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スリーライティング・中 Three Lighting  作者: タイニ
第十三章 天の灯の下で
12/70

12 おじいさんとおじさんたち

※口の悪い人たちが出て来ます。





八百屋に魚屋、肉屋に饅頭屋。

騒がしい市場のいつもの道。



道が歩いていくと、傷痍(しょうい)軍人らしき雑貨売りおじいさんに声を掛けられた。小さな箱に雑貨を詰めただけのほぼ物乞いだ。


「お嬢ちゃん。虫よけ買わんかね。」

と、袋に入った防虫剤などを指さされる。無地の透明のビニールに密封された古い工場で作ったような商品だ。何も売れていなさそうなので、おじいさんの前に来てみた。



「よし、お嬢ちゃん。私は実は占い師なんだ。浮かない顔をしているから、名前を見てやろう。10万ウォンだ。」

と、手を出されるも財布には3枚しかない。

「札はきっかり3万ウォンしかありません。」

「ならそれでいいだろう。名はなんだ?」

1万ウォン札を3枚出し、残りの小銭も全部あげた。3千円ほどだ。おじいさんに向けて怪訝な顔をするも、元々このおじさんに寄付をするつもりだったのでまあ良い。

崔道子(チェ・キルジャ)です。道路の道に王子の子です。」

「古臭い名前だな。」

「ほっといてください。」

自分の父より年のようなおじいさんに言われてムッとしてしまう。


しかしおじいさん、せっかく教えたのに名前など無視して人の顔を見る。

「んー。良い顔相だな!滅多に見ない!素晴らしい!誰にでも言うけど。」

「………」


「おじいさん、聞いてもいいですか?」

「あと5万ウォンくれるなら………」

「先ので全部です!」

「バイト代が聖書に挟んだ封筒の中にあるだろ。」

「あ、そうか!」

と、思い出して道は素直に封筒の5万ウォンも差し出した。先週のバイト分である。


「シスターになりたいんですけど、どの国に行けばいいですか?」

「シスター?結婚した方がいいぞ。」

「なりたいんです!」

「いい男を捕まえて、愛されまくっていいマンションで暮らせる方法を教えてやろう。」

「シスター一択です!!」

「つまらんな……。まあいい、ちょっと待て、交信する。」

と、おじいさん、頭に指を付けて何かと交信していて怪し過ぎる。


「ん~。分かった!」

「ほんとですか!」

本当のわけがない。


「神様の元には、生涯を捧げたイエスの花嫁がいっぱい過ぎて、シスターはもういらないってさ。」

「…………」

道、ブスッとする。


「ホントもホント!もう満員で、他の人と結婚してって言ってる。」

「………………」


「まあそれより、ここは儒教の国なので、お父さんの言うことをよく聞きなさい。」

「………うちの父は飲んだくれで、時々しか働きに行かなくて、稼いだお金も半分は遊びや酒の奢りに使っています……。」

「半分は家に入れてるんだろ?少ない給料なのに立派じゃないか!」

「……。」

「私なんて、全部自分のために使ったぞ。」

「………おじいさん、ひどい……。」

「まっ、独り身だけどな!ははははは!」

「………全然おもしろくありません……。」


「とにかくお父さんの言うことを聞きなさい。

そうすれば天上天下がやってくる。真面目な怖い母親にも構わず、鼻で笑って逆らって飲んだくれた父の度胸が受け継がれるであろう……」

そんなものいらない。


「……父、亡くなっているんですけど………」

しかも酒で体を壊し。

「……!?え?………んー。じゃあ、遺言を聞きなさい。だいたいそういうのは、アルバムに挟んであるんだ。」

「………。」

「なんだその顔は。」

「分かりました。万策尽きたので、おじいさんの戯言も全部聞きます。そういう気分です。ありがとうございます……。」


「……冴えない顔してかわいそうだな。しょうがないから、お守りがわりに防虫剤をやろう。」

「………」

と、おじいさん、ナフタリンがそのまま20個ほど入った、100円もしなさそうな袋をくれた。

「焼肉食った後の飴と間違えて食うなよ。」

「はい、ありがとうございました。おじいさんこそ、飴恋しさに食べずに、先のお金でおいしいもの食べて下さいね。」


と道は立ちあがり、商店街を歩き出す。そして立ち止まった。



せっかくのお守りなのに、ナフタリンではいつか消えてしまうではないか。どれも安っぽそうだが他の雑貨もあったので、他の小物をもらおうと振り向く。



あれ?


でも、気が付いたらもうおじいさんはいなかった。



すぐに畳めるほどの小さな風呂敷包みの雑貨屋。もう行ってしまったのだろう。だいたい顔見知りのはずなのに、市場の人に聞いても誰なのか分からず、そのうち来るさと言われるだけだった。




***




今日も礼拝堂で祈っていた道は、亡くなった父を思い出す。



ガハハと笑い、兄を怒らせたあの日。


『よし、キルジャ!』

『お前、娘に余計なこと言うなよ。』

『なぜ我が娘に声を掛けただけで、そう思うんだ……』

『お前の言うことなんて、どうせろくでもない。』


今日は怖い祖母が旅行でいないので、父は友たちと家で焼き肉を食べ盛り上がっている。付け味噌を持ってこいと言われて、冷蔵庫から出してきた娘に父は言った。


『キルジャ。』

『はい。』

『お前には実は…………』

みんな息を飲んだ。


『…………許嫁がいるんだ………』

『!』


兄の一人が父を睨む。


『おーーーー!!!やっぱりくだらない事を言う!』

『むか~し、昔…………』

『ハハハ!』

おじさんたち、楽しくて仕方ない。


『………因縁の日本に、いつも戦いながらも時を共にした男がいてな………』

『おーー!!チングか!』

『我々の対立はいつしか互いの切磋琢磨に変わり……友情が芽生え………、俺はいつも負けていたが、最後の戦いに勝った時………遂に、彼は俺を信頼して心を預けた………。チングじゃなくて大分ヒョンだがな。』

