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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十六章 あっちもこっちも

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43 似た者同士



ゲームで燃え尽きたのはなぜか大和の方。


その間に、ご飯を用意してくれたので尚香は夕飯までいただくことに。夕食に加え、実宇奈(みうな)がチキンなどデリバリーを注文。大和は文句を言いながらもみんなと一緒に食たべた。



尚香は武田夫婦が車で家まで送っていくことになり、罰ゲームで大和も一緒に。なんで俺がと不満を言いながらも付いてくるところがかわいい。実宇奈も行きたいと言ったがバイトでしかたなく出て行った。





そして今、尚香の両親の仏壇の前で、武田夫妻と大和が手を合わせている。


仏壇の小さな花瓶には、奥さんが選んだ華やかな花が咲いた。

信之君が好きだったと、バターの沁み込んだ老舗の洋菓子が供えてある。



啓太は、横にある時計をじっと見ていた。

少し昔の型の、重厚な時計。




しばらくして、彼らは居間に戻って金本夫妻に改まった。


「金本さん、本当にありがとうございました。」

「いや、武田君。気にしないでくれ。」

「尚香ちゃんも、苦労したね。」

「私は恵まれたので、そう言われると申し訳ないくらいです。」

笑って小さな仏壇の方を見る。


その仏壇は、昨年両親と尚香で話し合って購入したものだ。

ただ、お寺は入れていないので戒名(かいみょう)もしていない。


それはお父さんの案でそうしたのだ。お父さんがもともと中国人だから信仰観が違うという訳ではない。尚香の実の両親なら、全てに縛られずたくさんのものを包括できるだろうと、今はまだ自由にしたかったのだ。もう少し分かることがあったら、その時に先を考えようと。仏壇はけじめだ。



話が盛り上がる中、大和は物珍しそうに、昭和中期の日本家屋を眺める。古民家のようにオシャレでもなく、ただ人が住んでいたんだなという昔はよくあったような造り。子供の頃、建て替えてしまう前に行った、薄い記憶の母の曽祖父母の家のようだ。



静かな、でも木の音が(はじ)けそうな、そんな年季の入った家。





そこに登場。ガラッと玄関を開けるいつもの人。


「こんにちはーー!」

「っ!?」


驚いた尚香は、急いで玄関に飛ぶ。

「章君、何で来たの??」

「何?お客さん?」

靴がいっぱいある。

「今日は帰って!!」

「なんで?」

「親戚来てる!」

「…………?あ、もしかして中国から?俺、中国語で趣味の話ぐらいならできるよ?広東語も少しいけるから。」

「なんで章君が親戚に会うの?いいから!」

あんな事件の後に無駄に話を広げたくない。


そこに、家を見ていた大和が廊下の騒ぎに気が付く。

「………?」


「章君、玄関出て!早く!!」

と、お父さんの杖の持ち手で突いて追い出そうとする。

「え?何?ひどいんだけど!親戚ならご挨拶したいんだけど。」

「初訪問だから今度にして!」


「…………」

思春期高校生のくせに、他人の家のお客様を端からじっと見てしまう大和。なにせ、何をとっても平凡で質素な金本家の玄関に不釣り合いなチャラそうな男が立っている。


は?何あいつ?


ダボダボの上下にダメージジーンズ。上に着ている濃いグレーのジャケットは自分の記憶に間違いなければ、まがい品でなけれれば、原宿に店を構える「バンプ・バンク」。ストリートファションでもトレーナー1枚2~3万する店だ。大和でも買わない。切り替えに特徴があり、友人の家にあった雑誌で見たばかりだから知っているだけだ。

被っているキャップは、なぜかボカロキャラコラボのオタクブランド。アニメキャラコラボグッズはなんだかんだやたら値段も高い。


そして、黒い眼鏡に黒いマスク。怪しすぎる。


ちなみにジャケットはブランド提供品。キャップは照明山本さんからの誕生日プレゼント。誕生日とクリスマスが来るたびに、いらないと言っても山本さんからのオタクグッズが増えていく。黒マスクは韓国ではじいちゃんや子供でも使う日常使いアイテムである。


「出てって!!」

と、追い込みをかける尚香に大和は前に出る。変な勧誘か、布団一式売り込む気か。

「ちょっと、何っすか!」

と、大和は加勢に出た。


「…………?」

今度は章が??となる。


誰?こいつ。



「あ、私の親戚です。」

と、尚香は大和を指す。

「親戚?」

へーという顔で見る章を、大和は誰かと聞いてしまう。

「お兄さんこそどちらで?」

「俺は…」

「従弟です。」

章でなく尚香が答える。

「従弟?」

この、チャラそうな男が?金本側の?と、大和全然結びつかない。けれど、おじいちゃんの孫世代にでもなればこんなものだろうかと考える。親戚の多くは海外に住んでいる中華系らしいので、金持ちの息子だろうか。



