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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十七章 学祭

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55/71

55 歌を



スタンドマイクの高さをめいいっぱい上げて、庁舎君は少し声を出してみる。

「ahー、ahー、haー、haー、tie tie tsu tsu tsa...」


廊下の方からも生徒たちが集まってくるので、最初に庁舎君はみんなに頼む。

「あー、皆さんにお願いがありまして、まずマリアンが言ったように…」

そこでマリアンがかわいく手を挙げると、歓声が上がる。

「スマホはなしで。あと、歌えない持ち歌もあるのでご希望には添えないかも。それで、僕は………」

庁舎君は周りを見渡し、先マスクをあげたマンガ部男子を見付ける。

「君、名前なんだっけ?」

「……!」

驚いて動揺する彼の代わりに先の美術部女子が答える。

「山田慎司です!!」

「なら僕は、今日は山ちゃんのただのお友達で来たってことでよろしく!I love Yamaちゃん!!」

「おおおーーー!!!!!!!」

「山田ー!!!!」

知り合いが叫ぶ。山田君は一人、え?え?となっているものの、周りはお友達の健闘を観に来ただけって設定ね!と理解する。



「あれ?今日、鍵盤とドラムの人いないし。どっちかいた方が楽しいよね。」

そうして庁舎君は、先のバンドから一人ドラムの男子をステージに立たせた。

「え?…え?」

戸惑っている男子にスマホで何か楽譜を出させて何がごにょごにょ話をし、少し打たせた。

「タっタっタっタっ………」

拳でリズムを取って、

「もし知ってる曲があったら、あのおにーちゃんが合図したらそれ入れてね!分かんなかったら先のだけやってていいから。」

と、無茶なことを言う。



チョーシャ君がマスクを外すと周りが騒めいた。


「あー、あー」

とまた声を出し、マイクを軽く突いて、マイクテストを続ける。

「あいうえあおあお、かいくけけこかこ、あめんぼあかいなあいうえお……」

「!」

この発声を知っていそうな生徒たちから笑いが起こるので、そっちを見てポーズをすると、彼らもまた顔を見合わせて笑った。

「たちましょらっぱでたちつてと、とてとてとてとて、たったととびたった、

たてちつてとたと、たとたとてとたと、たつたつたつたつ、たったったったっ………」

ラップ調なのかビートなのか、演劇部がさらに盛り上がった。


与根も適当なところでギターを入れる。だんだん何を言っているのか分からない他言語のラップに変わり、手を伸ばして挑発的なポーズをすると、「キャーーー!!!」と声が上がる。


その流れのまま、音を変えた。


「.....Chech one two......」

与根の方を見ると、与根がOKを出したので、そのまま続ける。


「Chech one two.」


ドラム君にも指でリズムを示すと、ドラム君がどうにか打ち出すのでそちらにもウインクをした。


「chech………chech、chech、Chese、chese………」

そこに真理が声を合わせ………



途切れることなく歌が始まった。




***




「LUSH!」

「は?」

「LUSH来てる!!」


その頃、学校の一部では文化系を中心に校舎C棟に人が集まっていた。美術部ファンの子が最初に「大事にすると功は逃げる」とメッセージしたので、全体には広まっていない。




「尚香さん~。大和のサッカーもう少し見ていきましょうよ。せっかく来たのに。」

「大和君イヤがってたし。」

「照れてるだけですよ。それに、職員室に挨拶にも行かないと。」

大和たちのクラスの副担が、個人的に興味を持ってくれて学校との窓口になってくれている。

「利帆ちゃんもそろそろ教室戻ったほうがいいよ。」

「武見たちがいるから。武見は10人分くらい仕事する。それにこっち、奥ですよ。」

「あ、そうだっけ?」



そこに、友達の一人が駆けて来た。

「お、利帆いるじゃん!」

「藤野!あ、尚香さん、この子も友達。」

お互い会釈をするも、その子が興奮している。


「利帆、LUSH来てる……」

「ラッシュ?」

一瞬何のことか分からない。自分たちのサークルの事?でも、その表現はおかしい。

「LUSH!!」

「?」

「功来てる!!」

「こう?」

「バンドの功!!!」


「!!」

尚香がひっとなる。


「……?」

利帆はLUSHの歌は知っているが、バンド名も個人名も知らないので「??」こうなっているも、分かってしまったのは尚香。


「利帆、行こ!!軽音部!!」

「えー?」

「先生も行きましょうよ!!」

友達は尚香を赴任してきた先生か、他校の先生と思っているようだ。

と、引っ張られるので尚香も取り敢えず付いて行く。本当にいるのか、確認はしておきたい。どういう関係で?学校関連?なぜここに?ほんとに?なぜそういう勝手なことをと。




そして、ワーーー!!!!と歓声と拍手で盛り上がる教室に唖然としてしまう。


どうにか教室内が見える廊下から見ると、ドラムの男子生徒にハグをしてその手を掲げている功が見えた。先生もいるのか、私服の先生と目が合うと会釈をされた。向こうも先生か事務員と思っているのだろう。



