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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十四章 これが章君
28/70

28 そうして日々は過ぎていく



『うそっ!うそ?!うそ??ホントやのーー??!!』

と、電話先で大騒ぎしているのは愛知県にいる陽の妻、星南である。


「うん。」

やはり喜んでいる。昨日のことを話すと、何か攻めて来たのか!みたいな驚き過ぎる反応をしていた。

「中身は楽しみにしててね。」

『え?え?え?え?で、誰だったの??他2人!!』

「………?」

覚えきれなかった。


『写真は??』

「撮ってない。」

『うそっ?!外国人って写真大好きなのに!!どこでも撮ってんのに!』

「車、停車してたしね…。でも、道さんに聞いたんだけど、写真撮ってないからまた会いに行きますって言ってたみたい。」

『ほんと?!!』

「絶対嫌なんだけど。」

自撮も他撮りもごめんである。マスクに眼鏡か帽子付きならいいが。

『…………ぅそ……………』


「それで車にいたのは……ソジン君と……」

『ソンジだってば!』

「許して………」

カタカナ言葉に弱いのである。

「………なんかそのソジン君より小柄で……しっかりしてて柴犬勧めてた!」

『ハジュンだ~!!!うそー!!!』

「ハジュンが名前なの?」

日本人には名前と分かりにくい。

『……………』


「後は……座ってたから分からないけど、ソジン君と同じくらい背が高く見えたけど……。あまりしゃべってなかった。日本語は片言みたい。」

『……っ。』

「どうしたの?大丈夫?」

『っレヴィだし…………………』

ところどころ、息が詰まっているようだ。


「私を怨まないでね……」

ちょっと星南が怖いと言うか、壊れそうだ。

『いい……それはない。多分、尚香ちゃんそういう欲がないから運が回って来たんやよ……。私、欲だらけやし…………。むしろ私が仲間に締められそう…………』

「でも、推しってなんか納得!ソジン君はカッコいかった!それは分かる!!ちょっと魅入っちゃたよ。」


『ソンジだってば!!あー!でも、目の前にいたんやよねっ??!』

「いたけど、三人でも囲まれると怖いよ。もう一人スタッフの男性いたし。」

実は握手されてから少しクラッとしてしまい、車から降りた時は、ほっとした。圧迫がダメらしい。

『囲まれるってどーゆー状況よ!!!むしろ揉まれたい!!』

温度差が激しくて、会話がしにくい。



「宿のない章君を面倒見てくれたから、お礼がしたいって。すごい律儀だよね。」

『あのねえ、違うでしょ。』

「違うの?」

『功が噂する、尚香さんに会いたかったんやよ。私なんて口実だってば。』

「………」

それはなんだ。章か道さんが自分のことを話したのか。


「でも、ソ……ソじ……」

『ソンジ?』

「そう、ソンジ君、」

『お願い。それ以上言われると、デビュー時からのファンの私の頭の中でもソジンになりそう………。ソンジね。』

その当時から章より12センチも背が高かったが、今では功の方が高い。

「ソンジ君は、章君が痩せてたの間近で見てたみたいで、余計に心配なんじゃないかな。」

『…………』



まだ中3の頃だ。


ソンジも目の前の友達がそんなことになってショックだっただろう。功は途中から登場しなくなり、その時はもうファンに顔を出せるような状況ではなかったらしい。尚香はそこまでと知らなかったので、星南の話を聞いてびっくりした。


何にも動じなさそうな顔をして、楽団、学校、バンド、アイドル、一つもできなくて、章はどれだけショックだったのだろうか。


もっと言えば、誰よりも学校に通えなかったことなど意もしない顔をして、誰よりも傷付いていたのだ。教室に入れなくてよく空き教室や図書館にいたらしい。でも、学校にも行きたかった。行ったから、与根に出会えたのだ。


