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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十四章 これが章君

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32 誰もが皆


※性犯罪に関わる内容が出て来ます。苦手な方はお控えください。




その日、尚香は美香と共に、以前の件で訪れた都内の事務所に来ていた。


その後の報告などだ。

弁護士なども来て説明を受けてから、一旦(こと)は収拾していると聞き、社長やナオとなどと雑談になった。弁護士の女性もまだ残っている。


前は緊張しかなかったのに、少し和んだ雰囲気に安堵した。



お茶を淹れ直してもらって寛ぐと、政木から話し出した。

「それで、少し種明かしをしよと思うのですが………」

「種明かし?」


「今回の件、シューナが動いてくれたんです。」

「………」

「事務的なことは私たちでしていますが、シューナミュージックは情報をたくさん持っているので。」

誰が変な動きをしているのか知っていたのだろう。イットシーのバックはシューナ。イットシー自体は、政木個人の意思で作ったと聞いている。営業したのか親族か友人か分からないが、政木はシューナの知り合いだろうか。



そこで、政木はサラッと大きなことを打ち明けた。


「私、シューナミュージック創立社長の息子なんです。」

「………」

尚香と美香が一瞬飲み込めない。あまりに話が大きすぎる。


「シューナミュージック………?てことは、シューナクループの………孫?」

美香が聞く。シューナ自体は戦後の電化製品や商社関係会社である。

「そうです。」

「っ!」

シューナグループの息子の一人が、ミュージックの創立社長だ。けれどシューナミュージックは長男が継いでいるとは聞いているし、もう一人次男は別会社を持っている。他に子供はいない。


そこでハッとする。

「あ………」


「業界ではみんな知っていることなので言ってしまうと、私は、シューナミュージック前社長の愛人の子です。」

「!」

だから、関係が親密だったのかと思う。

「でも勘違いしないで下さいね。みんながそうではありません。再婚で子供を持った人はいますが、うちの家で愛人の子を作っていたのは私の父だけです。」

「………」


少し間を置いて政木は続ける。

「それで、もう1つ事があって……」



「私の妹が枕で自殺しているんです。」


「!」


シューナの?愛人であっても娘だ。しかも、シューナミュージックの娘というだけでなく、グローバルグループ創立者の孫だ。


「正確には、妹も腹違いなんですけど、母親がモデルの子だったのでキレイな子で。」

こんな話、聞いてもいいのかと焦ってしまうが、政木側はみんな何でもない顔をしていた。


「当時、自分と妹は父親と正妻の子に反発していて。長男はいい奴だったんですけど、あの家、次男はちょっと難しくて。」

腹違いの兄のことだ。

「でも、私と妹はそれぞれ芸能活動を目指していて、親の名前を隠して動いていたんです。」


反発心だけではない。親のコネと思われるのも、愛人の子だと言われるのも嫌であったのだろう。政木や周辺の人間を見れば分かる。自分たちの実力で上がっていきたかった。



でも、気が付いたら妹はそういうことになっていた。


妹も意図した訳ではない。



アンニュイな雰囲気の中で芸術だと言われ、撮影でヌード写真も押さえられていた。既に仕事は進み、スタッフに囲まれ断れる雰囲気ではなかった。撮影の中でだんだんそうなっていったのだ。まだ若い妹は、その場で何が最善か判断ができず、最後は気が動転していた。


誰にも言えず、その時の目上の人間に枕をさせられる状況に追い込まれていった。今はもう、何が真実が分からないが、薬を飲まされていたのかもしれない。後に、他の女性に対してそういうことをしていた事実が発覚したからだ。


妹がおかしいと、ハッキリ気付き始めた時には遅かった。立場や将来のことをあれこれ脅され追い込まれていた。友人が似たような目に会い、警察に行こうとして実際に行き、それで無理やり示談に持ち込まされたことも知ってしまう。事が大きくなれば、みんなに迷惑が掛かると言われ。


気丈さに、まだ初々しさを持ち合わせていた妹。

大人っぽいタイプだったが、一途でかっこいい男子が出てくる恋愛漫画に憧れているような子だった。子供だと笑っていた頃が懐かしい。それがそのまま笑える思い出になればよかったのに。


なのに、妹に手を掛けたのは倍の年齢の芸術家だった。若い子は大人な世界や大人な人間に憧れているだろとすら言っていた。



絶望を感じたのか。



政木たち周囲が、状況を知る前に亡くなってしまった。




「あの頃、行動がおかしくなって……、急に露出が多くなったんですよね。服の。」

「……」

尚香は知っている。受け入れたのではない。性犯罪の後に、(せき)が切れてしまう人も多いのだ。無言の訴えだったりもする。

「妹がいたのは芸能って言葉よりアートが似合うような世界で、妹がその中のスタッフの一人に気もあったようです。妹の一方的な思いだったようですが。それが仕事を信頼してしまった原因にも、後に自害に繋がった原因にもなりました。」

「……っ。」


その事実に、尚香は自分の胸が一瞬跳ねた。



「救われたのは、その相手も業界に入ったばかりで、若く世の中の汚い仕組みも全部知らず、必死に仕事をしていただけの青年だったということです。」

けれど、妹はその人にも騙されたと思ったまま死んでしまった。


それでも、伝わらなくても、そういう事実は確認できた。きれいな業界とは思ってはいないだろうが、ここまでとは知らなかったのだろう。その青年自身、それから業界をやめて田舎に戻ってしまった。




