53 高校生
「わー!マリ、日本の高校初めてー!!」
キャピキャピ大騒ぎする真理。
「いろんなMVそのままだー!ねえ、ウチらも今度高校でMV作ろうよー!!」
学校はいろんなMVの舞台になっているのだ。
「みんな制服着てるー!!」
「けっこういろんな国、どこでも制服の学校多いよ。」
「マリのとこは私服だったもん。」
「てか、真理ちゃん高校行けたの?」
「マリは成績よかったよ~!お友達も多いよ~。」
「………」
真理もかなり浮いているタイプなのに、自分だけ小中高に適応できなかったのかと功は不満である。
美術室に「美術部」「マンガ部」と貼ってあり、功が入って行くので一緒に入る2人。
3人が無言でヨソヨソと入って行くと、
「こんにちはー!」
と、明るい美術部女子生徒が迎えてくれた。が、しかし、
「?!!」
「っ!」
身を隠しているのか、強調したいのか分からない上に、身長180以上ありそうな人が入って来るので皆ビビってしまう。
「ちわっす!」
「……ちわ。」
「こんにちは!!」
ヤバい人たちが挨拶をしてくれる。まだまともなのはマスクはするも普通の青年ぽい人だけだ。
「見学しに来ただけなので、好きに見ていきます。」
「あ、そうですか………」
そして、1つ1つじっくり見ている。騒がしかった教室がしーんとなった。
「お姉さん。」
「え?あ!はい!」
「これ誰が描いたの?」
女性が描かれた1枚の大きな絵の前で、でかい男が女子生徒に声を掛けた。
「私です……」
「ここに使った画材何?」
「マニキュアです。」
「…………」
「…………」
変な空気が漂う。
「めっちゃいい感じ。」
「え?そうですか?
「うん。」
「ありがとうございます!!」
「マリリ、こっち好きだよ?」
と、真理は動物たちが描かれた絵を指すと功もじっと見た。
「かわいいね。」
「でしょ!」
大満足マリである。
そして、誰も席から立たないマンガ部の方に行って、あれこれじっと見てコピー本を取る。
「………っ」
マンガ部が怯えていた。
「ねえ、マンガ部って何?そんなん有りなの??」
「え?……ダメですか……すみません………」
「『漫研』にしてほしい。それっぽいから。」
「すみません……。でもマンガ部です。」
そこは言い切る。
「これ手で描いたの?今ってアプリとかで描くんじゃないの?」
「こっちは手で……でも、今はデジタルも使います………」
男子生徒がおずおず答え、立ち上げてあるタブレットの画面を見せた。
「!………やはり高校生は生意気すぎる………」
「え……ダメですか……?」
「ダメに決まっている!!」
「ひえっ!」
功が高校生に怒るとバジっと与根に頭を叩かれた。
「あて!」
「すみません、気にしないで下さい。こいつ、自分がPC分からないから嫉妬してるだけです。」
「マウスの操作くらいできるぞ。ダブルクリックもできる!」
「……。」
「じゃあ、お兄さん、これ一部もらうね。無料でいいの?」
「あ、はい。」
今回はクラブや部活紹介なので、学校の予算である。
庁舎君はカバンからゴソゴソ何かを出した。
「これはお礼の『マフラー戦士リリベル・リリル』の限定マスク。みんなで分けて。」
バイクの排気量とマフラー音が攻撃を決める美少女戦士だったが、ニッチ過ぎて女の子にもバイクファンにも刺さらず、数話で打ち切りなったシリーズ物である。山本さんの最推しであった。
「………」
少年バトル漫画が好きな高校生。戸惑うもマスクの束をもらい、功は本を一部もらって教室を去る。
「ありがとね~!」
真理も手を振り、与根は礼だけした。
「……………」
呆然としてしまう部員と見学者たちであった。
そして次、功は憧れていた調理室に向かう。
「おじゃましまーす。」
と入ると、先と同じ反応。
「こんにちはー!」
と迎えたのに、入ってきた人間がでかいのとハデハデ女子で驚く。なお、真理の色のセンスはかなり男寄りダークだが、真理という存在自体がいかせん派手過ぎる。
「ここ、スイーツ部っていうの?」
「そうです。」
「名前がもうかわいい。」
功がかわいく言う。
「え?そうですか?ありがとうございます!」
「スイーツ作ってないの?料理体験とかしないの?」
「そういうのするのは最近いろいろ難しくて、ここで作る時もあるけど本当のお店に行ってバリスタとかお菓子作りとか体験する活動をしています。」
「そうなの?さみしい。」
「…………」
そんなことで寂しがる風貌をしていないのにとみんな思うが、章は日本の家庭科という授業を楽しみにしていたのである。もちろんほぼ参加していない。したいのにグループ作業と聞いて怯んで教室に入れなかったのだ。
「今回はカフェで一緒に開発したお菓子売ってます。売上は儲けじゃなくてカフェに払う経費分です。」
と、売り場を見せる。
「おお!いくら?」
「これは100円。こっちは300円で、こっちが500円。」
「現金あるかな。」
とカバンを見ると5000円札しかない。
「いくつか買うからここで食べてもいい?」
「どうぞ……」
クッキーが10個くらい入っている300円の物を開ける。
「マリアン、あ~んして。」
真理がマスクをずらすと、功が1つ口に入れる。部員、赤くなってしまう。恋人か。
「おにーちゃんも。」
