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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十六章 あっちもこっちも
45/70

45 そしてみんな消えていく。



「尚香さん、なんか変な高校生たちに肩入れしてんだけど!」

最近許せないのは功である。


「あー、もう必要な音終わったから、功は帰っていいよ。」

与根がめんどくさそうに言う。

「愚痴聞いて……」

「そこで喋ってればいいだろ。」

「いや、うるせーから帰るなら帰ってほしいんだけど。」

作業している伊那が言うも、構わず話す。

「聴いて~。尚香さんさ、あんなに忙しいとか言てったのに、親戚の家でなんかワークしてんだって!」


そう、あれから尚香は週2集中講座で高校生のワークに組んだのだ。

組織編成やリーダーシップ作りなどの教育。彼ら、見た目はあんなふうでもやはり中身は良かったのだ。勉強が出来るというより、物事への感性が柔軟で思った以上に前向き。大和以外。


「……そんで、俺をバカにしてそうな目で見た高校生がいるんだけど、出来が悪いってかわいがってんの。」

「…………」

「与根、聴いてる?」

「……あ?高校生がかわいいんだろ?」

「違う!かわいくない!頭が悪いって話!!そいつめちゃ頭悪い。俺のこと睨むもん。それに俺高校生の時、自分や周りの高校生がかわいいなんて思ったことないんだけど?」

「今は良子ちゃんかわいいだろ?」

「かわいいけど?」

「そういうことだ。」

「え?!全然違う!!」

「…………」

ウザいという顔で功を見る。


「なんか思うんだけどさ…」

伊那が言い出す。

「尚香さんの人生にお前いらなくね?」

「……思っても言うな。」

尚香はいつも忙しいので、功がいなくても生活が回っていく。それどころか功が来るのをウザいと思っている感はある。仕方ないので、尚香の隙間時間に会いに行くしかない。これでも以前より会えている方だ。



そこに入って来る三浦。

「あ、功。今日ダンス合わせるか?」

「え?もう終わるって……、スタンドインでいいし。」

「黙れ、待ってろよ。」

今日はおじいちゃんの誕生日なので帰りたい。


そして、三浦が少し席を外すと逃げていく。

「じゃ、今日僕もうあがるんで。おつ!」



「………真理と合わせたかったから、真理とできないなら俺も帰ろかな………」

と、与根が立ち上がる。真理は今日は来ても別の人との打ち合わせだ。


と、言うところで三浦が戻って来た。

「功は?」

「帰りましたけど?」

「帰らすな!!」

「代わり入れてって言ってたけど?」

「若いのが楽しみにしてたんだぞ!!」

春からまたツアーが始まるのでダンサーたちが入るのだが、最終合わせやリハまで代役でいいだろと言う功。一方、この春大舞台デビューする新人ダンサーたちは本人に入ってもらいたい。モチベーションも上がるだろう。


「くそっ!あいつ着信無視しやがって!」

「………」

いろいろ考えて、普段無口な与根が顔を上げた。

「俺が見に行きます。」

「どこに行ったか分からんだろ。」

「功。今日、お父さんの誕生日だと言っていました。」

「お父さん?」

「尚香さんのお父さんです。」

「ああ??」


「……功が、どこで遊んでいるか知っておきたいし……。ちょっと見に行ってきますね。」

と、与根は外に出る。




と言って、45分後。

何の連絡もないので、与根に電話すると取り込まれていた。


「は?取り込まれた?」

三浦は、伊那の言う意味が分からない。

「誕生日で今すき焼きが始まったらしいので、肉とちくわぶをプレゼントに持って行ったから、そのままご馳走になっているそうです。」

「は?」

「和牛は食べ過ぎるともたれるから、若い子で食べて行ってくれと言われたらしくて。」

「……??お前ら何考えてんだ?!!」


「俺、車だから二人連れ戻してくるわ。」

と、(たい)に言って、伊那も出掛けた。三浦はダンサーに謝りに行く。




そして5分後。

「ねえ、なんで与根も伊那もいないの??」

合わせにやって来た真理が怒っている。


そして与根より無口な泰に聞き出してぶち切れる。

「そんなん、戻ってくるわけないし!!」

日本酒買って行こうとか言っていたらしい。


「なら、真理は冷凍うどんと豚肉とホタテ買ってく!!おいしい店知ってる!!後、今度のためにしゃぶしゃぶのタレも買って置いて行く。」

「今度ってなんだ!今度などない!!」

三浦が怒ってまた戻ってきた。

「マリ、尚香ちゃんの家に行ったことないし~、今年に入って1回も会ってないし!!どうせみんな揃ってないし~!!」

「真理は、今日はLUSHじゃないだろ!提供曲の確認してもらう。ちょうど人来てるから。」

「え~!!やだ~!!」

「あとホタテは生で食え!うどんはレジェントだがすき焼きにホタテ入れるとか言語道断!!」

「たくさん買えばいいし~。なら三浦さんも一緒にいきましょうよー!!」



実はその後、泰も肉を持っておじゃましていた。


という訳で、功、与根、伊那、泰の4人は真理に恨まれるのであった。




***




武田家。


「ねえ、啓太。」

大和のお母さんの由李子(よりこ)が、尚香の用意してきたレジメを見ながら夫に話しかけた。


「こういうの知ってる?」

「…………」

啓太はそのレジメに目を通す。

「あー、今の企業はこういうワークするところけっこうあるんじゃないかな。この辺は基礎だよ。尚香ちゃんがしてるのだろ?」

「………そうなんだ……。」


実は高校生のワークに一緒に参加している由李子。時代的に、業界的に、そして部署的に由李子はこんな世界を知らなかった。基本銀行の窓口とその後の処理しかしたことがない。後はアルバイトやパートだけだ。

