してるの?」

腰の位置が高くて、この台所だと腰を痛めそうな男が狭々作業しているので呆気に取られてしまう。


「カレー作ってんだよ。」

「尚香。今日のカレーね、章君が作ったの。」

お母さんも楽しそうだ。


「え?」

誰が?

「章君が作ったの。」

「え?」

誰?


「……尚香さん、失礼なんだけど。俺が作ったんだよ?」

「え?」

「尚香さん?」

「こげないように混ぜてるだけじゃなくて?」

「温め直しで混ぜてるの。」

「……章君、料理作れるの??」

まだ信じられない。コンロの火さえ点けられなさそうな見た目をしているのに。


「作れるよ。焼いて煮てルー入れるだけだし。」

「うそ!?料理したの?!」

「しつこいってば。野菜切るのはおばあちゃんに手伝ってもらったけど。混ぜるのだって、技術いるんだよ。きちんと混ぜないと端っこ焦げるし。」


そして盛って机に並べてくれるのだが、盛った見た目が汚い。

「ごめんね。気を付けたんだけどきれいにできなかった。」

いただきますをして、章とカレーをチラチラ見比べながら一口食べてみる。

「どう?」

「……おいしい……。普通においしい……。」

「そこはデリシャス!って褒めてよ。」

煮てルーを入れるだけなので、そうそう失敗はしないであろう。隣にお母さんもいたわけで。

「家にあったカボチャ入れたんだよ。ジャガイモの代わりに。」

「うん、おいしいよ。」

カボチャが甘いコクを出している。


しかし食べていると、冷凍ミックス野菜かと思うほどの小さな野菜もあれば、なにこれ?ブロック?と言いたくなるほど大きな野菜もある。

それをスプーンに乗せたまま、じっと見てしまう。

「おもしろいでしょ?」

「え?」

「同じ大きさだとつまらないから、大きいのと小さいのにした。」

「え?」

「正方形と長方形の人参もある。星も。」

「?」

「千切りにしたかぼちゃがどこかに消えた。さみしい。」

「………」

カレーに溶けたのであろう。人参だったらその見た目を堪能できたであろうに。なお大きな人参を作っておきながら、煮たでかい人参は嫌いらしい。


よく見ると星もある。

「あ、尚香さん、おめでとう!ラッキースター!!明日いいことあるよ。それはクッキーの型で、バン!ってやった。ハートと星、1個づつしか入れてない。」

「??」

「ハートはおばあちゃんがゲットした。」

もうよく分からないが、切手もまともに貼れない年末の思い出す。

「……………」

尚香、一連の行動の何もおもしろくないのだが、章は大人しく同じことや一つのことができないのだ。3回くらい同じ仕事をすると、真面目な顔で違うことをし出す。冗談でしているのではなく、無意識で方向転換をしてしまうのだ。オーケストラに向いていないわけである。


おばあちゃんが教えてくれる。

「章君、野菜切るのに時間かかり過ぎるから、私と一緒に切ったんだよね。あと、水の分量。」

水道まで鍋を持って行き、蛇口からそのまま水を入れそうだったので、計量カップかボールに入れて調整しながら入れるのを教えてあげたんだよと、笑っていた。ルーもあれこれ買ってきてミックスしているという。4箱も冷蔵庫に使いかけが入っていた。



「……俺、いい旦那さんになれると思わない?使ったまな板や包丁も洗ったよ。」

「……そうだね……。」

「今回は割らなかった。」

割れる調理器具ではない。

「お肉はおじいちゃんが好きだから、豚の薄いの。」

「小間切れ肉だね。食べ易くていいよね。」

褒めてあげた方がいいのか、何か言ってしまっていいのか、スルーすればいいのか分からないが、一応優しく言っておく。人生にこんな難題があるのかと、頭を悩ませた。


添え物も赤と無着色の福神漬けにらっきょ、他数種類置いてある。

「………」

漬物だけでいくら使ったのだ。


「あ、チーズ乗せ忘れた!」

と冷蔵庫から持って来る。

「熱々の時に入れないと溶けないよ?」

「でも、いっぱい買ったのに。」

テーブルに展開するのは、とろける物と普通のスライスチーズに、ピザ用チーズ。それから密封してある海外の物、キャラクターのキャンディーチーズ。しかも勝手に、キャンディーチーズを1個投入される。

「……………」

ドン引きだ。人の食べかけの食事に手を加えるとは。母親か。

「今度アサちゃんにも作ってあげたい。星たくさん入れたら喜ぶと思う。」

と、うれしそうだ。

いい旦那さんになれるとは思えない。が、悪い旦那さんとも言い難い。


「こっちはデザートだから。ブルーベリーとレモン味。チーズケーキのチーズ。」

と、一つ食べている。

「章君って本当に気ままに生きてるね。」

「そう?」


「俺、小学校の時に普通の授業が分からなかったから、特別な楽しそうなのならって先生が家庭科の茶碗蒸しに呼んでくれたんだけど……」

楽しそうに話だし………そして沈黙する男。

「……けど……?」


「なんか嫌われた。」

と、辛そうに結果を言う。


「………そう……。」

それ以外、何と言っていいのか分からない。何かしでかしたのであろう。

「食べる前に、茶碗蒸しも嫌いだって言ったら、先生にも嫌われた。」

「え?……あ、そう……。」

先生、気を遣ってくれたであろうに苦労だけしてかわいそうである。


「あの時はシイタケもあの中の鶏肉もかまぼこも茶碗蒸しも食べられなかったんだけど、回転寿司でおいしかったから、今は食べられるようになったんだけど……」

落ち込んでいる。思わず「嫌い」言ってしまった風景が尚香にもありありと思い浮かぶ。今の自分と章だから受け入れてあげられるけれど、自分も小学生だったら思わず避けてしまうかもしれない。こんな男児。