「章君、今日は大事な話をしてるからまた来て。」

「なんで?親戚同士なのに……。僕にも紹介してください……僕だってここで、この東京で必死に生きているのに………、そんな僕を隠すなんて………」

と、この男、でかい図体で意味の分からない気弱なことを、はばかりなく堂々と語っている。


しかし杖で突かれたまま、

「何の同情心も湧きません。」

と言われ、尚香と玄関を出て行ってしまった。



「……………?」

置いて行かれる大和。





???な頭のまま、大和は居間に戻った。


考え込みながら急に大人しく座ってお菓子を食べ始める大和に、父啓太が聞く。

「大和、どうした?」

「今、尚香さんの従兄弟の人、来てたんだけど。」

「従兄弟?」

尚香のお父さんも分からない。何故ならお父さんは、尚香が外部で章のことを従弟と言っていることを知らないからだ。

「……章君じゃない?先、こんにちはーって言ってたし。」

尚香のお母さんが言い当てるも、大和は先見たことを話す。

「ショウ君?追い出されてたけど?」


「……………」

そこでお父さんは、考えて尚香に合わせることにした。

「ウチの親戚の子だな。」

「あら、入ってこればいいのに。」

「申し訳なかったですね。」

武田夫妻が言うも、

「……若いからな、気まずいし照れてるんだよ。」

とお父さん。


大和としては、「いや、だからそうじゃなくて弱そうなのに積極的で追い出されてたんだけど?」と、思うのであった。







帰りの車の中で大和は自分の思いを言ってしまう。


「俺、あの尚香さんって信用できないんだけど。」

「は?何がだ?」

啓太は、運転をしながら突然の息子の言葉に固まる。


「金本家も大丈夫?」

「だから、何がだ?失礼だな。」

「先、訪問してきた親戚、何で隠すの?」

「隠してないだろ。若いと、遠慮したり恥かしいこともあるんだよ。」

「恥かしいんじゃなくて、尚香さんに追い出されてたんだけど?」

「……何言ってんだ?」

「すっげー、チャラい格好してたし。」

「大和が言えるのか?大和も、尚香ちゃんが来た時逃げただろ。私たちもお前に最初は来るなと言ったんだ。どっちにしても、尚香ちゃんも若い親戚が失礼なことをしないか心配だったんだろ。」

「まんま、大和じゃない。」

お母さんもそう言う。

「ああして、普段から年配の親戚に尋ねて来てくれるって、いい子じゃないとしないでしょ。」


「……………」

反論できないが、大和的にはわだかまりが残る一件であった。




***




そして数日後、尚香はまたまた武田家に招待されてしまう。


「尚香ちゃん、本当にありがとうね!」

実は構いたがりの奥様、尚香に息子に進路の話をやんわりしてほしいと提案したのだ。


なにせ尚香、聞いてみると東京の上位クラスの大学の出の上に、世界大手に勤務で様々な開拓事業もしている。全く方向性がなく、他の兄弟のように留学したいという意思もない息子に、何かしらアドバイスやヒントを提示できるのではと思ったのだ。


おそらく息子は、親もいない海外で生きて行けるような度胸もないであろう。流されて変な遊びを覚えるか、ホームシックで帰ってくるに違いない。



しかし尚香は、考えてしまう。

「私、大学での成績はそこまでよかったわけでもなく、特別な専門分野でもないし、理系でもないし、参考になることはあまりないのですが…」

大学で出会った人たちが、あまりにもすごくて自分は参考にならないと思ってしまう。それに、関心のある専門分野が一致しなければ、あまりアドバイスできることもない。企業によっては一定ランクの大学を出ていないと取ってもらえない場合も多いが、専門分野ならそうでもないことも多い。


「いいの、いいの。あの子、秀才肌ではないから尚香ちゃんの感覚でお勧めできることがあれば!なんというか、方向性の見つけ方だけでも………」

「……おすすめ………」

抽象的で逆に難しい。そんなものあるだろうか。


「ホントに。高校の時点で決意していることが何もないから、働くっていってもどこで働く気なのか…。せめて、少しでも興味のある所に進んで、大学に行ってから進路に悩んでほしいのに…」

大学に行ける経済力と頭があるのに行かないのはもったいない。行けば就職先も広がる。


行ってから悩めとは、行きたくても経済的理由で大学に行けない子も多く見てきたのに贅沢な悩みだ。けれど、行けるならそんな機会も利用するべきであろう。


そもそも、大和君は何が得意でどういう性格なのか。夕食をしながら奥さんと話をする。



そうして待っていると、バイトを終えた大和君が帰って来た。




「ただいまー。」

かわいい。親に今日、尚香が来る話をされているはずなのに、素直に帰ってくるとは。




しかし、想定外のことが起こる。


これは大和君なりの反抗なのだろうか。



「ちわーす。」

「こんばんはー!!」

「おじゃましまーす!」

「ちーす。」



と、ゾロゾロとイキった友達を連れて帰って来たのだ。





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