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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十七章 学祭

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52 春迎祭



こたつから追い出された章がうるさい。


「尚香さん、そんなの行かなくていいよ。」

「はあ?」

この大男に言われるとムカつく大和。

「だって、尚香さん。この子が来なくていいって言ってんだよ?」

「………」

この子と言われるので、さらにムカつく。

「……あのさっ。ちょっと尚香さん来てくれる?」

と、大和が尚香を廊下に連れ出した。



「尚香さん、あいつ何??」

「章君?」

「おかしいだろ?」

「………そうだね。私もよく分からない………」

「!」

そんな男を家に出入りさせるとは。ショックすぎる。


「でも、お父さんの話し相手になってくれるし、近所の清掃もしてるからお父さんの知り合いとも仲がいいし。そんな悪い子じゃないよ。」

尚香も困ってるのだが、何も知らない子供に章を悪く言うわけにもいかない。

「大丈夫。彼のお母さんとも仲がいいから、ちゃんと監視はあるし。」

「??」

ますます分からない。親の監視がいるほどの成人?親戚でもダメだろと。


「だいたい、家の中であの眼鏡にマスクって……」

「大和君、それは言っちゃダメ!」

「……あ………」

花粉症がひどい?それともなにか病気か怪我でもしているんだろうかと、口をつぐむ。

「尚香さん、とにかく………」


「何?」

そこに引き戸を開けて章が来る。


「っ!!」

怖すぎる。

「章君、なんでもないよ。てかさ、章君ももう少しセンスのいい帽子とマスクして。怪しく見られてるよ。」

ピンクと黄色と紫の、美少女マスクである。

「なんで?センスいいのに。山本さんがたくさんくれるんだよ?マスク、貴世さんにもあげたよ。尚香さんに言われたくないんだけど。」

尚香は山本さんを知らないが、仕事先の誰か、おそらくスタッフであろう。貴世さんは近所のオバちゃんだ。


大和は最後まで怪訝な目を向けていた。




***




そして春迎祭。



大々的な宣伝はしないが、関係学校機関の生徒か、内部の紹介と写真付きの身分証を提示すれば外部人も入れる。


「尚香さーん!」

「利帆ちゃん!!」

午後休を取ってきた尚香を、利帆や友達たちが迎える。


「どう?」

「うん、入会の時点でフィルター掛けてます。本質的な地域貢献とかを考えられることとか、出会いの場ではないとか真面目な話し出して。」

現在、海外を見るフォレストチームと、地域を見るウッズチームに分かれ相互に助け合っていた。


(ひかり)とか武見とかちょっとかっこいいし、結花とか鈴とかかわいいじゃないですか。だから仲良くなれるって思ってる子がどうしても集まってくるから…。」

そうか、武見君はかっこいいのか……と、顔を思い浮かべるも尚香、かわいいとしか思えない。光君はちょっと大人っぽいのでなんとなく分かる。まあ、みんなかわいい。ちょっとふっくらした利帆ちゃんも、正直かわいい。


「尚香さーん!!」

教室で歓迎され、尚香も差し入れを出す。

「尚香さん、扉見ました?」

「扉?」

光に言われるも分からない。


「看板見ませんでした?このサークル名、Lushクラスティンにしたんです!」

「!!」

一瞬止まってしまう尚香。


「LUSH?」


「……あ……R?L?」

「L・U・S・Hのラッシュ!」

「LUSH?!」


「はい、フォレストとウッズなので、まとめてラッシュです!」

フォレストは大きな森、ウッズは小さな森。ラッシュは豊かな、青々とした、繁茂した、緑が多いという意味だ。

「…………」

「最初、緑川校生が多いのでグリーンにしようかと思ったんですけど、グリーンはいろんな団体で使われてるし。クラスは自分たちも学ぶ場。ラッシュクラスだとゲームっぽいので、響きを落ち着かせて……、『ラッシュクラスティン』です!」


「……………」


喜んでくれると思ったのに、お姉さんが固まっているのでみんなちょっと寂しい。

「………」

「尚香さん、ダメでした?」

「勝手に決めてごめんなさい……。まだチーム名だけにして、正式な書類には提出前なので……」

「え?あっ!そんなことない!いいよ!すごくいい!!いろいろ考えるな……ってアイデアに驚いていただけ。それにみんなの自由だから。」

学生たちはホッとする。

「それで、簡単なロゴやロゴマークも作ったんです!」

「ちゃんとマークも他と被っていないか調べました。」

と、デザインの好きな子がデータを見せてくれる。

「おお!かっこいい。」



そんなふうに時間を過ごしている中、大和はこの前電話交換をさせられた人に、事務の受付で呼ばれていた。


「あー!大和くーん!!おにー様だよ!」

「…………」

章である。しかも、今日は仲間まで連れている。この大人の仲間って。

「………何?その顔。」

「………」

なんで、似たようなのが増殖しているんだ。



実はこの前。いろんな話をしてから金本家で夕食もご馳走になり、章が大和を家まで送っていくことに。

いい、電車で帰れます!と大和が言い張るも、「章君は悪いことしたら一発で仕事失うから、悪いこはとしないよ。大丈夫。遅いから送ってもらって」と言われ、無理やり車に押し込まれる。何、その理由。怖過ぎる。



