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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十八章 あなたのことが

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59/71

59 広がる仕事幅

※この話は『下』に入れるつもりでしたが、スペースがなくなってしまたため、追加でこちらに挿入します。




暗幕に響く、透き通るステージの先の先まで響く声。



『古代太古の太鼓の昔。

君の走った音がする。


君が託したあの山も

君が走ったあの道も


万年彼方に託しましょう。



古代太古の太鼓の音が

君の走った足音が

いつも太鼓に木霊する―――』



そして暗い舞台に一点に光が差し込み、年老いた婦人がある日ながら話し出す。

『蓬よ蓬、そこに裂く草――』


離れた一点にもう一転、スポットが照らされ、今度は体格のいい青年男性が同じように話し出した。

『それは海を渡って来たのか、それともずっとそこに佇んでいたナズナ?』


さらに一点、スポットが当たり、今度はうら若い女性が動き出す。

『スズナよ、スズナ。私の命。

今宵、見えるのはあなたの姿。』

少しオーバーな敢えて乙女な演技。



そんなふうに力強い舞台が進み、カーテンコールになる。


有名な俳優が数人いる中で大きく盛り上がり、突如客席の方にもスポットが当たった。

「今劇舞台の一部原案、楽曲提供、作詞作曲KOUさん、音楽構成INAさんです!」

と、言われるので2階の端っこで伊那と観ていた功は、二人して驚いて立ち上がる。二人は方々に礼だけをして拍手のうちにサイドから去って行った。





そしておもてなし。

今日が初日で、明日から1日2回公演となるので、今は裏方に出しただけのスポンサーと関係者だけの簡単な軽食である。


「功君、よかったよ!」

役者でもあり脚本演出までする舞台監督が伊那や功に挨拶をするも、功は口数少ない。

「皆さんこそよかったです。」

今回はネット上での告知のみで、本人は舞台にも挨拶にも表に出ないことはファンには知らせてある。少し振られてしまったが。



「おー!功君!役者やらないか?役者!」

急に現れてそう言って肩を叩くのは、功くらい背の高い主演の仲道(なかどう)だ。

「………あ、はい………」

と、功は引き気味に答える。

「そんだけガタイもいいし、めちゃくちゃ動けるだろ。台詞も全部覚えてるって聞いたぞ!」

「……あ、はい………。役者は無理です…………」

暗い。

「ハハハっ!」

仲道が楽しそうだ。



以前功の歌を聴いた脚本家が、アルバムを全部聴いて、その中の一曲を演劇にしたいと言い出したのだ。


脚本家の短編小説に、功の歌詞と音楽を乗せる。ミュージカルではなく演劇で、原作は現代が舞台だが、劇上では二重構成で古代の日本も舞台となり、登場人物たちの物語が次元を行き来する。

独特でやや抽象的な世界観ながら、ストーリーの芯がはっきりした作品を描く監督だ。使う役者も綺麗かどうかより、舞台映えするクセのある人や世界観にマッチするかで選ぶ。


与根と泰は完全にバンド畑の人間、真理は音楽全般。功と伊那は幅が広いので、社長の勧めで裏方ならと今回参加したのだ。


最初に功に男女の主演助演候補と世界観を教えてくれ、納得してから参加をさせてくれた。これまでの舞台を元に、監督の世界観にあった衣装原案も作った。あとは歌詞曲を提供して時々チェック作業に行く以外は、好きな脚本監督だったので信頼して基本お任せである。


その進行作業の中で、功が脚本を全部覚えていることに驚いて話が盛り上がり、舞台で絶対映えるから役者をやってほしい!と頼まれていたが、本人腰が引きまくっていた。


何度も見たミュージカル映像はセリフ歌、全部覚えている。歌が大半だとほぼ全て覚えられ、普通の映画はバックに音楽があってセリフがマッチしている場合と、自分の中で印象的な場面は記憶できるらしい。


「楽しいぞ、舞台。殺陣も出来るんだろ。」

「……役者は……、一度すると『舞台上で脚本を全部忘れたとか、準備もしていないのになぜか舞台に立っている夢を見る……』と言っていたから嫌です………」

「はは!夢じゃないか!」

「役者やめて20年経っても見るそうです………」

「まあ、そういう人はいる。ライブも同じじゃないのか?」

「ライブは歌詞忘れてもその場その場で乗り切りれるので………」

「暗いな~!」

ライブ映像と全然違う功に構う楽しい仲道さん。



「功く~ん!」

今度は主演女優の椎名だ。30代だが今回成人していく女性を演じた。成人と言っても古代なので10代前半。それでも今の10代より感性はずっと大人だ。

打ち合わせて数回会っているが、テレビで見るより頭の回転が速い。功の手を両手で握りブンブン振ってめちゃくちゃ明るい人だ。


椎名はきれいな人だが、ドラマでは美人枠には入らない。演劇の世界はきれいさよりも個性の方が映えるし、演技次第で誰でも美しくなれる。この監督はどんなに有名人でも色のついた芸能人は選ばず、舞台役者ができる人にしか舞台を任せないから好きだ。


