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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十五章 音の予兆

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35/71

35 その涙を拭ってあげたいけれど



は?


???



急に木星当たりに思考が飛ぶ章。

??



「好き?」


「………美香にも言わないでねっ………」


「……………………言わないけど……………」



混乱と、疑問と、驚きと、は?が全部一遍に訪れる。

ん?何?え?なんでこんな話に??



「………今も、多分会ったら好きな人で…………」


はい?



「あの頃、いろんなことを一緒に処理してて……一緒に頭も下げて、でも本当はもっと前から………。学校の………後輩で…………」


「もしかして、その人となんかあった?」

聞いてしまう章。


「!?」

それはないと、首を横に振る。


「後輩だけど、私よりずっと大人で……。多分モテる人だったし……」

安堵するも、モテるとな。


てか、尚香さんがそんなモテそうな人を好きになるとは意外だ。

前に、会社に好きな人、好みの人がいないか聞いてみたことがある。ルックスがよく自信ありそうな人は自分に興味が無ないだろうし、軽くあしらわれそうで、付き合うとか論外だし怖く見えると言っていた。言ってしまえば、章自身もその対象であった。兼代など論外も論外。

陽気で優しいお父さんな部長みたいな人がいいらしい。頭が涼しい部長だって昔はかっこよかったかもしれないのに。


あんな男女共に自身満々そうな人たちの中で、どうやって仕事をしてるの?と聞くと、付き合うわけではないし、仕事とそれは別だと言っていた。



「彼は自分と合うような人じゃないし、多分向こうは私のそんなことを知ったら気持ち悪がると思う………。何も関わらずに過ごしたかったのに………」

「…………」


「私の不始末を見てくれて………」

「っ……………」

「ずっと一緒に仕事してたから…………」


「………」


「先方の息子さんとの痴情嫌疑の処理みたいなことも彼にさせて……なんか……もう………」


それはかわいそうである……。



「耐えられなくて……担当を変えて下さいって何度かお願いしたんだけど、彼が一番うまくやるからって……」

それで、実際に上手くいったのだが。



「時々一緒にいて楽しいってくらいでよかったのに………。痴情の仲介までさせて、なのに自分が一緒に回る人が好きだったなんて………。みんなに申し訳なくて、私のせいで…………」

真面目な尚香には、堪えられない話であっただろう。



…………。

章はまだ頭の中が吹っ飛んでいる。



「その会社も、本当はすぐに辞めなくてもいいって言われてたんだ……。仕事の責任を取るのが一番の理由だったけれど、でも、その人と一緒に仕事をするのが嫌で辞めたのもあって………。でもそんな事誰にも言えなくて……」


尚香の声が震えていた。


「それでやめた先でも、あんなことになってしまって……しかも、結局また彼にお世話になって…………。全部私のせいで………」


それはもう、何とも言えない………。



尚香は、顔を伏せてしまった。



「………だからまだ章君とも………」



「……………尚香さん……」

「………章君、私はそういう人間だから………。みんなが不始末の処理をしている時に、そんな気分で………」

「際沢であったことは、全く尚香さんのせいじゃないし、炙り出されてよかったと思うしか……」

「……。」

「尚香さん、思うのは仕方ないし。その人と何かあったわけじゃないならさ。」


「……………」



え?やっぱりまさか……

間が長いので、章はどうしたらいいのか分からない。


「………………なかった。」

尚香、顔を上げてそこははっきり言う。


「起こりそうな雰囲気すらなかった。」

「………」

それも悲しい。


「………次の職場も見てくれてるって言うから、彼にはもういい加減にやめてほしいって、お願いして別口で………ジノンシーに来たんだけど……。

最後は………、際沢のことまで面倒を見てくれた人をけっこうひどく突っぱねた……。恩も何もない……」



「……………」

「……………」

しばし沈黙になる。



「そこまで面倒見てくれるって、尚香さんに気があったんじゃない?」

「小学生じゃないんだから、それはない。学生の頃から誰にでもそういう子だった……。仕事だし。」

落ち着いたのか普通の会話になってくる。


章、とにかく今は慰めと融解に回る。


「………尚香さん、いいよ。それはそれで。」

「………」

「俺はそれでもいいよ。」

何も言わない尚香。


「…………もしかしてまた会いたいの?」

「会いたくない。絶対に会いたくない………」

そこも即答。

「だって、その人、私が最初の会社を退社してから結婚したから………」


「……………」

そーか、結婚したのか。それはよかったと思いつつも、ちょっとそいつムカつく。会社の不始末をあれこれ担当して、その上に次の仕事まで探してくれようとするとは。ため息や舌打ちの一つもしなかったのか。どんだけいい人なのだ。



