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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十八章 あなたのことが

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67/71

67 大好きな



都内のレストラン。


久々に尚香と章は外できちんとした食事をすることになった。


二人やその家族の時は、だいたい交代で奢り合う。けれど久しぶり。前にどちらが奢ったか曖昧で、今日は少し高い店だったので割り勘にしようと言ったのに章が奢ってくれるらしい。


「変な借りを作りたくないんだけど。」

「今日は俺の兄ちゃんが来るし、俺の奢りで。」

「お兄さんは私が来ること知ってるの?」

「…………」

「言ってないの?」

「何かあった時、キャンセルできるように知り合いを紹介したいとしか言ってない。」

「キャンセル……?」


「尚香さんの気が変わった時、深みにはまらないように……」

「……?」

なんだと思うが、今までの食事会もいろいろあったので、章なりに逃げ道を作ってくれたのであろう。今思えば、イットシースタッフの前でもあれこれ言わされたり、洋子とも店員の前で揉めたりとひどい会食も何度かあった。普通ならブチ切れていい話である。



仕事帰り。呼んだ兄は少し遅れてくるので、一旦前菜だけ出してもらいドリンクも頼んだ。


「乾杯!」

軽くグラスを合わせる。


うれしそうな章。

「こういうの久しぶりだね。」

「道さんも来たらいいのにな。資格合格してお祝いした?」

「うん、タイ料理食べに行った。ランチなら平日1200円でビュッフェの店がある。カレーとタッパイもある。おいしかったから今度行こうよ。」

「…………」

章とランチタイムに普通のお店には行きたくない。絶対に目立つ。

「お店教えて。美香と行ってくる。」

「なんで!」



そしてタコのカルパッチョが出て来た。

「うん、これおいしい!」

「食べたいの好きなだけ食べてね。兄ちゃんもう少しかかりそう。後で別に頼むから。」


「………でも確かに、章君のお兄さんに会っちゃうとけっこうみんなに会っちゃったことになるね……」

「俺なんて尚香さんの養父母一族だけじゃなくて、本当の又従弟にまで会っちゃったよ?」

「…………」

人の家に出入りするからである。


「お兄さん、お仕事何してるの?忙しそうだね。」

「会社員?なんか営業だっけ?何度か転職してるしよく分からない。」

章は兄にいろいろ聞いてもよく分からない。

「昔は、法律関係もしてたみたいだけど、仕事取ってくるのうまいからよく営業に回されてそのまま営業だったような………」

「大学は法学部?」

「邦楽部?法学?邦楽?え?知らない。楽器は弾けないよ。」

「何言ってるの?」

「分かんないけど、頭いいからいろいろ出来る。」

「そうなんだ……。」


「顔とか章君に似てるの?」

章や洋子さんのような顔で仕事ができるとか全然想像できない。章君の顔で仕事が出来たら、ちょっとおもしろい気がする。


「兄ちゃんは頭も顔も性格も完全に父さん似。あの洋子さんに似なくてよかった。」

「……それは章君の大好きなお兄さんが、章君にも似てないっていうことだよ。なんてこと言うの。」

「え、いいよ。俺やあの人になんて似なくても。」

「良子ちゃんも顔は洋子さんに似てるでしょ?」

「良子は性格がいいだろ。あの人とは違う。」

「…………」

これはだめだと話を変える。


「お兄さんは単身赴任なの?ご結婚されてるって聞いたけど。」

「短期出張みたいなのだと思う。いまアジア側に派遣されてるって。ちょこっといて、すぐにどっか行くし。あっちこっち回ってる時もあるから……。」

「奥さん、旦那さんがハシゴしてたら一人だよね……さみしいかも。」

「まだ子供いないし、奥さんもバリバリ働ける人だからお互い忙しいんじゃないかな。」

「章君の一家、すごいねぇ……。すごい国際一家だ。」


「尚香さんもそうだし。自分ちの家族そうなの忘れてる?」

「…………」

考えてみれば、尚香以外みんな海外住まいや国際家庭である。



「兄ちゃんの奥さんもすごくいい人だよ。ちょっと気が強いけど、雰囲気柔らかくて優しいし、尚香さんとならすぐ仲良くなれるかも。多分尚香さんが大好きな感じ。」

「ほんと?外国人?」

「日本人だよ。でも、兄ちゃんには惚れないでね。」

兄も尚香の好きそうな、地道で無難で真面目な会社員である。


「章君って、本当にお兄さん好きだね……」

「俺目線では兄ちゃんは最高だ。」

章は笑った。

「はは、本当に仲がいいんだ。」

自分の兄弟をここまで好きと言える日本人も珍しい。良子や巻も含めて本当に仲がいい兄弟だと思う。性格上、新しい人とコミュニケーションが難しいという理由もあるが。



そして、章のスマホが鳴る。


「あ!兄ちゃん?分かった。」

「……!」

「下に来たみたい。」

ここは高層ビルの上だ。


「……あ、私、そういえばお土産何も持って来てない!」

初めて会うのに忘れていた。

「え?いいよ。」

「でも………」

自分が奢るわけでもないのに申し訳ない。普段こんなミスをしないが、章関係だと気が抜けてしまう。

「兄ちゃん今、ウチで寝てるし、うちにおじいちゃんや尚香さんの買ってくれた物あるからそれでいいよ。」

章が地方土産や、鮭やら蟹やらアイスやら買って来るので、さすがに金本家も章に時々プレゼントをするのだ。金本家でご飯食べているからいいと言われているが、一応章と向かい合おうと決めた段階。気持ちの問題だ。