なぜ?なんで?何をしているの?真理ちゃんまで……と、

焦ってしまう尚香を、先の生徒が「先生、もう少し前に行けますよ」と押し出し、後ろ側でも少し見える位置まで入ってしまった。思わず利帆の後ろに隠れる。



ステージ側は、今度はPCで歌を作れる子にリズムを出してもらい、そこに合わせてもう一曲始める。


「この歌は、山ちゃんの知り合いが軽音部に遊びに来て、ちょっと楽器を触らせてもらったついでということでよろしくお願いします。」

功が言うと拍手が起こる。

「カラオケです!ただのカラオケです!!」

と言い切るともっと拍手が起こる。

「カラオケーーーー!!!!!」

PCの子は知っている曲だったので既に持っていた音を座ったまま流す。真理も軽音部のギターに持ち替え、あとはLUSHでの歌になった。



少し、しっとりとしたラブソング。



「わー……。尚香さん、この歌知ってます!彼らだったんですね!!」

と、利帆が振り向くと、尚香が真っ青な顔をしていた。

「………」


功と言えば、歌いながら気が付いてしまう。尚香さんだ。

「!」

パーとうれしそうな顔になって、歌いながら尚香の方に手を振る。その様子で真理も気が付いてしまった。今年初めての尚香で、真理も超笑顔だ。




二人で尚香の方を見るも、尚香はそんな気分ではない。思いっきりバッテンのジェスチャーで無効のしぐさをする。


なんでここに来てるんだ!

こっちに振るな!!振ったら許さない!とそのままバツを大切(おおぎ)りにした。

「!!」

功は怯えて目を逸らす。



その様子に気付いていたのは、利帆と友人だけ。

尚香は「利帆ちゃん、私行くね」と耳打ちし、その集まりを抜け出してスマホにメッセージを打つ。『どういうこと?』『こんな大勢の前で私に振ったら怒る』。真理の方にも一言入れておく。



そして、その曲が終わると、

「ワーーーーーー!!!!!!!」

と今日一番の歓声が起こり、功は挨拶をして軽音部と駆けて来た吹奏楽部の子に「プレゼントね」と山本さんのくれたマスクを渡した。


真理が楽器をしまうのを待って、それを功が担ぐと教室を後にする。


歓声の中を抜け出すように外に向かう。スマホ禁止をお願いした代わりに、手を出してきた子全員と握手かハイタッチをしながら。功の手が想像以上に大きくて、女の子たちがキャーキャー騒いでいた。



「あれ?真理、なんで尚香ちゃんに嫌われてるの??」

真理が歩きながらスマホを見ると、『真理ちゃん、学校で声かけないでね』と、メッセージが入っているので真理は涙目である。

「目立ちたくないからだろ。」

与根だけ冷静だ。




***




「大和ー!ずっとスマホて鳴ってんぞー!!」

「あ?」


尚香に電話をしたら怒られそうなので、功は大和に電話をしたのだ。大和はコートから出て電話に出た。

『大和くーん?なんで出ないの?すぐ電話ほしいんだけど?』

「サッカーしながらどうやって電話するんだよ。」

『今の子はみんなスマホ中毒じゃないの?寝る時も飯食う時もトイレもスマホ持ってるって聞いたけど?』

「はあ?」

めんどくさい大人に大和はめんどくさくなる。


『尚香さんは?』

「先ここに来てたけど?」

『なんで、大和に会って俺に会えないんだ!』

「……なに?尚香さんに会いに来たわけ?」

『それもあるけど、学校に来てみたかった。半分登校拒否だったから青春を取り戻したくて。』

「………」

想像以上にすっげー面倒な大人と知り合いになってしまったとやっと気が付く。しかも従姉に執着しているとは。


「学校で面倒事起こさないでね。」

『食堂も行きたかったのに、早く帰れってメールで尚香さんに怒られた。』

「……帰れよ。」

『大和君、お礼でジュース買ってあげるからこっち来てよ。外のなんか紙パックの自販機があるところ。』

駐車場のある方の裏だ。

「いらない。」

『えー?貰って。来てよ~。』

「………」

こんなにごねる大人がいるとは。大和は、自分は絶対にこういう人間にはならないと決意する。


『ねえ、ねえ、大和君~。来ないなら代わりに、尚香さんの関わっているサークルに買って差し入れしに行こうかな。』

「は?まだ行ってないの?」

『行く前に尚香さんに、帰れって怒られた。』

「っ!なら行くなよ!!」

考えてみたら、こんなのが部室に顔を出したら最悪であろう。


『じゃあね~、大和君。この地図の外部活動ってとこかな?行ってみるね!』

「あーー!!待て!行く!俺が行くから絶対にそっから動くな!!」


そうして、駐車場の裏の少し雑草とした木が植えている方まで駆けて行く大和であった。




あいうええおあお、あめんぼ赤いな……日本語の活舌などの発声練習。

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