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亡国戦記  作者: 芦屋玲
第一章 砂漠の二人
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1-7

 


 宿屋の裏通りに面した部屋の窓から逃げ出してきたランジェンとアヤトは、そのままユキナの人々の目につかぬよう、物陰を利用しながら街の門のところまで来た。滞りなく出られるかと期待したランジェンだったが、門のところには昨日もいた門番だけでなく、明らかに別の兵士たちも数人待機していた。



「門番増えてるし…」



 口をとがらせるランジェンをアヤトは横目で一瞥し、何も聞かなかったことにした。


 人数を見る限り、アヤト一人でもなんとかなりそうではあったが、ここから宿屋まではそう距離があるわけではない。戦っている間に応援を呼ばれると面倒なことになる。



「………よし、ふた手に分かれるぞ」



 アヤトがランジェンにひそひそと囁いた。



「え?」


「このままここで潜んでいても埒は開かない。かといって二人で突破を狙っても、逃げ切るのは難しそうだ。私がここで連中の気を引く間に、お前は門から逃げろ」


「は?ばらばらに逃げるってことか?」


「後ほど合流する。私より先にラグシャたちと落ち合えるかも知れないぞ」


「外は砂漠だぞ!?どうやって……」



 目を大きく見開いたランジェンに、アヤトは掌に乗る程度の大きさの、紫色の鉱石を手渡す。



「それを持っていろ。そうすればお前がどこにいるのか私にもわかる」


(ただの石じゃないか……)


「なにか言いたげだな。いいから黙って持っていけ。それはラグシャの物なんだが、置いていったからな…。まあ、あっちはあっちでなんとかするだろう」


「…………持っているだけでいいんだな?」


「ああ。あとは念の為水と食料も分けておく。お前は北の方にあるオアシスを目指せ。ラグシャもそうするだろう。万が一、二日経っても私が追いつかないようなら、私のことは無視していい。自分のことだけ考えろ」


「わかった」



 不安感は拭い去れないが、アヤトがランジェンのことを考えてくれているのが伝わってきたので、ランジェンもおとなしく言われたとおりに動くことにした。



「では、三の合図で全力で走れ」



 こくり、と頷く。



「一……二……三ッ!!」



 アヤトが道に飛び出すと同時に、ランジェンは門を目指して一目散に駆け出した。





 ***





 ユキナを背に、一体どれくらい歩いただろうか。

 振り返ってみてももう街は見えない。一面に砂の海が広がるだけだ。


 アヤトと別れてから丸一日が経過していた。


 北のオアシスを目指してはいるものの、方角が合っているのかどうかランジェンには自信がなかった。

 一応は太陽と星の位置を確認しながら進んでいる。だが、なんせ砂漠での経験値が圧倒的に足りないのだ。



(ジェワたちにも会えねえし……)



 こうしてたった一人で砂漠にいると、アヤトたちに拾われたときのことが思い出される。


 盗賊団から無我夢中で逃げてきて、しかし食料も何もなく行き倒れた。あの時の方が遥かに過酷だった。今回はアヤトが持たせてくれた食料と水があるし、眉唾ものではあるが居場所がわかる石とやらも持っている。アヤトの言ったことが本当なら、少なくともアヤトとは再会できるはずだ。


 とはいえ、すでに一日。アヤトは“二日経っても追いつかなかったら置いていけ”的なことを宣っていたが、そんなことはできるはずもない。



(誰でもいいから、とにかく来てくれ……)



 そう願わずにはいられないランジェンだった。




 ***




 状況が好転したのはその夜のことだった。


 ランジェンは火を起こすことが出来なかったので、夜は食料と一緒にもらった毛布を体に巻き付けて、寒さに耐えながらも足を動かし続けていたのだが、遠くの方に小さく明かりが見えたのだ。


 砂漠には悪い輩が多いということは知っている。でも、近づかないようにして遠くから確認するだけなら、と思ってランジェンは気配を殺して静かに近寄っていった。


 果たしてそれはアヤトであった。


 見覚えのある姿を捉えたランジェンは、それはもう息を吹き返したような軽い足取りで駆け寄っていく。



「アヤト!!!」



 呼びかけた声に反応し、アヤトもランジェンを認識したらしい。片手を挙げて応える。



「よかった!!無事だったんだな!!」


「君こそ。……それより、なぜそっちから来たんだ?」



 眉をひそめてアヤトがランジェンに尋ねる。



「北のオアシスはこっちだぞ」



 そう言ってアヤトが指した方面は、ランジェンが明かりを見付けた点とアヤトが焚き火を焚いていたここの場所を線で結び、こちらよりの延長線上だった。

 つまり、ランジェンの向かっていた方角はずれていたということだ。



「それはっ……その…ちょっと間違えただけだ」


「ちょっと?」



 アヤトが鼻で笑う。



「君は一人旅には向かないな。合流できて何より」


「う……それはそうだけど」



 馬鹿にされたようで面白くない。


 だが、ランジェンはいつまでもふてくされてはいなかった。アヤトと再会できた喜びのほうが大きい。



「あ〜暖かい」



 焚き火に両手をかざして暖を取ると、アヤトが“まさかそれすらできなかったのか?”とでも言いたげな視線を寄越してきた。



(はいはい、そのとおりですよ!俺はあんたたちと違って、砂漠に縁がなかったのっ)



 心の中でこっそり反論だけはして、表面上は黙殺するに留める。



「それで、ラグシャたちは……」



 ランジェンはアヤトを窺い見た。



「わからん。私は、あの後さらに押し寄せてきた連中を巻いてから、反対側の門から脱出してきたんだが、ラグシャたちのことは一度も見かけていない。もしかすると、私たちより先に察知して逃げたかも知れん」



 それからひと呼吸置いて続けた。



「あるいは、ジェワたちが独自のルートを持っていたかもな」


「独自のルート?」


「あれほど街のやつらを警戒していたジェワが、何も考えなしに私たちに丸投げするとも考えられない。街から出ていったことを気取られないような、例えば地下道なり抜け道なりの用意があったとしてもおかしくはない」


「ああ、たしかに……」


「まぁ、ただの憶測に過ぎないがな。ここで推論を言い合っても無駄だ。今日は星も詠めないし、さっさと寝たほうがいい」


 アヤトの言葉に同意し、ランジェンとアヤトはそれぞれ焚き火の近くで毛布に包まった。







お読みいただきありがとうございます。


誤字報告、感想等があればよろしくお願いいたします。


評価ポイント、ブクマ等もしていただけるととても嬉しいです。


今後ともどうぞ最後までお付き合いください。



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