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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十七章 学祭

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56 やっと会えた



みんなのいる場所から離れた自動販売機で、この先端機械は一体何なんだと悩んでいるのは功であった。



「……?」

なぜ、この自動販売機にはお金を入れる所があるのに、カードかスマホをかざしてくださいと言うのだ?と。


自分は、この販売機の2段目にあるコーヒー牛乳をただ買いたいだけなのに、なぜこんな機械に悩まされるのだ。訳が分からない。カードって何?クレジット?キャッシュ?この前もらった何かのカード?


功が非常に苦手ものは無人である。無人店舗とか最悪である。スーパーの無人レジはまだいい。控えている誰かが教えてくれる。

自販機も昔はお金だけ入れればよかったのになんの嫌がらせか。会社にある自動販売機も基本使わない。

小銭はまだいいのだが、札を入れてその札がそのままリターンしてきた日には、その後トラウマでしばらく自販機には近付かなかった。なぜ拒否るのだ。これまでそういうことが3回くらいあったのだ。伊那の札は普通に食っていたのに、自分の何がいけないのだ。カメラが付いているので、目つきとかで不審者扱いでもされたのだろうか。



「………。」

まあ、500円玉でもいいだろうと、喋る自販機を無視して500円玉を入れると、ジュースが選択できるようになる。

「!」

コーヒー牛乳を押すと下から落ちてきた。

「!!」

500円入れたのでまだ買えるのだろう。ボタンが青い。乳酸菌Sというのを押しても青い。あと1回コーヒー牛乳を押してまだ青いので1つカプチーノにすると、色が変わった。

「?」

もう押しても商品は出てこない。……もう買えないのかな?と取り出し口から商品を全部出しそこを去ろうとすると、少し後方から見知った声が。


「章君、それで終わりじゃないよ。」


「尚香さん!」

与根かと思ったら尚香であった。

「尚香さん、これ、連続で買えるんだよ!」

「そうだね。お金が尽きるまでは。」

「……知ってたの?世紀の発見だと思ったのに。」

ちょっとがっかりする。

「ほら、忘れてるよ。」

「?違うのが良かった?1個カプチーノがあるよ。好きでしょ?」

「そうじゃなくて100円のを2個買って、110円のカプチーノと120円の乳酸菌を買ったら残りはいくら?」

「!?」

ショックを受ける。


「何でそういうこと言うの?今、数学の時間じゃないし!何のいじめ?」

「何もいじめていません。」

「急に言われて分かるわけないし。俺だって、紙に書いて1個1個計算すればそのくらい分かるよ?100円の2個買ったら200円ってくらいは暗算できるし!」

70円と表示もされているが。

「………。分かった、ごねんね。500円入れたんだよね?お釣りは70円です。ならお釣りはもらった?」

「……?」


「章君、ずっとお釣りのところが点滅してるでしょ?ほら、取らないから音も鳴ってた。そこのレバーを下げて。オレンジの。」

言われたようにすると、ガチャンと70円が落ちてきた。

「!!」

今まで知らなかった功。分からなくなると放置してその場から逃げていたのだ。音声もタッチパネルもよく逃げる。


「すごいね。尚香さん!」

「…………多分、私よりここの高校生の方が使いこなしてるよ。」

尚香だってこういうのはややこしい。

「………え?じゃあ俺やっぱり高校生にはなれない?」

「章君もこの時代の高校生なら何でもできるよ。」

「そうかな?」

出来ない気もするが。


「もう怒って帰ったと思った。カプチーノいる?これ、尚香さんに買ったの。」

うれしそうに1本渡す。

「ありがとう。でもね、お金に関することはちゃんと最後まで確認しないと。」

「分かった!」



というやり取りをさらに横から見ていたのは大和と利帆。

「……」

「……ねえ、大和。尚香さんとあの人知り合いなの?」

「………従姉弟って聞いたけど?」

「えっ?」

それも驚くが、雰囲気がそんな感じではない。子供と大人同士にも見えるし、何というか。


「でもそういう雰囲気じゃなくない??」

「…………」

大和は何も言えなくなってしまうし、利帆も利帆でどこまで言っていいのか迷う。先の軽音部での様子だと有名なバンドが来ているとみんなに知られたくない感じだった。



しかし大和は思わず乗り出してしまった。

「尚香さん!!」

「大和君?」

尚香が気が付く。利帆はなんだか恥ずかしくて隠れてしまった。


「尚香さん、何してんの?!」

「あ、もう帰ろうと思ったんだけどね。友達の女の子に呼ばれて。」

と、駐車場の方を指すと与根と真理がいて、学生に話しかけられていた。



実は尚香。真理に泣かれたのだ。

今度会おうねとメールだけしたら、怒った感じで返信が来る。年末前から会ってないし、あの事件からも一度も会ってないのに何で避けるんだと。真理だってずっと心配してたのに、みんなには会ってるのに!と。

仕方なく外で会おうと、目立たない方の出口に行こうとしたところで自動販売機の前で困っている章に遭遇。あまりにも憐れで、声を掛けてしまった。



そんな尚香と章を見る大和。

「章さん!従弟なんですよね?あの……」

と言い掛けたところで、功は大和の肩に腕を回して少し端に連行して行く。

「ここで章と言うな。」

「……あ、チョーシャさん。」

そして、急に庁舎君の態度がでかくなる。

「従兄弟じゃねーよ。見て分かんねーのかよ。」


「?!」

こいつやっぱやべー!と、腕を外そうとするも「え?」となる。長いだけだと思っていた腕が外せない。大和はサッカーもしているし、子供の頃柔道をしていたのでけっこう筋トレはしている。なのに外せない。


