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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十四章 これが章君

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27 角度を変える



「あ、おねーさん、本当にコウを見てくれていつもありがとうございます!」

「功君の面倒を見ているのはうちの親ですけど……」

普通の会話になったので、普通に答える。


「ソンジ君、先話してた件!」

道が急かす。

「あ、お友達ですね。」

と、紙袋を出してその中を見せた。

「お会いする人のお土産にいろいろ買ってあるので、お姉さんとお友達の分も好きな物をいくつか持って行ってください。お母様の分も。」

その中には、マスクパックやかわいいプチ化粧品がいっぱい入っていた。

「わあ!」

尚香はパック2枚と、星南のためにチークのコンパクトを一つ選んだ。

「幾つかって言ったのに、一個ずつって日本人ですね………」

「?」

尚香は意味が分からないが、個数を指定しないと外国人はけっこうガツっと持って行く人もいるからである。



「なら、そのコンパクトにサインお願いしようか。」

「サイン?」

「ふふ、尚香ちゃん、みんなにサイン頼んだの!」

そこで気が付く尚香。


「あ!待ってください。それにサインはだめです!」

「?」

「皆さんのサインが入ったら、友達絶対使いません。消耗品は使わないと!」

使わず保存するであろう。消耗品を消耗しないなどという、無駄なことはしたくない合理派尚香なのである。

「使ってないノートかメモ帳何か持ってきます!待っててください。少しいいですか?!」


そう言うと、ソンジに止められる。

「あ、待って。他にもあげるつもりの物があって………ハスルさん、何がいいだろ。」

もう一人日本語ができる感じの女性マネージャーが、カバンから何かグッズを出している。

「………これがいいかな。」

一冊の手持ちサイズの写真を飾る見開きフレーム。ペンも渡されそこにサインをすると、他の二人にも回し三人分書いてくれるので、尚香はじーと待つ。一人の子はよく見ると、与根みたいに素朴な感じだ。ゼミにもいそうなタイプでいつもの如く安心する。



一人が功に聞いた。

「コウド、ヂョゴボッレ?」

アルバムを回されるので、無言で受け取って功もサインをした。

「はい、尚香さん。」

「あ、はい!」

功が腕だけ回して渡すので、慌てて受け取って中を見る。星南のうれしそうな顔が浮かんでドキドキした。しかし、サインがあろうとなかろうと期限付きの消耗品であろうと、箱や推しから直で貰った物は当たり前に保存してしまうだろうという、ファン心理を尚香は知らない。


アルバムを開いてみてみると、メンバーの写真とサインがあった。写真は今いる人数より多く、そしてみんな達筆でオシャレなサインなのに、功のみ単純で下手だ。


「それで、子供が二人いるって聞いたから……」

と、動物のぬいぐるみのキーホルダーも3つくれる。

「ありがとうございます………かわいい。」

「じゃあ、お姉さんにも。」

と、ソンジが言うと他の一人が口を出す。

「アー、オネエサン、ネッコ!!」

「猫?」

猫と思ったのに、貰った物は柴犬であった。かざして眺めると、その子が満足そうな顔をした。尚香はこれがファングッズというのは分かるが、各メンバーの担当キャラということは知らない。

「ありがとうございます!」

モコモコでかわいい。


「………それ捨てていいよ。」

功が横から言うも、

「ペット捨てちゃダメでしょ。」

「カンアジ捨てるなんて、世の非道の極みです。」

と叱られるので、

「なら、俺がもらう。」

と言って、ヒンシュクを買っていた。


紙袋に全部入れてもらい、満足な尚香。

「皆さん、ロケとかイベントとかですか?」

「ロケ?」

イベントというか、コンサート4日間である。大阪2日、東京2日だ。客演は1日と聞いたのに、4日させられて功はグッタリ疲れていた。予備日とテキトウなことを言われても、4日スケジュールを開けておけと言われた時点で気付くべきであった。功が来た時、裏方は大盛り上がり。裏までカメラが入りチューブユーも盛り上がっていたのに、尚香はコンサートがあったことも知らない。つまり何も知らないのである。


