表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十六章 あっちもこっちも
41/70

41 尚香ちゃん


新キャラが続々出てきてすみません。

前回までの方は、もう数回出るか出ないかの人物ですが、今回方たちは少し物語に関わってきます。


今日出た人と、もう一人で物語に関わるほぼ全員出揃います。要になるメイン人物は全員登場済みです。





取引先、マクアに向かう途中。


「金本さん、もう完全復帰してもいいんじゃないですか?」

営業の四谷さんが歩きながら尚香に声を掛ける。今日は、兼代も共に他社に出向いて引継ぎの確認をしていく。


「このまましばらく表舞台からフェードアウトしようかなと……」

「えー、尚香さん。がんばりましょうよ~。」

「兼代さん、名字でお願いします。」


千代田区のオフィスビルエレベーターで上に上がる3人。昼食の時間のためか、それなりに大勢乗っていた。


さすがに人が多いので兼代も静かにしているが、小さい声で言う。

金本(きんもと)さ~ん。今度の件も一緒に行きましょうよ~。』



と、その時全く別の位置から声が聴こえた。




『……尚香ちゃん?』



「?!」

3人、驚いて声の方を見る。



すると、知らない中年サラリーマン男性が、信じられない顔をして尚香を見ていた。

「?」


そのオジさんは「はっ?!」とした顔で、言ってしまった口を慌てて塞ぐ。



え?誰?

と、尚香はゾッとする。


見ても全く分からない。



そのオジさんの連れらしき周囲の数人も、「っひ!」という顔でおそらく上司……である彼を見た。ウチの上司、知らないOLを名前どころかチャン呼びしてる……と。どこかの取引先の子か……飲み会とかで絡んだ子かと。チャン呼びはヤバいだろと。


様々な件があって過敏になっていた尚香は、嫌そうにできる限り端に寄り、該当階のドアが開いたら慌てて出て行ってしまった。

「あ、待って!」

と、四谷と兼代も慌てて追いかける。



「ちょっ!」

と、オジさん、止めようとするも周りに白い目で見られ、ハッと我に返った。


「違う、違います!生き別れの従兄弟……?姪っ子だっけか、……お兄さんの娘です!」

と、オジさんがオドオド言うと、周りからオオ……!と、拍手が上がった。


生き別れとか、感動話である。



しかし同行していた部下は、拍手をしながらも、生き別れのその続柄ってなんだ?と、疑問に思うのであった。

そんなのないだろ、と。







取引先の入り口に一番近いベンチフロア前。ここまで慌てて進んだ尚香は、やっと息を付いた。


「金本さん、なんすか。あれ!」

「……知らない……。四谷さん知ってる?」

四谷、考えるも思い出せない。

「……いや……そもそもこのビルは、マクアさんしか取引してないし………。」

上の階にはマクア関係オフィスはない。


「まあ、いろんなとこ行ってますから、尚香さんは知らなくても、向こうは知ってる可能性はありますからね。」

「でも、さすがに取引先の上司クラスは、挨拶していれば分かると思うんだけど………」

考えても思い出せない。身なりはそれなりに良くしている感じではあった。


「どこかの飲みとか、どっかの会合のパーティーで話した人ですかね……。無礼講的な感じだとその場限りの縁ってのもありますし……」


「だからって、外部者が名前で呼びますかね?ちゃんだよ?」

「コンパニオンだと思われたとか?」

こわっ!

「コンパニオンとかでも、名前教えたりしないと思うんだけど………」

「………いや、尚香さんがコンパニオンとか、派遣会社が雇います?身長条件あるところもあるのに。」

「……どの角度から見ても、セクハラ発言なんだけど。」

兼代の度胸でしか言えないセリフである。


「ニュースの次はストーカーですか?」

「やめて………」

これは笑えない………。






そして、仕事が終わった後に、今日担当したマクアからの受付で帰り際に言われる。


「金本さん、少しだけよろしいですか?」

「はい。」

「このビル32階のシューシーマーさんご存じですか?」 

「………シューシーマー?」


「もし、心当たりがあれば、ご連絡がほしいとのことで。」

「?」


あ、もしかして先の変なオジさん案件か?と、ちょっとドキッとしてしまう。

「全く心当たりがなければ、こちらで処分しますけど。向こうからも、本人が受け取らなかったら処分して下さいと言われています。」

そこで、名刺見せられた。


このビルに入っているような中堅のサラリーマンが、この時代に他社を通じてまで、自身にマイナスになるような行動をするだろうかとも思う。それに、変な人なら把握しておくに限るだろう。事前対策ができる。