そして、当時は非常に不愛想だったため、余計にみんなに嫌われていたのであった。今も仕事と慣れた場所以外では不愛想だが。


スプーンに乗った、変な野菜。それを少しだけ眺めて尚香はいろいろあきらめて笑う。

「……大丈夫。おいしいよ、章君。」


そう言うと、章もぱぁっと笑った。





この幸せそうな人に尚香は聞いてみたい。


「章君、一体何で他で結婚相手探さないの?」

「……まだそれを言うの?」

「私が章君ならよりどりみどりだし。絶対に私を選ばない。」

お父さんが一瞬止まるも、またロジックに目を通す。


尚香的にはあの時空(トキ)さんはかなり好みだ。会社の男性に見せたらみんな揃って好きだと言っていた。顔もきれいでかわいいだけでなく大人っぽさもあり、好きな人のために会計やマネジメントの勉強もするという……。どう考えてもいい奥さんになりそうだ。


なんでカレー作ったのにそんな話するの?と、嫌そうな顔で章は呟く。

「………尚香さんの方が落ち着くし………」

「…………」

「………おじいちゃんおばあちゃん込みで………」

それって夏休みや冬休みのおばあちゃんの家に行きたい子供だし、と尚香思うも言わないでおく。言いたいことは分かるのだ。本当に、楽なのだろう。自分も章に気を遣わない。


「……尚香さんは、俺がちょっとイキったことを言っても消えろとか、最低とか言わないし……」


尚香は思い起こす。最低って、言った気がするけど?


「二度と現れんなとか言わないし、汚い格好で帰っても出てけとか無いわとか言わないし……」

玄関から追い出した気はする。出ていかなかったが。


「………何でもかんでも『ありえない』とか言わないし。世間は俺がキレイ目にすると媚びるなと言い、少し外すと反社消えろとかいう………。もう、どこでも生きていけない………」

と章は肩を落とすも、尚香、自分もあれこれ言った気がする。


「………ごめんね。私も言った気がする……んだけど?」

「まあ、尚香さんが言っても、ま、いっかなって感じ。」

と、落ち込んでいたのに急にダレる。


「なに?私の言葉は軽いってこと?」

「……違うよ。尚香さんは一時の状況で人を判断して切らないじゃん。」

「何言ってるの?嫌なことしたら誰であろうと縁切るし!!」


「………」

しないくせにと、章は思う。


切るなら、あの最初の最初でシャットダウンである。あのお見合いでも。フェードアウトですらない。ズバンと切っておしまいである。



「あ、尚香さん、それ。ラッキーマッシュルームも入ってる。」

「ラッキー?」

カレー皿の中を見てみると、隅っこの方にカクカクに切ってあり縮んだ薄い小さなものが入っていた。クッキー型が大き過ぎて包丁で切るも、マッシュルームを星にしようとしたらうまくできなかったのでハートにしたのだ。それでも不格好だが。


「小さくなってるのに食べる前に見付けられただけでも、幸運がやってくる。」

「………あ、そう。そうなんだ……。」

「ラッキーと言うか、ラブリーなんだけどね。ハートだし。」

ピースする章を無視して食べ進める。


「…………」

「…………」

お互い、今なんか変な会話してる?と思いつつ、盛り上がらない二人。


「章君、なんかさ、他にも会話を楽しんでくれる人がいると思うんだけど。」

「いい。盛り上がらなくても、なんかこれでいい。」



そこにお母さんが、デザートと言って大判焼きをいくつか解凍して持って来ると、さすが若者。章は3個ケロッと食べてしまった。



お皿を洗って戻って来た尚香も、大判焼きを頬張る。

「…………」

いろんな思いが心を揺さぶる。なんだか章は、もうこの家の一部だ。いても不自然でもなく、家族の一部で。自然過ぎて、改めて恋人という感じでもない。


でも、男性であることに間違いはないのだ。




台所に見える、戻ってきた金継ぎの茶碗。


割れてしまったのに、前とは違う存在と色を輝かす。




この空間が好きだ。


こういうのもありなのかな、と思う。




今、当たり前のように思えて、これが誰かの懸命な、でもやさしい思いやりの中で生まれていることを、いつかの尚香も知るだろう。



それがどんな未来なのかは、まだ分からないけれど。









●最低って言った日

『スリーライティング・上』3 基本、100%悪い

https://ncode.syosetu.com/n9759ji/3


●家から追い出した日。

『スリーライティング・上』


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