「…………私の友人と。」

「?」



「友人?」



「………私の一番の親友と………結婚しちゃった……………」

「!!」


学科は違ったが、経済会で繋がっていた大学時代の友人たち。いつ仲を深めたのか、気が付いたらそういうことになっていた。


「私と、美香と、その子と3人……。その子が地方から出て下宿だったから、よく3人でその子の家に寝泊まりしてて………私と美香とその子で旅行も行って………。


そんな……私の一番の友達と、結婚したんだ…………」



!!


章はもう、慰めの言葉が分からない。



「みんな経済会繋がりで、彼女は入ってなかったけど、私経由で彼に会って、彼女なりに私のことを相談してるうちに仲良くなったみたいで………」

それも、ショック過ぎる。



「会社を辞めた時、やっと彼と離れられたと思ったのに……」


結婚したこと自体はどうしようもない。


でもまた友人の旦那として繋がって、その上、際沢の大きな件で関わってしまったのだ。

その子は何も知らなかっただろう。だって、尚香は誰にも言わなかったのだから。



「うっ………」

そして尚香は泣き出してしまった。

「!」

尚香さんもショックだったと思うけれど、今、章もショックである。


というか、義務教育でも同級生の友達が与根しかできなかった章に、そんな複雑な男女の絡んだ人間関係のアドバイスや慰めなどできやしない。同世代女子と言えば、超絶身勝手なユアや、自分の奇行で困らせた幼少期の女の子たち以外関りがなかった。とくにこの業界で出会った何人かは、多少きついことを言っても、かすり傷も付かない女たちである。


しかも、ドロドロの不始末の中、聞く限り尚香が恋慕していたこと以外は、みんな悪いこともしていない。むしろいい人たちである。心の底の底までは分からずとも誰かを責める要素もなく、大変だったねくらいしか言えることがない。



「うぅ……」

ボロボロ涙が出てくる。

「尚香さんっ。」


尚香も悔しい。絶対に、男性の前でだけは泣きたくなかった。いつも言われるから。泣いてなくても言われるのだ。「女は泣けばいいと思っている」と。




なのに、


なのに、涙が止まらない。



章にはお互い言いたい放題だったから、気が抜けてしまったのか。



「まあ、その人は尚香さんの良さが分からなかった、見る目がないてことで!そう思ったら?」

尚香が少し顔を上げるも、

「でも、彼、すごく優しくて………、仕事もこなせて……なのに、全然威張ったところがなくて………。すごくいい人で…………」

泣きながら、話している。


「俺だったら、尚香さんを選ぶから。」

「でも、その友人もすごくいい子でっ………しっかりしてて………お似合いだったから…………。安心もしたけど………お祝い送っただけで、あとは少し話して何もしてなくて………。私、友達だったのに……」