態度がきついので、アイドルそのものをバカにしていると思った人も多かったらしい。そうだったのなら、そんなふうになる前にとっくに違う場所に行っていただろう。



そんな章を前にして、泣きそうな道が浮かんで苦しい。




『尚香ちゃん……。もうやっぱり、功と付き合っちゃいなよ!!うう……』

なぜか星南が泣いている。




「…………」

正直、尚香もだんだん分からなくなっている。


今は、静かにしているべき時だと思うが、ここまで周りに押されて、お父さんとあんなに仲が良くて。こんな環境、今まで生きて来てなかったことだ。


こういう形もありなのかと思えてきた。


不思議だ。離れなきゃと思った環境で、以前より落ち着いて章を見ている自分がいる。




「星ちゃん、フェイスパックは、とって置かずに絶対使ってね。」

『………。はーい。』

その間はなんだ。

「マネージャーさんと柴犬君が、ご家族にって入れてくれたみたいだから、お菓子も絶対に食べてね。延々と飾っておいたらだめだよ。」

『………。はーい。』

怪しすぎる。

「陽ちゃんの顔マッサージして、そのパックしてあげて。」

『なにそれ。』


「ソ……ンジ君が、海苔のお菓子は旦那さんにって言ってたから絶対陽君にあげてね。」

『………まじ?』

「とよちゃんと、ちいちゃんに確認するからね。」

『………。はーい。』



そうして翌日宅配便が届いて、また感激の電話が掛かってくるのであった。




***




そしてこれは、事後報告で聞いた話であるが、イットシー興田と、尚香の部下柚木が揉めたらしい。



事は少し前、LUSH+自体の大きなコンサートが終わった後日だ。


真理個人のライブを柚木と川田が観に行ったのだ。そこでたまたま会ってしまったらしい。多少の経過を聞いていた柚木が、歯切れの悪い興田に激怒。


最初は会釈をしただけだが、同じ会場にいたため数回目に顔があってしまう。そこで興田が疲れた感じでため息をついてしまい、

「興田さんのせいで、うちの金本に影響が出たんですけど?!」

と、柚木の今までの怒りが出てしまった。


川田が仲介に入り、柚木には尚香さんが許していると、興田には興田さん一人のせいではないと宥めて大変であった。自分一番だと思っていそうな柚木があんな風に会社の人間のために怒るとは思わず、川田は相当びっくりしたそうな。




***




それから尚香は、1つ章に聞いてみたいことがあった。



実は尚香。数回章の車に乗って、見付けたものがある。


章はよくいろんなカバンを持っているのだが、だいたいは雑多とした物が入ったリュックと、バイオリンケースだ。けれど、後部座席にはスポーツメーカーのカバンが置いてあることもあり、着替えや靴かと思って気にはしなかった。仕事で靴もいろいろ必要であろう。



けれど、この前エナドリメンバーに会った時、そのかばんを踏んでしまったらモフっとしたのだ。


『モフっ?』


獣系でなく毛のないモフッである。感触的に。

弾力のあるモフッ。


最初はエナドリ関係者の物かと思ったけれど、あれは時々見るカバン。章のだ。モフッとして、少し張りもあり弾力性がある。何だろう。




そして、日舞の先生が言っていた言葉。


『それにね、あの子他にも何か習ってるでしょ?』


『ジムで造る筋肉とは違う気がするんだよね………』


『全体的に体がストレートなんだけど、まんべなく筋肉が付いててすっごく硬い。変にモコッとしていない筋肉!』



先生なんの趣味かと思って、休み時間に一人で「種類別筋肉」とか各スポーツの肉付きを調べていたら、兼代に見つかってヤバい目で見られてしまった。今度は自分が変態扱いされる。


けれど、可能性のある物をとにかく調べてみた。初めは尚香も身近にスポーツ環境がないし、施設の男子以外と暮らしたことがないので分からなかったが、ある1点に行き着いた。




そして、またしばらく章に会えないのだが、久々に電話が掛かって来くる。


「元気ー?おじいちゃんおばあちゃんに、鮭買ったから食べてね。道さんが持ってくから」と言う電話だ。なぜ、鮭など送って来るのか。


そのついでに聞いてみた。



「ねえ章君。章君ボクシングとかしてる?」



尚香はこの時、まだ章が電話先で蒼白になっていることを知らなかった。





星南が方言と言うことを忘れていました。修正しました!

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