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105/108

105生と死の挾間で

105話更新しました

ブクマ、レビューなどしてもらえるととても嬉しいです

よろしくお願いします

あれから数日

未だに時間加速は続いている

「ぐわっ痛えー痛えーマジで痛すぎて死にたくなるわ」

何か言葉を発していないと痛みに耐えられなくなり自ら命を絶ってしまいそうになるぐらいの激痛


「マリアンヌ大丈夫か」

「・・・・」

マリアンヌは声が出せないほどに激痛で疲弊しきっているが何とか俺との約束を守る為ギリギリのラインで踏みとどまっている。


「もう少し、もう少しの辛抱やからマリアンヌ気張れ」

こうして励ます事しか出来ない

マリアンヌも俺の問いに頷く事しか出来ない


こんな日々が何日続くのか

己の気力や精神が果たして持つのか

「今はただただ耐えるのみや」

自分に言い聞かせる。


更に数日後

痛みが急激に加速する

俺達が呻くたびに扉の向こうからカレン達の声が聞こえてくる


「ジンさん大丈夫ですか」

「ジン聞こえてますか」

その問いには返答しない、いや返答出来ない

何故なら口から出る言葉が怒鳴り声になりそうだからだ。

心配してくれるのは有難いのだが今はそっとしておいてほしい


そして心の中で思う

「頼むから話し掛けないでくれ、俺達の事は放っておいてくれ」

今のこの現状と痛みを理解出来るのはマリアンヌのみ

他の奴らにこの苦しみが理解出来るはずもない

正直同情や心配など不要である。


生と死の間で揺れ動く感情

やり残した事、仲間の事、未来の事

その思いが引き上げる生への執着

一方で

この苦しみから抜け出したい、いつまで続くかわからない恐怖、楽になりたい

その思いからくる死の誘惑

この二つの感情が目まぐるしく交差する


それでも何とか踏みとどまっていられてるのは

アレグリアのお陰だ

彼女が俺達の全てをケアしてくれているからこれぐらいで済んでいる

それが無ければ俺達は既にこの世とオサラバしていただろう。


だがケアしてもらって尚この苦痛だ

もしもガルムがあの提案をしていなければこの苦悩は何十倍も凄かっただろう


だが決して死が恐ろしい訳ではない

BEASTWAWSでも自爆未遂があった様に生へのこだわりは他の者より薄い


元々あの日ヒットマンとして惨めな最後を迎えた俺

第2の人生なんておまけ、いやボーナスステージみたいなもんだ。

終わっていた寿命が延びたラッキーってな具合だ。


それでも今、生に執着が芽生えたのは見たい事や叶えたい事が増えたからだ

家族や仲間の行く末、これからの俺の未来

冥府に落ちてこの思いが強くなった


そのお陰で生と死の天秤は傾かずに済んでいると言っても良いだろう


しかしそれから数日後

その天秤が一気に傾く事態になる

きっかけは今まで言葉を発しなかった

マリアンヌの言葉から始まる


「・・・て」

「マ、マリアンヌ何か言ったかい」

「・・して」

「ゴメン、聞こえん」

「コロして、ジン貴方の手で私を殺して下さい」

「なっ何言っとんのや」

「もう耐えられない、苦しいの、お願い楽にして」

その顔は悲痛に満ちていたがそれと同時に心からの願いでもある表情にも見えた


俺は言葉に詰まる

そして思いもよらぬ台詞が喉元まで出かかる

その台詞は

「分かった、一緒に逝こう」だ


俺は思いもよらぬ言葉が出そうになった事に驚く

天秤が一気に死に傾いた影響かどうかは分からないが


俺はその言葉を必死に飲み込み

ようやく口に出来たのは

「諦めたらダメや、光りは来る、希望の光りは必ず来るから頼む辛抱してくれ」

と言うのが精一杯だった。

マリアンヌは涙を流しながら何回も頷く


果たしてこれが本当に正解なのか疑問に思う

苦しみを長引かせる事がマリアンヌにとっての幸せになるのか

間違った選択をしたのではないか

自問自答を繰り返すが答えなど出る筈もない


そんな事は百も承知している

正解なんてもんは全てが終わった後のマリアンヌの気持ち次第なのだ

しかし例え恨まれても俺はこれが正しい選択だと信じたい


でもあんな言葉が口から出そうになるなんて

どうやら死神はすぐ後ろに立ち俺達の首を狩ろうと

今か今かと鎌を舐めながら待っているのではないかと思いたくなる

「貴様なんかに負けへんで」

朦朧とする意識の中で

俺は見えない奴に向かって吠える

死へと傾いた天秤を無理矢理に平行に戻す。


そして時間加速が始まって1ヶ月


俺達はもはや指一つ動かす事も出来なくなっていた

痛みが全身を駆け巡っても呻き声一つ出ない

肉体、精神全ては既に限界を遥かに超えている

正直今も生きてるのが不思議なほどだ

いや生かされていると言うべきか

アレグリアの魔法の知識で

俺達の針の先の様な細い生命線は支えられている。


アレグリアは時間加速が始まって今日まで昼夜を問わず俺達の全てを支え続けている


いくら精霊の類いだとしても1ヶ月二人の命を維持し続けるのは並大抵の精神力で出来る代物ではない

例えそれが自分のいる器を守る為だとしても出会ったばかりの俺やマリアンヌを全身全霊で支え続けるなど到底無理な話しだ


本来なら一生恩にきる場面なのだが


しかしもう何の感情も思考もない

屍同然な俺は


「た、頼む、だ、れ、か、お、俺達を、こ、殺して、く、くれ」


おそらく誰にも届く事の無い

その台詞は俺の意識と共に深い闇へと消えて行く。




















106話「生還」をお楽しみに

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