「けど、その子も初めから狙ってたかもよ。相談ついでに。」

「狙ってても、私の気持ちは知らないし……」

それはそうだ。あの美香ですら分からなかったのだ。


また涙が止まらなくなる。

「あんなにお世話になったのに、疲れたからって……結婚式の代わりの食事会も出てあげなくて!」



最後に女三人で食事をし、自分の気持ちをごまかすように何かを話して、それっきりだ。




本当は、それでも笑ってお祝いを言ってあげられるくらい、回復していなければならなかったのに。それくらい、彼らはいろんなことをしてくれた。


「……尚香さん。でもでも、言わないでよ。いい人なら、何かあったんだとか、まだ苦しんでたんだって、ちゃんと事情を飲み込んでくれてるって。」


「ううぅ……」



会いたいけれど、もう二度と会いたくない人たち。



「………尚香さん……」

椅子から降りて尚香の目の前にしゃがむ。


「尚香さん、大丈夫だよ……」



はぁ、と章は差し出した手を引っ込めて、心の中でため息をつく。



道や良子みたいに涙は拭ってあげられないけれど、せめて肩を叩いてあげるくらいしたかったけれど、章は机にあったティッシュを取ってあげるくらいしかできなかった。





***




それから章は、LUSHメンバーと、ナオしかいないところで、唐突に衝撃的なことを言う。



「尚香さん、付き合ってくれるって。」


「は?」

「!?」


「何???、何があったの??」


椅子にふんぞり返って、偉そうに言う。

「かもって、感じだけど。様子見。」

「は?」

「かも?」


「とりあえず、そういうのをいつかの前提で仲良くしようって。」

「………?」

「なにそれ。新手の距離感?」

「結婚を前提ではなく、付き合うのを前提で?」

回りくどいだけの話である。

「今までと何が違うの?」

違いが分からない。

「それ、新しいロマンスになる?」

「歌にするの?」


「………するか!」

と、功が怒る。

「なんで怒るの??!」

「俺は恋愛脳じゃねーんだよ。恋愛の歌ばっかり作ってられるか!!」

「………なんで怒ってるのってば!!」



世の中の男女関係など、実益のための結婚にしか考えていなさそうな尚香さんに、好きだった人がいたとは。


章ですら、その人のために泣いてしまうほどの好きな人なんていない。



しかも、『尚香さんの人生から幕引きした男と思って、笑い飛ばせばいいよ』と、適当なことを言ったら、その男を庇うことまで言われたのだ。



『その人ほどは、章君のことを思ってあげられるかは分からない』とまで。


さらに『章君、自分みたいなのを連れていたらバカにされるよ』とも。



尚香が、有名人と付き合っている人について書かれた掲示板を見たら、アンチのオンパレードだったらしい。それなりにきれいな子でも『あんなのと付き合ってる』『ダサ』などと書かれまくっていた。20代前半まではとくに周囲を気にして、人間関係を外見で見てしまう時期だ。


20歳が30手前のこんな人と付き合っていると知られたら、また章は世にバカ扱いされてしまうだろう。既に、この前の尚香の件から掲示板で書かれまくっている。女の趣味が最悪と。


自分も嫌だし、真理たちにも引けを感じてしまう。


『気にしなくていいよ。仕事と分ければいいし』と言っても、『百万単位でフォローがある人に、公私分ける生活ができるの?』『東京に住んでるんだよ?』『功君にはサセンっていないの?』と、ビビってしまっていた。


今までLUSHすら検索しなかったのに、そんなものどこで見たのだ。どこでそんな言葉を覚えたのだ。柚木か兼代の入れ知恵か。




「超ウキウキしそうな話なのに、怒るってどういうこと?」

「はーーーー」

と、章は顔を伏せてしまった。


が、すぐ起きあがる。


「でも、ちょっと距離は近くなった気がする!」

そして、調子が戻る。

「二番手でも、目の前にいるのは自分だし!」


気に食わないけど、そいつ、結婚してくれていてありがとうと思う。既婚者万歳。尚香さんは踏み込まない領域である。思いがどうであれ。


「は?」

「二番手?」

「え?尚香さん何かあったの?」

「ない。」


「え、どんな歌を作るの?失恋?」

「別れの歌?」

「お前ら縁起でもないことを言うな。」


「尚香さんと?………本当に?」

ナオは今さら信じられない。

「まだ言わないでね。周囲に分かった時点で多分逃げられる。」

「OK!」

真理がOKサインを出した。あの騒ぎの後だ、容易にその姿が想像できる。


「で、なんで尚香ちゃんとそんな関係になったの!?いつ?!」

「そもそも、どうそういう話ができたんだ?!」


「秘密。」

と、どこかに行ってしまう。



「あいつ、本当にムカつくな。」

「二番手って?」

「さあ、昔付き合ってた人がいるみたい。」

与根が教えてくれた。

「ええ??!!」

と、婚約者がいたことを知らなかった真理が驚きまくっていた。




サセン……ストーカーや不法、危険行為をする、過激なファン。


エナドリの正式名を変えました。

ドリンクと女性グループから取りましたが、モンスターXというグループが既にあるようです。

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