「章君ちに行くんだ。洋子さんちには行かないの?」

「彩香さんいる時は行くけど、一人の時は半々かな?」

「……さやかさん?」

「兄ちゃんの奥さん。」


「………………」

尚香、少し止まる。



「……彩香?」


「うん、彩香さん。」



「お兄さんより年上?」

「あねさん女房って言ってた。」



……

お兄さん。

今は仕事で海外で、以前は法律にも関わる会社……。


尚香も法律の専門ではないが昔それを仲介する仕事をしていた。

「お兄さん、背高い?」

「今は俺より低いけど?抜かれた~って叩かれた。」

「…………」


「あれ?もしかして歳離れてる?」

「……知らないけど、離れてるとは言われる。」

「いくつ?」

「知らない。俺が1年生の時はもうすげー大人だった。なんで?」

5、6年違うが、その頃の章にはすごく大きな兄に見えた。


「お兄さんって………」


「名前、正二(せいじ)?」

「そうだけど?え?なんで知ってんの??」


「あれ?お父さんは山名瀬で、お母さんはリースだよね?」

「洋子さんの名字も知ってるの?」


「でももしかして……お兄さんは多賀正二?」


「………そうだけど………」

何か嫌な予感がする章。



「章君、なら多賀ってどこから?」

「洋子さんの日本の家系の方。洋子さんの日本名は、多賀・リース・洋子だよ。」

「!」

「あの人漢字書けないからよく略してるけど。」

がんばって『洋子』は書ける。


「!!」


「章君、私帰る!」

「え?」

よく見ると尚香の顔色が悪い。


「ちょっと待って、何?」

「……だって!……あ、あの、えっと………」

「尚香さん?」

尚香は慌ててマスクをして、ストールで首周りを大きく覆った。

「私、前に話したよね。最初の会社で私の面倒を見てくれた人がいたって……」

「うん。」



尚香が好きだった人だ。



「正二君。」



「…は?」

……君?

「正二君!」

「…………え?」


「正二君だってば!!」

「!!」


二人の空間に決定的な何かが飛ぶ。



その時、章のスマホに着信が来た。すぐに受け取ると、広い店内の向こうに兄がいる。そして気が付いて手を振られた。


「!?」

「尚香さん……」

と、尚香の顔を見ると、尚香はギリギリその方を向いて信じられないような顔で止まっていた。




少し背の高い、きれいに着こなしたスーツに、

柔らかい顔の、やさしい人。



忘れるわけがない。




そして章は見てしまう。尚香の顔がマスクをしても分かるほど真っ赤だ。


イアリングの付いた耳まで真っ赤になっている。



「!」


「……無理。」

「尚香さん!」

「絶対無理!!」


尚香は急いで荷物を抱える。


「章君、ごめんね。私無理だ……」

もうほとんど泣き顔だ。


「章君、お兄さんと普通に食事して……」

「うん……」

「あ、えっと……お腹壊したとか何でもいいから帰ったって言って!」


どうしようと尚香が慌てるも、出入り口の方に兄がいる。


「尚香さん、一旦トイレの方に行って兄ちゃんが席に来たら出て行って。」

「章君、正二君に私こと何も言わないで……」

「分かってる。」

「………」

半泣きな顔で頷いて、尚香は奥のトイレの方に入って行った。




そして、数秒の入れ違いで兄が席に来た。


「章~!!待たせてごめんな!」

章の兄、正二である。


「…………」

何かゲッソリしている弟。


「お相手は?先、いなかった?」

見てみると食事した跡もある。

「………なんか、体調が悪くなって帰るって。ごめんって言ってた………」

「え?今?」

心配そうな顔をする。

「行ってやれよ!送ってあげないとだめだろ。」


「あ、大丈夫。知り合いが迎えに来てくれたみたい。」

「でも、下まで………」

「ここまで来てた。」

「なら挨拶だけでも!」


その隙に、サイドを走っていく尚香が見えた。

「お腹壊してるから、踏み込むのやめなよ。トイレとか行ってるかもよ?」

「………あ、そうか……。」

かわいそうだが、ここまで言うしかない。


「あとで、大丈夫か連絡してあげろよ。」

「うん、でも時々あることだから、心配しないでって。」

そう言うしかないだろう。



「まあ、兄ちゃんも座って。お疲れ。」

「……章が女性紹介してくれるの初めてだから、楽しみにしてたのにな。」

正二も座る。


「……どうしたんだ?大丈夫か?」

弟が顔を上げない。

「もしかして、結婚の挨拶までするつもりだったのか??」

「……いや、ただの食事会なんだけど………」



「……俺兄ちゃん嫌いになりそう………」

「え?なぜっ!」

「いや、分からない………」


そして床を見て慌てて拾い上げる。

尚香の小さなイヤリングが落ちていた。


「……章?」

「………はぁ…………」

「え?なんで?」


「………はぁぁ……」

「え?章??」




これはここまで築いた二人の関係を、決定的に変えてしまう出来事だった。










『スリーライティン・中』はこれで終了です。

この物語は『スリーライティン・下』に続きます。



____




いつもご愛読ありがとうございます!


この物語の続き開始はまだ未定です。


NOVELDAYSさんの方が全体的に読者さんが多いため、一旦そちらを整理してから再出発しようかまだ迷っています。

その整理をしながら、もしかしておまけを追加していくかもしれないです。



またよろしくお願いいたします!





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