60 停滞と変化
最近、あまりに誤字やおかしいところが多くてごめんなさい。
書き溜めて成熟させ、さらに見直して投稿すればいいのに、この勢いでないと連載が出来なさそうで。いつものごとく、最初に読んでくださる方が一番不出来な状態ですみません。
数か月、数年前のページを読んでもおかしいので、多分自分の力では分かりやすく読みやすい文章を書けないのだと思います。本当にごめんなさい。
それでも訪問して下さる方、ありがとうございます。
一発、もしくは数回で、非常に読みやすかったりおもしろい作品を書ける作者さんたちを尊敬しています。
都内居酒屋の混雑時前。そのバックヤードで副店長とバイトの男たちが寛いでいた。
「昨日新しいの来ただろ?学生だっけ?女?」
「女だけど超芋。」
「田舎から来たって感じだなよ。」
「マジかよ。つまんねーな。」
「まあ、これからもっと来るだろ。春だし。」
そんな会話の中に呼ばれるのはホールから戻ってきた大和。
「大和ー。この前ウチに来たあの子連れて来いよ~。髪長い子とボブの子。ドリンクとつまみサービスしてやっただろ?」
「おいおい、今の時代未成年はヤバいからな。」
副店長がやめてくれよという顔をした。
「両想いになっときゃいいだろ?俺もこの前まで高校生だったつーの!」
「店長が怒るだろ?今日の芋バイト相手にしとけ。」
「ただでさえバイトいないんだからお前が掴んどけよ。」
「テメーがいけよ。」
そんな感じで盛り上がる中、心でため息をしてホールに戻ろうとした。
「!」
そこで驚く。
目の前に、先、超芋と言われた新人が立っていた。
「………」
「………。」
聴かれただろうか。一瞬目が合うも、その子は大和を無視して、入って行こうとしたバックヤードを避けてまたホールに戻ってしまった。
大和は後ろめたい気持ちになる。
前までは、大和もバイトの人間に自分を合わせていた。少し強い感じの見た目のせいか、学校外ではだいたい軽い感じの人間たちが周りに寄って来ていた。ああいう会話をするので、それに慣れてもいた。彼らはとにかく人の容姿を見る。
高1で初めてバイトをした時、親や兄弟を蔑むことを言うバイトたちにびっくりしてしまったが、親の夫婦喧嘩や不仲を見て育ったらしい先輩たちもいて、そんなものかとも思うようにもなっていた。
一度尚香に怒られたことがある。
「ネットの影響かもしれないけど、お母さんの事ババアとか言うのやめなさい」と。
みんな言ってるしと言ったら、「みんなじゃないよね」と言い返された。
大和の両親もけんかはするが、だいたい父が負けて終わる。父は負けることを選んだのだ。
母が子供の園や学校に追われていた頃、父は子供の教育に関与せず。その頃は母もパートをしていたが、園や学校に子供を預けられるなら後は自由じゃないかと父は思っていたのだ。
なのに妻は怒りっぽく家事放棄気味になってしまい、なじられて不満な父はその愚痴を同僚に話した。それで共感してもらえると思ったら、お勤めから結婚で家に籠り、すっかり生活が変わってからのさらに産後、園や学校や学童や習い事の申請や手配、送り迎えがどれほど大変か聞かされ初めて焦る。その同僚は2人目の妊娠で妻が入院してしまい、2歳のお兄ちゃんを抱えて大変だったそうだ。
妻が定期的にパート復活をしていたのも儲けるためではない。アクティブすぎる子供たちを園に預けるためだった。長男は緑川系列に収まる子でもなく、預け先も違う。
けれど二人でその時代を乗り越えて、それから二人は結婚前より仲がいいらしい。
という話を大和は尚香から聞いた。
話好きの母。出会ったばかりの尚香に何を話しているのか。
「子供が4人もいると性格もそれぞれだから、当時は苦しかったけれど、お父さんとケンカしたり、自分にもこんな怒りや惰性や怠惰があることを経験しておいてよかった」と言っていたらしい。
ややお嬢様だった母は静かな世界で育って、自分の子供たちが茶髪どころかプラチナヘアにするような子になるとは思ってもいなかったのだ。まさか自分が、ピアスを開けて眉毛も整え、時々ゴツイアクセもしてしまう男の子を産んでしまうとは。
「だから大和君みたいな天邪鬼な子に、対応できるんだね」と尚香に言われて、ババアとはもう言わなかったが、うるせーなとは言ってしまった。
「………あの、分からない事あったら聞いてくださいね。」
大和もホールに立ち、先の背の高いバイト女性に声を掛けておく。その女性は大和に応えずに、ただ指示に従った。少し前の自分だったら、自分たちが悪くても、そんな反応の女性に悪態くらいはついていたことだろう。
それからしばらくして、大和はそのバイトをやめて、彼らとの縁も切った。
辞める時に一言だけその女性に声を掛けて。
***
「金本さん。」
午後のオフィスで、その声に胸が高鳴ってそっと振り向く。
「今日、四課の人たちと飲みに行くんですがどうします?」
「…………」