「一緒にコンサートしたんです。」

「そうなんだ……。お疲れ様です。かんばったんだね、功君。」

アイドル首になったのに。

功は返事をしない。「自分、小学生か」という反発心である。


「…………」

噂には聞いていたが、本当に何も知らないんだと、ソンジやマネージャーが驚いていた。




それから少しだけ外に出て、マスクと帽子を付けて一緒に外に出たソンジというリーダーらしき人と車から見える歩道の端で話をした。功より少し低いくらいの背ででかい。


「お姉さん、コウのことなんですが…」

「あの、私、功君とは……」

「あっ!いいです!それは言わないで下さい!」

「………?」


「あの、コウ。アイドルやめた時、本当にボロボロだったんです。腰骨が出るほど痩せてしまって。いろいろ言われてたけど、コウなりに頑張ってて……」

普段服を脱ぐのを嫌がるので、そこまで痩せていると初めはみんな気が付かなかった。

「……………」


事務所に所属する前後、道は知り合いにもお願いし音楽会社を徹底的に調べ、アメリカのコネを盾にして不利にならないよう契約を結んだ。章のいたアメリカの教会は、メガチャーチに比べればかなり小さいがその分濃い人材と様々な業界の関係者がいたので、アメリカからも監視の目があることを示唆し、練習期間がほぼないことなども考慮に入れてもらった。

なので、やめる時も巨額な違約金はなかったし、あまりにひどい中傷は契約後もイットシーに所属するまでは対処してもらえた。社長も功を気に入っていたのでそれでも十分そうだった。



特別扱いされた分、周りと同じように仕事がしたかったのに、追いつかない精神。


もう無理だと分かっても、一定の成果だけでも返さないととストイックになっていたあの頃。



「動画では見てたけど、元気そうで安心しました。以前は会ってはいたんですけど、ここ数年は全然会えなくて………。ありがとうございます。」

功はあんなに暇々していたのに、エナドリは大変だったのだろう。功はアップされた動画も少ないのでほとんど見る物がなく、ソンジもあまり様子を知れなかった。


「私じゃなくて、LUSHやイットシーの皆さんのお陰です。私が初めて会ったのは去年で、既に瓦割りができそうな体格でしたので。」

「カワラ?」

「………チョップで何でも割れそうな体格をしていました。」

尚香がヘタクソなジェスチャーをすると、ソンジが微笑んだ。何でも上手な業界人たちと違って動きがモサい。


「ぼく、今だったら、もう少しいろんな事ができそうだなー!って、ちょっとヨネさんたちが羨ましいです。」

実は与根たちとも面識がある。

「スライム切りまくってるの、ぼくらの方でしたかったです!」


「……スライム?……なんか、すごくアンチが増えたって言ってましたけど?」

「男はほとんどアンチですよ。女性は良くも悪くも自分の想いが中心な人が多いけれど、男は『自分が権威』が中心ですからね。」

「自分が権威?」


「相手の対象でなく、自分が中心なんです。女性は対象に立とうとするけど、男は自分の権威中心で世界を見るので。あくまで傾向ですが。」

「…………」

それは人間皆そうではないのか?と思うも、『権威』という言葉が付き、傾向としてならなんとなく分かる。


「最近のネットの女性向けの漫画を見ると、男性と絡んでいたり家族とかでいる表紙が圧倒的に多いけれど、男の漫画の表紙は自分の強さ誇示ですから。そういう心理を知っていると、アンチも言いたいこと言いたいだけなんだなって分析できて、自分も気持ちの整理ができます。自分も男だから分かるというか、自分も気を付けないととか。」

「リーダーさん、おもしろいこと言いますね。優しそうな顔ですけど、けっこう強いですか?」

「弱いままだと、この仕事はできないです。

でも、それでもここにいたい理由も忘れません。」


歌手とか、クリエーターとして。


「……モテたくてアイドルになる人もいるけど、売れるところまで来てしまうと………、正直……日本で言うと……えっと、『アーティスト』としての根が中心でないとやっていけません。歌うだけでなく、他の分野でも突き抜けてる人間が山のようにいるから……」