ヤベーよ、こいつ絶対ヤベーよと思って、送るのは駅前までにしてもらった。

しかも、駅に着いたら大男が「大和君連絡先教えて」と言ってきたのだ。やんわり断ったら、なんでー?と駄々をこねるどころか、僕いい人だよ?とブリッコしてくる。本当にヤバい。


挙句の果てに、自分語りをしだした。

「僕は小学校の頃からお友達がいなくて……」

本当は園児の時もいないのだが。

「お父さんいなくて、貧しくて中学校から働いて……」

「!」

ここは本当だ。多分。バイトはことごとく首になっていたが。

「高校でもお友達がいなくて………。一生懸命頑張ったのに会話が下手でいつも空振るのか、同窓会にも呼ばれなくて……」

なにせ職員室と図書室通い。そもそも高校はみんな関係が希薄で、同窓会自体がなかったのだが。章は同窓会に憧れていたのに、そんなものは何もなかったのだ。さみしい。


「大学行きたかったのに。サークル活動とかもしたかったのに、大学全部落ちて……」

推薦すら受からなかった。そもそも大学に行ける頭も卒業できる頭もない。推薦以外、試験すら受けていない。

「そんな僕にも、お友達がいたらいいなって……」

「…………」

大和もアホなので、絆されてしまう。



そして、電話交換した途端に態度がでかくなる。

「ふーん。大和君、俺よりいいスマホ持ってんだね。生意気だな。」

「…………」

章のスマホは昔の物だ。替えるとその度サイドスイッチの位置が違い操作が分からなくて混乱するからだ。今も、大和に登録をお願いした。


「あの、ショウさん、尚香さんに変なことしないでね。」

「はー。あんな態度取ってやっぱお姉さん好きなんじゃん。」

「いや、普通に心配になります。金本家自体が。」

気のいいお年寄りと、こんな男の面倒を見ているアラサー会社員。どうかしている。

「なんで?それに、尚香さんち以外では章さんじゃなくて、庁舎さんって呼んでもらえる?登録もそれにしといて。」

「チョーシャ?」

「市庁舎とか、県庁舎の庁舎。建物。」

「……あ、はい……。え?庁舎??」

「そんでもって、」

ここからまたいい人になる。

「大和君、いつでも僕を頼ってね!仕事ない時は運転手するから!」

仕事あるのか?この人!とビビる。


「仕事何してんですか?」

「俺?舞台関係。」

「あ、なるほど。」

しっくりきた。



そんな感じで一応知り合い同士になったのだが、他で金本家に行った時、危なっかしく皿洗いもしておばあちゃんの手伝いもしているので、大和も気が抜けたのだ。



そして今、春迎祭招待して-!と呼ばれたのである。


やたら大きな車に乗っているので舞台の裏方だと思っていたのだが、なんとまさに、その仲間たちまで連れてやって来た。しかもなんだ。舞台裏の人間って揃って眼鏡をしてマスクをするのか?みんな花粉症なのか?それとも、自分たちが有名人だとでも思っているのか。

章と並ぶと背の低く見える男性が一人、多分大人なのにクルクルの髪をツインテールにした上にすごい厚底のブーツを履くロングスカートの女性が一人。役者?


「あの、こちらは?」

「はい!尚香さんの友人でマリリリンっていいます!」

「こいつの友人で、与根村です。」

「あ、どうも。」

「こいつがいつも何をしているのか、行く先々で問題を起こさないか見に来ました。」

「え?」

やはり問題児なのか。


「ママリンは、全然尚香ちゃんに会えないから近況を聞きに来ました!」

先と名前が違う。問題児の面倒を問題児たちが世話しに来たのか。問題すぎる。


受付で貰った見学者シールを腕に貼るも、ママリンが庁舎君に屈めと言って、シールをマスクに貼ってしまう。

「!!」

マスクに貼るのか?!というのと、女性が躊躇せず大男の顔に手を近付けるのでビビってしまう。

「腕か胸にでも貼ったら………」

「庁舎君は怖いから、すぐに認識できる場所に貼ったんだよ。マリン、頭いいでしょ?」

「…………」



「なら皆さん、今スマホに今日の地図とか送っておいたので好きに見て下さいね。」

「案内してくれないの?」

「俺、自分の部活に顔出せって言われたので。尚香さんたちいるのそこの校舎です。」

「はーい。仕方ないよね。」

「大和君はどこ?」

「俺はあっちのグラウンド。」

「見に行っていい?」

「あ、来なくていいです。変なことだけはしないで下さいね。」


そんな感じで、大和は彼らと別れた。




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