捏造された物理観測
アメリカセールスマン精一杯の ”Why!!” はまず膝と腰を落として次に頭より高く上げた両手を徐々にスピードを落としながら膝の高さまで下ろす。あるいは垂れた巨乳を利用したショットガンじみた弾性の表現だった。僕はそのいずれか、あるいは両方ともの動きを両立させ、実際は何の行動もとらないまま午前三時を迎えるにいたった。この時間帯になると目の下のクマの存在感を覚えてきて、それがもう眠らないという決心を付けさせてくれる。まるで小説のページがめくりづらいほど薄くなってきてついに文章の終わりを視界の端に見つけてしまったときのように、僕はなるべく気づいていないふりを自ら施しながらそれでも頑なに続きを読み進めていった。
嘘っぱちの森を駆け抜け、しかし僕は木のハリボテを倒し舞台のお芝居をめちゃくちゃにしたあとに演技の世界から足を洗うことに決めたのだった。連絡先を上から順に消去していく。ハードル走を全部倒してゴールすると相手とはトリプルスコアがついている。警察にバレて家宅捜査を受けているときが一番興奮するって新しい知識を取り入れたからって厚めの上着すら持っていない僕に一体何ができる。何もできなくていいからこの英単語を辞書で引いてくれ。何もできなくていいからとにかく辞書を引いてくれ。何もできなくていいから側にいてくれ。じゃないと僕は眠ってしまいそうだよ。
「これからお前がその引き金を引く。引いてから10秒以内に起こった出来事すべてを結果とし、そのすべての責任はお前が負うものとする。いいな。」
高圧的な眉間の男が高圧的に喋っているこの状況において僕に拒否権はないも同然だった。男は安いスーツに通した腕を後ろ手に組んでいる。それは生地の伸ばされた音が鳴るほどに無理な力がこもっていた。そして立っている僕を囲うように、男の連れてきたペットモンキー三匹がそれぞれプラスティック製フライ返し、凍った金目鯛、満タンのセロハンテープをその手に握りしめ、三匹とも僕の引き金の合図をいまかと待ちわびていた。
「あとはお前のタイミングだ。さあ好きに引きなさい。」
男の余裕たっぷりの口角が上がりきったときだ。僕は咄嗟に銃口を男に向けて、最後の呼吸も置かない間に人差し指にかけた引き金を引いた。その瞬間だけ世界の時間がせき止められたように、周囲で起きた事がすべてはっきりと見えていた。眉間を撃ち抜かれた男とともに三匹のペットモンキーたちも眉間から血を流して背中へ倒れていく。一寸の狂いもなく4人とも同時。床に倒れたあと伸びた手足の角度まで違わない。僕は力なく銃を落として床に座り込んだ。眠りにつくまであと少し残っていた。