「地方銀行だと生き残りをかけてるから、けっこう女性社員も営業に出るしいろんな企画準備するし。地方回るとおもしろいところもあるんだ。」

「……へえ…………」


四人も子育てをして、園や学校の役員もして、地域のあれこれもして気が付いたら50手前。あんなに頑張って来たのになんだか世界から置いてきぼりになったようでさみしい。


「こっちは……?」

今度は、事例や実践の資料だ。

「これは尚香ちゃんが選択した科目なのか?」

「この前は最初に自分と将来の話をして、何をするかは大和の様子を見てから決めようと思ったらしいんだけど、光君や志穂ちゃんたちが尚香ちゃんの乗って来たからね。」

「……ふーん。」

今度はお父さんがその資料をじっと見ている。


「これとか、ヤマカ重機の賛助を得ているからしっかりした企画なんじゃないか?」

「………」

奥さんが覗き込む。

「それは知り合いたちの企画で、現地各国の大学生が共同で地域開発をしていくのだったかな。」

「こっちも大手だな。」


由李子はいろんな動画をじっと見る。


「大和はどうなんだ?」

「相変わらず尚香ちゃんに反抗している。」

「……なんでそんなに子供なんだ?何が不満なんだ?」

ちんちくりんなOLにかわいいとか言われたからである。これは許せない。



尚香のワーク。光君たちが友人を数人連れて来たため、武田家では狭いということで公民館の一室を借りて始めていた。

そして自分たちも何かしてみたいということで、自分たちが発起するか、星が丘ならそういう活動をしている団体も多いかもしれないということで、調査支援をするかなど検討。現在2チームに分かれて自主研究やワークをしている。別のお母さん二人も来て、総務や保証人のような立場になっていた。


そして尚香のお願いで、ひとまず有志以外は募らないということに。やりたい気持ちがない人、出会い系サークル気分の人はお断りに。




***




ある日、全てが終わった後にみんなで少しカフェにたむろう。


「尚香さん。で、何がしたいわけ?」

何もかもが不満な大和は尚香に食いつく。全体責任者は尚香で、総括は光、リーダーは全員である。


大事なのは需要と供給だ。最初の企画は児童預かり施設でひな祭りパーティーの主催をすることに。女子の案で、簡単にお姫様をさせてあげようということになり、その準備をしている。男衆は御内裏様でもいいが、大きい子はしないだろうから、まあ着ぐるみでも何でもいいということに。そのために、洋裁ができる子たちに簡単な仕組みで着物を着ている感じにできるか相談。そのメンバーも集まっていた。

最終的に廉価な物を買うか羽織でもいいので集めるのが一番いいうことになり、後は髪型をかわいくしてあげることに。


予算や係を相談し、コミュニケーションやリクリエーションの練習をしている。記録もきちんと残さないといけない。



そんなふうに先まで話し合っていて、

「……大和君の進路相談だったけれど、もういいかな。大和君のことはあれこれしなくても。」

と尚香が一言。

「もういい?」

「だって、大和君。私の事嫌いでしょ。」

「ここまで来てもういいって、それもどうなん?!」

「なら、大和君3年生からどうするの?進学できる中のトップ大学狙う?専門性で決める?」

「え?なんで尚香さんが俺に言うわけ?俺の勝手だし。」

「ほら。なら好きにしてね。」

「っ………」


「大和~。今の活動が楽しいなら、国際コミュニケーション系の学科とか行けばいいよ。」

横からクラスメイトの利帆が入って来る。

「理系より、文系の方が大学期間を自由に使える範囲は広いよね。自分が理系に向いてないと思うなら、もう大学は経験や人間関係を構築する場って割り切った方がいいかも。」

「なんで俺が文系って決めつけるわけ?」


尚香はいくつかの計算を出した。

「これを見て、一瞬で意味が分からなかったら中途半端な意思で理系には行かない方がいいかな。」

「…………?」

スマホを出されて見るも、大和も利帆も全く分からない。

「尚香さん分かるの?」

「言わんとすることは分かるけど、解けるかって言ったら時間が掛かるかも。」

分かるんだ……と驚く。

「私の友達とかは、けっこうみんなパッパッて解いてく。」

「…………」

「でもパッパッて解ける子が、必ずしも要職に付けるわけではないし。上には上がいるし、現場では技術も営業も理解している人の方が重宝されたりするし。」

尚香の通った高校の上位3%でも激ムズ進学校では中間以下だ。でも、全てはバランス。


「もっと言ったら、大学でどんな人に出会うかの方が人生に重要になるかも。」

「……」

「……コミュニケーションが閉鎖傾向になっている日本では難しいことも多いかな………」



大和はコーラを飲みながらうーんと考えてしまった。

人生の方向性が、得意不得意だけでも分かっている人が羨ましい。




スタンドイン……リハーサルなどで代理に入る人。

ちくわぶ……関東の具材。小麦粉で作ったオデンなどに入れる麩。


良子……章の妹。




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