雀荘の話である。チングは同級生。ヒョンは兄貴分のことだ。


くだらないという顔で、道の兄たちが横で肉を食べていた。


『そしてお互い誓った。』

おじさんたちが注目する。


『お互い異性の子供ができた時には………』

『おおっ!』


『結婚を約束しよう!と…………』

『おおおおお!!!』

『最高にくっだらない!!』

『我々は誓約書を交わし合い………』

もちろん当時も酒の席で。



『そしてもう、20年近く会っていない…………』


さみしそうにしみじみ言う父に呆れる息子たち。



『いやーー!!こういうのやってみたくて!かっこよくない?』

楽しくて仕方ない父。

『なんにも格好良くねーよ!バカか!』

『さいこーだ!!』

『生き別れの何とかの方が、流行ってるだろ!』

この時代は戦争や動乱の名残があり、貧しく生き別れが多かったのだ。


『残念ながらウチは誰も生き別れてないんだよな~。』

『とんでもない性格して、面白味のない一家だな。』

『お前なら他で子供でも作ってそうだが?』

『そんで出会って、兄妹かってなって、実は愛人の産んだ違う父の子で……とか言う設定??』

『ベタすぎんだろ!』


『おじさん!!』

軍隊から帰って来たばかりの二番目の兄が遂に怒った。母はこの人たちの給仕が面倒なので、皿だけ出して友人宅に逃げたのだが母に失礼過ぎる。怒って当たり前だ。


『ジョンホ~、怒るな~!ほら、小遣いやるから!』

と、おじさんたちは金を握らせる。

『よし!その金でもっと焼酎買ってこい!』

『いやです。全部俺の物です。』

『おじさんに逆らうんか?人生も軍も先輩だぞ?ははは!』


というところで、友情話を流されてもまだ語りたい父は話を戻した。



『けどな、最近奴がこっちに遊びに来たことがあってな………』

会ってないのではなかったのか。父、それを言って元気が出る。

『バカ野郎!会わせろ!!』

『なんで帰らすんだ!奢らせろ!!』

『ヒョンニムに奴って言うな!お兄様だろ!』


『ウィハヨーー!!!』

そしてそのお兄様のためにと、つぎ直して乾杯。



『娘は既に結婚。あとは男しかいないらしい……』

『……お前んちと同じ構図だな。』

『いや、うちにはいるだろ。』


『……?』

と、ちょこんと座って肉を食べている道が注目される。

少し歳が離れた末娘。

兄がさらに怪訝な顔をした。



『キルジャ、いっぱい肉食べろ!』

おじさんがトングで取った焼き立ての肉を皿に盛って渡す。

『あ、はい。』


『父さん、いい加減に………』

と、兄が言い出したところで、父はさらに言った。

『キルジャ、お前が行け!』


『なんて父親だ!キルジャ、そんな親の言うことは聞かなくていいぞ。』

『心配するな!おじさんの職場の青年を紹介してやる。』

『酒しか飲んでいないお前の思い通りに人生いくわけないだろ。』

『先週は4日も現場に行ったぞ!』

『俺はずっと週6で働いているが?』



『父さん!!いい加減にしてくれ!キルジャの人生はキルジャの物だ!!』

と、遂に兄が怒った。




そして、親子喧嘩が始まったのは数年前の話。


私の人生は私のものだって言った兄さんが、一番今反対してる……と、道は苦々しく思い出しながら家までの道を歩いていた。




「………!」

そして思い出す。聖書にバイト代の封筒が挟んであった。


……ならアルバムには?



鞄の中を確認すると、もちろんバイト代はなく代わりにナフタリンの袋が入っていた。そのナフタリンを見て動き出す。



道は家に帰ってから、昔の大きめのアルバムを探る。でも、整頓されていない写真が挟んであるだけで何も出てこない。封筒があっても、中は全部写真だ。


「………あ、おじさんだ。」

時々見付かる知り合いの写真。よく飲んでいるおじさんの数人は父のチングだ。白黒写真の中からおもしろい写真がたくさん出てきて見いってしまい、アルバムを閉じたのが1時間後。


それから自分のアルバムは母がくれたのだと、自分の部屋のクローゼットの奥からアルバムを取り出した。



懐かしさに少しだけ手を止め、でも最後まで見たそのページに。



…………。



「!」



ある、


封筒が。



見覚えのない封筒。

昔の郵便番号の青枠だけある、安っぽい紙の何の宛名もない長封筒。中を見ると、そこには父の20年前の日雇い派遣の給料明細と食堂のメニュー名刺。食堂で酔っ払っていたのか、店主もおもしろがって協力したのか。しかも2階が雀荘だ。



そして、明細を開くと裏には2つの日本の東京の住所と名前があり、一言添えてある。


『お互いの息子と娘が、頃合いのいい頃に結婚します。友情と共に。』とあり、それぞれのサインと二つの拇印が押されて。





それから道は3日間礼拝堂で祈り、


2ヶ月母と兄の反対を受け、行こうと思っていた西南方面でなく、逃げ出すように日本行きの飛行機に乗った。





チング……同級生。同い年の友。

ヒョンニム……兄。ニムは様。

ウィハヨ―……『為に!』。自分たちのために、その人のために、たがために、その事のためなど。祝杯や歓迎、応援などの掛け声。


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