それで、名刺を受け取った。


「!」


驚く尚香。


「…………」

受付が心配そうに見る。掛け合ったらしい上司の男性もいたのか横から聞かれる。

「金本さん、お渡しして大丈夫だったでしょうか。」

「………あ、はい。」

尚香は少し(ほう)けてしまう。



その名刺にあった役職はシューシーマーバイオ株式会社常務取締役。



名字は『武田』であった。



「……大丈夫です。葬儀とかで会っただけの………なかなか会えなかった親戚です。」

「……」

「親類が多くてお葬式以外、連絡が取れない人も多くて。多分あちらが顔を覚えていたようで、お昼にすれ違って気になったのだと思います。ありがとうございます。」

と、尚香が礼をする。

マクアの二人も顔を見合わせ、それから尚香の話を聞いて安心したようだった。




***




週末。


尚香はお父さんの許可を得てその名刺に連絡をし、星が丘に向かった。



「…………」

駅を出て見渡すと、東京の名所駅の一つとは思えない穏やかな街並み。学生の頃に美香たちと遊びに来て以来だ。タクシーで行こうか歩いて行こうか悩み、周辺の街を歩きながら住宅街に入って行く。



マクアの受付で、親戚がたくさんいると言ったのは本当はウソだ。

どのくらいいるのかは知らない。でも、親戚同士で連絡も取り合えないとなると、問題があるのかなと思われるだろう。章の家系の文句を言えないくらい、尚香の家系も複雑なのか、それともよっぽど淡白なのか、疎遠なのか、尚香自身も知らない。



庭か駐車場が所狭しと詰められる、中型の家が続く通り。



その中の一軒家。


大きくもなく、小さくもない二階建ての家の前まで来て、住所を確認してベルを鳴らした。



「金本です。」

はーい、と言うインターホンに尚香が答えると、ドアがガチャっと開いた。



「尚香ちゃん!」

「こんにちは。」

そこで向かえたのはあの日に会ったオジさんと、おそらく妻であろう似たような年齢の、でも若く見える女性だった。


「こんにちは。さあ、入って。」

と、中に入り靴を脱ぐ前に礼をした。


「尚香ちゃん……」

今度はオジさんでなく、女性の方が信じられないように潤んだ目になった。

「…………」

尚香が立ちつくしていると、どうぞと言われる。



そして靴を脱いだ時だ。


オジさんより少し背の高い若そうな男が、半分顔を伏せて、階段の方からズカズカ降りて来た。


大和(やまと)!今日は出掛けてろって言っただろっ。」

と、その若い男を見てオジさんが少し怒る。息子だろうか。

「あ?俺んちで俺の居たいようにいて、何が悪いんだよ。」

「だったら、お客様にきちんと挨拶をしろ。家にいるならその約束だろ。」

と言われると、

「ああ?」みたいな顔をして、尚香に不愛想な顔を向ける。


「………」

尚香は、唖然としてしまうも、見上げて一応挨拶はする。

「こんにちは。」


すると大和君は嫌そうに、

「ちわ……」

と尚香をチラ見して、それだけ言って1階の奥に入って行く。

「ごめんね。ウチの息子で、……反抗期なんだ。」

と、オジさんがすまなそうだ。


そして尚香がスリッパを進められて履いてとしているうちに、台所から何かドリンクを持って来てまた上の階に行こうとする。

「待て、会ったならちゃんと自己紹介をしろ。」

というが、無視して階段を上がってしまった。


「………本当にごめんね……」

今度は奥様が言うも、尚香としては挨拶をしてくれるだけいいのではと思う。

「いえ、大丈夫です。」



学生だろうか。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