久保木だ。尚香はすぐに答えが出ない。
「柚木さんと川田さんは決まりでよかったですよね。」
「はーい!」
「……私は今日は約束があって。」
約束があってよかったと思う。
仕方なしな顔で久保木が笑って、手を振って去って行った。
久保木が相手をしてくれているということは、きっと幸運だ。
でも、家には時々章が来ている。このままではいけないと思いつつも、たくさんの人間関係が絡まって、今となってはどうしていいのか分からない。章の前では着飾りたいとは思わないが、久保木の前ではきれいでありたいと思ってしまう。
そして、どちらも不安だ。
自分には何も握れきれない気がする。
『金本さんにいつか地方支店を任せたいな。』
そう言っていた、かつての上司。
張り切っていたあの頃。
でも、たった一件の事案すら自分で解決できなくて。
一度経験してしまったひどい鬱は、自分を強くもし、そして弱くもした。
この金本家の中にいなかったなら、最後の糸を切ってしまっていたかもしれない。
ほとんど縁もないような、姻戚の姻戚の身寄りのない子供の養育のために、国籍まで変えてくれた父と母。育てても、離そうとしても批判をされて。
お父さんとお母さんが気落ちしてしまう姿だけが、自分の中で鮮明なストッパーになって、それ以上はだめだと誰かが手綱を握っていたのだ。
『あんたのせいで!』
たくさんの人を巻き込んだ際沢事件。
今も時々足を運ぶ。犯罪被害者の会や加害者家族の会。喜んでくれる人もいれば、尚香を煙たがる人もいる。
『……尚香ちゃん………』
あの日そう言って、背中を優しく叩き、ただ抱きしめてくれた道。
全てが、尚香を熱くし、
そして苦しくもする。
***
「ねえ、何で二人そんなに仲良しなの?」
家に帰って来たら、なぜか章と大和がいて引いてしまう尚香。来ると聞いていたのは大和だけなのに。
「仲良くはない。」
「なっかよしだね~!」
と、章は大和をボールドする。尚香は何も答えず着替えに2階に行ってしまった。
「おい、お兄ちゃんだろ?あ??」
「章、やめなさい。」
と、おじいちゃんに叱られる。
「そもそも章さん、舞台関係なんですよね?いつ仕事してんですか?そういうのって夕方とか仕事じゃないの?」
「……あー。それは言わないでほしい。ゴールデンウィーク突入前に現実に引き戻されるから……。5月は全部忙しい……」
急に深刻に悩むでかい男。4月後半からほとんど仕事になる。
「役者ですか?照明?大道具?GWに公演が始まるなら練習とかないんですか?高校のダンスや演劇部ですら毎日早朝からで、午後は長いと夜間まで練習してますよ。大会や公演前は夜10時まで学校いる時もあるし…」
と言いながら、この人、タイムや機械の調整とかできなさそうと思い出す。荷物運びだろうか。
「子供の日は太郎や朝ちゃんと遊びたいのにな。」
「太郎?」
「はー………そんで6月は韓国とか。もう肉食う以外楽しみないじゃん。」
「韓国?仕事で??」
「親が韓国人だから、法事の挨拶行くって言ったら仕事も入れられたんだよ!」
道の兄に嫌われているので行きたくないが、数年行っていないので挨拶に来いと言われたのだ。
「??章さん韓国人なんですか?」
「俺のどこが韓国人に見えるんだ。大和魂あふれてるだろ。」
「??………」
正直完全な日本人にも見えないし、どこの国の人にも見える顔と雰囲気をしている。
「まあ別に、何人でもいいけどな!」
本人にこだわりはない。
このお兄さんの全体を見て思う。喋らなければどうにかなりそうだ。
「提案なんですけど、暇ならモデルとかしたらどうですか?」
「訳の分からん服は着たくない。」
「………」
今日は、子供服かと思うようなキングモンスター映画20周年記念のフルカラープリントTシャツを着ているのに、何を言っているのかと思ってしまう。伊那がBGMを担当していたので貰ったTシャツだ。
「それに、ランウェイでピースしたら叱られるだろ?」
「?」
「ブランドの意としないことをしたら叱られるだろ?」
「………」
しなければいいのにと思うも、なぜ自分がモデルになれる前提なのだ。家でゴロゴロしているだけなのにしょうもなさ過ぎる。
実は功は何度かランウェイを歩いて、ピースやチェキポーズをかまして叱られているのだが。
「とにかく章さん、絶対に尚香さんに変なことしないで下さいね。」
なんだかこの男が心配で仕方なくなってくる大和。尚香も心配だが、この男の方が心配な気がしてきた。
「………俺?」
「そうですよ。」
「変なことって?」
と、なぜかテレ顔になる。
「大和君の変なことって何?」
「…………っ!」
おじいちゃんもいるのに、この男は何を言うんだと思う。
「大和君こそ、尚香さんはだめだよ?」
「はー?!章さんのことを言ってるんです!!ちょっと尚香さんと内面が違い過ぎる!!絶対合わない!」
頭が悪そうなのに、なんという口の回る男だと大和、驚くしかない。