「妹に実力で上がって行こうと言ったのは自分です。」

「…………」

「でも、初めからシューナの血縁だと知られていれば、あんなことにならなかったとも思います………」


「………。」

美香が机の上で手を握りしめる。

その震える手を、尚香がそっと覆った。



しんとしてしまうも、政木は続けた。

「その件はさすがに、父や兄弟たちや、その母もみんなショックで。一人娘でしたし……。」

実はその後、けっこな揉め事になったのだ。妹と仲のよかった政木も、世の中を甘く見過ぎたと責められた。

「…………」

「コネがないというわけにはいきませんが、取引において少しでもクリーンな会社にしようと始めたのがイットシーです。」


「まあ、気の強い人間がたくさん集まる場ですので、全部が理想のようにはいきませんけどね。ただ、組織的にも方向性的にもこれからも舵取りはしていきます。」




最後に政木は尚香と美香に向いた。


「あの、それで……」

「………?」


「私たちを嫌わないでいて下さって、ありがとうございます。」

「!」

政木が申し訳なさそうに言った。この前も道に言われた言葉だ。

「功や真理たちのことも。」

ナオもまた、頭を下げる。

「………別に、皆さんが私に何かしたわけでもありませんし。」

いち会社員でしかない尚香に嫌われたからと、こんな業界の人間たちが何だというのだ。SNSで何かをさらそうという気もないし、バックはシューナなのに。


「でも、最初の印象もよくはなかったし、再度冤罪に陥れようとした側で、会社にも取引先にもご迷惑おかけしました。」

「前にも言いましたけれど、お互い様です。」


「………でも、ありがとうございます。」



政木は深く頭を下げた。




***




アートパークに広がる、つかの間のピアノとバイオリンの響き。


そして、小さくも大きな拍手。



時々しか現れない、けれど小さな演奏会は今日も鳴り響く。



その少し離れた、オブジェタイプのベンチから拍手を送る、いつもの変装尚香。

「……尚香ちゃん………」

と、ウサギバイオリン太郎が思わず言ってしまう。

「太郎、挨拶しろ。」

と、幽霊黒盗賊に急かされ、ラスピラズリ色の妖精ピアノの伴奏で、会場に礼をするとまた拍手が起こった。いつもそこにいるおじいさんは、一人でスタンディングオベーションをしてくれている。


拍手を受けながら、向かう先にいる尚香を見つめる黒盗賊。

太郎はなんだかもどかしい。そんな黒盗賊を見て鉄琴ウサギ朝ちゃんが功にしがみ付き、功も小さな朝ちゃんを抱き上げてあげた。


全ての拍手がやむ前に、尚香はそこを去って行った。





「なんで尚香ちゃん、見てるだけなの?」

片付けをしながら寂しそうな太郎に、里愛(りあ)が仕方なしに答える。

「どうしようもないよ。」

大人の事情があるのだ。もう大丈夫な状況でも、しばらくはストレスになることは避けたい。


「功~。」

無口な妹と違って、太郎はおしゃべりだ。

「やっと尚香ちゃん来てくれたし、またみんなで、どっかのスタジオに集まりたいのに…。」

「……でも、私明後日からヨーロッパだ。」

「俺も暫くは無理だな……」

「え?功も仕事してんの?!」

失礼である。


「なら、今度いつ集まれるの?!」

「……今の段階では何とも。早くて来年度かな……」

と里愛が言うと、太郎の目に涙が溜まる。

「?!」

ギョッとする大人二人。


「……なんで……。まだずっと先やんか………」

子供にとっての1か月は、大人の何倍も何倍も長い。しかも先が分からないとは。


「……なら太郎、俺のライブ来るか?」

「え?LUSH+の?」

功がうなずく。

「今度、東京公演のどっかで見られるようにするから。白バンがあれば、ライブハウスでもいいかな……」

「ホント?!俺にもコネ使えるの?」

「音楽関係者だし。」

「それ、学校の友達に言っていい?」

「余計なことを言わずに、普通にライブに行ったと言ってくれ。」

「功、大好きやー!!」

「てか、コンサートとか子供には長いだろ……朝ちゃんは無理だな……。留守番だ。」

そう言うと、朝は反抗するようにギュッと功を締め上げる。痛くも苦しくもないけれど。



しかし気が付く。


「………違うし…。僕、みんなでまたおいしいもの買って、スタジオの時みたいにワイワイお話ししたいのに………」

「女子かよ。」

「リアちゃん、ヨーロッパ行かんといて。」

「私がいない時も会えばいいんだし。でも、その時は報告してね。写真送って!」

と、里愛が楽しそうだ。


「功、今度も尚香ちゃん連れてきてね。音楽しない人の意見は貴重やから。」

と、太郎は念を押した。





いつもご愛読ありがとうございます。


※この物語の大枠は、10年以上前に作ったものです。現在、様々なニュースが流れて時勢と合ってしまい、内容を変えるか迷いましたが、そのまま続けることにしました。物語としてお読みください。


現実の方が奇なりという感じで、現実は小説より大変なことになっているようです。小説は構想のまま、規模を大きくも小さくもせず、主人公たちが辿る、ストーリーの一環としてまとめてあります。



《アートパークの演奏チーム》

○妖精ピアノ……世界的なバイオリニスト、高坂里愛。

○幽霊黒盗賊……バイオリン男。

○バイオリンウサギ兄……バイオリン太郎。

○鉄琴ウサギ……太郎の妹、まだ園児。

○原さん……ウサギ兄弟のママ。


●即席演奏隊。

『スリーライティン・上 』88 それは続くの?それとも……

https://ncode.syosetu.com/n9759ji/88



シューナ創設者(商社を持つグループに成長)

その息子の一人がシューナミュージックの創立社長。現在は他企業を担っている。

その長男がミュージックの現社長で、政木は腹違いの子。



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