「おい、大和。お前協力しろ。金本家にいる時は、俺の事、いいお兄ちゃんだと言っておけ。」

「え?イヤっす。もしかして尚香さんのこと好きなんですか??」

「好きとかどうとかでなく、金本家がめっちゃ楽なんだよ。」

「は??」

「せっかく見つけた、気い使わない場所を失うわけにはいかない。」

「!」

「実家でも幼稚園でも学校でも、どこでも追い出されていたのに、金本家では食っちゃ寝て食っちゃ寝て三食食っても追い出されない。小間使いや召使でもいいから俺はあの家に収まるつまりだ。」

「はあ??」

召し使いって気を使いまくらないのか?

「受け取れ。」

ジュースを押し付けられるも、断るに決まっている。こんな安いもので身を売れない。

「いるかよ!」

「受け取れ!」

というところで、章はバシっと与根に頭を叩かれた。


「いい加減にしろ。帰るぞ。」

気が付くと少し離れたところに、人が集まってきているようだった。みんなチラチラ見ている。

「尚香さん、後で車に乗せるから一旦学校を出て、メッセージ送った場所で待ってて。真理が少しでいいからお茶しようって。」

与根はそう言って大和にも礼をすると、功を引っ張って行った。



彼らがいなくなり、大和は尚香に振り向く。

「尚香さん、あいつ従弟じゃないの?!」

「…従弟みたいな子。」

「なんだそれ!奴は絶対だめだよ。今ヤバかったから!それに、途中から見てたけど、500円の算数も出来ないし!」

緑川付属には特殊学級があるので、小さな頃から障害がある子も一緒に生活や行事をしていたし、その教室にも休み時間好きに出入りしていたのでいろんな子がいるのは知っている。でも、障害もなさそうなのにそんな人は初めて見たのだ。


「大和くん。あまり章君に言わないであげて。本人も気にしてるし、頑張ってきたから。」

「あっ……」

学習障害というのだろうか。

「優しく教えてあげて。」


「優しく??あいつに??!」

「うん。」

「でも、そうじゃなくて!……えっと、ヤバいのはあいつ、俺と二人の時は、超態度デカい!!」

「………」

態度がでかいのは尚香も知っている。なにせ最初にひどいことをされたのだ。初対面で「もっと老けるよ」扱いである。


………そして尚香は気が付く。

「大和君にそっくり!」

「はあ?誰が!!」


「とにかく尚香さんは、きちんと身を固めててね!」

「どうしたの?……章君は大丈夫だよ。」

「絶対やばい!あいつはヤバい!!」



隠れていた利帆は、どうしたもんか、ずっと考えてしまった。




***




「LUSH?」

「そう、LUSH来てたって!!大和見た?」

「歌手の?」


大和もLUSHくらい知っている。テレビも動画も大して見ないが歌は聴く。それなりに。

「見てない。」

「お前らのサークルと同じ名前だったから、引き寄せ?」

「そういうのあるかも。俺、見てないけど!」

と、みんな笑う。


その日の学校は大いに盛り上がり、大和の周囲もやっとその話題になっていた。


「校舎側だけ抜けて裏に行ってたらしくて!」

「マジ教えろよな~!」

「カッコいかった?」

「与根さん普通。お前みたい。」

と、誰かがクラスメイトを指すので、その子が照れて盛り上がる。目立つ系でもない普通男子だ。

「でも、ギターめっちゃかっこよかった!もう全然違う!!」

「マジよかった。軽音部には悪いがなんかもう違い過ぎる。」

一人軽音部がいるので怒るが、まあ、そうだなと笑っていた。

「見たのか?!いいなー!」

「軽音部一緒にライブしたんだろ?」

「2組と5組の方の子だけど!」


「真理と功がめっちゃ目立ってた。」

「マリ?女いるの?」

「あの魔法使い。」

みんながみんな、LUSHの全貌を知っている訳でない。ただ、スライム動画がウケたので、最近は男子にも知られていた。今日は、軽音部や美術部たちは質問をされまくりである。


「功、超かっこいい!!」

「めちゃ顔小さかった!!」

「歌よかったよね!」

「思ったよりおもしろい人!!」

「動画は?」

「撮ってない。」

「何でだよー!!」

ちょっとしたお嬢様も通う緑川。動画も撮らず素直であった。



「ふーん。」

大和はみんなの会話を横で聞きながら、背が高いと言われて章を思い出すが、顔って小さすぎてもアンバランスなんだよな、とも考える。小さければいいというものでもない。章の足の長さは羨ましいが、もう少し胴に重みがほしいとも思う。尚香さんくらいでかわいいし……と考えてしまい、「は?」なぜそれを今、思い出す!と、自分で赤くなっていた。



そしてそんな教室を見ながら利帆は、尚香さんの知り合いなんだよね?で、なんで大和は知らないの?大和も知り合いなんだよね?大和はバカなの?と思う。自分もLUSHのビジュアルを知らなかったが、三人仲良さそうだったのにと、分からなくなっていた。



そんなわけで、利帆以外なぜLUSHがここに来たのか知らないままであった。




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