と与根の口に入れようとするが、与根はパッと手から取って自分で食べた。功も1つ食べる。
「…………」
心配気に部員たちが見ていると、功と真理が「美味しい!」とグッドサインを出した。
わあっと盛り上がる調理室。功がまだ入っている分を目の前の部員にも配るので、みんなありがとうと受け取る。最初は口に向けられるのでそのまま食べてしまった子もいたが、だいたい慌てて手に取っていた。
いくつか買って、後は活動費にしてもらう。
「お釣りいいんですか?」
「いいよ。その代わり今度はナッツかレーズンのお菓子作って。洋酒入りの。このカフェ買いに行くから。」
「高校生に酒菓子勧めるなよ。」
与根が呆れていた。
そして功、ピカーーン!と何かひらめく。
「それでさ、俺今思ったんだけど……」
「?」
「俺、今なら高校普通に通えない?」
「は?」
またくだらないことを言い出したと与根があきれる。
「なんか学校行ける気がする!」
「行ってどうするんだ。必要ないだろ。」
「元も子もないこと言わないでくれる?」
「庁舎君は数学や化学の時間でどうせ逃げ出すよ。」
真理も言わなくていいことを言ってしまう。
「授業は聴くことに意味があるから。」
「ないだろ。」
聴いたところで全部すり抜けていくに違いない。
「はー、今なら人生やり直せそうな気がするのに……」
「……そうだな。」
あまりにかわいそうなので与根がちょっとだけ合わせてあげた。
「学校行きたいなー。ねえ、そしたらスイーツ部入るから!」
と、うれしそうに部員を見た。
「あ、はい!」
「毎日、一緒に昼ご飯食べてくれる?」
章は学校通っていた頃、ごはんは食べずに逃げるか、手で掴めるものだけ持って誰もいないところでかじっていた。
「はい……。」
超うれしそうなので、肯定以外していい雰囲気ではない。
なんで一番学校に行かなくてもよさそうな人間が、学校に行きたがっているのだろうと、部員たちは思った。
一方、サッカー部のいるグラウンドには、利帆やその友人の鈴と一緒に、尚香が大和を見に来ていた。
サッカー部の周りには男子部員を見に来た女子たちも集まっている。
「運動部の周り、男子見に来る女の子たちが他校からも集まって来るんだよね。」
「他の学校も授業あるんじゃないの?」
「この辺の学校、今週までは授業終わるの早い学校が多くて。」
「へー。」
尚香の通った高校では、誰と誰が付き合うと噂したり、男子にキャーキャー言う文化がなかったので、少女マンガみたいだと驚いてしまう。尚香が知らなかっただけかもしれないが、まじめな子たちがとにかく勉強か部活に打ち込んでいる高校であった。
「大和君は人気あるの?」
尚香ちょっと気になる。
「運動神経はいいし、黙ってればまあまあかっこいいからそれなりに。」
「へー!」
モテるのかと驚きと感動。武田家の容姿は冴えないし普通と自覚しているので、由李子さんの血筋か。大和の父啓太は、尚香の親よりはスラッとしているが。
そこで、利帆が大声を出す。
「大和ーー!!」
すると、向こうに集まっていたサッカー部の何人かがこちらに注目し、尚香も大和に手を振った。
そして大和側。
「!?」
マジか?!と、身内に来てほしくない大和は無視をする。ラッシュクラスティンの一員である母が来たがってもやめさせたのに、来るなと思ってしまう。教室で大人しくしていればいいのにと。
「おー!鈴いるじゃん。俺ら見に来たの?!」
「利帆、グッジョブだ。鈴を連れて来るとは。」
鈴は美人なので一部の男子が盛り上がる。
しかし大和から反応がないので、
「やまとーー!!!」
と、もう一度利帆が叫んでいる。そして、部員の一人が気が付いた。
「あの人誰?私服の人。」
「担任ねーよな?」
「新任?」
「国語と今年数学も一人、女じゃなかったっけ?」
「ちょっと違う気がする。」
「お?マジ?まだいたっけ?今年豊作?」
「は?!」
大和はみんなの言葉が信じられない。毎年若い先生やきれいな先生が男子のそういう的にされているのは知っているが、なにせ尚香さんである。
「お前ら何言ってんの?おばさんだろ?」
「……?おばさんなの?」
「かわいいじゃん。」
「近くで見ろよ。おばさんだぞ。」
「オバサンでもかわいいならいいし。」
「はあ??」
大和は知らない。可も不可もない尚香さんみたいな人が好きな人もいるのである。目立つ美人より付き合うならほどほどの人の方がいい人も多い。ただ、尚香さんは見た目が通行人なだけで、中身は参謀であるが。戦国時代に送り出したい。
「職員室遊びに行く?」
教科や専門の先生たちはそれぞれ専門の職員室がある。生徒たちも遊び半分、からかい半分で仲良くなるだけであるが。1年ワイワイ楽しく過ごせればそれでいいのだ。
「利帆連れて来い。利帆に聞けばいい。」
しかも向こうは、利帆たちの輪に光もやって来ていた。仲良く話している上に、光が来るので周りの女子たちも注目している。
対抗するサッカー部。
「あ?なんだ光の野郎?もう仲良くなってんのか?」
「まず、鈴と光を引き離せ。」
「呼ばれてるんだからこっちが行けばいい。行け、大和!」
「は?なんでだよっ。」
「なら俺が行く。」
と、一人の部員が言ったところで大和が止めた。
「俺が行く!」
「あー、何だよ。」