「お疲れ様です。」

「はーい。功君もお疲れ様。でもこれからだから応援しててね!」

「はい………」

と、少しだけ笑うと椎名もにっこり微笑んだ。




***




ファーストフード店で伊那と食事をしながらやっと自分を取り戻す功。


「緊張した………」

「…………頑張ったな。」

何が緊張しただと思うも、一応褒めておく。


「仲道さんが飲みに誘ってくれた。有名人と……友達になったんだけど。尚香さん、仲道さん好きかな?津知屋(つちや)さんとか!」

急に明るい。津知屋さんは年配女性で、中年でブレイクした遅咲きの人。声が特徴的で舞台にはまってからは映画やドラマより演劇が主力になっている。

普段、有名人や偉いさんから逃げている男なのになんなのだ。


「……仲道さんの名前ぐらいは知ってそうだけど、尚香さんドラマとか見てる暇なさそうだし。俺らのことも全然知らなかったからどうかな。」

「なら、おじいちゃん喜んでくれるかな?」

「聞いてみればいいだろ。」

「………あの家で朝の連続ドラマ以外、ドラマついてるところ、見たことがないけど………」

しかも、ニュースや朝のバラエティーの流れでつけっぱなしになっているだけである。

「椎名さん出てたぞ。」

「ほんと?」

「だいぶ前のだけど主人公の青年期のお友達役で。」

朝ドラまではチェックしていなかった功は、ちょっとうれしい。


朝、尚香さんは出勤じゃん、と思うも自慢できるとうれしそうだ。そもそもこの男は朝何時から金本家にいるのだ。



そして伊那は気が付く。この男は、自分はそこまでだけれど、祖父母のために年末の音楽番組に出場したい孫なのであろう。



「今回の仕事は山本さんにも褒められたしー。」

と、功は少し得意気になる。イットシーライブ照明山本さんの大好きな監督である。普段音楽以外で有名人と関わる仕事は避けるが、山本さんが舞台を観に行ってくれると言ってくれたのも満足であった。



これ以降は、舞台の千秋楽まで何事もなく進んで行くことを願うだけである。




***




「仲道さんも椎名さんも知ってるよ!」

明るく言うのは尚香だ。TVはたいして見ない尚香も、TV時代の俳優、仲道は知っているらしい。塩顔が登壇する前の、尚香より一回り年上の俳優だ。津知屋も顔は知っていたし、お父さんお母さんも知っていた。


「仲道さんに一緒にやろうって言われたんだけど。」

と褒めてもらいたそうな章。

「へぇ、すごいねえ。このKOUが章君なんだ…。」

スタッフの一番下に特別枠で名前が載っているフライヤーのクレジットを見て感心している。

「ちょっと見直した?」

「うん、すごいよ。」

お父さんもフライヤーを、チラシのコレクションに挟んでくれる。



その横であっけにとられているのは、大和だ。

「……………」


「なんだ大和、その顔は。」

「章さん、大道具だけじゃないんだ……」

大道具なのか荷物運びなのか。

「あ?一部原案だよ、原案!このコピー俺。」

「コピー?」

「セリフのことだよ!ここ読め!」

監督の原作に、功の詩が乗っかっている。そこからインスプレーションを得て監督が脚本を書いたのだ。


「………え…………章さん、詩作れるの?……そんな情緒あんの?」

「作れるだろ!ポエマーだぞ?おれは。知らんのか??曲も作ってんだろ?」

「え……音楽も?ホントに?」


「ああ?ラララって歌っとけば、後は伊那やPCが作ってくれんだよ!」

「……えぇ……それ、章さん、なんもしてないし。AIとかで後で叩かれる系じゃなくて?」

「してんだろ。ハミングしてんだろ!」

と、大和を羽交い絞めにする。PCやスマホにメロディーを録音しておくのである。

「やめて下さいっ!」

「章君、危ないからやめて!」



でも、ちゃんと有名人が出演している演劇なので大和は驚く。一応大和でも数人の顔は知っていた。

「……なんのコネですか……。芸能界ってやっぱヤバいとこだ……」


大和、この前章が高いブランドを着ていたので、舞台関係者やものすごい大口スポンサーの孫か息子なのかと思ってしまう。どこかのボンボンなのか。なのにヒモになるのはなぜなのか。

ハミングしているだけの男を、機嫌取りだけのために表クレジットに載せてしまうとは。コネ、オン・ザ・コネの世界なのか。


小さい劇団か、大手の裏方バイトだったろうに一気に飛躍している。なにせ一般席が1万円でS席1万3千円の舞台。どうかしている。まあ、そういう舞台にも日雇いバイトはいるだろうが。


「大和、お前も将来きちんと働けよ。」

「………」

よっぽどうれしいのか、偉そうだ。かわいそうなので何も言わないでいてあげる。



「はー、でも東京ってすごいですね。章さんみたいなのでも有名な裏方仕事に就けるって……」

「まあな。歩いていれば時々芸能人に会うしな。」

「でも章さん、絶対にはめ外して悪い道に行きそう。……クスリしたり、ほら、なんというか変な人間関係作っちゃダメですよ。」

「あ?大和が何を言ってるんだ。」

「夢だけデカくて、出世できなかったらすぐひねくれて自堕落しそう。そんで誘われたらすぐ女の人に付いて行きそう………」

「……………あ゛?」

「闇落ちとかしないで下さいね。もうそういうの、定番ネタでクドいしダサいから。」


「うくっ!」

章に顎を掴まれる。


「お前はいい子なのか?あ?お前はかわいい子を見たら振り向かないのか??あ?」

「やめなさいってば!」

と、尚香に新聞で頭を叩かれた。


「でも尚香さん、こいつ俺の人間性を貶めるんですよ~!」

「……模範的な章君になればいいだけでしょ?」

「頑張ってるのに!」


なんでこの男はこんなにもアホなのかと思ってしまう大和であった。






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