ソンジは本当にコウとやっていきたかったのだ。

ずっと、ずっと。


あんなに不愛想なのに話をしていると、功が見て持っている世界は、周りの学生よりもずっと広かった。周りには、功は自分しか見ていないとたくさん責められたが、近くで創作する面々は、それは違うと分かっていたのだ。でもあのスケジュールや、とにかく関わる人が多い中ではその良さを出してはあげられなかった。


そもそも、当時中学生だ。ソンジと違って、会話ができなかった功には大人の世界で張り合っていける力も余裕もなかった。


ソンジは今も楽しいが、LUSHを見ていると本当に楽しそうだなと思う。功が伸び伸びとして。でもそれは、小回りの利くLUSHだからこその世界だろう。LUSHは歌以外のものはそれほど求められない。



「それで世界の話ですが、いいことも悪いこともあるけど、負の力の方が強いから、飲まれないように、アンチに言われても一旦自分と分離するんです。分析家になって楽しんだ方がいい。」

ソンジが続けると、尚香も考える。

「自分も第三者になって、人間の解析を楽しむってことですか?研究家になって楽しめってこと?」

「そうです。」

「それだけで、世界に対する認識が変わりますよね。人間の底を炙り出す様な(なま)の資料が目の前にあるわけで……。」

「……そうとも言える!」

二人は笑い合った。


「お姉さん、コウの事、よろしくお願いしますね。」

「世間が許せば、姉なりのことはします。」

今、まさに世間に叩かれそうなのだ。分析を楽しむにしても、不要な煙は立てたくない。





「長いな。そろそろ車動かさないと。」

車の中で章がイラついていると、二人が戻って来た。




「お姉さん、これからみんなでコウのウチで飲むんですけど、一緒に来ます?」

「いいです!」

ブンブン首を横に振る。

「道さんも行きますよ?明日も仕事なので、食べ物メインです。」

「いいです!行きません!!」

男性の家など行けないし、みんながいろいろ苦労してくれている時に、芸能人の飲み会などそれこそ行けるわけがない。


「え?コウのこととか聞きたかったけど、………今は、普通にお話ししたいです!一晩語りましょうよ。先の続き!」

それは嫌だとまた首を横に振った。

「あれ以上はいらぬ議論です。蛇足。」

「ダソク?」

「次にいけないじゃないですか。」

「じゃあ、次の議論しましょう!」

「あれでおしまいです。」

「はは!次の議論ですってば。」


「??」

仲良くなっていてどこからそういう話になったのだと、みんな分からない顔で見ている。何の議論だ。



「何の話したんですか?オネエサン、行きましょう!」

別の一人が気になるようだ。

「もう寝ます。」

「行きましょうよー!」

「あ、ならこれ、お礼も含めて。今、手元に何もなくてすみません。」

と、尚香がスマホに挟んであったコンビニの五千円のプリペイドカードを出した。多分、先貰った物はコンサートで買ったら1万円は超えるだろう。

「すみません、500円くらい使ってあるんですけど、後は使い切って下さい。」

「いいです。何も受け取れません。」

「海外から来たみなさんへ、つまみを買う程度の餞別ということで。私も貰い物なので、気兼ねせずに。」

「ダメですよ。こっちのお礼になりません。」

「なら功君のお小遣いね。みんなにおいしいもの買ってあげて。」

と、道に無理やり渡した。



「尚香さん、乗って。家の前まで送るから。」

「近いからいいよ。」

「コウ、送ってったら?」

「大丈夫です。近くだし明るいし。」

今、功と外を歩きたくない。


「私行こうか?」

と、道が動こうとするも、それでは帰りは道が一人だ。結局家の前まで移動してもらった。




家に入って中を見ると、紙袋の中には、先貰ったもの以外の化粧品やお菓子がたくさん入っていた。







箱……アイドルの個人ではなくグループ

ネッコ……私の

カンアジ……子犬。犬をかわいく言う時。


※ソンジとの会話を流暢に書いていますが、実際は多分もう少しぎこちないです。読みにくいと思うのでストレートにしました。



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